【自主レポート】

野宿生活者対策の取り組み

大阪府本部/大阪市職員労働組合

1. はじめに

 バブル崩壊以降の厳しい経済情勢により、大都市を中心に野宿生活を余儀なくされる人(以降、野宿生活者という)が多数存在し、大きな社会問題(都市問題)となっている。
 大阪市域で野宿生活をしている人は、98年の調査値(夜間調査)で8,860人であり、2003年1~2月の全国調査(昼間調査)では、6,603人であった。この数値は、全国で最も高く、全国総計(25,296人)の25%強を占めることとなっている。
 また、聞き取りで行った生活実態調査(500人程度を対象)では、野宿生活者の平均年齢が55.7歳であり、全国値(55.9歳)と大差ないものの、野宿生活者の高齢化を物語っている。
 野宿生活者問題が深刻化する中で、連合大阪やNPO支援団体の取り組みが実り、2002年夏には、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が成立・制定した。そして、2003年7月国の「基本方針」が策定され、大阪市においても、パブリック・コメントの実施とともに、支援団体の代表や施設代表連合大阪等関係団体の参画する「実務者検討会」での検討も行われ、2004年3月、大阪市の実施計画が策定された。以降、この実施計画に基づいて野宿生活者の自立に向けた大阪市の施策が展開されてくることとなる。
 しかし、野宿生活者対策は、自治体にとって簡単に解決する課題とは言いがたい。市会においてもさまざまな角度から厳しい追及等が行われているし、2003年11月大阪市長選挙でも争点の一つとなったところであり、現状でも多くの課題を抱えている。その一面は、公園や道路、河川などの公共施設を占拠していることに対する住民からの「苦情」である。青テントの解消(いわゆる「適正化」)を求める市民が非常に多いのも事実であり、撤去を求める行政への「苦情」への対応など、施設で働く組合員にとっては大変な負担となっている。他方、人の生命に関わることから、福祉的援護施策の不十分さについての「苦情」や施策の充実に対する行政要求も福祉現場を中心に多く寄せられる。他にも、施設建設にともなう地元住民の反対運動(施設コンフリクト)の問題や、一つの自治体の施策では限界があること(予算の関係と実効性、就労施策など国・府との役割の課題、流入問題を自治体としてどう捉えるかなど)などもあげられる。
 労働組合としては、強制撤去など排除の論理に立つことなく人道的立場に立ちつつ、野宿生活者の自立につながる総合的かつ効果的な施策の推進を求めてきているところであり、今後も実効ある施策の充実を求めて取り組んで行く決意であるが、この間の取り組みと今後の課題について報告を行う。

2. 大阪市の野宿生活者対策の状況

 大阪市は、法制定以前から「大阪市野宿生活者対策推進本部」(市長を本部長とする全庁体制)のもとで、野宿生活者の自立支援に向けた施策が取り組まれているが、必ずしも総合的・抜本的な施策が展開されているとは言いがたい状況にあった。《市の対策の概要は別紙のとおり》
 その原因としては、さまざまあげられると思うが、大阪市の行政面での問題から見れば、事業推進にあたって局間連携が必ずしも十分でないことがあげられる。このことは、「市民の健康と福祉対策協議会」や「野宿生活者対策についての申し入れ」などでも、再三市側に指摘してきたところである。
 今後、施策推進に関わって各局連携を十分に図れるかが、大阪市の野宿生活者対策の課題とも言える。

