【自主レポート】

やっぱり、地域移行だね!
障害当事者と連携した、道立障害児(者)施設見直しに対する取り組み

北海道本部/全道庁・札幌総支部・自治研推進委員会

1. はじめに

 2002年10月、北海道札幌市において、DPI世界会議札幌大会が開催された。この会議には、世界109カ国3,000人以上の参加者を得て、成功裏に終了した。この大会を通じて、札幌市民のみならず、北海道全体がバリアフリーの意味を理解するきっかけとなった。しかし、北海道保健福祉部当局は、この大会の成功に向けて全面的な協力をしたにもかかわらず、施策の大きな転換とはならなかったようである。
 北海道が運営している障害児(者)施設は、道立道営が3箇所、社会福祉事業団に運営委託しているのが3箇所あり、その見直し検討について、全道庁及び北海道事業団労組に提案がされていた。

2. 変わらない当局の姿勢

 北海道保健福祉部は、2002年4月より道立施設の見直し検討をスタートした。しかしその検討方法や内容はいずれも問題の多いものとなっていた。
 第一に検討の手法について、検討委員会の構成は本庁関係課と各施設より委員を選出したが、会議の運営方法は極めて非民主的なものとなっていた。施設現場の取り組みや成果については、一切否定をし、「先駆的・モデル的役割は終焉した」とし、結論ありきの姿勢で委員会が進められた。第二には、その委員会の議論方向をもとに、保健福祉部としての考え方が示されたが、報告の基調は、厳しい行財政を全面に据えて、行政改革の一環として、民間委譲や施設の統合を進めるとしたものであった。
 全道庁は、このような見直し案に対し、要求と提言を提出した(資料1)。その内容は、障害者の自立生活支援を北海道の障害者施策の柱とすること。そのために、見直し対象となっている施設を自立生活支援の機能に転換していくことを強く求めた。この要求と提言は、北海道においては、入所施設利用者が通所施設利用者に比較して多く(資料2)、また、地域振興策として僻地に障害者施設が建設されている状況も踏まえ、障害者の自立生活支援を基本に、一方で、現状の道立施設の機能を批判し、脱施設の方向を目指すものとなった。しかし、この議論過程においては、自分の働く職場が更に解体しかねない要求と提言に、疑問の声も多くあがっていた。「施設がないと、障害者は生きていけない」「私たちは、障害者の最大の幸福を保証している」「今、脱施設と言っても、地域に基盤がない」との声も多くあった。しかし、支部議論においては、「社会的に必要とされない機関は、生き残ることはできない。障害者の地域移行は、社会的要請だ」との議論が繰り返された上で、要求と提言が作成された。
 一方、保健福祉部当局は、要求と提言については、労使交渉は受けるものの、頑なに「先駆的・モデル的役割は終焉した」ことを強調し、考え方を変更しない状況にあった。
 このようなことから、全道庁としては、北海道保健福祉部の姿勢を変えるには、労使交渉だけでは不可能と考え、障害当事者団体とも共闘し、運動を進める以外にないと判断した。

3. 考える会の結成と懇話会

 北海道保健福祉部は、保健福祉部としての素案をまとめたのち、外部有識者による「道立障害児(者)施設の見直しに関する懇話会」(以下「懇話会」)を設置し、その意見を聞いて、2003年12月にも北海道としての方針を決定する動きにあった。しかし、その懇話会は、3回しか予定されておらず、委員も障害当事者は北海道福祉村に入村されている方の1名のみとなっていた。まさに、保健福祉部の考え方にお墨付きを与えるための懇話会となっていた。
 このような中、全道庁は、「懇話会」が開催されると同時に、DPI北海道ブロック会議に対し、障害当事者の立場から道立施設のあり方を検討されるよう要請した。これに対してDPI側は、障害当事者と施設職員側という立場の違いに釘を刺しつつも、今回の北海道保健福祉部の動きについて、障害当事者不在の政策決定について問題があること、障害者の地域生活支援が明確でないこと、見直し施設の人的・財政的資源の活用が明確でないこと、施設の民間委譲が提案されていること、などに強い疑問を持ち、全道庁と連携を図りながら運動を進めていくこととした。その後、10月に障害当事者団体、親の会、自立生活センターなどで「北海道の障害者福祉行政を考える会」(以下「考える会」)が結成された。「考える会」としては、まず、道立施設の視察を行った。
 しかし視察のあとの会議では、厳しい指摘が相次いだ。「立派な施設と多くの職員がいるが、自立生活訓練が機能していない」「入所者が夢や希望を持つような状況となっていない」「鍵のかかっている知的障害児施設は、人権無視だ」など。これは、道立施設で働く組合員に大きな衝撃を与えることとなったのは確かで、障害当事者と連携して運動を進めることに対し、疑問の声も上がったほどである。
 ただ、「考える会」では、道立だからこそできることに期待する声や、道の先進的な役割に期待する声も踏まえ、要請書を作成し、今回の道立施設見直しの白紙撤回、懇話会の公開、議論内容の情報公開などを北海道知事に求めることとした。この要求書の提出の際には、多くの障害当事者が集まり、北海道に対しての力強い圧力となった。

