【自主レポート】
湯の国ぐんま復活大作戦
~上州温泉ブランドの確立を目指して~
群馬県本部/群馬県職労 高橋 政夫
|
1. 湯の国ぐんまの厳しい現状
(1) 湯の国ぐんまは風前の灯火~失われた10年プラス2年~ 資料1
本県は草津、伊香保、水上、四万等全国的に知られている温泉地があり、全国有数の「湯の国」として評価されてきました。しかしながら、温泉宿泊者数はピークである平成3年度の830万人から平成14年度には630万人に減少しました。
全国順位も昭和時代は静岡、北海道に次ぐ第3位であったが、平成に入り、長野、栃木に越され、平成12年度には大分にも越されて6位となっています。バブル崩壊後も全国レベルでの温泉宿泊利用者は決して減少しておらず、1億3,500万人~1億4,000万人程度で推移しており、一過性のブームでなく、広く国民に定着し利用されています。大きく減少した県は、群馬、静岡、栃木で、逆に北海道、長野では増加しています。まさに「湯の国ぐんまは風前の灯火」といえる危機的な状態になっています。
(2) 温泉利用者が減少した理由~団体一泊宴会型に過剰適応~ 資料2
バブル崩壊後、大きく減少した温泉地は、熱海・伊東(静岡)、鬼怒川(栃木)、伊香保・水上などで、いずれも首都圏周辺で団体客中心の一泊宴会型の温泉地です。草津や箱根(神奈川)のように特徴のある温泉地はあまり減少せず、個性が豊かで魅力ある温泉地は増加しています。バブル崩壊後での温泉利用者の「温泉志向の変化」に対応することが出来なかった温泉地が減少しました。温泉志向の変化とは、次のようなことです。
① 団体客(男性中心)から個人・グループ客(家族、女性グループ中心)へ
② 仮寝の宿(宴会が目的で温泉は付け足し)から目的の宿へ(温泉そのものが目的で、旅館だけでなく、温泉街の情緒や周辺の環境、文化施設も重視)
③ 歓楽志向から健康志向・環境志向へ
等です。
また、旅館が客の囲い込みを行った結果、温泉街が寂れてしまったこともあります。
2. 国民はどのような「温泉・温泉地」を求めているのか
(1) 温泉・温泉地を多面的に捉えると~温泉本来の楽しみ方~
温泉志向の変化に対応できなかった温泉地は、温泉の持つ価値を観光資源としか評価することができず、バブル期にはハード中心に整備を行い、結果的に温泉を粗末に扱ってきました。温泉には、「観光資源」だけでなく「環境資源」「健康資源」の面があります。また温泉地には「自然」「歴史」「文化」「人情」もあります。これらを多面的に捉えることにより温泉・温泉地において、「温泉そのもの」「宿のもてなし」「そぞろ歩き」「自然・文化・歴史」等、温泉・温泉地の持つ本来の楽しみが味わえます。
(2) ブランド温泉地に観える温泉志向の変化~あこがれと満足の温泉地~ 資料3
温泉ブランドとは温泉及び温泉地の品質保証のことであり、「温泉そのもの」「温泉地の環境」それと「宿の料理、もてなし」などが満足出来るということです。
それにより、①行ってみたい(あこがれ)、②行ってよかった(満足)、と思うことです。結果として、③友人を誘ってまた行きたい(リピーター)となります。
平成14年暮に日経新聞NIKKEIプラス1が発表した温泉地のブランド力では、①草津、②由布院、③黒川、④別府、⑤登別、⑥白骨、⑦乳頭、⑧有馬、⑨道後、⑩城崎の順となっています。県内では、草津、四万、法師、伊香保、万座の順です。
平成12年初頭にJTBが同様な調査を行いましたが、その内容を比較すると「今回は黒川、乳頭が上位にランクされたこと」です。これら各温泉地の特徴からから導き出されるキーワードは、「本物」「自然環境」「情緒」「健康」「心身のいやし」です。
(3) 今、国民が温泉地に期待していることは~温泉で心も身体もリフレッシュ~
閉塞状態の社会を反映して国民の心の中には不安やストレスが充満しています。今、一番求められているのは、疲れた国民の「心と身体の癒し」です。それは「心のふるさと」といわれるような温泉地で、「くつろぎのひとときを過ごす」ことです。
具体的には、次のような温泉地です。
① 温泉が豊かであること
② 温泉街に温泉情緒があり、そぞろ歩きが出来ること
③ 自然が豊かであること
