【要請レポート】
相模原市における地域子育て支援について
神奈川県本部/相模原市職労 三村恵美子
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1. はじめに
相模原市は神奈川県の北西部に位置し、人口62.3万人、面積90.41km2。東京都町田市、八王子市、横浜市等に隣接し、首都圏への勤務者も少なくありません。2000年(平成12年)4月に保健所政令市へ、2003年(平成15年)中核市へ移行しました。保育園数は、公立保育園18園、民間保育園38園(分園3園含む)で、ここ数年保育園の入所待機児数は全国の10位以内に入る多さです。
少子化、核家族化等子どもと家庭を取り巻く状況が大きく変化し家庭での養育力の低下が家庭責任の問題としてではなく、社会全体の問題として捉えられるようになりました。これまで子育て中の親子を支えてきた家族や近隣の人々による支援の手が得にくくなり育児雑誌や、インターネット等に頼らざるを得ない孤独な中で子育てをしている母親が急増し、育児不安の割合も高くなっています。保育施設等を利用せず在宅で子どもを養育する家庭に対する社会的支援の切実さや必要性についての認識と保育所における地域全体を視野に入れた子育て支援事業の積極的な展開が求められるようになりました。
そのような中で、相模原市の公立保育園や保育士が園の機能や人材を生かし他の機関と連携しあい、地域に開かれた保育園としてどのような支援ができるのかを考え、取り組んできた経過を報告します。
2. 地域に開かれた保育園への取り組み
保育園の目的として長い間、保育に欠ける乳幼児を保護者に代わって保育するところと認識され、またそこで勤務する職員も在園児だけに目を向けてきた現実がありました。
ところが、近年、都市化への進展や核家族化の進行、それに加えて少子化等で子どもや子育てをめぐる問題が多様化し深刻な社会問題にまで発展してきました。これらの現状を把握したうえで在宅の母親や子どもに目を向け、育児不安を少しでも解消できるような場の提供、仲間づくりの手助け等、地域とつなぐ子育て支援の役割を公立保育園が担っていくことの重要性を強く感じるようになりました。
閉ざされた保育園から開かれた保育園に向けて、職員の意識も少しずつ変わり、どのように関わり展開していくか、保育園の新たな役割の自覚とともに実践が始められました。
3. 地域子育て支援への歩み
(1) 1979年(昭和54年) コミュニティ保育グループの支援
① コミュニティ保育グループを抱える保育園に担当保育士を配置。
県の補助金の対象となる地域の育児サークルの発足を促し、グループの円滑な運営のための助言、指導を行う。
(2) 1993年(平成5年) コミュニティ保育担当保育士およびフリー保育士を各園1名配置
① 地域子育て支援というより、園内のフリー保育士的な役割や、コミュニティ保育グループの育成、支援が主な仕事内容であった。
② 各園独自の地域子育て支援として
ア 園庭開放
イ 園内行事への参加を呼びかける地域交流
ウ 地域の保健師からの依頼で行う育児教室の講師
エ 中央保健センターからの依頼で健診後事後教室に参加(ぴよぴよ、ひばり教室)
オ 園児の散歩に同行し、公園等で地域の親子を対象に絵本や紙芝居の読み聞かせを行う。
(3) 1999年度(平成11年) 地域担当保育士配置(コミュニティ、フリー担当保育士が名称変更)
① 今まで、保育士自ら園外に出て活動するという経験がほとんどなかったため、各園どのように地域の子育て支援を展開させればよいのか、また、地域担当の仕事をどう捉えるか試行錯誤の時期であった。
② 保育園ですでに行っている事業のPR
ア 公園、地域の掲示板、小児科医院、スーパーマーケット、公民館等にポスターを貼り、チラシを配布。
イ 地域情報誌、公民館報等の活用
ウ 出前保育…園児の散歩時だけではなく、地域の親子が遊んでいる時間を見計らって、公園へ行き、遊んでいる親子を集め絵本の読み聞かせを行い、保育園で行っている事業の紹介を行い、保育園に誘う。
③ 18園それぞれの園で、地域にあった取り組みを手探り状態で行っていた。
