【自主レポート】
お井手やす、椿坂へ!
~まちづくり団体の新たな取り組み~
京都府本部/井手町職員組合 森田 肇
|
1. はじめに/「椿坂」には「新たな出会いの予感」と、「住民の想い」が
木津川とJR奈良線にほぼ平行し、かつて京都と奈良を結んだ「山背古道」の沿線に、昨年4月に「井手町まちづくりセンター椿坂」がオープンしました。
ハイキングコースが南北に重なる絶好のロケーションと、「玉川」「左馬」や「地蔵禅院」といった名所に近いこともあり、来館者は今年4月で1万5,000人を突破し、順調なスタートをきっています。
名称は158点もの応募作品の中から選ばれ、もともと施設建設の棚田一帯が「椿坂」として知られていることや、言い伝えの「再びめぐり会う」という意味から地域の活性化への期待が込められています。
2. キーワードは「自然・ロマン・人にやさしい井手の町」(井手町の概要)
京都府南部に位置する井手町は、豊かな自然や歴史的資源に恵まれ、人口8,842人(平成16年4月1日現在)、面積は18.01km2で、大阪や京都、奈良といった大都市近郊の小さな田園の町です。
地形的には、町の東側をおだやかな里山に、西側を木津川の流れに囲まれ、四季折々の豊かな自然に出会えます。また、古都京都と奈良の中ほどという立地条件からも歴史的な史跡が多く、古くから住民がそれらを守り育んできた背景があります。
3. 快速停車が大きな可能性を広げる
以前より、井手町の交通手段は国道24号線及びJR奈良線が主でしたが、2003年度より、JR玉水駅に快速電車が停車する運びとなり、快速利用で京都から28分、奈良から12分と、住民の通勤・通学などの利便性の向上はもとより、駅周辺の発展や観光シーズンの来客数の増加が期待されることとなりました。
交通の不便さを理由に若者が減少すれば、地域に根ざした仕事に従事する者、ひいては地域内での協力して事業を行う必要性そのものをも低下させ、最終的にはコミュニティ意識の希薄化を進めてしまう恐れがあります。
これまでから地域の活性化は深刻な課題となっていましたが、現在はアパートが建つなど、効果は早くも現れてきていて、若者流出に歯止めをかけるきっかけとなっています。
4. キーワードは「出会いからはじめよう。ともにつくろう。」
「ゆっくりと、時間を深呼吸。」
オープンしてから今まで、まだまだ椿坂を中心としたまちづくりは始まったばかりです。しかし今回、少しでも今後のまちづくり展開への足がかりになればと思い、ここに紹介させていただきます。
5. 井手町のまちづくりの経過
そもそもの井手町のまちづくりの始まりは、「橘諸兄」「桜」「カジカガエル」「大正池」などを利用した、既存の行政・商工会などの行事やPRに加え、「万灯呂山」「フルーツライン」「源氏ボタル」などの、住民サイドからの町の自然を守り、地域の歴史や文化を再発見する積極的な取り組みが始まりです。
主要な観光資源は、今までから町の誇りとして、人々にとってはよい刺激材料だったのです。
6. まちづくり協議会の発足
まちづくり協議会としての具体的な活動展開は、2000年5月に始まりました。「井手町まちづくり塾」「井手町カジカガエル保護友の会」「南部源氏ボタルを守る会」「山背古道探検隊」「井手町商工会青年部」「IDEゆうゆうスポーツクラブ」「万灯呂山の歴史を守る会」「陶芸工房『山吹』」の、それまで個々に活動していた8団体が、
① 「井手町のまちづくり」
② 「住民相互の交流」
③ 「文化活動の活性化を図ること」
を目的として、「井手町まちづくり協議会」を発足させました。
当時、旧国土省の「多様な主体の参加と連携」をうたったモデル事業に指定されたこともあって、スタートとして「井手町まちづくりマップ」を作成し、課題を明確にしつつ、今後の「段階的なアクションプラン」について話し合いました。
その案の中で全体を3段階に分け、
第1段階(2001~)では、
① 団体共同事業(イベント)の追求
② まちづくりと連携した調査の継続(歴史、自然、福祉等)
③ まちづくりセンター計画への参画と協議会組織体制の確立
