【要請レポート】

認証保育所を検証する

東京都本部/認証保育所作業委員会

1. はじめに

 2001年8月、東京都の認証保育所(第1号)が開所した。東京都は、認証保育所を「認可保育所だけでは対応できない大都市のニーズに対応する試み。大都市の特性に着目した都独自の基準を設定。企業の経営感覚の発揮により、多様化する保育ニーズに応えることのできる新しいスタイルの保育所」と定義している。認証保育所では、0歳児からの預かり、13時間以上の開所を基本とし、利用者が保育所と直接契約を行っている(認証保育所には駅前型のA型、小規模・家庭的なB型がある)。東京都は都が定めた水準を超えていれば国が定めた保育所の認可基準を満たしていなくても、認証保育所として保育を許可し、助成を行っている。認証保育所開所からすでに3年が過ぎ、2004年6月には認証保育所は218ヶ所設置され、その数は増加の一途をたどっている。
 認証保育所は、その数の増加や役割などからみても認可保育所を補うものあるいは認可保育所にとって代わるものなどさまざまに考えられ、現在の保育制度の枠組みを大きく変える可能性を秘めている。つまり、今まさに認証保育所の出現によって現在の保育のあり方が問われているのである。そこで、自治労都本部自治研・認証保育所作業委員会(主査星野勤、副主査出川聖尚子、他10名)を立ち上げ、社会福祉評議会保育部会の保育士が中心となって、①認証保育所の現状、②認証保育所の抱える問題点、③認証保育所の課題、④認証保育所の果たしている役割と認可保育園の課題、の研究に取り組んだ。

【「検証・認証保育所」活動の経過】

03.9.2 第1回研究会 研究概要等をめぐってのブレーンストーミング
03.9.29 第2回研究会 講演会「福祉サービスの第三者評価」講師 岡橋生幸氏(日本能率協会)
03.11.12 第3回研究会 講演会「東京都認証保育所について」講師 淺川澄一氏(都児童福祉審委員)
03.12.9 第4回研究会 今後の研究課題の整理
04.1.21 第5回研究会 認証保育所アンケート調査項目の整理
04.2.12 第6回研究会 認証保育所アンケート調査項目の整理
04.2.26   葛飾区認証保育所見学
04.2.26 第7回研究会 認証保育所アンケート調査項目の整理
04.3.22 第8回研究会 講演会「認証保育所を巡る問題点」講師 星野勤氏(杉の子保育園理事長)
04.5.28 第9回研究会 アンケートをどのように集めたらよいのか。
04.6.17 第10回研究会 アンケートの集約・分析
04.7.1 第11回研究会 アンケートの集約・分析
04.7.16 第12回研究会 報告書作成と中間発表等今後の研究について。

 作業委員会は03年10月から活動を開始し、12回の研究会とアンケート調査、葛飾区内の認証保育所見学を行った。アンケートは4月時点の全ての認証保育所199ヶ所(A型131、B型68)に郵送し40通(A型23、B型16、未記入1)の回答を得た。本レポートは認証保育所へのアンケートの分析を踏まえた研究会の中間報告として、①認証保育所の現状、②認証保育所をどう評価するのか、③検証作業の成果と課題、について検討を行った。

