【自主レポート】
市民活動の実践とNPO武生の結成
福井県本部/武生市職員組合・丹南市民自治研究センター
事務局幹事 川崎 規生
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1. 基本的な考え
99年、武生市職は、今後の地方分権の進展を展望すれば、市民の多様な自主的・自立的活動が地域の公益を担う大きな社会的資源として位置づけられていくだろう。
また、市民との連携による自治体改革を効果的に進めるには、組織内の自治研活動から発信・連携を図る一方で、「私たち自らが市民活動に参加し市民と共に自治を推進すること」、すなわち「私たち組合員が市民自治の当事者となり活動すること」が必要だと感じていた。
2. まずはじめたこと
(1) 鯖江市で~NPOの結成と活動
武生市の隣接市、鯖江市では早くからNPO支援施策が展開され、拠点施設に多くのNPOが活動を持ち寄り市民セクターの充実に大きな成果を挙げていた。私たちはこの鯖江市においてNPOを結成し、「先ず自らが参加・活動すること」で市民活動について学んでいこうと決意した。
99年、武生市職、鯖江市職の組合役員で地方自治を考えるNPOを結成。その名も「市民自治研究会」。鯖江市のNPO交流センターへ登録し、自主管理するセンターの維持管理、NPO間の連携について協力することからはじめた。もちろんこの会に資金はなし、会員も3名。組織的にも「独立」していたので、組合活動の合間を縫っての活動で大変心細く正直しんどかった。
加盟当初は、NPOの皆さんからは好意的に迎えられたが、市の職員が「手伝い」または「見学」に来ているとの見方が多かった。しかし、運営会議や、トイレや床の掃除当番にこまめに参加しているうちに少しづつ同じ市民活動を行う個人として気軽に語り合えるようになり、その後の介護保険条例市民案策定のワークショップや市民活動推進条例という当会の取り組みへとつながっていった。
いずれにしても、このセンターでの数年間の活動を通じ得た人的ネットワークや運営ノウハウなどが、その後の武生市における取り組みに大いに役立ったことだけは間違いない。
(2) 武生市で~市民とともにNPOの活性化を議論する~
武生市では、市民活動に関する研究が始まったばかりで、市民各層にも浸透が薄く、各市民活動団体は個別に活動をするが、団体間や行政との連携は限定的であった。
そのような中、まずは私たちが率先して提起をし、市民活動についての市民理解を深める一方、市民活動の活性化、そのための活動環境の整備などの機運を高めていこうと2000年、武生市職組合員、市民活動家、などで「市民活動研究会」を結成、活動を開始した。
これには、以前から市民活動の重要性を議会で発言し、その支援政策を提言してきた武生市職組織内市議も参加していた。
私たちは、率直な関係者による議論と広範な市民意見の集約を目指し、2回の連続シンポジウムを企画した。
2000年10月、第1回目には、先行する鯖江市のモデルを学習・議論することを企画して市民に呼びかけた。武生市では初めての企画でもあったせいか有料ながら100名近い参加があり、関心の高さに驚かされた。
講師には鯖江NPOセンター事務局長を要請した。講演では、NPOと拠点施設、連携組織の必要性が説かれ、これを受け参加者からは、
「市民活動間の連携の必要性が理解できた。」
「自立した組織運営が必要であり、このためのノウハウを学ぶ場所が欲しい。」
「いつも利用する公共施設は9時までで活動しにくい。いつでも使える拠点が必要だ。」
「行政との交渉でも、各団体がばらばらに陳情するのではなく、連携組織で議論し練り上げたうえで交渉することが必要。」
など多くの意見をいただいた。
これらの意見は、後の武生市のNPO拠点作りに反映されることとなった。
2001年1月、第2回目には、市民と行政の協働をテーマに企画した。これにも80名を超える参加があり、武生市職組織内市議のコーディネイターのもと5つのNPOから報告を受け、NPOの活動環境と自立、行政との連携について議論した。
ここでも会場内から、
「多種多様なNPOが一堂に顔を合わせ意義深くおもしろかった。この地域におけるNPO活動の将来性が見えてきた。」
「NPO役員だが、人材と資金不足は深刻だ。しかし、行政の補助金には抵抗がある。今日の議論を聞いて今一度自立プログラムを考えていきたい。」
「職員の異動により行政との連携が一時的に遮断されることが多い。NPOとのネットワークを組織的に捉えていただきたい。」
など数多く寄せられた。
この議論を元にNPOと行政のパートナーシップ協定への取り組みへと繋がっていった。
全2回のシンポジウムは新聞報道などの影響もあり、多くの武生市民の間にNPO活動の将来について議論を深めることとなり、結果的にこれらの連携を可能にする拠点作りの重要性についてもコンセンサスを形成していった。
この結果、2001年、武生市に初めてNPOの連携組織「NPO武生」結成と、その活動拠点「市民活動交流室」の設立を見ることになる。
3. 丹南市民自治研研究センター
武生市のNPO活動に関する市民意識の高揚や連携機運の盛り上がりを受け、私たちは先の鯖江市、武生市の取り組みを総括し、より組織基盤を強化するため地方自治研究を目的として、2001年4月、新たなNPOを結成した。「丹南市民自治研究センター」という。
武生、鯖江両市のほか地域的につながりの強い9町村を活動エリアとして、市民に参加を呼びかけた結果、150名を超える参加を得た。代表には武生市職組織内市議、事務局は武生市職組合員が担うこととなった。
確かに組織基盤、活動資金は以前より格段に充実したとはいえ役員はそれぞれ、仕事を持っているし、資金も会費のみで50万円ほどしか見込めなかった。
