【要請レポート】

自分たちのことは自分たちで決めたい!
─ 児童自立支援アクションプログラム市民案策定の試み ─

福井県本部/武生市職員組合・執行委員長・
丹南市民自治研究センター・幹事 橋本 達昌

1. 経 過

(1) 市長と当事者市民が課題を共有
   02年11月、丹南市民自治研究センターは、“市民参加の福祉計画”をテーマとした市民フォーラムを主催。ここで武生市長と(障害当事者市民活動団体である)自立生活センターの代表とが、地域福祉政策について討論。この場において、両者は「これからの地域福祉の諸計画は、当事者市民が主体となって策定していくべき!」という点で合意。さらに参加者一同が「ともに生きることができる地域社会の実現には、子ども時代の共生環境や統合教育が極めて大切!」という共通認識を得た。

(2) 市が計画策定を予算化
   03年4月、市は障害を持っている児童・青年や、虐待などで心に傷を持つ児童(=児童養護施設入所児童等)が地域で自立していくために必要な援助計画=「児童自立支援アクションプログラム」の策定を事業化(市単独事業として計画策定予算180万円を計上)。
障害の有無や育ちの背景に関わりなく、地域に暮らす全ての子ども達が笑顔で共生していくために必要な施策の検討に入る。

(3) 全員公募の市民プロジェクトチーム発足
   03年4月、市は、“当事者参画”及び“市民自治”の理念を実質化するために、策定に係るコーディネート業務を自立生活センターへ委託。
   03年5月、自立生活センターは、市の広報紙で計画策定のための市民プロジェクトチーム参加者を公募。障害当事者やその保護者、児童養護施設の現入所児童やOB、NPO活動家や事業者など多彩な顔ぶれの市民30名(このうち子ども当事者は4名)が自発的に策定メンバーに加わる。

(4) 市と市民組織との間でパートナーシップ協定を締結
   03年6月、市と市民プロジェクトチームは、両者の協働関係を明確化するため「パートナーシップ協定」を締結。このパートナーシップ協定において、市は市民プロジェクトチームによって提案された施策の尊重を約束。もし提案が実行できない場合は、その理由を説明するとともに、再提言を待ち再度検討を行うことなどが明記される。一方、市民プロジェクト側も、より多くの当事者ニーズを集約するために、多数の当事者との間でワークショップを開催すること、また具体的で実現可能性の高い提案を行うことなどを自らの責務とし協働関係を確認した。
   なお、本パートナーシップ協定については、市民活動団体と市との間におけるパートナーシップ関係について研究を重ねている丹南市民自治研究センターが原案を示し助言を行った。

(5) 当事者のニーズを集めた“ワークショップ”
   6月18日~7月8日の間、市民プロジェクトチームは、障害児者・保護者団体や児童養護施設入所児童との間でワークショップを開催。計8回に及ぶワークショップへ参加した当事者・保護者は、対象全体の約7割、100名を超えた。なお、このワークショップで出てきた意見はすべて「課題シート」(課題数202項目)に整理され、後の論議のために資料化された。(別添資料①参照
   (殊に、幼少から青年期にかけ養護学校寮生活の体験をしている自立生活センターの青年役員と、現在、児童養護施設に入所している児童との間で行われたワークショップでは、打解けた雰囲気の中で、施設の運営に対する意見や生活ルールの改善案が飛び出すなど、社会福祉施設に対する「第三者評価」的な機能をも果たした。)

(6) 市民と行政の協働型事業の提案
   市民プロジェクトチームは計17回の会議を開催。「課題シート」を踏まえ、8分野26事業の「リーディング・プロジェクト」を策定。(別添資料②参照
  社会資源改善・開発の目的・効果や事業実施主体などが、各々具体的に提案される。
  なお事業は、①親の受容期→②保育園・学校→③放課後や夏休み→④地域生活と余暇→⑤就労・社会参加→⑥親亡き後(公的権利擁護)……と、当事者の成長に沿って時系列的に分野化。教育や児童福祉、障害福祉といった従来の縦割り行政に応じた領域設定ではなく、あくまで当事者視点での整理を貫いた。また、その事業主体は、当事者市民や市民活動団体が自主的に取り組むものとして12事業。事業者が取り組む課題として5事業。市が直接的に行う施策として9事業。とりわけ単なる「行政への要望」といった既存スタイルを超えて、「私たち当事者や市民活動団体はこれをやるから、行政はここの部分をサポートしてほしい」といった協働型の事業提案が多くなされた。(別添資料③参照