2. 認証保育所アンケート調査結果

 認証保育所へのアンケート調査を以下の6つに分けて調査結果を分析した。(1)基本的属性、(2)認証保育所の体制、(3)保育の状況および保育観について、(4)認証保育の利用状況、(5)地域とのかかわりについて、(6)認証保育所の今後の課題、である。
(1) 基本的属性
   アンケート結果によると、開設年は2002年と2003年に集中し、両年で8割を超えている。開設以前の保育形態として無認可保育所が6割を超え、新規事業の参入も3割を超えている。アンケートの結果から見る限り、認証保育所が事実上の無認可保育所の公的な支援という形となっている。開所時間帯は7時から20時が最も多く、開所時間帯は異なるものの、認証保育の条件のひとつである13時間保育が多く、約6割である。一方、閉所時間を21時以降としているものは、約4割ある。
(2) 認証保育所の体制
   職員構成において、比較的専任職員が多く見られる。保育時間から見た勤務体制については一日の一人当たりの労働時間が、認可保育所保育士に比べ長いと考えられ、一人にかかる負担の大きさが伺える。アンケートに回答した全ての認証保育所が防災訓練など防災に関する何らかの方策をとっている。また、9割以上が緊急時の連絡網を備え、「施錠管理」、「カードキー」、「モニタードアホン」など入退室管理は比較的徹底している。8割が保護者会を開催している。児童虐待などの深刻なトラブルに対して、マニュアルがあったり、地域との連携をとるという方法を考えていたりする保育所もあるが、4分の1が対策を考えていない状況にある。
(3) 保育の状況および保育観について
   保育目標を子どもの視点として「のびのび・家庭的な雰囲気」等を掲げていると同時に、保護者向けに「利便性」や「安全の確保」等を中心とした記述をした認証保育所が多い。
   デイリープログラムにおいて、認証保育所と認可保育所の大きな違いはみられない。ただ、活動内容において戸外での活動より室内遊びが中心として行われている。認証保育所において子どもの遊びが制約されている状況が伺える。食事について約6割の認証保育所で、栄養士が献立をたてたり、認可保育所を参考にしたりして園内で調理し、外部委託している保育所は5%にすぎない。
(4) 認証保育所の利用状況
   認証保育所の利用児童は2歳までが全体でも高い割合を示している。3歳以上の幼児の割合は低い状況にある。認証保育所の利用理由について、「保育時間がよい」と挙げている人が8割を超え、続けて「保育内容が良い」「認可保育園に入れなかった」が7割以上いる。認可保育園を利用しない理由については「保育時間が合わない」が7割を超え、続いて「認可に入りたいけども入れないから」が5割を超えている。
   保育サービスについてみると、認証保育所の約8割が一時保育を行っている。病後児保育および夜間保育も15%が行っている。障害児の受け入れをしている認証保育所は4割強で、そのうち制限なしで受け入れている保育所は5割以上で、残り4割強がなんらかの制限がついての障害児の受け入れとなっている。
(5) 地域とのかかわりについて
   地域の機関との連携に関しては「医療機関と連携」を6割が回答している。また、半数近くが「他の認証保育所」と回答し、続いて「保健センター」、「認可保育所」という結果となっている。
(6) 認証保育所の今後の課題
   認証保育所の課題として、6割以上が保育内容の工夫を挙げている。また、4割以上の保育所が保護者との連携と設備・備品の整備をあげている。自由記述において経営面に関する課題を3割以上の認証保育所が挙げている。

3. アンケート結果からみえてきたこと(特徴)

 アンケートへの返答が199件中40件だったことで、この結果から得られる結論も認証保育所全体の傾向を示すものとは言い難い。また、回答者の多くが経営者・責任者などであることにより、回答の中には偏りがあることも考えられる。例えば、「これからの課題」についての回答には認証保育所の制度上・経営上の問題点(補助金の少なさなど)を挙げている場合が多く、子どもたちの保育環境や職員の労働条件について触れたものは少ない。
(「子どもの外遊びの状況」など、課題とすべきものは現れているにもかかわらず。)
 更に、回答を寄せてくれた認証保育所は子どもの食事に関して、私たちの予想以上に力を入れて取り組んでいるようだ。このことからもある種、意欲的な保育を展開している保育所が多く回答してきていると考えられなくもない。
 従って、本アンケート結果は数量的な部分以外にも、回答者や回答した保育所の偏りなどの可能性も考慮しておかなければならない。
 今回、限定つきながらも見えてきたことは、認証保育所の認識としても「利用者は認可保育所に入れないから認証を利用している」と7割の回答が示していること。また、以前の経営形態が「無認可」だったところが半数以上ある中で「制度的な底上げ」ともいわれた認証制度だが、現時点でも認証保育所の経営は決して楽ではなく、「補助金などの制度を更に検討してほしい」と回答しているところが多いことから、現在の基盤でも十分とは考えていない、などのことである。 
 今後、問題点を絞り込んで追求していく場合にはその調査方法からしっかり検討していく必要がある。

