【自主レポート】
少子化社会における就学前教育・保育のあり方
― 中 間 報 告 ―
広島県本部/因島市職員労働組合・自治研推進委員会
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1. はじめに
本来、子どもは親が育てるのが基本である。しかし、近年、子どもを取り巻く家庭環境や教育環境等の変化により、その基本が崩れつつある。
本市においても、著しい少子化と女性の社会進出や核家族化が進み、地域の子育て機能(住民の相互扶助や世代間の育児文化の継承等)も低下してきている。
こうした中で、現在、就学前の教育及び保育の重要な機能を担っているのが、幼稚園と保育所である。
この二つの施設は根拠法を異にし、制度や設置目的は異なるが、教育や保育を受ける子どもの立場に立って考えた場合、これらの施設は学習や生活の場として差異は無いはずである。
将来を担う子どもたちに対して、幼稚園・保育所それぞれが持つ良さをどのように提供していくかという観点から考えると、単に両施設の共用化のみならず、教育内容・保育内容の一元化を適切な形で行うことはひとつの手段と考えるが、いずれにしても、今後、幼保相互の連携をより深めていくことが必要となっている。
以上のことから、因島市としても「幼稚園と保育所の新しい関係」を築くことが、次代を担う子どもたちのために不可欠であるため、将来を見通した就学前教育・保育のあり方を以下のとおり検討してみた。
2. 因島市の就学前保育の現状と課題
(1) 現状の把握
① 児童数及び保育対象児童数の推移と将来推計
児童数及び保育対象児童数の推移については、児童数全体では、1986年度には1,146人だったのが、2003年度には622人となり、45.7%の減少となっている。
児童数の減少は、特に幼稚園に顕著に表れており、1986年度に542人であった児童数が2003年度には108人となり、80.1%の減少となっている。保育年齢の低年齢化、延長保育の導入など保育ニ一ズの多様化に対応してきた保育所においても、児童数は現状維持もしくは微増にとどまっている。
また、出生児数の推移も、1986年には338人だったのが、2002年には175人となり、48.2%減少した。ちなみに、2000年以降の出生児数は、150人~170人程度に落ち着いており、減少傾向は幾分収まってきているものの、保育ニ一ズに対応した保育年齢の低年齢化、保育サービスの拡大などの対応をとったとしても、今後、保育対象児童数、児童数とも減少傾向は、なお続くことが推測できる。
しかし、児童数は減少しても、保育開始年齢の低年齢化による、配置基準の適用区分により、児童数の減少が直接的に保育労働者の減員につながらない状況となっている。
一方、因島市の人口は、1986年、市の基幹産業である日立造船の大合理化が行われて以降、減少の一途をたどっており、減少のぺースは若干鈍化はしているものの、漸減傾向は依然として続いている。
将来人口についても、コーホート推計によれば、漸減傾向は続くことが予測できる。人口減少は、当然、出生児数の減少を伴い、コーホート推計でも0-4歳児の減少が推計されている。
このように、就学前保育対象児童である0-5歳児も減少し、保育所での0歳児保育、幼稚園での3歳児保育など保育サービスを拡大しても、児童数の減少は避けられず、近い将来、現在の児童数を確保することは困難になると考えられる。
② 幼稚園・保育所運営費の推移
保育施設関係の財政状況も、2002年度運営費は、1989年度運営費に比べ、幼稚園で4.3%増、保育所では64.2%増となっている。
また、児童一人あたりの運営費で比較すると、2002年度の運営費は、1989年度に比べ、幼稚園では305.4%増、保育所でも39.3%増となっている。
幼稚園児一人あたり所要額の増高は、児童数の推移を見れば一目瞭然で、児童数の減少が主な原因であることは明らかである。保育所児童一人あたり所要額増高の原因は、保護者の多様化する保育ニ一ズに対応するために実施した、保育時間の延長、保育開始年齢の低年齢化などの保育サービス拡大に伴う経費が主な要因として考えられる。
このことから、一方では保護者の保育ニ一ズに応え、保育サービスを拡大すれば、当然、保育経費の増高が伴うことを認識しつつも、他方では、現在の因島市の財政状況を考え、効率的な就学前保育行政推進が行政課題としてとりあげられている。
③ 保育ニ一ズの変化
保育ニ一ズについては、1999年1月に市教育委員会が実施した調査によると、
・施設の選択基準は・身近(地域)にあり集団保育が可能な施設であること。
・保育開始年齢は幼碓園では3歳から、保育所では現状でよい。
・施設規模は、1施設あたり幼稚園では40~80人規模、保育所では50~150人規模が適当。
・学級人員は、3歳児15人、4・5歳児では20人程度が適当。
・年齢別保育が望ましいが、少子化が進行する現状では混合保育もやむを得ない。
・費用負担が伴わないのであれば、保育時間は延長。