(7) 市民へのアピール、市長との約束
   03年8月、市民プロジェクトチームは、当事者間の一層の親睦と市民活動団体との連携を深めるため「サマーデイキャンプ」(=夏休み期間中の親子交流イベント)を企画。市内のNPO活動団体の連合体である「NPO武生」や「丹南市民自治研究センター」が運営面を主管。障害児や児童養護施設入所児童等をはじめとした市民約150名が参加し盛況を博した。
   03年11月、市民プロジェクトチームは、自らの活動の総決算として「市民フォーラム」を企画。一般市民に対して論議の経過と結果(市民案の概要)を公開した。市民の参加者は約200名。市長とのパネルディスカッションでは、市長自身が、提案された事業のほぼ全面的な実施を約束した。

取り組みの背景
 武生市は福井県下第二の都市で、人口は7万3千人。うち障害児(手帳交付児童)は120名を数える。また、市立の児童養護施設を有しており、そこでは約40名の要養護児童がともに生活している。
 今回策定した「児童自立支援アクションプログラム」は、公的な支援が必要なこれらの子どもたちにスポットをあてたもので、彼らが抱える問題を整理するとともに、必要な具体支援策を当事者サイドから提起し行動計画化したもの。2~3年の期間内に取り組むべき事業課題を列挙している。
 ところでこの取り組みのきっかけを作った丹南市民自治研究センターは、武生市職員組合の自治研活動から生まれた市民活動団体。2001年4月の創設以来、市民や議員、自治体職員など約150名の会員が集う地域の学び舎として、NPO活動の支援や自治基本条例市民案の策定など実に様々な市民自治活動を展開している。
 また今回コーディネーター役を担った自立生活センターは、障害を持つ20代の青年たちによって2002年に組織された当事者団体。福井県内における障害者運動のリーダー的存在となっている。丹南市民自治研究センターとは互いの組織創設当初から友好関係を維持しており、今回の一連の計画策定業務でも多くの協働を行った。
 なお最後に、今回の事業達成の前提には、2000年山形自治研集会で自治研活動奨励賞を受けた武生市職児童養護施設活性化部会の取り組みや、2002年徳島自治研集会の分科会パネルディスカッションで報告した丹南市民自治研究センター子ども政策研究部会の活動(児童育成に関わる多数の市民団体との協働作業による子ども全員アンケートの実施)など、武生市におけるここ数年間の市職自治研活動の実績や成果が在ることを付記しておく。

2. 成 果

 約1年にわたる、この取り組みの成果として、以下の3点をあげる。

(1) 当事者市民団体がコーディネート。パートナーシップ協定の締結で“市民自治”を実践
   従来、行政にとって、当事者団体といえば、仰々しく陳情にやってくるか、騒々しく苦情を訴えにくる組織というイメージ。そういう組織に行政計画策定のコーディネート(=策定メンバーの募集から計画書の作成まで、ほぼ全面的な事務局機能)を委託するということは、ある種の冒険。しかしこの挑戦が、当事者市民の行政に対する認識を大きく変化させた。
   また(市民団体と市の間で)互いの組織の自主性と対等性を保障したパートナーシップ協定を締結。
 従来、市が外部組織と委託契約を結ぶ場合、安上がりの下請け業者や下部組織とみなし、仕様書などで上位下達の意思伝達をしたり、業務を丸投げしがち。これらの問題について、市民自治的観点から解決を試みたのが今回の協定締結。市内数多の市民活動団体が注目した実験的な試みであったが、「出された提言は、基本的に全て実施していく」という縛りは、行政関係者の協働意識を喚起し、市民意思形成過程(ワークショップetc)への自発的・積極的な参画を促しただけでなく、市民サイドに対しても、現行ルールや制度趣旨についての詳細な研究・分析を促し、論議を緻密化させた。