4. 認証保育所についての今回の検証作業の成果と今後の課題

(1) 取り組みはどこまで進められたか
   「認証保育所」が増え続けている。この状況は私たちに何を問いかけているのか?私たちはこれとどう取り組まなくてはならないのかを明らかにしたいという思いで始まった検証作業であった。これまでの公的保育への対抗策として方向づけられ、東京都の保育制度全体を揺さぶっている認証保育所を、どのように捉えることができるかという課題に挑戦し、手探りしてきた一年間の検証作業を振り返り、現時点での成果と課題を整理する。
   作業開始から一年を経たが、実態の把握と検証は予想以上に困難な作業であり、現在に至るも作業途上にある。東京都全域への広がりと200ヶ所余りという量の多さも検証の困難さの要因であったが、同時にその全体像や問題点を把握するための方法論や、視点を定める作業が必要であり、まず予備的調査を試み、その考察を行うところまで進めることができた。激動している保育制度の動向を実感している現場実務を担う者が、現場の経験知や価値観を基本的視点としながら、その経験や価値観を否定し揺さぶる事象に対して、利害当事者としての立場からの批判は当然のこと、さらに利用主体者や当事者に共通に降りかかる問題点を明確にすることができるかどうかが問われていることを実感した。更に、これらの動向への対案や新たな提案づくりも急務であり、今後の重要な作業課題である。

(2) 検証作業の展開とその成果
   以上のように検証作業はまだ継続中であるが、実態や全体像を掴むための作業を具体化するために現場の訪問・聞き取り調査を行うと共に、実態把握のためのアンケート調査を実施した。アンケートの集約と報告は別にまとめたが、その成果と課題は以下の通り。
  ① アンケートの実施から得られた成果と課題
    今回実施したアンケート調査は、認証保育所の実態と全体像を把握するための予備的調査であり、問題の所在を広く確かめることを主旨としたものであった。今後更に課題と全体像の実態を明確にするための本調査に取り組む必要があるが、今回の調査から、本調査のための仮説を絞り込むための手がかりが得られた。(A型とB型では課題意識に差があったが、いずれも自施設の運営に追われ、補助金の増額を期待する傾向が見られる等、「企業的運営で問題が解決できる」という見通しをもつ事業体は多くはなく、設置推進者の思惑とは隔った現実があるのでは?など)
  ② アンケートの方法・手順に関わる課題と今後の展望
    現場で日々実務を担うものが、広域・多量に生じている制度的変化と動向を把握し、評価する作業は簡単な事ではなく、価値観が拮抗する対象への調査・検証であれば更にその困難さは増加する。しかし今回の取り組みで見えきた調査検証の難しさを実感したことは無駄ではなく、この困難さを乗り越えるために、多くの人の手や視る目が必要であるということが再確認できた。

(3) 検証作業を今後につなげ、広げるために
  ① 今回の予備調査をもとにして、全体像と課題とを明確にする本調査に取り組む必要があるが、その際にはより多くの人の手と視る目によって実施することが課題となる。この作業は同時にこれまでの公的保育とは何であったかを照らし出すものであり、私たちの価値観を支える保育制度・保育運動を再検証する作業となるものであるだろう。一人でも多くの参加者を得て調査・検証を進める意味がそこにあると考えられる。
  ② このテーマに関連する研究者や民間研究所からの発言・提言、調査やデータ等の研究報告を収集し紹介していく作業も同時に進めたい。当事者の発言・論争などがもっと活発に展開される必要がある。
  ③ 調査検証作業に、より多くの関係者の参加を得て広げていくことが今後の課題であるが、これは単に調査が大変だから助けてもらうという意味合いを越えて参加型の調査レポートづくりの試みでもある。地域の支え合いの仕組みである公的保育が大きく変動していくことを多くの当事者・関係者がきちんと視て、発言していく必要があり、その参加のチャンネルづくりを進める方法として調査活動を活かしたい。今回の作業を契機にして更に、各地域ごとに取り組みを発展させていくことも可能であり、それぞれの地域の実態を明らかにする「地域レポート」づくりへ発展させ、参加と発言の可能性を広げていきたい。

 認証保育所作業委員会では、認証保育所をめぐる問題や課題について、広く人々の意思を集約するための工夫(フォーラムの開催など)を行い、2005年秋に開催予定の都本部自治研集会において、最終報告ができるように取り組んでいきたい。

認証保育所アンケート

認証保育所アンケート結果(2004.6.30)