・希望制の夏休み、冬休みなどの休日保育。 |
などの保育ニーズがうかがえる。
これをみても、進行する少子化、定着した核家族化の影響による保護者個々の事情や女性の社会進出、保護者の就労率などの社会経済状況の変化から、「保育開始年齢の低年齢化」「保育時間の延長」「保育日の弾力的運用」「一時保育」など、保護者の求めている保育サービスは多様化している。また、子育てや育児に関する情報交換のできる場として、子育て支援事業の要望も強い。
このような、保護者の多様化する保育ニ一ズに対応するため、文部省(現文部科学省)は1991年に「幼稚園振興計画」を策定し、2001年度からの3歳児保育の実施と保育時間の延長を示した。(実施時期が2003年度まで猶予された。)また、1994年には、厚生省(現厚生労働省)が「保育問題検討報告書」を作成するなど、文科、厚労両省とも保育制度全般にわたる見直しを進めてきた。
こうした状況の中、1998年には文部、厚生両省が幼保一元化の方向として、「施設の共用化の指針」を通知したが、その具体案は今日に至っても示されていない。
(2) 現状及び将来推計に基づく課題の抽出
① 保護者の保育ニ一ズに対応した保育方針、保育体制の確立
進行する少子化、多様化する保護者の保育ニ一ズに対し、市としてどこまで、どのような形で対応するのか、保育方針を確立し、これと整合した保育体制の確立が急務となっている。
保育者の保育ニ一ズは、保育開始年齢の低年齢化、保育時間の延長、保育日の弾力的運用など、人員確保や経費の増加が伴わないと実施できない内容も多い。
この間、因島市が実施してきた、きめ細かな施設配置を基本に、希望者の全員受け入れや保護者の保育ニ一ズに応えることを可能な限り追求してきた保育方針は評価されるものの、新たな保育方針確立にあたっては、この間の保育方針を基本に、効率的運営の視点を加え検討、議論すべきと考える。
② 施設の整備及び配置の検討
施設整備、配置の検討については、多くの施設の建設時期が1950年代半ばから1970年代はじめであり、いずれの施設も老朽化が進行している。また、少子化の進行、保護者の保育ニ一ズの多様化(保育開始年齢の低年齢化等)や文部科学省の幼稚園振興計画にある、「幼稚園での3歳児保育」や「午後3時までの保育」を考えれば、今後の因島市の就学前保育に対する方針を確立し、方針と整合した施設整備、配置の検討が必要になる。
また、施設整備については、当然、相当の財政負担が伴うため、今日の因島市の財政状況を考え、財政負担を軽減する整備方法や計画的な整備方針の確立が不可欠になると考えられる。
3. 因島市の幼保合築施設の現状と課題
(1) 保育所・幼稚園合築施設建設の経緯
三庄保育所・三庄幼稚園はともに老朽化が著しく、施設の改築とともに、施設運営の効率化を図ることが重要な課題となっていたところ、保育所用地の一部が県の街路事業の用地買収の対象となり、移転先を検討した結果、課題の解決が図れ、用地を新たに確保する必要のない幼稚園用地に県内で初めての保育所・幼稚園・子育て支援センターを併設した施設を建設することとなった。
施設は、2002年6月に着工、翌2003年3月に完成し、同年4月から開園した。 |
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(2) 施設の概要
○敷地面積 9,774.66m2 ○構造 鉄筋コンクリート造2階建
○延床面積 1,295.69m2 1階 保育所
保育所専有面積 518.20m2 2階 幼稚園、子育て支援センター
幼稚園専有面積 284.56m2
幼・保共用面積 394.45m2 子育て支援センター 98.48m2 |
(3) 施設の運営状況
施設は、保育所、幼稚園の合築施設となっているが、保育所長、幼稚園長をそれぞれ配置し、保育所、幼稚園独自の運営を行っている。
ただし、園庭、遊戯室等は共用し、朝の自由あそび・行事など幼稚園と保育所が合同で行えるものは、所長、園長が協議しながら、合同で行うようにしている。現行では、法律、制度等の問題により、保育所と幼稚園の一元化は「施設の共用化」に限られているが、施設を所管する市児童課、教育委員会庶務課は、今後、職員の意識改革、保護者、地域の理解を得ながら、運営、ソフト面での検討を行い、合築のメリットがより大きく発揮できる施設運営の検討を進めるとともに、併設している子育て支援センターを含め、幼・保・小・支援センターが連携し、地域での子育てを実践できる総合的な施設運営をめざすとしている。
共用化施設の概要(2003年度)
区 分
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三庄幼稚園
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三庄保育所
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在園所児童数 |
0歳児
