【自主レポート】

香川県の都市計画の見直し(線引き廃止)

香川県本部/自治研推進委員会 小島 重俊

1. はじめに

 都市計画にいう線引き制度については、新都市計画法が制定された昭和43年当時、主として大都市圏のスプロール問題に対処すべく創設された制度であったため、その導入後地方都市などでは線引きに起因する様々な弊害も生じ、昭和62年の建設省都市局長通達により、一定要件を満たせば地方自治体の発意で線引きが廃止できることとなった。
 さらに近年、全国的に人口増加が沈静化し、急速に都市が拡大する時代から、安定・成熟した時代を迎えていること、また、地方分権の波を受け、平成12年5月に都市計画法が大幅に改正され、線引き制度は全国一律の基準による運用から都道府県の選択制へと移行した。

2. 香川中央都市計画区域の指定の経緯

 香川中央都市計画区域は、昭和46年に高松市を中心として瀬戸内海沿岸に位置する丸亀市、坂出市、牟礼町、宇多津町の3市2町が一体の都市圏として指定されたもので、その際に本県で唯一、線引き制度が適用された都市計画区域である。
 当時の県下の状況は、臨海部に商工産業が発達し比較的人口が集中しており、中山間部は南部の平野部も含め農業中心の低密分散型の土地利用が行われていた。その後も臨海部を中心に都市基盤整備が行われ、この傾向が継続すると予想されたことから、香川中央都市計画区域の計画的な都市化を誘導すべく線引きを実施したものである。
 一方、周辺町も香川中央都市計画区域への編入候補にあがっていたものの実現せず、また、高松市と丸亀市では地元住民の反発などから市街化調整区域を広く指定できず、高松市の山田地区や丸亀市の郡家町、垂水町などが都市計画区域外となった経緯がある。

昭和46年 香川中央都市計画区域で線引きを実施

昭和50年代~ 周辺を順次、未線引き都市計画区域に指定


3. 線引き指定後の状況と課題

 線引きの当初指定の後、高度成長時代のなか、人口や世帯数の恒常的増加に伴い、都市圏が香川中央都市計画区域の周辺へと拡大し、都市計画区域外や周辺市町での開発とこれら周辺地域への人口流出が起こった。その結果、香川中央都市計画区域に隣接する市町の合計人口は、同区域の線引き導入後、増加傾向が続き、周辺市町においても順次都市計画区域の指定を行っていったが、いずれも市町単独の未線引き都市計画区域の指定であったため、都市計画区域指定後も周辺市町において人口増加が続いた。
 こうした背景には、香川中央都市計画区域の市街化区域における地価の上昇を受け、安価な土地を求めて、開発規制の厳しい市街化調整区域を越えて都市計画区域外や周辺の未線引き都市計画区域へ人口移動が起こったことが容易に指摘できる。
 さらには、国道11号バイパスをはじめとする郊外部での幹線道路網の整備も沿線での市街化を促進したと言えよう。

香川中央都市計画区域と周辺市町の人口推移

調整区域の人口密度が高い香川中央都市計画区域

 ここで、本県における線引き制度と郊外部での開発問題に関しては、香川県の地理的特徴にも言及する必要がある。
 本県はもともと条里制に端を発して地域が形成されてきた背景があり、そのため線引き指定以前から地域全体にわたって、集落内外に一定の道路整備がなされている集落(住宅地)と農地とが混在しており、それを示すものとして市街化調整区域の人口密度が他の類似規模都市圏の都市計画区域と比較して極めて高くなっている。
 さらには、起伏が少なく平野部がどこまでも続く地形であるため、土地利用上の明確な区域界がほとんどなく、市街化調整区域の住民感情として、道を隔てた向かいの地区と規制が著しく異なることに納得し難いという問題もあった。

