【要請レポート】
若年者への就職支援を考える…三重県の取り組み
三重県本部/三重県生活部雇用能力開発室 福島 頼子
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1. 現状と課題
高い失業率、「無業者」や「フリーター」の増加など、若年者の雇用失業情勢は、非常に厳しい状況にあります。
本県においても、県内高卒者の求人数は平成10年3月卒業者に対しては、求人倍率が2.02倍(求人数10,162人)であったものが、平成15年3月卒業予定者に対しては、求人倍率が1.11倍(求人数3,843人)と大変厳しい状況になっています。また、平成12年3月新規高等学校卒業予定者の卒業3年後の離職率が、全国でも50.1%となりましたが、本県においても48%と大変高くなっています。
若者の雇用問題の背景には、新規学卒の求人の減少や求人の非正社員化、間接雇用化が進展していることなどによる求人と求職のミスマッチ、企業採用方針の変化など、雇用側に関連する要因がある一方で、働く側の要因として、働くことに対する意識・意欲の低下などが大きく影響していくものと考えられています。
このような「無業者」「フリーター」の増加という状況は、産業面での生産性の低下、晩婚化や少子化の加速、年金や税収への影響など深刻な社会問題へとなることが予想されます。
2. 平成15年度までの取り組み
本県では、平成13年度にはじめて完全失業率が5%を超えたことに対応して、主に中高年者の就職支援を目的とした「緊急雇用対策パッケージ事業」を立ち上げ、県独自の雇用対策に取り組みました。一方、若年者についても、平成15年度から立ち上げた「若年者向け緊急雇用対策パッケージ事業」を中心として、若年者のキャリア教育を含めた雇用対策に県教育委員会、三重労働局をはじめとする関係機関と連携して取り組みました。
具体的には
(1) 三重労働局、独立行政法人雇用・能力開発機構三重センターと連携して策定した「若年者支援行動計画」に基づく体系的な若年者の就職支援の推進
(2) 国の機関である「三重学生職業相談室」と県の機関である「三重県人材・Uターンセンター」を一体化した「おしごと広場みえ」においての若年者に対する総合的な就職支援(H15.4~)
(3) 若年者の雇用の場の創出につながる、液晶関連企業をはじめとした企業誘致の推進、また、県立津高等技術学校における液晶関連カリキュラムの実施による即戦力人材の育成
(4) 中高校生に対してキャリア教育を推進するために、教員の指導力向上を目的とするセミナーの実施、高校生に対するキャリアアップセミナーの実施
(5) 「おしごと広場みえ」と県内の大学、民間人材ビジネス会社が連携して、教育訓練から就職支援までを行うための新たな仕組みの検討、その基礎資料とするための若年者就職支援に向けた実態意識調査の実施
などの事業を展開して参りました。
この取り組みの中にありますが、三重県では、液晶産業をはじめとするフラットパネルディスプレイ(FPD)産業の集積を目指してクリスタルバレー構想を推進おり、その推進プログラムの具体的施策として、県立津高等技術学校におけるFPD産業を支える人材育成に取り組むことを位置づけて取り組んでいます。昨年度、県立津高等技術学校の電子制御情報科において液晶関連プログラムを受講した生徒18人のうち9人が液晶関連産業に就職をすることができました。
3. 平成16年度からの「若年者雇用支援プログラム」における取り組み方向
平成16年度からは、概ね10年先をみすえた三重県の新しい方向を示す新しい総合計画である「県民しあわせプラン」において、めざすべき社会を実現するための5つの柱のひとつとして「安心を支える雇用・就業環境づくりと元気な産業づくり」が位置づけられました。
その政策の目標を達成するための戦略計画の重点プログラムとして、高等学校、大学等の新卒者など若年者の円滑な就職を支援するための「若年者雇用支援プログラム」、中高年者の円滑な再就職を支援するとともに、就労者の雇用に係る不安の解消を図るための「中高年雇用安定プログラム」を策定し、平成16年度から3ヵ年の目標と事業計画を立て、雇用対策に取り組んでいるところです。
「若年者雇用支援プログラム」では、高等学校、大学等の新規学校卒業予定者や既卒者など、若年者の円滑な就職を支援することを目標として、県教育委員会、三重労働局をはじめとする関係機関と連携しながら、キャリア教育やインターンシップの推進等をはかり、職業観・勤労観を醸成し、雇用関係情報の提供や、職業紹介、職業相談等も含めた総合的な支援をワンストップサービスで提供できるよう「おしごと広場みえ」の充実などに取り組んでいきます。
(1) プログラムの取り組み内容
① ワンスストップサービスの機能の充実
ア 「おしごと広場みえ」充実事業
② 職業観・勤労観の醸成及び職業能力開発、インターンシップの推進
ア 産業人材育成事業
イ 若年者早期就職支援事業
ウ 大学等職業意識啓発事業
エ インターンシップ総合サポート事業
オ キャリア教育総合推進事業
③ プログラムの事業費
3 ヵ 年
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2004(H16)年度
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2005(H17)年度
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2006(H18)年度
