【要請レポート】

地域まちづくりとコミュニティ労働
― 大阪市従「総合政策シンクタンク」中間報告 ―

大阪府本部/大阪市従業員労働組合

1. はじめに

 自治体職員は地域に居住する人々のことを考えた行政サービスの提供者であると同時に自治体を運営する地域社会のコーディネーター役を担う立場にあります。行政サービスの内容や質の向上を考えた場合、私たちサービスの提供者から見てどうなのかをもちろん考えなければならないことですが、サービスを受ける側、すなわち市民・住民から見てどうなのかを考えなければ質の向上はなりえず、多様なニーズに応えることが出来ません。そのことは従来の市民苦情を「処理する」という「問題解決型」から行政サービスを受ける市民の側にたって、新たな発想のもとで時代に対応した新しい業務をつくっていく「政策創造型」の自治体に転換する必要があります。
 現在、市民のセーフティネットを支える公的現場で日々誠実に業務を遂行しているとしても地域で提供されている個別の公的サービスの必要性やその価値が市民にとって不明確になっています。またそのスタイルが社会的にも必ずしも認知されている状況にあるといえません。今一度「地域」を拠点に市民へ安心・安全なサービスを提供できるよう、公的役割を踏まえながら市民・NPOなどの自主的・自立的な活動領域の拡大を認識し、対応していくべきだと考えます。「まちづくり」の主人公は、市民であることを本当の意味で再認識する必要があります。市民の行政への参加・参画、そして協働は当然のことであり、行政責任として市民活動をサポート・コーディネートすることよって実行に移すことで地域に根ざした「市民がすみやすいまち」が実現できるといえます。
 そのためにも自治体で働く公務員が業務を通じて地域市民との接点を大切にし、行政と企業・住民・市民団体・NPOなどとのパイプ役を担い、現場でまちづくりの企画を行いしっかりスクラムを組むシステムを構築すべき時代にきたといえます。
 「総合政策シンクタンク」では、自治体の現場で働く私たちの持つ特性、すなわち地域で働き、地域を熟知していることや技術・技能・経験を活かして「市民が安心して暮らせる社会」を展望し、「いかにして質の高い公的サービスを市民に提供できるのか」を探求します。そのため多方面から意見を求め、地域市民・利用者と連携して公務サービスのあり様を市民とともに具体化していきます。
 「21世紀にふさわしい行政サービスのありようとは何か」市民のライフラインを守るための「市民が求める公共のサービスとは何か」を模索し、自治体の第一線で日々仕事を行っていることを「どのように活かしていくのか」など、現場公務員と市民とのコミュニケーションを通じ発掘された課題を地域コミュニティを基礎にサービス(コミュニティサービス)のあり様を研究・検討しています。
 2002年10月に設立して以降、研究会議を立ち上げ、2003年秋には3課題のプロジェクトを設置し、今までの「組合動員」という枠をはずし、研究を横断的に行うことにより、そのことを自分たちの仕事にどう反映させるのか、実践していくのか、を問い直しています。また、このシンクタンクは時代にあった業務の質を高める人材の発掘を行うため、公募による組合員(シンクタンク・スタッフ)参画のもと、各プロジェクトの活動を行ってきています。

 各課題別プロジェクト(プロジェクトA・現業職場をめぐる法制度に関する研究、プロジェクトB・協働のまちづくりにおける現業労働者に関する研究、プロジェクトC・現業職場における新しい働き方に関する研究)では、シンクタンク・スタッフが「総合政策シンクタンク」の意義・目的を共有化するため2003年12月に「一泊研修会」を開催するとともに、具体活動を展開してきました。
 その後、プロジェクトAでは、「指定管理者制度」「地方独立行政法人」の勉強会を契機に事業と根拠法とのかかわりや同職種の民間事業者のサービス内容について検証し、今後の方向性を示すための研究・検討を行っています。
 プロジェクトBでは、シンクタンク・スタッフのみならずスタッフの呼びかけのもとスタッフ以外の組合員参加による拡大ワークショップを開催し、業務上の技術を市民サービスにどのように生かすのかなど問題点や課題の発掘を行ってきました。
 プロジェクトCでは、組合員の意識調査を行うとともに、同職種のNPOでのサービス内容を把握し、新たな労働(サービス)の発見を行っています。

2. 市民公開シンポジウムの開催

 全体としては、2004年4月に「市民聞き取りアンケート」をシンクタンク・スタッフが実施し、その内容をテーマに2004年5月15日には、市民公開シンポジウムを開催してきました。
 事前の市民アンケートでは、「あなたにとって身近な公務員の仕事と言えば(図Ⅰ)」「あなたが一番関心のある行政施策は何か(図Ⅱ)」その他、公務員(行政)に対しての要望・意見など、シンクタンク・スタッフが大阪市内の公園などにおいて聞き取り調査を実施し、321人から回答を得ました。

『図Ⅰ』 あなたにとって「身近な公務員の仕事」と言えば何ですか?

『図Ⅱ』 あなたが一番関心のある行政施策は何ですか?

