【自主レポート】
みどりのまちづくりルール策定に伴う
モデルスタディ地区の実践検証について |
福井県本部/自治労福井市職員労働組合 下川 明秀
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福井市の「緑の基本計画」に基づき、市民と行政が連携して緑化活動を行っていくことを目的に設立された「みどりの市民会議(非営利市民活動団体)」に対して、福井市職員として設立段階から参加し、また今回、市民・行政・企業とのパートナーシップによるみどりのまちづくりを展開していくためのルール(みどりのまちづくりルール)づくりを本市民会議と福井市が協働で取り組むためのモデルスタディとして実践した、福井市春山地区における緑化活動に対して次のようにレポートする。
1. 概 要
(1) 目 的
① モデルスタディ地区における住民、企業の参加による緑化の実践検証
② モデルスタディの結果をふまえた「緑のまちづくりルール」作成及び支援・推進体制の検討
(2) 対象地区
① バリアフリー工事で、歩道の植樹桝が再整備された春山地区の松本通り沿道500mに面する7つの自治会。全168世帯。
(3) 地区の特性
① 福井市街地は、戦災復興、震災復興による土地区画整理でできた都市である。行政主導による都市整備の歴史があり、守るべき歴史資源や緑も少ないことから、住民が緑に関わる機会も意識も乏しい状況にある。
② 中心市街地の空洞化が著しく、当地区においても少子高齢化が進行している。
③ 福井市の住民自治組織の形態として、公民館を主体とした仕組みがある。行政が公民館に依頼すれば、自治会長へ要請が伝わる。自治会としての参加は得られるが、住民においては義務感に拠る部分が多く、自発的な住民の活動には結びつかない面もある。
④ 市街地幹線道路で、27m(片側2車線)と道路幅員が広く、道路で分断されている自治会もあり、高齢化や空洞化で自治会活動も停滞している地区も見受けられる。
2. モデルスタディ実施にあたって大切にすべきポイント
上記の無関心な住民層に対して、市と「みどりの市民会議(非営利市民活動団体)」がモデルスタディの実施を行うにあたって、大切にした以下の3つのポイントをふまえ、段階的に緑化活動を企画、実行し、その心の変化を追っていった。
コミュニティ再生の視点 |
花や緑を育てるという行為を通じて、多世代で分かち合い、協力し合い、その姿を子どもや若い世代に伝えるという地域づくりの視点から、希薄になりつつあるコミュニティを再生し、人間の本能としての花や緑への慈しみの心を取り戻す。 |
物的支援より緑化技術支援 |
市、みどりの市民会議は、住民の主体的な緑化活動を支援する役割とし、住民の主体性を損なう物的支援は極力控え、体験や講座を通じて緑化知識や技術を伝えることによって、正しい理解や自信による自立的活動に繋げる。 |
住民の主体性・持続性 |
行政主導の緑化を住民の手に渡すにあたって、住民が主体的に、持続的に花を育て、維持・管理できる支援や体制をモデルスタディで検証する。 |
3. モデルスタディ事業の概要と住民の変化
■平成14年12月13日 モデルスタディ実施の地元への打診 |
<メンバー>
自治会長7名
みどりの市民会議のガーデニングティーチャー(以下、GT) |
・「希薄になった世の中で、子どもからお年寄りまで、一緒に花や緑を育てることで地域を元気にしましょう」というみどりの市民会議の投げかけに対し、「理想論だ」「言うは易いがもう年寄りしかいない」という声が大半を占めた。
・最終的には「子どものためにも、今一度、地域づくりに取り組んでみよう」という意見で一致し、モデルスタディ地区としての了承を得る。 |
▲平成15年12月~平成15年1月 第1回アンケート調査の実施 |
<調査概要>
調査対象世帯167票
回収85票
回収率50.9% |
・自分の周りや自宅に緑がやや少ないと感じており、緑化への関心がある人も60名、7割と高くなっている。
・しかし、具体的に歩道や公園など公共施設の緑化への参加希望は29名と3割強となり、「わからない」という人が36名と約4割を占めた。 |
■平成15年3月15日、21日 アンケート調査をふまえた話し合い |
<メンバー>
平成15年の自治会長、興味のある方 約10名 |