④ 小綺麗でこざっぱりしており、かつ湯治場的な雰囲気があること
⑤ 文化・歴史・活動性があること(文化施設、散策、スポーツ、体験農園等)
3. 湯の国ぐんま復活への提案
(1) 湯の国ぐんま復活への基本的戦略~住んでよし、訪れてよしの温泉地づくり~
地域づくりの視点から見ると、一般住民と観光事業者では求めていることが基本的に違っています。住民は「安全・安心・快適」であり、観光事業者は「賑わい」だからです。温泉地づくりは地域づくりの一部であり、まず住民の望む「住んでよいまちづくり」を行い、その上で観光の視点を組み入れ「観光客が訪れたくなるようなまち、訪れた人が感動するようなまち」にします。なお、温泉地には温泉を始めとして、環境や景観など訪れたくなるような潜在的な要件は存在しています。
(2) 地域の魅力を探そう~連泊したくなる輝いている温泉地を目指して~
国民の温泉志向の変化は、温泉そのものや温泉地や周辺の環境なども評価されるようになりました。魅力があり輝いている温泉地を目指すには、その方法として連泊したくなるような温泉地になることす。現在のところ湯治や大学等の合宿を除いて多くはありませんが、今後増加します。そして、各温泉地が持てる地域資源を最大限に活かして、特色あるオンリーワンの温泉地を目指すことです。
また、どのような人々を主に誘客するかを明確にして、滞在環境としてのトータルな温泉地空間を向上させることです。連泊したくなる滞在可能な温泉地とは次のような所です。①温泉地らしい風景・情緒が残ること。②温泉以外にも魅力があること。③訪ねることが出来る観光地や体験型施設等がある。④豊かな自然に恵まれている。⑤健康への配慮がある。⑥長期滞在のためのシステムがある。⑦観光ボランティアや地域住民の温かな対応がある。これらは個々の旅館だけでは対応できませんから、温泉地全体が一体となって観光事業者、住民、行政が協力・分担・連携して対応する必要があります。
(3) 第2の黒川温泉を創ろう~かたちだけのまねではなく、理念を学ぼう~
今、黒川温泉(熊本)が注目されています。日経新聞・NIKKEIプラス1が平成14年に発表した日本百名湯では、由布院、草津を凌ぎ、温泉大賞に輝きました。
黒川の素晴らしいところは、1980年代に近くの由布院が発展していたとき、独自の理念をもって、積極的に広葉樹林を植え、温泉客本意の考えにより温泉地全部を一つの旅館の様にして露天風呂巡りが出来るようにしました。今、大分、熊本県境は注目地帯です。由布院、黒川に刺激された近隣の長湯(大分)、杖立(熊本)など、豊富な温泉と豊かな自然環境を有する温泉地が続々と独自の理念に基づき温泉地づくりを進めています。他にも、小野川(山形)は東北の黒川温泉を目指し活動しています。
県内においても、磨けばすばらしい温泉地になる潜在性を持った温泉地が数多くあります。例えば、湯宿(三国道の宿場、たくみの里)、鹿沢(自然環境)、沢渡(草津の直し湯、温泉病院)、花咲(グリーンツーリズム)などです。
磨きをかけ素晴らしい温泉地にするのは地元の人々のたゆまない努力となりますが、その魅力をどのように外部の人に知ってもらうかは、県の観光戦略能力が問われます
(4) 温泉を積極的に健康増進に役立てよう~新しい湯治のスタイルを創ろう~
温泉は昔から湯治として広く国民に活用されており、重要な健康資源です。温泉産業は本来健康サービス産業です。バブル崩壊前での団体客中心のドンチャン騒ぎ宴会は異常な状況であったといえます。今、温泉旅行をリードしているのは中高年の女性グループです。この年代の人々が一番関心を持っているのは、自分及び家族がいつまでも元気で健康であるということです。今後、超高齢社会の到来により、医療費や介護保険費の増大が危惧されていますが、国民健康保険中央会が平成13年3月に発表した「医療・介護保険制度下における温泉の役割や活用方策に関する研究」では、「温泉を上手に使うことにより高齢者医療費が減少」しています。県も県民の健康増進を図る「湯の国ぐんまグレードアップ事業」を実施しています。また、最も長寿県で高齢者医療費の少ない長野県は、温泉を有効活用していることがその一因と言われています。
