【自主レポート】
農を通じた地域コミュニティ形成の可能性
東京都本部/練馬区職員労働組合
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1. 練馬の農業体験農園の概要
近年復活した練馬ダイコンで有名な練馬の農業、宅地化の波はどんどん農地を減らしているが、練馬区は23区で1番多く農地を残す自治体だ。【資料①】
そんな環境のなかで、練馬区の農業体験農園は、平成8年4月に「緑と農の体験塾」を開設して以来毎年1ヶ所づつ増え続け、平成16年4月には9園目の農業体験農園「どろんこ・わぁるど」が開設した。どの農園も好評で、募集に対してすぐに定員があふれる状況になっている。この農業体験農園は、練馬区の他にもある区民農園や市民農園とは異なり、農家が自らの農地で開設する。利用者は年間29,000円(入園料・収穫物代金)を支払い、30m2の区画を園主(農家)の指導のもとに、種まきや苗の植えつけ、畑の管理を行い、農家が作るものと同じような野菜が収穫できるというのが売りだ。野菜は春~夏、夏~冬の2期に分け、20種類以上の野菜を収穫する。【資料②】
農業体験農園の特徴として次の4点があげられる。
(1) 都市住民と農業者の交流
都市農業存続のためには、住民の理解と支援が不可欠ですが、この農業体験農園では農家と利用者の相互交流が自然に図られるため、結果として広範な都市農業の理解者層の創出に繋がります。
(2) 農家による懇切な農芸指導
減農薬化学肥料農法を主体とし、地域に受け継がれてきた品種と農法による栽培指導がその道のプロである農家からなされます。利用者は失敗も少なく手軽に野菜作りを楽しめます。
(3) 農業経営として成り立つ農園
農家にとっては市場価格などに左右されない安定した収入が見込まれるとともに、肉体的な労力も軽減されます。(ただし、利用者の指導や交流に工夫がいるため、別の労力が必要です。)
(4) 行政負担の大幅軽減
農家が経営者として農園の管理運営を行い、練馬区は施設整備費・管理運営費の助成と管理についての助言や募集の手伝いをするだけですので、自治体開発型の市民農園に比べて、管理運営面での行政側の負担は大幅に軽減されます。
(練馬区ホームページ:http://www.city.nerima.tokyo.jp/)
2. 農業体験農園開設への若干の経過
この農業体験農園の準備、設立には大変な時間がかかっている。そして、私たち練馬区職労と、この発案者のひとりでもあるJA大泉青年部有志、とりわけ加藤義松氏(第1号体験農園「緑と農の体験塾」塾長)との繋がりも、実は平成4年(1992年)へと遡る。
当時練馬区職労では、練馬区長選挙での敗北後(1991年)、「グローカルアクション92」の提起を受け、自治研活動の一環として練馬でも「グローカルアクション」の呼びかけを区内の諸団体・個人に行い、「練馬から環境行動を起こす会」という実行委員会をたちあげた。そして最初の取り組みとして、環境に関するシンポジウムを開催しようということで様々な準備や学習を積み重ねていった。そうしたなかで、JA大泉青年部の加藤義松氏が実行委員会に参加する機会があり、当時大きな問題としてあった「生産緑地法」改正(1991年)の問題点や野菜の市場価格の厳しい現状など訴えるなかで、練馬での「体験農園」構想を語ったのが最初だった。
生産緑地法の改正は、都市農家に農地の存続に対する強烈な危機感をもたらせた。そうした状況の中で考えられた、従来の市民農園とは違った形態での体験農園構想は、①都市農地の保全、②農体験を通じた交流、③学校教育への協力、④農業経営の安定化、という柱を当初からもっており、実行委員会の中でも多くの興味を集めた。そして、「練馬の環境問題連続シンポジウム」の第1回目~テーマ『緑』~で、加藤義松氏をパネリストのひとりとして、生産緑地法の問題点、練馬区の農の現状について、体験農園構想、地域・区民との繋がりなど話していただいた。【資料③】
