【自主レポート】

体験農業(グリーンツーリズム)と地域づくり

徳島県本部/脇町産業観光課 井口 明典

1. はじめに(町の概略・地勢)

 脇町は徳島市から西へ約40km、吉野川北岸中流域に位置し人口約18,000人。町面積は約111平方キロで平坦部は市街地を形成し、面積の約70%を阿讃山脈山系の中山間地域で占めている。国重要伝統的建造物群保存地区「うだつの町並み」で知られ、96年に松竹映画「虹をつかむ男」のロケ地となり、98年の明石海峡大橋開通後、年間約20万人が訪れる県内の主要観光地のひとつとなっている。

2. グリーンツーリズム推進のきっかけ

 96年に住民参加によるまちづくり百人委員会を設立し、その議論の中から農業体験を核とした滞在型農村リゾートいわゆるグリーンツーリズムの推進施策を展開し、阿讃山脈の標高約550m、吉野川中流域全体が見渡せる美村地区に交流促進宿泊施設美村が丘の建設へとつながった。しかし、その当時の活動は一部住民と町主導による部分が多く、中山間地域全体のものとはいえないものだった。また同時期、選挙により首長が交代し、町の方針が不明確なまま地元の中でも紆余曲折もあり、不安をかかえたままのスタートとなった。

3. ハード先行する中での不安的中

 2000年7月に施設がオープン。運営は当初計画は地元であったが、施設規模等を考慮し第三セクターでの運営となった。町内には農家の女性を中心とした生活改善グループ活動や産直市・直売所活動が盛んであったが、これらのグループと連携がスムーズにはかられていたとは言い難い状態で、グリーンツーリズム施設としてのソフト機能の立ち遅れが明らかになった。

4. 山積する課題を皆で考える地元住民組織「美村塾」の立ち上げ

 課題山積の状況の中、美村が丘の運営や地域の関わり方を含めた諸課題を脇町の中山間地域全体の課題として捉え、阿讃山脈沿いの集落から次世代を担う住民(40~60代前半)を中心に30人が結集し、あらためて地域活性化に向けての学習と行動に取り組む決意の下となり「美村塾」を結成した。メンバーは農家ばかりでなく、会社員や町職員、町議会議員、サーキット場経営者や定年退職したばかりの人などで、いろんな視点からのものの見方・考え方ができ、塾生どうし地域の活性化に向けた議論を行ってきている。
 農業体験イベント等も塾生で考え、実行に移すようになり、主に棚田での田植え・稲刈り、そば刈り、ジャガイモ掘り、炭焼き、りんご狩りなどを中心に開催している。参加者は県内外から訪れ、小学生の子供がいる家族連れや子供会等が中心である。受け入れにあたっては、美村が丘が事務局となり、統一料金を設定し、通常的に体験希望者を受け入れられる体制・農家ネットワークの形成をはかってきている。
 また、美村塾生全員での手作りによるマレットゴルフ場(27ホール・延長約700m)を施設に隣接した山林に建設。ねんりんピックの大会会場になり、現在では月例大会の開催をはじめ県内外から多くの人たちが訪れプレーを楽しんでいる。このことにより、隣接する美村が丘の利用増に伴う地元農産加工品等の消費拡大や地域の人たちとの交流がはかられ、地域が活気づいてきている。

5. 今後の課題と展望

 町村合併を控え、中山間地域の住民間では「今までのような地域のあり方で子や孫の世代が安心して生活できる地域として存続できるのかどうか」と不安感・危機感が出てきている。またいろんな事業や行事の開催にしても、今までは公(町や県)が動くからということで「協力してあげている」的な他人事意識から、徐々にではあるが「まず地元地域で考え、議論し、行動していこう」という考え方になってきている。その中で私たちは公の立場で地域の人たちと共に悩み、考え、時には熱い議論を交わすことのできる相手を見つけること、いわゆる「ひとづくり」がものすごく大切になるのではないだろうか。もちろん、このことだけがすべてではないだろうが、地域おこし関連の施策を実施するにあたり、ひとつのキーワードとなるのではと実感している。