④ 外部への情報発信の強化(HPの充実、その他メディアを通じてのPR等)
第2段階(2003~)では、
① まちづくりセンターの運営
② 町外まちづくり団体との連携等
③ 協議会自主事業の確立、そして
第3段階(2006~)では、
協議会のNPO法人化(資金面、人材面)と位置づけ、今後の展望を話し合いました。
7. 「町設民営」を基本に設計
こうして話し合われた結果、管理運営体制の主体は「まちづくり協議会」が、体外的窓口は井手町企画財政課が担うことになりました。
そんな中で協議会の一番の障害となったのは、
① 「参加団体の資金不足」
② 「活動記録の保存」
③ 「情報交換の拠点がない」
という3点でした。
そして、その後の課題を克服するために行ったシンポジウムで、今までは個々の住民の意識の中にバラバラに存在していた「まちづくり」というキーワードを具体化するためには、まちづくり拠点(スペース)の必要性が第一条件となり、「センター設立」が協議会と行政の明確な目標となりました。
まちづくりセンターの設計にあたっては、センターの基本的機能を
① 「まちづくり活動の拠点」
② 「山背古道・山吹ハイキングコースをはじめ散策を楽しむ人の憩いの場所」
③ 「まちづくり情報の発信拠点」
と位置づけし、井手町の住民はもとより、来館者が主体的に活用できるよう機能性を重視し、設計の段階から、すべてまちづくり協議会のワークショップの手法によって話し合いが行われました。
最終的に3回のワークショップと、まちづくりに積極的に取り組む他町村の視察見学を通し、管理・運営方法も含めた輪郭をはっきりとさせていきました。
8. 細部にまでこだわりが光る
2001年度より設計が行われた施設の概要は、小高い山肌の棚田を利用しつつ、敷地面積1,013.14m2の土地に、木造瓦葺平屋建の構造の建物3棟をもち、井手町の自然豊かな里山の景観をできるだけ活かした建物となりました。
一方、建物面積は328.83m2で、農家の「母屋」を思わせる外観の交流棟は、外部の構成要素として、瓦葺き、土塗り壁、越屋根、縁側等、地域になじむ素材と要素を採用しています。
内部においても機能性に重点をおきながら、たたきの土間、かまど、囲炉裏、座敷等、暮らしになじむ造りとし、来訪者の憩いの場としての休憩スペースも設けています。
また、憩いの空間的側面だけではなく、CMを画面で見ると無料でかけられる公衆電話機がベンチャー企業によって設置されたり、光ファイバーを繋いだパソコンルームや全国へセンターの様子を発信できるライブカメラなど、情報発信の拠点としての役割にも期待がかかりました。
活動棟は、農家の「作業小屋」をモチーフとし、木造トラスト構造を採用し、陶芸用の窯2基を設置しつつも、屋内・屋外の作業スペースを出来るだけ広くとってあります。現在では、住民対象の工作や陶芸教室などの創作を目的とした活動にフル回転で利用されています。
納屋については、諸団体の資料等を収納する「倉庫」として、屋外に水場と広場のスペースを設け、多目的な利用に対応しています。さらに、施設周辺の植栽につきましても、環境にあわせた樹木や草花を選定し、鳥や昆虫が集まるような、自然環境の保全にも一役かっています。
その後、ホームページもでき、各団体の特色を活かしたページ作りや小中学生を特派員として、子供の視点からまちの魅力の再発見につなげています。
9. 3団体が追加に
現在は「女性の船」「井手町ふるさとガイドボランティア」「いづみ太皷左馬」の3団体が追加加盟となり、11団体で構成する井手町のまちづくり団体「井手町まちづくり協議会」として運営にあたっています。
10. 具体的な運営方法
協議会団体は、毎日、日替わりでセンターの当番にあたり、来館者の対応や行事の開催、気軽に寄れる自分たちの活動拠点にと使用しています。また、無料でお茶のサービスをするなど、来館者に好評を得ています。自分たちで創り出した空間を、関わった人々で共有できるということは、なかなかに「愛着」が涌くことなのかもしれません。