もちろんそれ以前から平行して、行政担当者との話し合いや学習も粘り強く積み重ねられた。法的な適合性をもちつつ、練馬区の補助金を受けられる形態が追求された。従来の市民農園のような区画貸し方式ではなく、耕作の主体はあくまで農園主であり、入園者(利用者)は農園主の指示にしたがって農作業を行うという方式で、管理運営費を1区画あたり年間12,000円区が補助する。そして利用者は、29,000円(入園料、種苗・肥料・資材代、受講料、収穫物の代金等)を支払うという形態がきまった。そうした結果、平成8年(1996年)第1号の農業体験農園の開園に至ったという経過になっている。
東京都本部自治研でも、都市農業での農地利用の可能性でこの「緑と農の体験塾」の見学会と農園の収穫野菜の鍋料理を囲む取り組みを行っている。当時の記憶では、この体験農園方式が本当の農の姿か? という難しい論議は若干あったが、後にも述べる地域のコミュニティ形成という展開が導き出される結果を生んだ。練馬区のこの農業体験農園は、いまでは全国的にも有名になり、あちこちの行政視察はあとを絶たない状況となっている。
3. 農業体験農園の実際
利用者は、園主の決めた作付表をもとに(連作障害を起こさないよう年度でローテーションされている)、決められた場所に種まきをしたり、苗を植えたりしていく。【資料④】わずか30m2の区画だが、10種類以上の野菜が作付される。基本的に春~夏野菜、秋~冬野菜の2期作になっていて、時期をずらしながら週末に3日間ほど講習会が設定され、利用者はそのどれかの日程に参加し、園主の講習・実技を見聞きしながら、同じようにまねていく。講習会での園主の話しは初心者にもわかりやすい内容で、また素人では知りえない野菜や土についての様々な知識も披露される。道具は農園に用意されており気軽に立ち寄れる。病虫害への対処は避けられないが、減農薬的対応となっている。
野菜の収穫は、もちろん気候の変化で出来、不出来があるが、実際に調べた人によると市場価格にして約9万円ほどの収穫量だそうである。スローライフ、スローフーズが言われる昨今にあっては、旬の野菜をとりたてで食べられることが、なんとも贅沢である。季節の移ろいに敏感になり、農業の厳しさ、楽しさを存分にあじわうことができる。土と戯れることで、都会人にはなんとも言いがたい癒し効果があるのかもしれない。体験農園の第一義的な魅力である。
4. 農を通じた地域コミュニティ形成の可能性
さて、こうした体験農園を通じて農作業や収穫という話しばかりでなく、園主と利用者、あるいは利用者同士と様々な交流の機会が増えていく。日常的なあいさつはもちろんのことながら、例えば都合で講習会に出られなくても、ベテラン利用者は園主のアシスタントのように懇切丁寧に指導してくれる関係ができてくる。そればかりではなく、農園で取り組まれる行事などを通じて、おたがいがより親密になっていく機会がふえる。園主の行事などへの関わり具合にもよるのかも知れないが、例えば「緑と農の体験塾」での1年間に取り組まれた行事を紹介してみよう。
① 米講座 |
茨城の農家へ田植え、米の収穫 |
② 昼食会 |
一品持ち寄りの交流会 |
③ 料理教室 |
季節の野菜を使った料理講習 |
④ 手打ちうどん作り |
麦から収穫の本格的うどん作り |
⑤ ブドウ狩りツアー |
利用者の田舎へブドウ狩りと温泉ツアー |
⑥ ゴルフコンペ |
腕前を競いながらの交流 |
⑦ 柿講座 |
柿の剪定から収穫まで |
⑧ 収穫祭 |
豪華豚汁に舌鼓、野菜の品評会もあり 【資料⑤】 |
⑨ ベトナム農業見学ツアー |
⑩ しめ縄作り |
講師は利用者 |
その他あちらこちらと、マイナーな交流は数知れずというところだろうか。いまどきこれほど活気づいた地域活動もないだろう。また、地域の学校の授業などでの園主の貢献度も高い。
こうして、農業体験農園が9年を迎える現状をみてみれば、当初の構想であった農を通じた人と自然との関係、そしてその地域空間での人と人との関係がしっかり築かれ、ひとつの地域コミュニティを形成しつつある。(農家も経営的に安定したといえよう)
農を通じた地域コミュニティのこれからの可能性は、参加者自らが積極的であるほど無限大のような気がしてならない
資料1 東京23区内農地面積構成比
資料2 練馬区報での募集記事
資料3 練馬区職員労働組合/自治研チラシ
資料4 緑と農の体験塾/作付け表
資料5 緑と農の体験塾/2003年収穫祭の様子
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