4. 変化の兆し

 このような動きの中、北海道保健福祉部は、当初、3回で終わらせようとしていた懇話会については傍聴可能とした上で、急遽ホームページで情報公開することとなった。更には、障害当事者団体からの声を聞く場面が設けられた上、開催回数も5回となり、若干の改善がされることとなった。しかし、「懇話会」の議論の流れが、道立施設のあり方に限ったものであったため、障害者の地域生活全般について検討が十分にされない状況にあった。また、障害当事者団体から見て、単に意見が聴取されただけで終わったという不満が残ることとなった。
 ただ「懇話会」としては、当初、保健福祉部が見直しの根拠としていた行政改革については変更させ、障害者の地域生活支援・自立生活支援を強調させた。しかし、個別の施設の見直しについては、保健福祉部の素案どおりとなった。
 これを受けて、保健福祉部当局は、最終的な方針を確定すべく、全道庁に対し、「道立障害児(者)施設の見直しに関する方針案」(以下「方針案」)を協議してきた。全道庁としては、あくまでも「要求と提言」の実現を求めたが、保健福祉部側は、根本的な方針の修正を受け入れず、膠着状態となった。

5. 突然の新たな「会議」の設置

 こういった中、保健福祉部は「北海道障害者地域生活支援体制検討会議」(以下「検討会議」)の設置を急遽決定した。この会議は、「障害のある方々の地域生活支援を総合的に進めていくため、障害者の地域生活支援体制について幅広く検討する場として設置。会議では、障害当事者を始め、在宅サービスや施設サービス提供関係者、市町村等様々な立場で地域生活支援に関わっている方々が意見交換を行い、地域生活に必要なサービスや地域資源、支援体制等について検討していく」としている。委員は、DPI北海道ブロックのメンバーなど障害当事者も入り、2004年2月から毎月開催する意欲的なものとなっていた。
 全道庁としては、「検討会議」の設置は、これまでの運動の到達点として踏まえつつも、先行して道立施設だけがあり方検討の方針を確定させるのは矛盾ではないか、と指摘した。

6. 労使交渉での結論は

 こうした動きの中で、全道庁と北海道保健福祉部の最終交渉では、「方針案」の基本については変更させることはできなかったものの、最終的な部当局の姿勢として、一部文言変更に加え、方針の実施段階における具体的な協議を確認したほか、『検討会議』の検討結果との整合性についても言及するなど、地域生活支援体制の充実に向けた足掛かりを得ることができた(資料3)。しかし、全道庁の要求と提言の実現については、具体的な形となっておらず、職場では一種のあきらめ感があったのも事実である。

7. 障害当事者と共同でシンポジウムを開催

 3月28日、「北海道立障害児(者)施設と障害者自立生活支援を考える道民集会」(入所施設から地域へ!)が、考える会主催で、全道庁が全面的に後援し、開催された。集会には、障害当事者団体をはじめとして、施設関係者など150名が参加し、北海道障害者地域生活支援体制検討会議座長の横井教授の講演と、脱施設宣言を行った宮城県の担当者を招き、パネルディスカッションを実施した。シンポジウムでは、脱施設に向けた社会福祉資源の充実や、家族の理解、就労、自立生活訓練の実践などについて議論がされた。
 また、全道庁としての取り組みの方向性も表明し、障害当事者団体との連帯を訴えた。この集会は、新聞・テレビでも放送され、社会的にもアピールがされている。

8. 検討会議の議論と今後の取り組みに向けて

 今回の運動を通じて、3点にわたる成果と同時に4点にわたる課題が生まれている。
(1) 障害当事者と労働組合が連携した運動を展開
   行政の政策課題については、労使交渉で変更していくのはますます厳しくなっている情勢においては、市民・道民と連携することでより効果が発揮されることとなった。
(2) 施設職員の人権意識を再確認した
   障害当事者による施設の批判は、施設職員に大きな衝撃をもたらしたが、これがバネとなり、鍵の問題や処遇の問題などについて、更なる業務改善に向けて議論が進みつつある。
(3) 北海道障害者地域生活検討会議が設置された
   全道庁の要求と障害当事者の運動により、改めて「北海道障害者地域生活検討会議が設置され、地域生活を望む障害者の相談支援体制などについて、検討がされている。
 また、今後の課題として、
(1) 道立施設のあり方については、「方針」が策定された段階であるが、実施段階においてどう修正させていくのか。とくに知的障害児施設の民間委譲の阻止と、障害者施設の機能転換をどのように実現させていくのか。
(2) 北海道は、障害者の施設利用状況を見ると、圧倒的に入所施設の利用が多く、障害者の自立生活を助ける通所施設の利用が極めて低い。このことから、自立生活支援体制の実現に向けた、道の事業をどう具体化させていくか。また、モデル事業を実施させるなど、予算的な裏づけが必要である。
(3) 北海道障害者自立生活検討会議と、道立施設見直し方針との整合性をどう持たせるのか、そして、方針に基づく当局側の提案にどう対処していくのか。
(4) 障害者自立生活支援に向けた、施設職員の理解を更にどう広めていくのか。
 以上のような成果と課題ではあるが、今、「検討会議」では、相談支援体制を中心に本格的な議論が進んでいる。この検討会議の議論方向や、終了後の北海道の対応はまだ不明確だが、検討会議委員の障害当事者とも連携をし、全道庁の要求と提言の実現を目指していくつもりである。