ですから、次のような「新しい湯治のスタイル」を検討します。①健常者デイケア(寝たきり防止)、②健康学習(生活習慣病予防)、③3泊4日程度の小さな湯治。等、また、前述の滞在型温泉地を目指すには欠くことの出来ない要素です。
(5) 温泉地や観光地に繰り出そう~住民や観光客の視点で地域と接しよう~
平成14年6月に、(財)自由時間デザイン協会が「休暇改革はコロンブスの卵」というユニークな報告書を出しました。公務員や会社員が有給休暇を全部有効に取得すれば、12兆円の経済波及効果と150万人の雇用が創出されます。
現在の不況は、消費不況の様相があります。また、観光は雇用創出、経済波及効果が高く、21世紀最大の産業と期待されています。私たちは、積極的に休暇を取り温泉観光地に行き、住民や観光客の立場になり、地域づくりの一環としての視点から、どのようにしたら地域が元気になるかを考えます。又は映画のプロデューサーやヒロインになったつもりで、ハード、ソフトにわたって、評価を行って欲しいものです。他県と比較しての悪い点、こうすればよくなるというアドバイス、また、知られていない潜在的な観光資源(特に食べ物)を見つけ出せます。温泉も観光も地域づくりの一部であり、現場主義の視点で楽しみながら行うことが必要です。
(6) 日帰り温泉施設と連携を深めよう~日帰り利用者は潜在的な宿泊利用者である~
温泉事業者の中には「公営日帰り温泉は税金を使って、旅館からお客を奪っている」と目の敵にする方もいますが、見方を変えれば日帰り温泉客は潜在的な宿泊温泉客といえます。温泉が好きで泊まってのんびりしたいと思っているが、経済的な問題や時間がないという人もいます。公営の日帰り温泉施設は約100施設、利用者は1,000万人を超えており、その1/3は県外の人といわれています。この客をいかに温泉地に呼び戻すかを真剣に考える必要があリます。例えば土休日には温泉・観光案内所を設置するとか、入浴者から温泉アンケートを行い、抽選で宿泊券を出すとかです。日帰り施設と宿泊施設がお互いに連携して相乗効果を図っていく必要があります。
(7) 温泉を核とした「広い意味の観光」の推進~周辺地域の人々と連携を深めよう~
観光は地域間交流を高め、元気なまちづくり、地域活性化の切り札と期待されています。ある新聞に、「群馬県には突出した観光地がない」「個々の観光地は小粒だが、まとまれば魅力度は高い」「問題は、どうやって県のイメージを創り出し発信するかということである」との記事がありました。
県のイメージを創りだし外部にアピールするには温泉が最適です。本県には多種多様な泉質だけでなく、草津の湯畑、伊香保の石段街、四万の積善館、万座の雲上露天風呂、法師の鹿鳴館風呂等、多くの特色ある温泉遺産といえるものがあります。
個性ある温泉地へと磨きをかけブランド力を高め、広く外部にアピールするという「一点突破の全面展開」の考え方により、住民・NPO等を巻き込んで地域間交流を図り、周辺地域や他の温泉地とも連携して、「観光と観光」「観光と農業」「観光と林業」「観光と商業」「観光とものづくり」といった形で異業種との交流・連携を行い、新しい観光の切り口を試みて、温泉を中心とした「広い意味での観光」を推進します。
(8) 湯の国ぐんま復活大作戦~上州温泉ブランドの構築に向けて~
作戦を行うためには作戦本部と戦略が必要です。各温泉地の魅力の創造は、基本的には各地域団体及び市町村が主体です。県の役割は情報の提供や外部に対する広報・宣伝等の側面的な支援が中心で、「後継者が育っている。若手・女性が頑張っている」等、やる気のある温泉地をソフト中心に支援することです。
県業務については、プロジェクトチームで「湯の国ぐんま温泉ブランド創造研究会」を設置し、構成員は温泉観光が好きで実際に行動し、観光客の立場が理解できる若手、女性を中心に公募します。県職員だけでなく、一般県民、旅館・観光事業者、市町村職員等、また、有識者として、県内外の温泉・観光事情に詳しい大学の先生や旅行会社の人も含めます。その業務を例示すれば次のようなことです。
① 各温泉地の研究会への支援事業
② 湯の国ぐんまブランド創造事業(ぐんまの温泉だから行きたいイメージを検討)