 今回の調査(図Ⅰ図Ⅱ参照)でもわかるように、公務員が市民のセーフティネットの役割を果たしていることが、あまり知られていないということが判明しました。また、環境・福祉・教育・医療という分野については、関心があることが読み取れます。しかし、参加したシンクタンク・スタッフは、市民に直接接して調査を行うことにより、取り組みのやりがいが見えはじめ、もっと私たちの仕事の説明責任を果たす取り組みの必要性を確信してきたことは大きな成果があったと言えます。
 こうした市民アンケート集約内容(行政への要望・苦情を含む)を受けて、2004年5月15日のパネルディスカッションでの各プロジェクト研究者からのコメントをポイントのみ紹介(表1から3)します。
 プロジェクトA(現業職場をめぐる法制度に関する研究)  表1
・民間委託、民営化の流れは加速しているが、利益があがらなければ参入しない民間が全て公共サービスを担えばいつかは空洞化が起きることもある。そのときにはもうすでに技術を持っていた職員はいないという問題も出てくることを考える必要がある。
・しかし、市役所・区役所の窓口については、依然として「お役所」という固いイメージがもたれている。
・施策では、環境・福祉・教育と、身近にあるものから関心が高い。環境問題の意識の高まりや老後や子育てなどへの不安に行政がどのように対応してくれるのかという意識が持たれているようである。役所がしている仕事と市民がしてほしい仕事の間にずれがあるようにも思われる。
・「公務員は法にもとづいて業務をしているので融通が利かない」「業務時間を柔軟に対応して欲しい」という要望に対しては、現場に権限を与えることで、可能にする必要がある。地域分権の徹底や庁内分権を進めなければならない。
・多少コストが高くても公務員がやることのメリットというのをどのようにつくっていくかが課題。
・現業管理体制で政策参加をし、「単純労務」の枠を越えて市民サービスを供給する技術的・専門的な仕事をすることが重要で、今後は、大阪市役所全体での政策調整のあり方が問われてくる。

 プロジェクトB(協働のまちづくりにおける現業労働者の役割に関する研究)  表2
・アンケート調査をして現業の仕事を市民が理解してくれていなかったのは非常に残念だ。市民といっしょに働く以前に、まずは今の仕事をいかに市民に理解してもらうかという職場からのPRが必要。また、市民の方々にも意識を高めていただく必要がある。
・現在の顧客ニーズに合わせるだけで本当にいいのか。今は必要ないが将来絶対必要になるということもあるはず。また、ニーズの絶対量は少ないのだが大切なこともあり、こうしたものを公務として引き受けていかなくてはならないということを意識する必要がある。
・要望の中で、「一生懸命の人もいるが…」という意見がある。市民の前に出ればその人が大阪市の代表になるわけだから、職員一人ひとりの意識を高める必要がある。
・機械化が進んでいくが、市民にも機械に弱い人もいる。人に対応して欲しいという声も少なからずあるということがわかった。
・現業職の多くの方は地域で働いている。市民の一番近くまで来てもらえる市役所職員さんは現業職員だ。地域で協働するためには現業職員の位置づけを明確にしていく必要がある。

 プロジェクトC(現業職場における新しい働き方に関する研究)  表3
・「公務員の仕事」については、一般的な回答が多い。もっと仕事についてPRが大事である。その際、市民に自分が住んでいる自治体にかかわりを持ってもらえるようなPRの仕方をいかに工夫するかが課題。
・「意見・要望」には、コスト意識や無駄とか縦割りとか、前例のないことを打ち破らないと改革は出来ないことが市民側から出ている。
・市民の要望は多様化している。現場の労働者も地域の資源を多く知ってネットワークをつくりながら問題解決をする必要がある。
・「公務員は市民との対話が必要」「コミュニケーションをどうつくったらいいのか」などの市民意見を見ていると、市民が対話を求めていることがわかる。地域には利害関係の相反する人が多く住んでいるので利害を超えた合意形成をするためには、市民やこれからの時代にとって大切なもの、人権など理念や社会の目標や価値の提起が必要。
・そのためのコーディネーター的役割が必要になり、それを市民に近い現場労働者ができるとよい。


3. 課題前進に向けて

 「コミュニティ」と言う言葉の定義が多様化しており、現代になって人々の心の一体感をコミュニティの中心に捉えるというように、例えば小さい社会や世間としてのコミュニティは、私的(プライベート)な家庭と公的(パブリック)な社会をつなぐ中間の境界領域に当たるものといえます。私たちがコミュニティ労働を定義する上で「市民と行政をつなぐコーディネーター的役割を果たすことを現業労働者の仕事としてどう組み立てていくのか」という課題があります。同時に、働きがいを見出せる現業労働者の役割について深く掘り下げていく必要があります。
 具体には、地域で働いているという特性を生かすとともに、市民が安心して暮らせるためのセーフティネットを構築するため「子どもの家110番事業」に参画し、危険に遭遇している子どもを発見した際などに保護する役割を果たすことや、市民が救助を求めている時に対応でき得るよう救急救命の研修の充実を図っています。
 こうした取り組みは、市民の意見を日常的作業の中でも受け入れることができるシステムであるといえ、今後も様々な観点からの取り組みとして推進していくことが重要です。
 また、2005年度より市民ニーズに責任をもって対応するために作業服に「OSAKA CITY STAFF」のロゴを入れることとします。
 このような取り組みをきっかけに市民と行政とのコーディネーター役を果たす「支援職」を確立し、公務現業労働者が責任をもって業務遂行をおこない、市民との対話を基礎に地域課題を発掘することで「地域まちづくり」に活かしていけるようトップダウンではない行政のシステム改革を進めることが「質の高い公務サービス」のあり方に繋がっていくと考えます。
 今後、各プロジェクトは、2005年7月まで活動し、2005年12月には各プロジェクトの研究報告をまとめていく予定です。