【自主レポート】

自然環境に恵まれた一次産業の町の農業戦略

北海道本部/浜中町役場職員組合・副委員長 吉家 裕明

1. 浜中町の紹介

 浜中町は、北海道東部の釧路支庁管内東部に位置し、東は根室市、北は別海町、西は厚岸町に接し、東南は太平洋に面し、霧多布半島を形成して厚岸道立自然公園の一角にあり、総面積は428kmで約67kmに及ぶ海岸線は、奇岩・絶壁を有し、ケンボッキ島をはじめとする大小の島々そして、内陸部の台地状平原、湿原など変化に富んだ地形となっています。
 基幹産業は、農業と漁業の2大産業及び天然記念物である霧多布湿原を主とする観光となっています。農業は、北海道屈指の大規模草地型酪農で、生産した牛乳の一部は、乳脂肪分が4.0%の製品で販売するほか、超高級アイスクリーム「ハーゲンダッツ」の原料にもなっており、その品質は高い評価を受けています。
 また、漁業は、豊かな海から生産した昆布が、生産量日本一を誇っているほか沿岸海域での魚貝類とサケ・マス漁などを中心とした沖合漁業が行われています。
 観光は、太平洋を望む雄大な海岸線と国内で3番目に大きな霧多布湿原が、「霧多布湿原泥炭形成植物群落」として天然記念物に指定を受けているほか厚岸道立自然公園の一部になっており、加えて内陸の丘陵地に広がる大草原が北欧を想像させる雄大な景観を築いています。

展望台から霧多布湿原を望む
この風景を観に40万人が訪れます


2. 住民やNPOとの環境保全の取り組み

 素晴らしい自然環境の中での産業振興のために第4期総合計画のテーマを「輝ける恵みの大地と海 はまなか ― 未来につなごう豊な環境 ― 」と定め環境重視型社会の構築に取り組み、その出発点としてISO14001を平成13年に取得しました。その基本方針のなかで霧多布湿原・地域環境の保全、省エネルギー・省資源の推進、リサイクルの推進、環境に配慮した公共事業の推進などを明記し町政運営の基本的な仕組みとしています。
 あわせて、土地改良法の改正に伴う環境保全を考慮した「田園環境マスタープラン」、肥培かんがいや家畜ふん尿対策のための「国営環境保全型かんがい排水事業」、中山間直接支払制度による「緑の回廊(ビオトープ)」などの事業を実施していますが、それぞれの取り組みの中で環境保全対策を実施することから、事業担当だけに留まらず環境政策や自然保護の担当及び地域住民、酪農家、NPO(霧多布湿原トラスト:環境保全団体)を含めた農村環境保全整備会議を平成14年度に設立し一体となった保全・整備を行っています。
 なお、この会議の設立により農業基盤整備事業を農業と直接関りを持たない町組織や町民の率直な話しを聞くことができるようになり、より地域の実情を踏まえた農村整備事業が実施可能となりました。

7月の霧多布湿原を代表するエゾカンゾウとワタスゲ


3. 医は食にあり、食は農にあり、農は自然にある。

 体の管理は食生活に基本があり、食生活の中心には農畜産品があります。野菜や乳牛などが食べる飼料作物の生産には気温や日照時間ばかりでなく自然環境が大きな影響を持っています。また、近年BSEや食品の表示偽装問題が多く発生して消費者の食に対する欲求が「美味・高品質」は当然で「安全(科学的根拠)・安心(漠然とした気持ち)」へと移行しています。
 このことを考えると農業者や関係機関は単に食品を生産することだけでなく消費者の動向を踏まえ消費者欲求に応えた「安全・安心」な食品を作っていく努力が必要です。加えて、農業・酪農が持続可能な産業として成り立つためには自然環境との共存が重要であり営農活動や基盤整備もこれまで以上に自然に配慮しなければなりません。

4. 浜中町の農業戦略 「美味しい牛乳はあたりまえ……」

 農用地面積は約1万5千ヘクタールで全てが牧草地です。この草地に対して平成12年度から始まった環境や国土保全を目的とした補助事業である中山間直接支払制度により交付金を受けることになりました。
 そのため、農家の皆さんと何度となく交付金の扱いについて話し合いを持ちました。結論は、畑や施設などの基盤整備事業は今後も期待できるが環境整備や環境保全に対するものは非常に難しいであろうという認識と品質アップの努力で全道的にもトップクラスだが、品質だけでは何時か他の町村に追いつかれる可能性がある。これから浜中牛乳を売る戦略として「品質」だけでなく、環境を整備し「安全・安心」な牛乳を消費者に提供することが重要との認識でした。この共通認識をふまえて牛乳生産現場の環境整備(不要農機具・廃屋撤去、植林など)に積極的に取り組みました。

国道脇の景観整備にヒマワリを地域で植栽


5. 緑の回廊(ビオトープ)の整備

 このような中、農村地域には多くの動植物が生息できる素晴らしい環境が必要と地域でビオトープに取り組んでいたグループや天然記念物の霧多布湿原保全活動に取り組んでいた研究者・NPOから興味深い提言がなされました。
 それは、「草地として使うことが出来ない農地(主に湿地)に植樹を積極的に行い農村部を林で繋ぐと小動物はそこを移動できるようになり、昔のようにウサギが多く見られるようになるだろうし、牧草地から小河川に流入していた土砂も林帯で押さえることができ、うまく行くとホタルも帰ってくるかも知れない。」と言う計画です。
 この計画を成功させるため、町内全域のデジタル航空写真に牧草地及び森林状況、更に植生・動物の生息状況などを図示し現状を把握する仕事をすすめています。それにより、植林する場所や簡易な展望台や散策道路を作る場所などの保全整備計画を専門家と協議し、並行して植林作業を実施しています。
 また、国道脇にヒマワリや桜の苗木を植えて景観整備を行う取り組みも始まっており環境保全と景観整備の二面から酪農地域の環境を良くして行こうとする活動の高まりがあります。これらの成果は将来的には農村観光事業(グリーンツーリズム)に繋がる素晴らしい財産になるのではないかと考えています。
 多くの都市生活者が農村地域に足を踏み入れ、農村環境と酪農に対する正しい認識を持ってもらえば、何処にも負けない「浜中ブランド」になると確信しています。

綺麗に手入れされた農家の庭先