・水やりへの不安、高齢による人手不足、花の世話が楽な宿根草の希望、統一したデザインの要望など不安や要望を中心とした意見がだされた。
・GTから、世代を超えたコミュニケーションの場としての花植えや育成、維持管理の提案、経費削減と緑化技術の取得から種から花を育てることの提案がなされた。 |
●平成15年3月30日、4月12日、26日 第1回パンジーの花植え(重要) |
<メンバー>
7自治会住民 約70名
福井信用金庫職員 約10名
ガソリンスタンド従業者 3名
みどりの市民会議 約7名 |
・肥料や堆肥は前日に業者で行う。当日は、GTの説明のもと、市が用意したパンジー等約5,000株と宿根草を住民で植える。
・7地区の足並みが揃わず、一斉に花植えすることはできなかったが、3日に分けて6地区、企業、1地区で花植えを行った。
・イベント的な盛り上がりを見せたが、「次は種から育てましょう」という呼びかけに対し、今後の継続や水やりなど維持管理に不安を抱く声が聞かれた。 |
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花を植える楽しみは共有できた。しかし、自治会間の温度差や水やりの負担の不公平感が残っている状態。 |
○上部組織の連合自治会長は乗り気であったが、スタート時点での地元の反応は、難色気味で自治会長は住民を説得できるのかというプレッシャーを持つ方もいた。
○アンケート調査をふまえた話し合いは、自治会長の家族などで占め、自治会長(1年交代)としての責任と義務を果たすために来られていた。自治会によっては、呼びかけが不十分で集まりが悪かったり、足並みが揃わない地区が1地区あった。
○花植えについては、イベント的な要素もあり、約70名の住民が自治会長の呼びかけに応じて参加し、楽しい雰囲気で行われた。企業も快く休日に参加してくれた。
○水やりや草取りなど維持管理は、散水栓の設置のばらつきや植樹桝に面した世帯がせざるを得ないという思い込みや雰囲気があり、住民間でぎくしゃくした地区もあった。 |
中盤期 ~花を種から育てよう、水やりの苦労のピーク~
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●平成15年5月24日 マリーゴールドの種まき |
<メンバー>
住民 35名 |
・種代を住民自ら購入し、育てるシステムを検証するため、種まきのトレー(200株)を1,000円で自主的に購入してもらう。
・200株のうち、150株を植樹桝に50株は自宅用として還元する割安価格で販売した。個人的出費を避けて自治会で支出したり、購入費については抵抗があって支払わない人も1人いた。
・育成にあたって不明な点はGTに電話で聞くことにしたが、問い合わせが殺到した。 |
●平成15年6月19日 マリーゴールドの苗のお披露目会 |
<メンバー>
種を植えた住民 20名 |
・苗の育成を確認するため、公園に苗を持ち寄ってもらった。
・全滅した人もいたが、生育状態は個人差があり、日照不足、水のやりすぎの傾向がみられた。
・楽しんで育成している人もいれば、育成へのプレッシャーや失敗などで落胆、不満をもらす人も数人いた。 |
●平成15年6月22日 マリーゴールドの花植え |
<メンバー>
7自治会住民 83名
みどりの市民会議 3名 |
・前回と同様、苗植えからのスタートだったが、苗の足りない自治会への配分作業がGT、コンサルタントを中心に発生した。
・住民が苗を購入して公共空間を緑化する意味について反発する1住民との話し合いの場面もあった。
・ガソリンスタンドの理解が得られず、行政職員を中心に作業を行うことになった。 |
▲平成15年8月14日~23日 第2回アンケート調査の実施 |
<調査概要>
調査対象世帯 142票
回収 88票
回収率 61.9% |
・取り組みについては6割の前向きな回答で占めた。
・良かったことは「美しくなり、生活する環境がよくなった」という回答が6割を占めた。
・苦労したことは、「日々の水やり」が4割を占めた。
・今後の方法について、宿根草を増やして管理を楽にしたいという回答が半数以上を占めた。
・取り組み方については、「行政が主体で、住民は協力 ・参加程度でよい」という後ろ向きな回答が依然7割を占めた。 |
■平成15年9月4日 第1回花と緑の話し合い(重要) |
<メンバー>
自治会長、興味のある方 約17名 |