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633,000程度(千円)
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218,101
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211,000
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204,000
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4. 「おしごと広場みえ」の充実
「おしごと広場みえ」は、平成15年4月に既設の国の機関である「三重学生職業相談室」と県の機関である「三重県人材・Uターンセンター」が一体となり、30歳までの若年者の就職支援を行うワンストップサービスセンターとしてスタートしました。
平成15年度においては、学生職業相談室の対象者である大学等新規卒業予定者及び卒業後1年以内の者に加えて30歳までのフリーターといわれる若年求職者を対象として、職業相談などを実施しました。しかし、30歳までの若年求職者に対して職業紹介を行うことができないため、職業相談を行ったあと実際の就職にあたっては、ハローワークなどへ再度出向いていただかなくてはいけないといったことが課題でした。
また、「おしごと広場みえ」を運営する中で、若年求職者が就職に結びつかない原因も明らかになってきました。自分がどんな仕事につけばいいのかわからないため、実際の就職活動まで至らないうちに卒業時期を迎えてしまったり、一度の失敗で自分はだめだとあきらめてしまうといったことが原因と考えられました。新規学卒者については、企業から求人が提出されると、一旦学生就職総合支援センター(厚生労働省所轄)へ登録され、インターネットで全国どこからでも閲覧でき、企業へは本人からリクエストし就職活動に自らエントリーして内定に結びつけることが出来る仕組みになっています。また、企業においても就職活動のエントリーはインターネットで行うようになっている場合が増えています。しかし、インターネットでエントリーはするものの、一度だめだとあきらめてしまったり、直接企業に出向くことには躊躇してしまうという学生がいるのです。年間3回就職面接会を開催していますが、最後のチャンスとも言える2月の面接会において、多数の企業が参加していただいているにもかかわらず、各企業のブースではなく、適職診断コーナーに行列が出来ているといったことが見られました。
そのような若年求職者に対しては、個人的な指導と援助が必要となります。例えば、自分がどんな仕事につきたいのかわからないといった学生などに対しては、適職診断なども実施しながらある程度じっくりと時間をかけたキャリアカウンセリングが必要であり、企業情報等の収集に意欲的、積極的に取り組めない学生などに対しては、一緒になって企業情報を収集し、履歴書の書き方、自己PRの手法、面接までのリクエストの仕方までサポートする必要があります。そこで、一人ひとりの状況に応じて、ある程度の時間をかけてきめ細かくサポートしていくための職員の配置も必要であるということがわかりました。
また、他県の先進事例のベンチマーキング、民間就職支援機関の専門家を招いての勉強会などを通じて、若年者の就職支援の課題を明らかにしてきました。
平成16年度は、これらの点に留意し、「おしごと広場みえ」を、県庁所在地にある津駅前の利便性のよいスペースに移転し、午後から活動する若年者に対応するため開所時間も19時までとしました。職員の増員、専門的なキャリアカウンセラーの配置により一人ひとりの若年求職者にきめ細かな援助ができる体制を整備し、また、ハローワークを併設し職業紹介も実施することにより、就職までのワンストップサービスセンターとして機能を強化し、三重県の若年者雇用対策は「おしごと広場みえ」を中心として展開しています。
「おしごと広場みえ」では、県の推進する若年者雇用対策の中心として、新規大学等卒業予定者から30才位までのフリーターといわれる若年者、三重県へのUターン等を希望する方を対象として、職業相談から職業紹介までの就職支援をワンストップサービスで行うとともに、就職支援セミナー、就職面接会などのイベントの開催、インターンシップの推進なども行っています。
平成16年5月から移転リニューアルをしたところですが、現在の利用者数は、昨年度までと比較して順調に増加しています。
今後は、県、県教育委員会、三重労働局をはじめとして県内で若年者就職支援に関わる全ての機関、それらの機関が実施する各事業の拠点としての役割を果たしていくこと、また、企業からの求人申込み数と新規学校卒業予定者や30歳までの若年求職者の登録数を増やすための広報手段の検討や大学等との連携、そして、実際に利用する求職者を就職まで結びつけていくための魅力ある相談・職業紹介等をいかに円滑に実施できるかが課題です。
また、平成17年度に向けて、本県の特徴である南北に細長い地理的条件と地域による産業・雇用情勢の違いに対応した対策として、市町村、大学、経済団体等と連携して、地域における若年者雇用支援のための拠点づくりについて検討を進めていくことを予定しています。
5. 産業人材育成事業
(1) 産業人材育成事業の概要