(2) 「公共サービス」を自ら担おうとする、新たな市民層を形成
   「自分たちのことは自分たちが決めよう!」という"市民自治"的発想に基づいて、当事者市民が計画策定を主体的に担ったことで、"自らが暮らす地域"や"自らが作り上げた計画"に対する強烈な"思い入れ"が生まれた。このような熱意は、「計画策定後も、誰かにお任せするのではなく、自らが計画化された事業の実施主体となって社会資源の改善や開発に関わり、公共サービスの担い手になっていこう!」という新たな市民自治意識につながっていった。
   ちなみに、現在、本アクションプログラムの策定メンバーと丹南市民自治研究センター子ども政策研究部会のメンバー数十名が中心となって、アクションプログラムで提言された事業(=「障害者の地域生活を可能とする知的障害者グループホームの運営」及び「児童養護施設卒園児達の自立を支援する市民サポーター制度の運用」=)実現のために、その事業実施主体となるべきNPO法人の創設に向けた活動を展開しているところである。(04年6月設立総会開催、7月官報公示済)

(3) 縦割り行政を超えて統一的に施策を提言
   率直に言って今日まで「障害児政策」の領域は、教育行政と福祉行政(福祉行政の中でも、児童福祉施策と障害福祉施策と健康保健施策の三者)のハザマにあって、いわゆる縦割り行政の弊害をもろに受けてきた。換言すれば、個々の施策は見事に分断されていた。それが今回の取り組みでは、あくまでも当事者サイドの視点から、網羅的に批判や提言を受けることとなり、結果として、行政上のせせこましい守備範囲を一蹴することになった。さらにこのような当事者視点による提言は、障害児政策全般を統合する政策理念をも創造する契機となった。
   またワークショップという手法を用いて、当事者個々人の肉声をひとつひとつ丁寧に汲み取っていったことで、(通常の総花的計画では伺い知ることの困難な)事業のプライオリティ(=ニーズの緊急性や重さetc)を的確に捕捉することができた。

3. 総 括

・どこの自治体にあっても、あるいは、いずれの行政計画にあっても、策定を任された行政マンは、その体裁を美しくしたいと願う。そしてまた、誰からもどこからも批判されたくないと思う。そうして、先進とされる他の自治体の計画書を寄せ集めることから作業をはじめる。最悪の場合、コンサルを利用して……。だから、悲しいことに、北であろうと南であろうと、都会であろうと田舎であろうと、どこの行政計画も似たものになってしまう。
・「この地域の、まさにその行政サービスを受けとる当事者一人ひとりの思いはどうなのか?」本気で、本腰をいれて、そこからスタートしようとしたのが今回の計画である。
・だからコーディネーターを、県内障害者運動の中核的存在といわれる障害当事者団体の事務局長(27歳・女性・1種1級)が担った。宛職や名誉職ではない、全員が公募市民という完全市民主導の策定プロジェクトチームを作った。当事者である児童養護施設入所児童や障害児及びその家族全員との直接討論を重視した。そして論議が白熱化するよう10名程度での自由参加型ワークショップを幾度と重ねた。
・この地域の当事者にとって"地域福祉"や"次世代育成"などのお題目は、さほどの意味を持たなかったようだ。ただ「私達(ないし私達の子ども)に必要なのは、(自らの人生を自己選択し、コントロールできるという意味での)"地域で自立する力"なのだ」と言い、それらを獲得していくために「私達は自分達でこれだけの事をするから、この部分については、行政や地域社会からの支援が欲しい」と極めて具体的・現実的に訴えてきた。
・自立生活センターのリーダーである青年(28歳・男性・1種1級)が、会合のたびに繰り返した言葉を思い出す。
 「僕のような障害者が、自分の愛する地域で、自立した生活を送ること、そのこと自体が、"地域福祉"なんだし、僕のような子どもが、地域の学校で、みんなと一緒に遊び学べるようになることが、きっといじめや不登校が多発している歪んだ子ども社会を変えていくことにつながる、なによりの"次世代育成"になるんだとおもう!」……障害を持つ子の存在が、全ての子ども達を変えていくに違いないという彼の言葉は、みんなの心にずしりときた。
・だから計画書の名称を「児童自立支援アクションプログラム」とした。
・この行動計画が、障害児や養護を必要とする児童だけではなく"すべての児童"の自立と幸福につながるものであることを信じて……。
・どこの自治体でも、いわば"流行"の福祉計画づくり……でも"みんなが作るから作っている"にすぎない計画に、どれほどのリアリティがあるのだろうか?
・「あなたのまちに、その計画は本当に必要なのですか?」
 「その策定手法について、当事者たちは了解し、納得しているのですか?」
・……まずは、これらの自問から、"はじめの一歩"を踏み出すべきではないだろうか。

資料1 課題シート

資料2 児童自立支援アクションプログラムで提案された事業一覧表

資料3 自立のためのプロジェクトⅠ