(ア)県温泉グランドデザインの策定。(イ)温泉観光マーケッティング調査。(ウ)湯の国ぐんまのイメージを情報発信。(エ)新しい旅への提言。(オ)実験的な事業の実施。等
4. 湯の国ぐんま復活への胎動
(1) 温泉地の再生とまちづくり~伊香保温泉品質向上大作戦プロジェクト~
県内の温泉地も草津、四万は比較的堅調であるが、伊香保、水上は低迷しています。
伊香保温泉の宿泊者数は、平成3年度の172万人をピークに年々減少、平成15年度には127万人にまで減少しました。行政も観光事業者も「温泉観光以外の産業はほとんどなく宿泊者の減少は町の衰退となる」と強い危機感を持っています。
そうした中で、平成14年10月に観光事業者を中心に、行政、一般住民を含めて「伊香保温泉品質向上委員会」が設置され活動を始めました。(会員約50名)
この委員会は、「伊香保の品質とは何か、誰を対象にした品質か」を問い、伊香保温泉の総点検を行い「伊香保だから行きたい独自性の持った温泉地」へと転換を図る活動を行っています。特徴は橋架け部会を設けて、観光事業者と一般住民との立場の違いの溝を極力埋める努力をしていること。そして、総合学習の時間で石段街を中心とした地域づくりの研究を行っている伊香保中学校と連携し、研究した生徒達の意見を積極的に採り入れていることです。この委員会に参加して感じることは、「若手・女性が元気であり、確実に後継者が育っていること」「活動的であり、物事を前向きに考えること」「自律性を持って行政と連携・協働をしていること」です。
活動を始めて2年、様々なアイデア、提案が行われ、そして実践されています。
例を挙げれば、①夏期のロープウエイ夜間運行、②石段街いっぷく館による茶のサービス、③花いっぱい運動、④石段街での各種イベント、⑤大みそかでの伊香保姫の奉納行列、⑥ボランティアガイド、⑦伊香保の香(芳香)、⑧伊香保姫の木札、⑨景観コンテスト、⑩伊香保を知る日行事、⑪観光経済調査の実施、などです。
集大成として3月に「伊香保豆手帳」を作成、観光関係者だけでなく全戸及び全中学生に配布を行い、ふるさと伊香保町のまちづくりへの意識の共有化を図っています。
厳しい状況は続いていますが、「元気の出るまちづくり」は着実に進んでおり、近い将来「日本の名湯伊香保温泉」は復活する、という胎動を感じています。
(2) 伊香保温泉が観光、経済、雇用に与える影響~経済波及効果等調査結果~ 資料4
平成15年11月に品質向上委員会は群馬経済研究所に依頼して伊香保温泉を訪れる客の経済波及効果等の調査を実施しました。その結果は、平成14年度に来た客(宿泊者1,301千人、日帰リ556千人)が支出する額は337億円で、県内への波及効果計は467億円、雇用は6,476人です。金額は伊香保町の総所得の2倍、雇用は伊香保町民数の1.7倍にもなります。温泉地だけでなく周辺の観光地等に多くの所得と雇用を生み出しており、県内経済・雇用に与える影響は極めて大きいものです。なお、観光客の総支出額は「客数の増加」だけでなく「滞在時間の長さ」によっても増加します。
5. おわりに~私があこがれるふるさとの温泉地づくり~
今、昭和30年代が注目されています。隣のトトロの時代です。団塊の世代が少年時代を過ごした時代で、豊かとは言えないが夢が持てた時代です。そういう意味で今温泉地に求められているのは「ふるさとへの郷愁」及びそれに基づく「心と身体のいやし」です。情報化社会に心身共に疲れてしまった戦士達のささやかな休息の場です。
温泉地に向かう途中に、何とも言えない心が和む山里の風景があります。
温泉街を歩くとほっとするような木造建物や小さな路地に出会います。
そして宿では、女将さんの温かいまなざしにより迎えられます。
このような山里や建物や路地と「本物の温泉」、そしてふるさとの母のようなもてなしにより、都会で疲れた人たちの心と身体を癒してあげられる、ゆとり・和み・こだわりを持った温泉地を創りたいものだと思っています。
資料1 年度別県別温泉宿泊者数順位表(抜粋)
資料2 年度別温泉地別宿泊者数順位表(抜粋)
資料3 NIKKEIプラス1温泉大賞温泉地別順位表(抜粋)
資料4 伊香保温泉の観光消費額による群馬県経済への波及効果
|