④ 年に数回18園の地域担当者が集まり、意見交換、情報交換をする中で、各園の状況や取り組みを知りそれぞれの園の活動に活かしていった。
(4) 2001年度(平成13年) 3園合同の育児教室開催
① 新磯、麻溝台、相武台の3園が合同で育児教室を開催したのをきっかけに、市内18の園を6ブロックに分け、近隣の3園が合同での取り組みが始まった。
② 中央保健センターとの共催による「ふれあい親子サロン」の試行(市内8カ所)
(5) 2002年度(平成14年) ふれあい親子サロン開催
① 「ふれあい親子サロン」市内23カ所で開催
② 市としての「子育て支援事業」が開始
全園の地域担当者が関わって、講師を依頼してのイベントの開催
2002年度は子育て支援課の予算で行い、2003年度からは保育課の事業となる。
(6) 2003年度(平成15年) 他の事業への協力
① 「ふれあい親子サロン」が、子育て支援課の共催となり、子どもセンターの協力が得られるようになった。
② 「MCG(マザーアンドチャイルドグループ)」「おやこひだまり教室(個別心理相談)」「未熟児支援教室」「多胎児育児教室」に中央保健センターの依頼で協力
(7) 2004年度(16年度) ふれあい親子サロンの定着
① 3園合同での活動が各地区で定着し、回数、参加者は増加している。
② 地域担当者の会議、打ち合わせの回数も増え情報交換行うことにより、担当保育士の意識が高まった。
③ 各保育園での職員の意識も高まり、園内で行われる事業はもとより、地域担当への協力体制も普段の保育の中で自然な形で行われるようになった。
4. 今後の課題
今後の課題として
① 子育て中の親子が自由に集えて、情報交換できる場所の確保
② 関係機関とのネットワークを組み、引きこもり親子の支援
③ コミュニティグループ、子育てサークルや子育てボランティアの育成
④ 地域の子育て支援の拠点としての取り組みの強化
⑤ 情報提供の充実
等があげられます。
このような子育て支援事業を継続的に実施し、参加した母親自身が楽しんだり仲間づくりのきっかけにする事で、子育ての負担感や不が少しでも軽減され、子育てを楽しいと思えるような支援を拡充していくことが今、重要なのではないでしょうか。それとともに、保育園等の子育て支援事業に参加したくても参加できない親子にどのように情報を提供し、はたらきかけ事業に参加してもらうか、関係機関との連携により支援する事の必要性も感じています。
2005年4月相模原市公立保育園が民間移管され、2010年までに計4園の移管計画があります。また、津久井3町との合併問題も抱えており、これを機に行政として今後、相模原市の公立保育園が地域の子育ての「核」として、相模原市全体の子育て力アップのために地域の子育て支援をどのように捉え、実施していくかを真剣に考え、それと同時に保育士一人ひとりが意識を持ち取り組んでいくことの重要性を痛切に感じているところです。
用語メモ
*コミ二ュティ保育グループ
家庭で子育てをしている母親たちが地域で親子のグループをつくり、公園や集会所等を利用し保育を行い、その保育を通して子どもや親同士の交流をはかり、育児の知識や技術を高める活動グループ。
*ふれあい親子サロン
子どもセンター等を活用し、地域の育児力を高めるため多様な職種が関わり(保健師、保育士、普及員、栄養士、主任児童員等)育児相談を行う。
*ぴよぴよ教室…母子保健事業
8カ月健康審査後の事後指導教室
*おやこひだまり教室(心理個別相談)…母子保健事業
必要に応じて健康審査日以外の心理相談。継続的にきめ細かく指導を行う。
*未熟児育児支援教室…母子保健事業
未熟児で生まれた子どもとその親を対象にした親同士の交流や、育児経験母親を交えた教室とグループづくりの支援
*多胎児育児教室…母子保健事業
多胎児の親子を対象にした親同士の交流や、育児経験母親を交えた教室とグループづくりの支援
*MCG(マザーチャイルドグループ)
虐待、ネグレクトへの移行が危惧される保護者を対象にした話し合いの場と機会を提供
同じ立場の親同士が気持ちを話し合い、ストレスを軽減することにより、育児を支えていく場を提供する。
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