【要請レポート】
「都市再生」事業の課題について
大阪府本部/大阪市職員労働組合
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1. はじめに
「都市再生」は、2001年5月、国の「都市再生本部」が設置され、「都市再生」が「緊急経済対策」における経済構造改革のための重要課題の一つとして掲げられ、東京圏、大阪圏など大都市圏を、「豊かで快適な、かつ経済力に満ち溢れた都市にすること」を第一のメインテーマとされ、以降、2002年4月には「都市再生特別措置法」が公布、同7月には政令が施行され、大阪では、①大阪駅周辺・中之島・御堂筋周辺地域、②難波・湊町地域、③阿倍野地域、④大阪コスモスクエア駅周辺地域、の4地域が指定された。
その後、2002年7月には、地域における規制改革を進めることを目的に、国の「構造改革特区本部」が発足するなど、構造改革を各地域で進める取り組みもスタートした。
さらに、2003年10月には、地域の経済活性化と雇用の創出を目的に、国の「地域再生本部」が設置されるなど、地域再生に向けても取り組みがスタートしている。
そのような中で、大阪市の「都市再生」の取り組みについて報告を行うとともに、大阪市職の課題認識についても触れていきたい。
2. 大阪経済を取り巻く状況
「都市再生」が始まった当時の大阪経済はまさしく「どん底の状態」であった。2001年4月の近畿(2府4県)の完全失業率は6.6%であり、全国水準(4.8%)を大きく上回るとともに、近畿の倒産件数も、2001年4月で月数300件を19ヶ月連続で突破し、前年同月比でも9.2%増と、全国(0.8%)を大きく上回る事態となっていた。
関西経済の停滞の要因は、①中小企業の比重が高いこと、②鉄鋼、繊維、家電などが関西経済を牽引していたが、海外での生産シフトの進行による地域の空洞化の加速、③本社機能の東京移転いわゆる「東京シフト」の加速、④消費不況による卸・小売業の販売減少などがあげられる。また、金融再編による店舗の統廃合などによってオフィス需要は落ち込み、大阪のメインストリートであり、商都大阪を代表するビジネス街である御堂筋の空きビルや空き部屋が多く見られた。
したがって、大阪における都市再生の取り組みは、こうした状況からの関西経済の復権を賭けた取り組みとして重要視されており、経済団体についても、大阪経済の活性化の起爆剤として、民間投資を誘発するような都市再生の取り組みを求めている。
3. 大阪市の都市再生の取り組み
大阪市の「都市再生」の取り組みは、国の「都市再生本部」の設置以降、都市計画担当部門を中心に検討が進められるとともに、2002年5月には、大阪府、大阪市、関西経済連合会、大阪商工会議所の国への共同提案が行われた。
2002年7月には「大阪市都市再生本部」が設置され、「大阪経済の活性化を通して都市再生を図ることを目的に、『都市再生緊急整備地域』と『構造改革特区』の活用による規制緩和の相乗効果をめざすとともに、大阪市のイメージアップの向上につながるPR、分野別に取り組むプロモーションを展開していく」ため、市長を本部長として、関係する7局で構成する都市再生本部が設置され、「都市再生」の取り組みを進めることとなった。
また、同月には、国において、大阪市内では4地域が「都市再生緊急整備地域」に指定され、都市計画の特例と金融支援が認められることとなった。
とくに、大阪市は「都市再生緊急整備地域」と「構造改革特区」の相乗効果をめざすため、「新産業創造特区」として体系化し、都市再生本部で取り組まれることとなった。また、地域再生の取り組みについても、都市再生本部で検討されることとなった。
「構造改革特区」に関わっては、2002年8月に、19の規制緩和項目の国への提案が行われたのをはじめ、規制緩和項目の追加提案が行われている。
2003年2月には、「大阪経済の活性化を通して都市再生を図ることを目的に、効果的な施策・事業と市自らの規制緩和の集中的な実施に加え、民間の都市開発プロジェクトを促進する『都市再生緊急整備地域』と『構造改革特区』での規制緩和の活用などによる相乗効果をめざし」、2003年からの3年間で取り組む主な施策・事業と規制緩和を示すとともに、プロモーション強化策を示した「大阪市都市再生プログラム」を策定した。
「大阪市都市再生プログラム」の内容としては、「知的ビジネス創造機能の強化」、「にぎわい・文化集客機能の向上」、「魅力あふれるまちづくりの推進」といった3つの重点プログラムを定めた。
「知的ビジネス創造機能の強化」では、ロボットテクノロジー、健康・予防医療、ITの3分野を重点分野と位置付け、産学官連携による産業の振興、大学・研究機関の立地促進、インキュベーション機能の充実をあげている。