3. 大阪市の実施計画について

 大阪市は、2004年3月「野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画」を策定した。この実施計画は、国の基本方針に即して策定されているが、野宿生活者の深刻な実態を鑑みれば、法律の施行から約1年半が経過していることや、大阪市の地域性をより反映した主体性・独自性を持った計画策定や、施策・事業についての目標値の設定が望まれていたところであるが、自立支援は就労支援がまず基本であり、国、大阪府との連携した施策・事業展開が必要となることなどから、こうした策定とならざるを得なかったと言える。
 実施計画は、5年計画で現行施策の充実を基本としている。野宿生活者問題の要因や背景は複雑なだけに大胆な政策提起が必要であったと言えるが、前記したように国の基本方針に則すかたちとなっている。
 実施計画の大きな特徴点は、自立支援センターを、「野宿生活者の自立を総合的に支援するための中核施設」と位置づけたことである。巡回相談における相談機能や自立支援センターでのアセスメント機能を充実し、一人ひとりの自立支援のプログラムを設定し、法律問題や職業支援・職業訓練など就労支援につなげるとともに、福祉的援護が必要な人については、その機関と連携し対応すること、また、自立支援センターを退所後に失業した場合に再就職活動の支援などアフターケアを行うことなどが掲げられている。これは、うまく機能すればかなりの有効性を発揮すると思われるが、自立支援センターの増設をはじめとした機能と権限の強化、そして自立支援センターの体制充実がまず大前提になると言える。自立支援センターの新設は、施設コンフリクトの課題など抱えており簡単には進まない現状がある。
 もう一つの特徴点は、就業機会の確保に向け、国、大阪府、経済団体、労働団体等と支援協議会を設置し、事業主への啓発、NPOなどと連携した職種の確保・求人の確保、職業訓練を行うことを掲げたことである。行政、経済界、労働団体が連携して就業対策に取り組んでいくことについては、高く評価できるものである。ただ、この支援協議会が有効に機能することが課題といえ、労働団体(参画が想定される連合大阪)の役割が極めて重要と言える。また、大阪市職・従で求めていた「公的就労」の課題については盛り込まれず、この支援協議会を通じた課題とされた。
 住居の施策については、東京都が積極的な方策を打ち出しているのに対し、計画に掲げられた内容は、現状からすれば不十分と言わざるを得ない。とくに、公営住宅の活用方策が今後の課題と言える。
 福祉的援護とくに生活保護法との関係は、現行施策が基本とされているところであるが、自立支援センターのアセスメント機能との連携の方策や生活保護の適用のあり方、とりわけ福祉事務所の体制充実が課題と言える。
 公共施設の施設管理については、「当該施設の適正利用を確保するため、必要と認める場合には、法令の規定に基づき、監督処分等の措置をとる」とされているところであり、これまでの経過を踏えつつ、人道的立場に立った対応を行うことが基本であるとともに、巡回相談からの自立支援センターや福祉関係機関との連携強化を図ることが重要と言える。
 いずれにしても、実施計画に基づく施策・事業の展開は、計画が「絵に描いた餅」とならないよう充実を引き続き求めていくとともに、5年後には計画の見直しも想定されているところであり、NPOなど関係団体や有識者をはじめとした施策等の検証を行うことが重要と言える。

4. 大阪市職のこれまでの取り組み

 大阪市職は、深刻化する野宿生活者問題が、福祉関連職場のみならず、保健施策、さらには公園・道路・河川など施設職場の組合員の業務に関わりを持つことから、野宿生活者対策について、関係支部・組合員の懸命な取り組みを受け、さまざまな取り組みを行ってきた。ここでは、概要的に報告する。

(1) 「野宿生活者対策プロジェクト」の設置
   野宿生活者対策の施策について、組合自らが政策提言していくために関係支部組合員も参画した「野宿生活者対策プロジェクト」を2000年12月に設置し、8回のプロジェクト開催、施設見学行いながら、2001年5月「大阪市職野宿生活者対策プロジェクト提言」(22の提言項目)をまとめた。また、提言内容を組合員内で共有化するため「大阪市職野宿生活者問題講演集会」を開催してきた。
 そして、提言を参考に、2001年12月、大阪市従との共同で市側に対し、①基本的な各施策に関わって9点、②現行事業における事業改善に関わって6点、③国への要望に関わって3点からなる「野宿生活者対策に関する申し入れ」を行った。