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-
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2
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1歳児
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-
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6
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2歳児
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-
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13
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3歳児
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-
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19
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4歳児
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7
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15
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5歳児
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18
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25
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計
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25
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80
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職 員 数 |
園長1、教諭2(正職2) |
保育士14(正職8、臨職4、パート2、在宅1)
調理員3(正職1、臨職1、在宅1) |
保育時間 |
月、火、木、金 8:30~14:00
水 8:30~11:30 |
月~土 7:30~18:30 |
共用状況 |
・建物、園庭、屋上広場、遊具、備品を共有する |
(4) 幼稚園と保育所の連携に向けた取り組みの現状
幼稚園と保育所の職員は、幼稚園を所管する教育委員会と保育所を所管する児童課の担当者とともに、2003年4月1日の合築施設の完成に備え、同年2月から、月1回程度の話し合いを行ってきた。
話し合いの中では、「できるところから、無理なく、連携していく。」ことを基本に幼稚園と保育所が連携して行う事業を計画・実施してきた。
この間の話し合いで幼稚園と保育所が2003年度実施した共同事業は次のとおりである。 |
Ⅰ 施設の利用について
(1) 建物、園庭、屋上広場については共有する。
(2) 遊具、備品については、共有する。
(3) 職員室は別々に設置している。
(4) 子育て支援センターを併設している。
センター長(嘱託職員)、保育士(臨時職員)を配置し常設している。 |
Ⅱ デイリープログラムについて
4、5歳児については、午前中のカリキュラムはほぼ同じなので、一緒に活動する機会をできる限り作っていく。 |
Ⅲ 2003年度における活動内容
(1) 参観日に講演会、学習会を行う場合は互いの保護者へ参加を呼びかけ実施する。
(2) 避難訓練、安全指導等は、毎月保育所の実施計画に合わせて合同実施する。
(3) 1、2年保育の合同園外散歩を行う。(保育所児童も弁当を買って持って行く。)
(4) 年度始めに、保育所と幼稚園の子どもの顔合わせ会を行う。(担任、クラスの紹介、歌の合唱)
(5) イモ畑の土づくりを保育所、幼稚園の保護者の合同奉仕作業で実施する。
(6) 「プール開き」、「いも掘り」、「いもパーティー」、「学校へ行こう週間」、「もちつき」を共同で実施する。
(7) 保育所の「一泊保育」、「夕涼み会」へ幼稚園の子ども、職員が参加する。
(8) 劇団の人形劇やコンサートの合同鑑賞会を行う。
(9) 町民文化祭に、幼稚園、保育所の共同作品を展示する。
(10) なかよしパーティー(4、5歳児がカナッペを作って、一緒に食べるパーティー)を合同で行う。