・「この通りは日本一」「ずっと継続して四季折々の花を咲かせたい」という前向きな意見が多数あげられた。
・「行政が主体的にすべき」という発言に対して、住民間で「これからは住民参加の時代」と諭しあう光景がみられた。
・植樹桝に面した家や自治会長が水やりを行っている自治会では、「とても負担だ。散水栓をつけてくれたら毎日でもやる」「もう、種まきはしたくない」という苦労話が出された。
・これに対し、「自治会を超えて助け舟を出せないか」「順番にできないか」「後ろに家のある人も参加したい人は沢山いる」といった解決策が住民からだされた。
・結論として、宿根草の割合を増やす、水やりは自治会で話し合うことで維持管理の負担を図った。次回の春のパンジーは有志の人で種から育てることとした。 |
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花を種から育て、管理することの苦労や辛さを体験した。
しかし、四季折々の花でこれからも通りを美しくしたい。そのためには、みんなで苦労を分かち合う工夫が必要だということを共有した。 |
○種から育てることで、経費の削減だけではなく、植物の生育を体で覚えるという経験を通じて、花を育てる愛着心の芽生えや緑化技術を習得するという効果を生み出した。
○一方で、夏中、水やりを負担し続けた植樹桝の前面の家の人や自治会長の負担の疲れが生じていた。話し合いの場で出すことで、後ろの人も参加したいと思っていることや、宿根草を増やし、維持管理しやすい環境づくりの提案がなされ、彼らの心を軽くした。
○スタート時点では、不安や質問、要望を中心とした意見がほとんどだったが、「住民参加の時代」「これからもずーっと花を咲かせ続けたい」「自治会を超えた連携」「1,000円で苗を買うことの妥当性」など、前向きな意見が数多くだされ、住民が住民の労をねぎらい、励まし、諭す光景が見られた。 |
自立期~植物を知り、種も心も育てよう。住民主体の取り組みへ~
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●平成15年9月21日 春用のパンジーの種まき |
<メンバー>
住民 45家族 |
・春用のパンジーの種まきの有志を30名募集したところ、はるかに超える50名に加え、他地区の住民も3人参加するという賑わいとなった。
・前回の要領をふまえ、作業もスムーズに進み、近所同士でデザインや管理について話し合う光景もみられた。 |
●平成15年11月4日 パンジーの苗のお披露目会 |
<メンバー>
住民 16名 |
・苗の生育状態の確認に加え、自治会間で花の色の交換は住民間で話し合うことの投げかけ、及び石灰・肥料・堆肥のまき方のデモンストレーションを行い、住民間の話し合いの促しや具体的な土づくりの講習を行った。 |
■平成15年11月18日 花植えのための講座(重要) |
<メンバー>
住民 18名
みどりの市民会議 2名 |
・パンジーの花植えにあたって、植物の特性、土づくり、肥料のやり方、野菜の作り方まで、専門的な用語をちりばめながら、GTによる基礎から応用にいたる講座を開催した。
・参加者メンバーはメモをとり、当日、リーダーとなって主体的に動いていただくよう働きかけた。 |
●平成15年11月22日 パンジーの苗植え |
<メンバー>
住民 85名 |
・集合時間の30分以上前から住民が主体的に行った。1年前、業者で行った石灰・肥料・堆肥による土づくりも、手順や配合をふまえて各々で行われた。
・これまでは、女性、高齢者が主流だったが、10~50代の男性、子ども、家族ぐるみの参加者という新顔が登場した。
・花と緑の話し合いを受けて、維持管理のしやすい宿根草を用意していたが、植える自治会は全くなかった。 |
◎平成15年11月28日 都市景観賞受賞 |
<表彰式>
住民代表1名 |
・福井市の都市景観賞の地域活動部門で80件を超える応募の中から選ばれた。マリーゴールドの統一美に加え、種から花と心を育んだ取り組みが評価された。 |
■平成16年3月23日 第2回花と緑の話し合い |
<メンバー>
平成16年の自治会長、興味のある方 15名 |
・昨年の取り組みや今後の活動について話し合った。
・種まきや害虫対策は苦労するという意見もあげられたが、この取り組みは2~3年間は同じ方法(種から育てる、パンジーとマリーゴールドにする)で定着させていくこととなった。