一般の施設利用では、陶芸教室やいろいろな団体の会合、夏の地域学校など定期的に活用されてきています。
そういった自負からか、日々の運営をさらにスムーズに行えるよう、協議会として来館者の数やその日の出来事、注意事項を日誌につけて団体間で申し送りし、意思統一を図っています。そして、さらに大きな行事や提案については、各団体1~2名程度の代表者による月1回のワークショップ形式の運営の話し合いを経て、実現へと向かいます。
また、センターの入り口には、来客者側の感じたことを自由に書き留めるために「思い出帳」が置かれており、椿坂に対する人々の「想い」が綴られています。
今後、その声をどのように活用していくかが大変重要な課題です。
11. 成 果
そういったまちづくりセンターを訪れる人の中で、一番多い意見は、「和む」「癒された」「周りの素朴な環境が良い」といったものです。特に最近では学研都市からの問い合わせが相次ぐなど、都会の人は自分たちの「田舎」のイメージや、「懐かしい」と今ある風景としての「憩いの場」「癒しの空間」を求めているのかもしれません。
今現在、スローフード・スローライフなど多様な価値観による暮らし方が見直されてきている中、人々の心の中で「椿坂」がある一定の成果を担っていることは間違いありません。
12. まちづくりの継続性・発展
ハード面での整備がある程度整い、成果が見込まれてきた後は、さらなるソフト面での充実が次の課題になります。
当初かかげていた長期的目標としては「住んで良かった緑と人情あふれる井手町」のコンセプトのもと、共通認識を図ってきました。しかし、今後はいかに全ての団体で同じ意識のレベルを保ちつつ、団体の個性を発揮するか、今後、充実させていかないといけない取り組み6点を以下にあげたいと思います。
(1) 自然環境保全
井手町の財産は限られていて、最終的にはやはり「歴史」+「人」+「自然」が浮かんできますが、それらの単なる保存ではなく、共生が必要です。
(2) 周辺環境整備
住民や訪れた人たちの交流拠点として、センターを利用しつつ、さらに特色を活かした露出(PR)を高めていく。また話し合いの中で、施設を活かした環境ゾーン作りを考えていきます。
(3) 新しい魅力の発見
次なるまちづくりの行事計画としては、プロの写真家にとってもらった井手町のいろいろな風景写真を使い、写真展を企画しています。今まで何気なく見ていた景色をプロの技術というフィルターを通してみて、井手町にしかない魅力を再発見しようと画策しています。
またこういった行事を通して年間を通じた井手町の個性を改めて内外に広めたいと考えています。
(4) ゆるやかな連携
当初のアクションプランではNPOの話もでていましたが、今現在のねらいは、統一した団体としての堅苦しい形ではなく、それぞれの特色を活かした「ゆるやかな協議会形式によって各団体の活動を補完しあう」運営があくまで望まれます。
ただし、ゆるやかで柔軟な体制であることはまちづくりにおいて、会員の意向をオンタイムで反映しやすいという長所の一方で、協議会員の中にある一定レベルの意識の統一がなければ、すぐに破綻をきたしてしまう短所があります。
このことは、常に裏腹な問題としてつきまといます。
またこういった施設には、役場依存の体質がありがちですが、あくまで行政は陰のサポート役に徹し、うまく「行政主導」から「市民参画」へと距離感を保ちつつ、連携(パートナーシップ)を模索していかないといけません。より豊かで創意的な取り組みを進めていくことが望まれます。
(5) 人材育成(若手の台頭)
今現在、センターはかなり高度な情報発信の拠点としての機能を備えていますが、団体の高齢者の方にとっては、なかなか充分に利用できません。
今後、各団体とも構成員の年齢階層が限定されてきて、これ以上、少子化や人口減少が進展すると、これまでの市民活動や町内活動の担い手自体が少なくなることが予想されます。そうなれば、さらなるコミュニティ意識の希薄化が進んでしまいます。
