【自主レポート】

地域再生まちづくり
─ 森林景観と森林施業について ─

群馬県本部/群馬県職労・森林景観研究会 小島  正

1. はじめに

 森林景観は、立地環境から大きな影響を受けています。そして、人や動物により造られる部分があります。しかし、森林景観の変化がゆるやかであるため、森林施業(植林、伐採、間伐等)が、森林景観にどのような影響を与えるのかは、興味の対象になることが少ない状況です。
 近年、森林施業により森林景観を保全する動きが見られるようになりました。自然公園では、人為により造られた二次草原等の風景地を保護するため、自然公園法の一部が改正(平成15年4月1日施行)されました。群馬県においても、赤城山や榛名山において、森林景観を意識した森林施業(写真-1、2)が見られるようになりました。
 優れた景観を維持するためには、自然に対して適切な行為を継続的に加えていく仕組みを構築する必要があります。そのためには、行政、研究機関、地元住民が一体となり、景観形成に取り組む必要があると思います。今回、赤城山での事例調査を通して、優れた森林景観を維持するため、どんな課題があるのかを考察しました。
写真-1 森林施業(除伐作業)状況
写真-2 地元の人達が行っている灌木の除去

2. シラカバ林を維持するために

 ここでは、除伐作業とシラカバ林の景観維持について考察します。シラカバ林は、図-1に示すように森林遷移途上で現れる樹種です。つまり、放置するとミズナラ等が多い森林に遷移してしまいます。赤城山の大沼周辺について、古い地図(昭和27年発行)を見ると樹木の少ない状態でした。その原因は、放牧や薪炭材として木材を利用したことによるものです。それが、遷移により美しいシラカバ林を形成しました。現在、シラカバ林の遷移を止めるため、写真-1に示すような除伐作業が行われていますが、樹皮の美しいシラカバは減少傾向にあります。美しいシラカバ林の景観(写真-3)を取り戻すには、除伐することではなく、ある程度の広さで更新(代替わりさせること)することが必要と思われました。
図-1 アラスカにおける山火事後の森林遷移
(Cleve and Vierect,1981)

写真-3 1967年当時の写真
(グラフぐんま1967/5/15発行から)

3. レンゲツツジを維持するために

 群馬県の花はレンゲツツジであり、赤城山、榛名山、湯ノ丸などの群生地があります。レンゲツツジは、全木が有毒であり牛や馬が食べないため大群落になるといわれています。
 湯ノ丸レンゲツツジ群落では、一部の区域で牛の放牧が中止され、草原から樹林帯へと遷移し、林内が暗い状態になり、レンゲツツジが衰退することが報告されています。しかし、他の地域での調査事例が少ないので、赤城山でレンゲツツジの光環境と開花状況について調査しました。
写真-4 林縁部での開花状況 写真-5 写真-4の全天写真

 写真-4に示すように、日当たりの良い場所のレンゲツツジは全面で開花しており、その全天写真(180度の広角レンズで撮影した写真)では、空が約60%を占めています。(写真-5)。一方、全天写真(写真-7)で、空が少ししか見えない林内では、全面に開花しているレンゲツツジは少なく、葉が目立つ(写真-6)個体が多い状況でした。赤城山においても、湯ノ丸と同様な傾向が確認されました。
写真-6 林内での開花状況

写真-7 写真-6の全天写真

4. 森林景観を維持するための仕組みについて

(1) 群馬県(行政)の役割
   群馬県は、赤城山の大沼周辺で、「①林内が暗いと森林内で散策する人が少なくなる傾向があるので明るくする。(灌木を除伐する。)②ツツジ類に光を当て、樹勢を回復させる。」の2点を主な目的として森林管理しているとのことでした。
   しかし、森林内を明るくすることだけが、利用者の要望でしょうか。利用者は、林内全体を明るくすることよりも、歩道の整備や眺望場所からの眺めを遮る樹木の整備を望んでいることも考えられます。このようなことから、行政においては、利用者の要望を適切に把握することが、必要と思われました。また、森林管理には長期的な視点が重要ですので、利害関係者との合意形成に基づく長期ビジョンの作成が必要です。

(2) 地域住民の活動について
写真-8 レンゲツツジがズミ等の樹木と絡み合った状況
   写真-2に示すように、地元の人たちは、レンゲツツジが咲くように、灌木を伐採し、草原から樹林帯への遷移を止めています。しかし、灌木の除去だけでは、美しいレンゲツツジを維持できない可能性があります。写真-8に示すように、レンゲツツジが他の樹木と絡み合い、上手く下刈りできない場所がありました。また、下刈り箇所では、放牧されている箇所と比べ、レンゲツツジの花の数が少ない箇所がありました。

(3) 専門機関との連携、事業評価等について
   群馬県自然環境課では、シラカバ林やレンゲツツジ群落でのモニタリング調査や森林施業の評価は行っていないとのことでした。しかし、美しい森林景観を維持のための森林管理技術は十分に普及していません。そのため、専門家によるモニタリング調査と、事業評価が必要と思われました。事業評価することにより、現場に合致した森林管理を行うことができます。シラカバ林をモニタリング調査することにより、更新時期の把握や、レンゲツツジの開花に必要な諸条件が解明され、適切な森林管理ができると思われます。

5. まとめ

 今回の調査で、シラカバ林等の森林景観を維持するために、森林施業が実施されたことが評価できます。写真-1に示した除伐作業は公共事業であり、森林景観維持のために、税金が使われたことに大きな意味があったと思われました。しかし、その管理技術は確立されていないため、専門家等との連携を望みたい。また、継続して事業が行われることを期待したい。
 近年、町並み・食文化等において住む人、訪れる人が共に魅力的に感じることの重要性が再認識されるようになってきたと思われます。森林景観づくりは、地域の魅力を再発見することであり、地域づくりにつながると思われます。景観は地域の文化を映し出す鏡ですので、行政においては、効率性と共に地域の歴史を反映した事業計画が求められているように感じました。


<参考・引用文献>
 竹内ら(1995)赤城山ミズナラ・カンバ林の構造と遷移 47回日林関東支論:47-50
 群馬県自然環境課(2000)群馬の自然:73