(2) 「連合大阪あいりん問題プロジェクト」、NPOに結集した取り組み
   連合大阪では、野宿生活者問題の解決に向け、このプロジェクトにおいて有識者やNPOの参画も得ながら取り組んできている。大阪市職としても積極的に参画しながら、このプロジェクトに参画しているNPOからの要請についても積極的に取り組みを進めている。主な取り組みの概要は次のとおり。
  ① 野宿生活者概数調査や聞き取り調査への参加(2001年1月約100人参加)
  ② 支援法の早期成立を求めた国会議員要請行動への参加(2001年6月)
  ③ 支援法の早期成立をめざす決起集会(当事者団体と連合大阪の共同開催)への参加(2001年6月約50人参加)
  ④ 支援法の早期成立を求める組合員署名(10,951名)
  ⑤ 靴の修理講習会(就労支援事業)にあたって、教材となる古い靴収集の取り組み(2002年1月146足の提供)
  ⑥ 連合大阪や近畿弁護士会連合会主催のシンポジウムへの参加
  ⑦ 連合大阪「野宿生活予防119番相談」への参加〈2003年2月9人参加〉
  ⑧ 野宿生活者の自立への支援カンパ〈2003年8月約144万円〉
  ⑨ 国の基本方針策の策定に対するパブリック・コメント〈2003年7月〉
  ⑩ 国のホームレス対策予算確保を求める請願署名〈2004年7月〉

(3) 実施計画策定など市側に対する取り組み
   大阪市職は、組織内で行ってきた政策検討を踏まえつつ、野宿生活者対策の総合的・抜本的な施策の実施・充実を求め、大阪市従と共同で対市対応を強めてきた。主な取り組みの概要は次のとおり。
  ① 野宿生活者対策に関する申し入れ〈対市交渉〉(2001年12月)
  ② 「市民の健康と福祉対策協議会」(労使協議会:毎年度12月と3月開催)での市側の取り組みについて協議し、施策充実を要請してきた。
  ③ 「野宿生活者の自立の支援等に関する実施計画策定検討委員会」の設置(2003年10月)……計画策定に当たって労使での意見交換・協議を行う場として、市側からの協力要請に基づき設置し、計画内容の具体項目についての検討・協議を行ってきた。
  ④ 実施計画の策定に関わる申し入れ〈対市交渉〉《2004年2月》……計画全体に関わって3点、個別施策に関わって9点について申し入れを行った。
  ⑤ 実施計画の策定に関わる申し入れに対する市側回答〈対市交渉〉《2004年3月》……申し入れ内容についての市側からの個別回答を得て、今後の施策充実に向け取り組む市側決意を引き出し、実施計画の策定について労使での確認を行う。

5. おわりに

 野宿生活者問題は、現代の経済社会が生み出す問題であり、決して「自己責任」論に帰すべきではないと考える。しかし、野宿生活者に対しては、市民からの偏見や差別的な視線、就労にあたっても野宿生活者の受け入れについて企業・社会の閉塞性など、野宿生活者は社会的に援護を必要とする対象者でないかのような極めて厳しい実態がある。
 現場で対応する自治体労働者も、事業実施あるいは日常業務の中で、規則や条例といった側面と、人道的な立場から野宿生活者の生活権を確保しなければならない必要性の狭間に立たされながら、対応に苦慮しているのが実情である。
 野宿生活者問題については、人権問題も内包した「社会的な貧困問題」として捉える必要があり、「野宿生活からの脱却―社会再参入」のための方策確立が求められている。その視点から、予防的施策も含めた中・長期的な施策・事業を検討し、実施していくことが重要であると言える。
 小泉内閣が進める「構造改革」は、国民に痛みのみを強いる内容であるとともに、市場原理や競争原理が最優先されており、今後、野宿生活者が急増することも十分に想定されるとともに、一方、少子・高齢社会の本格化や社会保障関係費の削減など厳しい状況もあり、野宿生活者問題について社会全体でひとり一人が考えていくことが重要と言える。
 大阪市職は、今後とも、市に対する取り組みを強めていくとともに、広く野宿生活者問題への市民理解を図るために連合大阪やNPOとの連携を強めつつ運動的な視点からの取り組みを進めていきたい。

主な野宿生活者(ホームレス)対策の概要

野宿生活者巡回相談事業の概要

自立支援センター事業実施状況

公園適正化対策について

これまでの都市再生等に関する経過