「にぎわい・文化集客機能の強化」では、御堂筋のにぎわい創出、水の都大阪の再生、芸術・文化による魅力の創出、集客拠点のネットワーク化、都心居住の促進を柱とし、集客力の向上と交流活動による都市の活性化を促す各種施策をあげている。
「魅力あふれるまちづくりを推進」では、大阪駅北地区、中之島西部地区、咲洲コスモスクエア地区など都市再生緊急整備地域内の5つの重要拠点における地域の特色を活かした都市開発を官民が協働して集中実施していくことをあげている。
また、「規制緩和の活用と推進」では、「市自らの規制緩和の推進と国の規制緩和の活用を図る」としている。
「大阪市都市再生プログラム」策定後の取り組みとしては、「構造改革特区」の取り組みとして、大阪臨海部を対象とした「国際交易特区」の取り組みと、株式会社の学校運営参入や留学生の在留資格の付与することを柱とした「ビジネス人材育成特区」が認定されるとともに、「都市再生プロジェクト」として「大阪圏における生活支援ロボット産業拠点の形成」が決定している。
また、「都市再生重点産業立地促進助成制度」や「咲洲コスモスクエア地区立地促進助成制度」がスタートするとともに、プロモーション事業をはじめ個々の事業が展開されている。
4. 大阪市職の認識と取り組み
大阪市職は、大阪市従と共同で、2003年3月17日、「大阪市都市再生プログラム」の策定に関わって対市協議を行い、「都市再生」の取り組みと規制改革に関わって組合としての認識を示し、市側の考え方を質してきた。
その内容は、概ね次のとおりである。
(1) 「都市再生」の取り組みに対して
① 長引く経済不況や雇用不安の中で、最大の目的である経済の活性化に向けた緊急の取り組みが求められていることは、労働組合としても十分に認識しており、市としての主体的な取り組みを求める。ただし、「都市再生」の取り組みは、ともすれば民間大規模開発による「バブル」の再来につながりかねないと危惧するところである。福祉や環境など市民生活が改善されたと実感できる市民生活重視の観点から取り組むためにも、市民意見を十分反映した取り組みが求められている。
② 大阪市の特性は商業・中小企業のまちであることを念頭に「都市再生」は進められ瑠べきである。現在、大阪市は他都市と比較しても、廃業率が高く、開業率が低下している状況にあり、たとえ景気が回復しても大阪市経済が安易に再生される状況ではない。よって創業の場としての都市の魅力が回復できるよう、民間大規模開発のみではなく、地域のまちづくりと連携した取り組みとして新産業の創出・育成が重要といえる。
「都市再生」の取り組みにあたっては、新たな成長の担い手となる企業が生まれてくることを地域レベルで資源として掘り起こすとともに、新たな成長の担い手となる企業が生まれてくることを地域レベルで資源として掘り起こすことが大切である。
③ 「都市再生」の取り組みは、都市の「将来像」とも関わるだけに、新たな総合計画の策定(2005年度策定予定)や重点事業計画(現行のマスタープランの重点計画)との整合性を図るとともに、長期的に安定したまちづくりとして取り組むことが重要である。
(2) 「構造改革特区」など規制緩和について
① 「都市再生」と「構造改革特区」による規制緩和を、「新産業創造特区」構想として「大阪市都市再生本部」で取り組むとされているが、規制緩和については、「都市再生」と同様に、低迷する大阪の経済状況を打開するための積極的な新産業育成、経済活性化は必要であると認識するところではあるが、公的役割を明確にしないまま取り組めば公共サービス部門への安易な民間参入につながりかねない。
規制緩和については、「緩和ありき」ではなく、まず市民生活におけるその役割と必要性を十分に精査を行うとともに、行政責任の明確化と公共サービスの質と水準確保、また、必要な社会的規制の確立の観点からの検討が必要である。
② 国においては、構造改革特別区域法が成立し、各自治体が自ら設定を行い必要な対応が求められるなか、とくに「公設民営方式やPFI方式」という手法を用い公共施設が集中的に規制緩和の対象となっているなど民間活力の導入ありきでの検討がされている。自治体が検討する際には、民間事業所で働く労働者の労働条件の低位水準化が参入の根拠とならないよう「公共サービスの質と水準」に与える影響評価の設定が必要であり、そのための地域の市民・企業・労働組合などによる合意形成が必要不可欠である。
(3) 総じて
「大阪市都市再生プログラム」の策定にあたって十分に労使協議が尽くされていない点を含め、今後、具体化にあたって十分な労使協議を強く求める。