そういった問題・課題を克服するには、やはり地域での「やる気」をもった人材の発掘、特に若手の加入をすすめ、異なった視点にもとずく新しい意見や、フットワークの軽さ、また今後の情報化社会に対応した、センター発のまちづくりに関する情報発信能力の高揚などが痛感されます。
継続的に活動を展開していくためには、まちづくりの参加に熱意のある人材、特に若者の育成が急務です。どんどん活動機会を与え、人材育成に努めていかないといけません。
(6) 資金の確保
先日も新聞に取り上げられましたが、椿坂の「だんご」作りが故郷を連想させたと反響をいただきました。
最近では、運営はある程度軌道にのりつつあり、今現在はコーヒーの販売をはじめ、山背古道グッズやカジカせんべいなどの商品を取り扱っていますが、今後は椿坂のオリジナリティあふれる特産品を販売したり、井手町の昔ながらの特産品を販売して、知名度を上げつつ、将来的にはその収益を活動資金にしていかないといけません。
13. 行政と住民団体による多様なまちづくりの必要性(活動拠点として)
町外の方への認知度は、「桜まつり」「時代絵巻行列」「源氏ボタル」「万灯呂山」などを通じ、年々浸透してきていますが、町内住民自体のセンター利用が、まだまだ少なく感じられます。
今後は「町内との連携」が必要不可欠で、どの計画においても20歳代から40歳代の層を引き付ける方法を考えていかないといけません。
当面のターゲットとしては、年間を通じて「椿坂」の認知度を高めるべく、行事がない夏場などの時期に、町内の住民組織(小・中、子供会、高齢者、老人クラブ、ボランティア団体など)に招待状を送ったり、現在センターで販売しているコーヒーの無料券を過去の来館者に配るなど、リピーターを増やし、利用しやすい状況をつくっていく必要があると思われます。
中でも、今後のまちづくりや町の発展に密接に影響してくる保育園や小学校、中学校といった子供たちに、まちづくりセンターの良さをアピールしつつ、学校教育などに活用してもらうことが重要です。
また、協議会参加団体についても、11団体だけでなく、門戸を広く開け、随時井手町内で活動する団体の募集を行っています。
現在、井手町の中では、こうした多くの個人・団体の参加を模索しながらも、高齢化が進んだ余暇における趣味の多様性などに対応して、地域づくり自体への参加意識は高まってきています。また、多くの団体の設立、団塊の世代の定年を迎えることなどは、今後のまちづくりの広がりに密接に関わってくることが予想されます。
14. センターの担う機能
いろいろな団体の協議によってできたまちづくりセンターは、徐々にではありますが井手町という地域そのものを「具現化」しつつあるように思われます。
団体間には「古き良きもの」=「あるもの」を見直そう、横のつながりを重視しよう、協同で取り組みをしようといった、次のステップへ向けた前向きな意識が芽生え始めています。
15. おわりに/地域再生の意義・目的(新たなライフスタイルの模索)
今後、このような活動の中で、地域の活性化を図っていくには、もう一度自分たちを取り巻く自然環境・観光資源・文化・歴史や自分たちのもつ可能性(要因)を見直し、その特性や住民のニーズに合った地域づくりを展開していかないといけません。また、それに伴う「参加機会の創出」を実現することが重要です。
今後も「まちづくりセンター椿坂」を拠点とした「まちづくり」を通して、自分たちのまちのもつ既存の多面的機能を見直し、井手町の魅力を再発見し、地域の再生(活性化)へと結びつけていけたらと思います。
まだまだ活動は始まったばかりです。
<参考>
まちづくりセンター椿坂HP: http://www.ide-marugoto.com/
井手町HP: http://www.town.ide.kyoto.jp/
<参考図書>
・「多様な主体の参加と連携による活力ある地域づくりモデル事業 報告書」井手町
・「住民主体のまちづくりセンターの活用にむけて 事業報告書」井手町
・「住民主体のまちづくりセンターワークショップ 基本設計 報告書」井手町
・「住民参加のまちづくり探訪① 井手町まちづくりセンター「椿坂」」
「地方自治 京都フォーラムVol.85」京都地方自治総合研究所
|