・「参加者がどんどん増えていったこと」「ゴミの投棄がほとんどなくなったこと」「通りを歩く人が誉めてくれたり、成育のアドバイスをくれること」「自治会や近所の関係を結び、心を開くのによいチャンスとなった」といった成果があげられた。 |
●パンジーの種まき |
●パンジーのお披露目会 |
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●パンジーの苗植え |
●花と緑の話し合い |
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植物の生育の仕方や好ましい環境を経験によって培い、話し合えば住民で協力し合ってなんとかやっていける、という自信が芽生えた。 |
○苗の育成や講座を受講する有志の顔ぶれが定着しつつあり、各地区のリーダーとしての役割が期待される。
○自治会の中でも役割分担が生まれ、連携によって段取りよく作業を進めていた。
○単なる花植えではなく、地域づくりの一環として参加するという意識ある人もでてきた。
○特に、当初、反対していた人や不満を上げた人が、この段階で1,2を争う熱心な人になる傾向が強い。反発に対して、市やGTが意見を聞き、趣旨を説明する、配慮する態度が効をなしたと思われる。
○最終的に、このモデルスタディの終了後も継続して取り組むこととなった。2~3年は、経費削減と緑化技術の育成ができる種を自治会で購入し、住民の有志で育てることとし、四季折々の花を咲かせ続けることとなった。
○また、隣の自治会にも声をかけ、花植えの輪をさらに広げることとなった。 |
4. モデルスタディの成果
(1) 成果として、行政主導の緑化を住民主体の緑化へと移行することができた。
(2) 成功の要因として、「あるべき姿を伝える」「種から育てる」「極力、住民間の話し合いに委ねる」「市の対応姿勢」の4点があげられる。
① 『あるべき姿を伝える』
花を植える行為を媒介に、地域の子どもや大人が社会へ貢献する事の意味、植物を慈しむ意味をまっすぐ伝えることによって、小さな迷いや従来の価値観からの脱却に繋がった。
② 『種から育てる』
種から育てる苦労の見返りとして、感動的な美しい風景を得ることへのやりがい・達成感・自信、花を慈しむ愛着心を育てた。
③ 『極力、住民間の話し合いに委ねる』
問題が生じる前に対処するのではなく、問題の症状を見て、対処すべきところは対処し、住民に委ねるところは委ねる対応が、住民間の連携を育んだ。
④ 『市の対応』
個別の要望、反発にきめ細かに対応し、足を引っ張る住民感情を前向きな姿勢になるよう粘り強く対応することによって、行政不信を払拭させた。
5. 今後の課題
(1) 支援のあり方
ようやく意識が芽生えた段階であり、今後、住民主導の持続的な緑化活動として定着させるためには、市の最低限の物的支援も必要だが、専門家から緑化知識や技術を習得できる支援、情報の収集・提供、意欲向上のための表彰制度、より専門家をめざす市民の人材育成支援など、住民の知識と体験と習得、ネットワークや意見交換ができる支援がより重要であり、こうした支援システムを早急に確立する必要性がある。
(2) モデルスタディをきっかけにした花と緑のまちづくりの展開
また、モデルスタディ以外の地区や団体への広がりを促すことも必要である。当モデルスタディをきっかけに、他地区からの参加や河川敷の緑化、商店街など新たな展開の動きも芽生えつつあり、この流れをどう受け止め、支援していくかが課題となる。
(3) 総合窓口機能の設置
このため、みどりのまちづくりルールでは、特に、住民主体の緑化活動を促す物的支援情報提供、緑化知識やノウハウ取得、相談、人材派遣などみどりの総合窓口機能のあり方を重点的に盛り込む予定である。総合窓口機能は、庁内の花と緑に関する施策や部門の一元化および中間支援組織が坦う緑の拠点の設置が必要となる。
(4) みどりのまちづくりルールへの反映
モデルスタディをふまえ、将来的に条例化することをにらみながら、みどりのまちづくりルール(素案)の骨子、内容を検討し、逐条解説を併記することで、条文には表れない趣旨や具体的支援を盛り込む必要がある。
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