(11) 小学校6年生と幼保の4、5歳児との交流会の実施。
(12) 中学校卒業生と幼保の4、5歳児との交流会の実施。
(13) 遊戯室は、互いに連絡しあって使用する。
(14) 互いの行事等がある時には、配慮し合う。
(15) 遠足、クリスマス会、誕生日会、お別れ会、平和の集いは別に行う。
(16) 幼稚園、保育所の5歳児で卒園式までに記念植樹を行う。 |
Ⅳ 施設共用化に伴う施設運用の変化
(1) 園庭(運動場)では、幼稚園児と保育所児が一緒に遊んでいる。お互いに良く名前を覚え、適度の刺激もある。
(2) 施設運営上、屋上広場は主に幼稚園が使っている。ただし、プールの時間は保育所も使うが、規模的に合同で使用することは難しいため、幼保で時間帯を決めて使っている。
(3) 保育所の昼寝の時間には、幼稚園は静かな活動を行うなどの配慮をしている。
(4) 基本的に時間割は、ほぼ同様なため、共用施設の使用時間の調整が必要で、行事が重なると不便を感じることもある。
(5) 建物の区分はあるが、職員も児童もほとんど意識することはない。
(6) 幼・保の合同行事ができるので良い。
(7) 同じ小学校へ就学する子どもが一緒に遊ぶことができる。他の地域では、施設が離れていて、連携したくても難しいのに、それが同じ敷地内でできる利点がある。
(8) 最初の1年間は、施設をどのように共有するかを考えてきたが、今後はカリキュラム、行事を共有するために、幼保間での協議を重ねる必要があると思われる。
(9) ハード面については児童課、ソフト面については教育委員会庶務課というイメージは定着したが、両課の指導が違うので現場は混乱した。 |
(5) 一元化に向けた課題
① 保育料負担
受ける保育サービスに対する料金の一元化や一時保育にも対応した料金の弾力化が必要となる。
② カリキュラム
幼稚園教育要領と保育所保育指針の両方を取り入れながら、地域の実態に併せ、双方の良さを生かした「一元化カリキュラム」を保育所・幼稚園がともに協力して作成することが必要となる。
③ 施設運営と職員配置
ア 施設認可の最低基準を満たすための施設改善にかかる費用負担。
イ 福祉と教育の両方の事務を所管する担当窓口の設置による命令系統の統一化と責任体制(併任辞令をもった職員の位置づけ等)の確立。
ウ 幼稚園教諭と保育士のクラス担任区分と人事交流。
エ 異なる共済制度も踏まえた職員の待遇の一元化。
④ 職員の資格・免許と研修
ア いずれか一方の資格・免許しか持たない職員への資格取得奨励。
イ 保育士の研修機会の碓保と合同研修の実施。
⑤ 小学校との連携
4. おわりに
地方自治体では、幼稚園は教育委員会、保育所は市長部局と管轄に違いはあるものの、双方の基準(幼稚園設置基準、児童福祉施設最低基準)を満たしていれば、幼稚園と保育所は一元化できないという性質のものではない。子どもの育ち・子育てを保障するには、本来、教育と福祉は不可分のものであり、それが二元化されたまま今日を迎えている現状は必ずしも時代に適合しているとは言えないのではないか。
「幼保一元化」は、保育所における教育水準の向上、幼稚園における教育時間の問題、助成措置の改善、自治体の財政負担や利用者の経費負担の問題、幼稚園教諭と保育士の資格と処置に関する問題についてとされているが、幼稚園は学校教育施設であり、保育所は児童福祉施設であって、その目的・機能を異にし、それぞれが必要な役割を果たしている以上、簡単に一元化が実現できるような状況にはない。
しかしながら、実態としての幼保一元化は、急速な少子化や財政悪化等の地域の実情によりさまざまな形で進んできている。もはや、自治体が運営する施設が全て統一された保育・教育をしなければならない時代ではないし、まして、全国一律の幼稚園・保育所などあり得ない。特に、「構造改革特区」の導入を進める自治体が増加する今日、これまでの省庁の縦割り規制から脱却した独自の特区を申請して実践する地域が現れてきている。
保育・教育の分野においても、今後は、全国それぞれの地域で様々な保育・教育システムがつくられていくであろうが、入園(所)から就学までの育ちの保障としての環境整備、教育内容の統一、地域ニーズにあった保育・教育体制の改革が必要になる。そのための基準は、与えられるものではなく、つくり出していくものであるだけに、地域の試みには大きな困難が伴うのが当然である。
因島市職労自治研推進委員会は、因島市が設置した幼保合築施設の現場で繰り広げられた、この1年間の取り組みを通して、施設運営の現状と課題を分析し、今般、「中間報告」という形で報告することとした。
今後は、「現状と課題」を基に、制度的建前の幼保の分離と、それにも関わらず進むであろう実態としての一元化とのギャップをどのように埋めていくかという、自治体が経営する保育・教育事業の大きな課題にメスを入れていきたいと考えている。
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