 

(資料1)

道立障害児(者)施設の見直しに関する方針(部案)に対する要求と提言(概要)

1 検討にあたっての基本姿勢について
 ○ 厳しい道財政や経営合理化だけの観点で検討することは問題が多い。
 ○ 知的障害者更生入所施設の数は全国の10パーセントを占める一方で、多くの障害者が地域における自立生活を望んでいることを認識すべき。
 ○ 障害者の地域生活支援、脱施設を指向すべき。施設の役割は、入所者を地域に帰すことを明確にすべき。
 ○ 公立施設は入所者数を省みず、入所者を地域に戻せる強みがある。先進的に、脱施設のシステムを構築すべき。

 

(資料2)

主な障害者施設の利用状況(道所管分)

平成16年4月1日現在
○ 身体障害者施設(札幌市・旭川市除く)
施設種別
施設数
定員
(人)
利用者数
(人)
人口10万人
対利用者(人)*

身体障害者療護施設
17
1,140
1,177
34.2
肢体不自由者入所更生施設
7
510
468
13.6
身体障害者入所授産施設
17
760
739
21.5
入所系施設計
41
2,410
2,384
69.3

身体障害者療護施設(通所事業)
1
4
4
0.1
肢体不自由者更生施設(通所事業)
3
41
40
1.2
身体障害者入所授産施設(通所事業)
4
43
30
0.9
身体障害者通所授産施設
10
335
291
8.5
身体障害者小規模通所授産施設
2
34
40
1.2
身体障害者福祉工場
1
35
32
0.9
通所系施設計
21
492
437
12.7
合  計
62
2,902
2,821
82.0
*人口は平成16年3月31日現在住民基本台帳人口

○ 知的障害者施設(札幌市・旭川市除く)
施設種別
施設数
定員
(人)
利用者数
(人)
人口10万人対
利用者(人)*


知的障害者入所更生施設
108
6,985
6,954
202.1
知的障害者入所授産施設
19
1,015
1,013
29.4
入所系施設計
127
8,000
7,967
231.5

知的障害者入所更生施設(通所事業)
60
826
699
20.3
知的障害者入所更生施設(分場)
24
311
300
8.7
知的障害者通所更生施設
12
394
388
11.3
知的障害者入所授産施設(通所事業)
7
87
66
1.9
知的障害者入所授産施設(分場)
9
120
108
3.1
知的障害者通所授産施設
40
1,339
1,306
38.0
知的障害者通所授産施設(分場)
19
217
209
6.1
知的障害者小規模通所授産施設
4
68
53
1.5
知的障害者福祉工場
2
40
40
1.2
通所系施設計
177
3,402
3,169
92.1
合  計
304
11,402
11,136
323.6
*人口は平成16年3月31日現在住民基本台帳人口

○ 精神障害者施設(札幌市除く)
施設種別
施設数
定員
(人)
利用者数
(人)*
 
入所系 精神障害者生活訓練施設(援護療)
10
217
98
 
入所系施設計
10
217
98
 
通所系 精神障害者通所授産施設
12
305
273
 
精神障害者小規模通所授産施設
6
104
32
 
通所系施設計
18
409
305
 
合  計
28
626
403
 
*精神障害者施設の利用者数は平成15年4月1日現在

以上、北海道保健福祉部資料(平成16年7月23日)

 

(資料3)

道立障害児(者)施設の現状と課題及び見直しの方向性(道立直営施設のみ)

区   分
現状と課題
見直しの方向性

肢体不自由者訓練センター
(肢体不自由者更生施設)
若年性脳性麻痺者等の受け皿。
先駆的・専門的役割が希薄化。
入所者の重度重複化が顕著。
本来の更生施設機能が希薄化。
地域生活支援の拠点機能を検討。
恒常的定員割れ(減少傾向)。
当面、重度脳性麻痺者支援の役割を果たすこととし、次の方向で見直す。
同種の施設であり、リハセンターに機能統合 (長期的には運営主体について検討)
入所状況を踏まえた適正定員を設定。
幅広い障害に対応。
入所者の地域生活移行を促進。
地域で生活する障害者を支援。
身体障害者
リハビリテーションセンター
(肢体不自由者更生施設)
もなみ学園
(知的障害児施設)
民間施設の充実に伴い先駆的モデル的専門的役割が終焉・希薄化。
恒常的定員割れ(減少傾向)。
地域生活支援方策を検討。
入所状況や療育技術等、民間施設との差異がなくなってきたことから、次の方向で見直す。
道立としての役割は終焉した状況にあり、民間委譲。
委譲に当たり、支援の必要性が高い児童を受け入れることを条件。
現入所児の受け皿、療育等に配慮。