4. 線引き廃止に至る経緯とその背景

 県内では線引きの弊害がその施行直後から言われてきたが、特に、市域の約75%が調整区域に指定されている坂出市では「市の人口減少の原因が線引きにもある。」と主張し、県下最大の臨海工業都市である同市では重厚長大産業の衰退の影響を大きく受けたこともあって、香川中央都市計画区域全体での人口増加に対し、唯一昭和50年以降全市人口及び市街化区域内人口が減少するなか、県知事宛に線引き廃止の要望書が出されるなどした。
 こうした地元の動きや平成12年の法改正を受け、本県における今後の都市計画のあり方を見定めるために、同年12月に「香川県都市計画基本構想検討委員会」を設置し、平成14年4月までに5回の委員会を開催し、その間、関係市町からの意見聴取や県民アンケートなども実施して、様々な議論を重ねてきた。
 同委員会では、本県人口は平成12年国勢調査において減少に転じ、県都高松市とその周辺を含む都市圏においては微増又は現状維持の傾向を示しているものの、全県的には人口増加時代の終焉を迎えており、今後の都市における人口増による市街化圧力は大きくないと考えられると指摘。しかしながら一方で、香川中央都市計画区域の都市圏を他県の類似都市圏と比較すると、市街化調整区域や都市計画区域外の人口密度が比較的高いこともあり、これらの地域のこれまでの開発状況をみると、単に線引きを廃止する場合、沿道サービスなど商業系の土地利用による乱開発が進むおそれがあることから、住民合意を図りながら、用途地域の設定や保全すべき地域に対する規制措置、開発許可制度の充実など、線引きに代わる新たな土地利用コントロール方策の導入について具体的な目途がついた段階で、県として線引き制度適用見直しの手続きに入ることが適切であるとの結論に達した。

香川県都市計画基本構想検討委員会報告(平成14年5月
● 現在の都市圏の広がりに対応した都市計画区域の拡大・再編
● 新たな土地利用コントロール方策の導入を前提にした線引きの廃止


5. 新たな土地利用コントロール方策の導入

都市計画区域の再編・拡大
 検討委員会報告を踏まえ、これまで23に分かれていた都市計画区域を生活圏や市町村合併の動きなどを考慮して12区域に拡大・再編するとともに、用途白地地域における容積率・建ぺい率の見直しや特定用途制限地域の指定、開発許可制度の見直し、風致地区の新たな指定など、新たな土地利用コントロール方策の導入と同時に、線引きを廃止することとした。

 

用途白地地域の形態規制の見直し
用途白地地域(都市計画区域のうち用途地域の指定のない地域)での法定規制値(容積率400%、建ぺい率70%)のままでは、中高層で高密度な建築物の立地が可能で、周辺の住宅などとの間で日照等の相隣関係上の問題や交通の局所的な混乱を招くなど、周辺環境に多大な影響を与える恐れがあるため、土地利用の状況を勘案して、容積率200%、建ぺい率70%を基本に指定した。

 

特定用途制限地域の指定
特定用途制限地域は、用途白地地域における良好な環境の形成又は保全を図る観点から、特定の用途の建築物その他の工作物の立地を規制する地域地区制度。従来の市街化調整区域を中心とした区域において、地域の実情に応じて定めた。主として商工業系用途の建築等を制限し、良好な住環境の創出を目的として指定した。

 

開発許可制度の見直し
開発許可制度は、開発行為を県知事などの許可とすることで、宅地の質的水準を確保しようとするもの。線引きの廃止に伴い、一定の地域で開発許可対象面積を法定の3,000mから1,000mにまで引下げ、開発動向をきめ細かく把握し、「宅地開発の際の1区画の最低敷地規模」の基準とあわせることにより、より質の高い住宅建築を誘導し、良好な居住環境の創出を目的とした。

 

風致地区の見直し
風致地区制度は、自然的要素と一体となって良好な環境の形成が望まれる地区において、建物や工作物の開発内容について一定の規制を行うことにより、風致が維持された良好な都市環境の形成を図るもの。従来の市街化調整区域内の都市近郊緑地のうち、他法令による十分な保全措置が講じられていない里山を新規に指定するなどし、これまでの8地区を12地区とした。


6. おわりに

 今回の都市計画の抜本的な見直しは平成16年5月17日に施行されたところであるが、線引き廃止という全国的にも希有の試みであることから、新制度導入後における土地利用や人口等の動向を継続的に把握しながら、新たな土地利用コントロール方策の適正な運用が図られるよう検証していく必要がある。