5. 「都市再生」の取り組みの課題と問題点について
(1) 市民参画や市民理解が図られているか
「都市再生」の取り組みについては、市民生活を重視した観点からの取り組みを求めたところではあるが、関西再生の鍵を握る最重要プロジェクトとして「大阪駅北地区(貨物駅等)の再開発」がある。JR大阪駅の北側(梅田北ヤード)は場所的にも「一等地」であることから、経済界からも多くの期待がかかっており、「当地区の道路や広場などの都市基盤施設や民間による開発など、公民協働して当地区の一体的なまちづくりを進める」ための「大阪駅北地区全体構想」が2003年10月1日取りまとめられている。また、開発の早期事業化を図り、効果的にまちづくり2004年3月に産学官一体となった「大阪駅北地区まちづくり推進協議会」(会長・大阪市長)が設立されている。大阪市は、民間主導を基本とし、協議・調整を担うこととしている。
さらに、この全体構想を基本とし、民間の土地利用ニーズ・創意工夫を取り入れた公民一体となった質の高い都市基盤整備やまちづくりのガイドラインとなる「基本計画」が、7月30日開催された協議会で決定された。
先行開発区域(約7ha)は、交流や憩いの場とする「駅前広場ゾーン」、商業施設などの「ふれあいゾーン」、次世代ロボット研究開発拠点などの「ナレッジ・キャピタルゾーン」、都市型住宅や高級ホテルなどの「よそおいのゾーン」などとし、2005年度中の着工、2011年春の街開きを目指している。残る西側区域(約17ha)の整備は、先行開発区域から5年程度遅れる見通しとなっている。
今後、計画の具体化については、先行開発区域を都市計画決定し、来春から道路などの整備をはじめる予定となっている。また、梅田北ヤードの土地の一括取得については断念し、一体開発が進むよう街づくりの実行組織として、経済界・大阪市などで構成する「まちづくり推進機構」(仮称)を設立し取り組むこととなっている。
梅田北ヤードは、大阪の中心街ということもあり近隣に居住する市民は少ないが、大阪経済をはじめ大阪の重要拠点となり、人の交流のための駅前広場などもつくる予定となっているだけに、計画の具体化にあたって市民の意見の聴取・反映や参画をどのように図るのかが課題といえる。
(2) 市民生活重視の観点からの取り組みを
梅田北ヤードのように集客やにぎわいに観点をおいた経済活性化の取り組みを否定するものではないが、市民生活にかかる取り組みを進める必要性を感じている。例えば、都市環境の改善に向けたヒートアイランド対策の推進や自動車公害対策、水環境保全などの取り組みや、子育てと仕事の両立支援につながる保育施策の充実、交通バリアフリーの推進など、市民の生活環境の改善につながる「都市再生」の取り組みが有効であると考える。
(3) 経済団体等の取り組みについて
「都市再生」自体の取り組みではないものの、関西の経済6団体は、国の地域再生推進室に地域再生、特区の取り組みとして「関西州(産業再生)特区構想」を提案した。今後、国において認定されるかどうかは定かではないが、内容としては、12の具体的事業構想を示し、「水資源の保全活用のための水系の一体的管理」や「大阪湾港湾の一元的経営事業の推進」などが掲げられている。
こうした提案が認定されれば、行政としての対応が問われ、労働組合として大変な課題を抱えることとなる。民間からの提案(とりわけ重要な行政対応が求められる場合)についての労働組合としてどのように対処するのかが課題といえる。
(4) 規制緩和に対する取り組み
規制緩和に対する取り組みについては、市側に申し入れた際にもふれたところであるが、「緩和ありき」ではなく、まず市民生活におけるその役割と必要性を十分に精査を行うとともに、行政責任の明確化と公共サービスの質と水準確保、必要な社会的規制の確立の観点からの検討を求めつつ、個別課題に対して十分な労使協議が必要と言える。
6. まとめ
大阪市は、2002年秋に当時の磯村市長が、「大阪市の財政状況について、非常事態とも言うべき状況」と表明するなど、厳しい状況が続いている。
一方で、少子・高齢社会の本格化や人口減少時代の到来のなかで、地方分権時代に対応した施策展開が求められている。
現大阪市長の選挙公約でも「都市再生など経済の一層の活性化を図り、5万人の雇用創出をめざす」を7つの重点施策に掲げられているところであり、「都市再生」は厳しい財政状況の中でも重点的に取り組まれることとなるだけに、市民にとって理解が得られる取り組みが何より求められているのではないか。
これまでの都市再生等に関する経過
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