したがって、効率的な組織運営をどう図るか、最小の経費で最大の効果をどう実現するか、事業収入をどうやって獲得するか、そして何よりもいかにタイムリーに市民に自治課題を設定することができるかが組織存立の宿命的条件となっていた。
しかし、良く考えればこれらのことは、多くのNPOの抱える経営課題であり、それが故にその後の「NPO武生」においてセンターが中心的役割を担えたのだと思う。
従来より多くの地方研究機関は出資元に大部分の資金を依存しているがため、地域課題を敏感に把握して事業化し、市民的評価を得ながら経営を維持するという動機付けが薄い。
私たちは、今、市民が何に関心を寄せるべきか、そのためどのような手法で学ぶ機会を設定するかが起点であり、その中に自治労がどう議論参加していけるか、ひいては住民自治にいかに寄与しうるかを考え事業化している。
4. NPO武生
2001年、武生市に初めてNPOの連携組織、「NPO武生」およびその活動拠点「市民活動交流室」が設立される。繰り返しになるが、このことは武生市職組織内市議と連携して武生市職員組合が多くの市民と共に1999年から展開してきた市民活動に関する一連の取り組みの成果でもあった。
もちろん、発足間もなく丹南市民自治研究センターはNPO武生に加盟登録をし、運営役員にも名を連ねた。
発足当時は加盟団体は30団体程度であったろうか。環境保全、障害児やひきこもり児童の支援、まちづくり、国際交流、伝統芸能保存、医療問題研究から青年会議所、劇団まで実に幅広い分野から集まった。
発足後の役員会では、どのような運営をしていくか、拠点施設の管理はどうするか、そしてNPO間の連携を視野に互いの活動についてどう認識を深めるのかを協議することとなった。同じNPO活動を行う者で構成する役員会とはいえ簡単には意見は一致せず、連日深夜まで激しい議論が交わされた。また、時間もなかったため、ある役員が入院している病院の会議室を借りて議論したこともあった。
結局、運営については、「総務、活動支援、地域交流」の3つの委員会をつくること。運営経費は各団体3,000円の負担を求めること、備品については使用料を設定すること、拠点施設は24時間利用可能とし、各団体に鍵を作り自主管理に任せることなど合意した。
構成団体間の交流についても、年に一度「NPOまつり」を開催。各団体の活動PRをすることを通じ認識を深めようとなった。
更には、市担当部署との協議も持たれ、施設維持管理の負担の問題、NPO武生の専従職員の採用、行政とのパートナーシップの締結などを合意した。
5. NPO武生における丹南市民自治研究センター
2001年から2003年まで、丹南市民自治研究センターは、NPO武生の総務委員長を引き受け、専従職員の雇用と待遇改善、施設の維持管理と備品の要求、会計や庶務などを担当した。
2004年からは地域交流委員長となり、恒例の主催イベント「NPO祭り」をはじめ行政や様々な外部団体との連携事業を行っている。9月にはこのNPO祭りを拡大し、地元の夫婦神輿グループ、YOSAKOIネットワークと共に実行委員会を組織。主催者総勢1,000人の「市民祭り」を企画した。これは、企画から運営まですべて市民の手によるものであり、武生市内における市民活動の一大祭典とも言うべき事業にまで発展してきている。
また今年7月の福井豪雨では、被災した隣接町の今立町支援のため、武生市におけるボランティア派遣事業を中心的に担った。
加盟当時、NPO武生に加盟する団体間では、当センターは、何やら難しいことを言う政治的団体なのではとか、市役所職員の組合が主導しているなどと見られていたようだ。
しかし、丹南市民自治研究センターが設立後、身近なテーマ設定で市民フォーラムを重ねてくると、そこに参加する団体も増え、その内容について感想や意見を直接いただけるようになってきた。それは予め組織的な結論を持たず、だれでも参加すれば必要な情報が提供され、議論する場もあり、結果的に広範な市民の自治活動に少なからぬ影響を与えていることの評価が広がってきていることだと思う。また、NPO武生では発足からこの間、共に議論し行動してきた経験でもって仲間として認知いただいていることもあるのだろう。
今や、丹南市民自治研究センターは、NPO武生にあって名実共にNPO活動支援の中心的位置を担うまでになっている。
6. NPO武生の活動を通じて
NPO武生に加盟をし、様々な団体と議論をしたり市役所との協議も重ねてくると、市民活動の奥深さを実感すると共に自治体活動、組合活動がより客観視できるようになる。
NPOとひとことで言っても様々であるが、「柔軟で解放的な組織」「夢を語り挑戦することへの評価」「顧客の満足から得る達成感」「軽やかな使命感」など組織風土的に学ぶべき点は多い。これらはどれも自治体、むしろ組合活動に見られたものではなかったか。
この地点で活動し発想するからこそ、自治体活動とどのように連携していけるか、そのためには多くの乗り越えるべき課題が何かということが実感でき、市職が市民参加による自治体改革運動にどう関わっていけるのか、見えてくることは多い。
7. 最後に
丹南市民自治研究センターは、丹南地域の自治労運動がもたらしたNPOである。
これまでの地域における様々な取り組みの経験や人のネットワークは、このNPO活動にあっても当然活かされなくてはいけないし、今後とも職域を中心とした自治研活動と市民と共に培われる私たちのNPO活動が両輪となり、「より住民に接近しながら」新しい展開を切り拓いていくことが必要だと考えている。
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