今年度から新たに取り組むこの事業は、30歳くらいまでの主にフリーターといわれる若年者を対象として、開発した教材・カリキュラムを利用して、県内の大学における教育訓練(座学 上限3ヵ月)と、企業において実際の仕事をしながら職業能力を向上するためのインターンシップ(上限3ヵ月・訓練生1人あたり5社)で構成し、県内5大学において、民間人材ビジネス会社に委託して実施します。訓練修了後は、「おしごと広場みえ」において職業紹介を行い、就職に結びつけていこうというものです。
この事業では、事務職・販売職・営業職で正社員を目指す人を対象とし、教育訓練を通じて企業の期待するコミュニケーション能力やビジネスマナーといったいわゆるヒューマンスキルを向上し、企業でのインターンシップを通じて、さらにそれらを身に付いたものとしていきながら、実際の仕事の体験の中から自分にあった仕事を見つけてもらうことにより、早期離職を予防し、即戦力人材としての就職をしてもらうことを目指しています。
各大学にそれぞれキャリアカウンセラーを1名配置し、教育訓練生の相談に応じ、教育訓練の継続や就職を支援していきます。
平成16年11月から募集を開始し、平成17年1月からの開講を予定しています。
(2) 事業の立ち上げに至った経緯
平成15年度に、事業の対象者となるフリーター等の現状、そのような状況となって原因、就職を困難にしている要因等を把握し、この事業をより実効ある事業とするため「若年者就職支援に向けた実態調査」を実施しました。
その結果、回答者であるフリーター・無業者の7割以上は正社員経験があり、現在に至っており、全体の53.8%がフリーター等の期間が6ヵ月を超えるなど長期化していることが明らかになりました。また、現在も、6割以上が週30時間以上就労しており、8割を超える人が「正社員として働きたい」と希望しています。
平日に毎日・半年程度施設に通い、就職に向けてさまざまな訓練やサービスを無料で受けるというような教育訓練プログラムの利用意向について聞いたところ、「ぜひ、受けてみたい」と「やや受けてみたい」を合わせると6割になり、このようなサービスに対する要望が高いということがわかりました。「受けたくない」という理由としては、「必要だと思うがその間の収入が得られないのが困るから」が最も多く、次に「必要だと思うが期間が長すぎるから」となっており、半数の人は必要を感じています。
これらの調査の結果を基礎資料として、県内大学、民間人材ビジネス会社、職業訓練機関、経済団体等と連携しながら若年未就職者を対象として、教育訓練から就職まで一貫して支援するシステムを整備・運営することなり、5月17日に産学官により構成する「若年者地域連携事業運営協議会」を設置しました。
また、平成16年5月には、事務職・営業職・販売職において企業が若年者に求める基礎能力の明確化を図るため「若年者に対する人材ニーズ調査」を実施しました。現在は、協議会のもとに「教材・カリキュラム部会」を置き、調査結果をもとにして平成16年11月までに即戦力人材の育成カリキュラムや教材を開発します。
6. 若年者の就職支援の今後の方向性
現在の「おしごと広場みえ」は、国、県、その他関係機関の連携により、三重県における若年者の雇用対策の拠点となり、インターンシップをはじめとする職業意識啓発から実際の就職までの支援を行うワンストップサービスセンターとして機能を充実することができました。
今後は、これらの機能が有効に活用されるよう、「おしごと広場みえ」をPRし利用の促進を図ることととともに、相談員のスキルアップのための研修なども充実し、支援体制の強化により効果的な支援を行い、若年求職者に企業の求める人材としての能力を身に付けてもらい、実際の就職に結びつけていくことが課題となります。
「おしごと広場みえ」のPRとしては、大学等との連携による学生に対する周知、毎週1回のラジオ放送、テレビCM、新聞広告、若年求職者の利用する就職情報誌等のマスメディアによる広報などを実施するとともに、若年者のニーズに合わせて、メールマガジン、ホームページなどを活用して展開しています。現代の若年者の特徴としては、インターネットなどで広く情報を収集することはできても、実際にその場へ行って、人や現場に触れるコミュニケーションの中で自分の就職に結びつけていくことが苦手であるように思われます。マスメディア、メール、ホームページなどの若年者に直接届く情報が、それを受け取った一人ひとりの心に響き、行動を起こさせる力を持ったものにするため、先進的な事例の検討や若年者のニーズや流行を把握するための研究などを行っていきたいと考えています。
特に、平成16年度新規に立ち上げる三重県版のデュアルシステム「産業人材育成事業」を、企業のニーズにあった即戦力人材の育成プログラムとして実効性のあるものとしていくため、「若年者地域連携事業運営協議会」を中心に大学、企業等と連携して取り組んでいきます。約6ヵ月にわたる訓練にフリーターといわれる若年者を集めること、実際の就職に結びつくインターンシップの受入企業を開拓していくことが大きな課題であり、これらの課題の解消のためには、地域や教育関係者、産業界などの連携が不可欠です。この事業の基礎資料とするために実施した「若年者に対する人材ニーズ調査」では、インターンシップの受け入れについて、「受け入れたくない」と回答した企業が3割以上あり、その結果からもわかるように、企業への理解を求めていくことは大きな課題となります。そして、県の能力開発行政や教育において、産業施策と連携し、県内の産業発展を担うことができる人材育成を進めていく必要があります。
また、若年者の就職支援においては、早期からのキャリア教育によって職業観、勤労観を身に付けていく中長期的な取り組みも重要であり、それらの推進にあたっても、家庭、地域、学校、産業界などそれぞれが主体となって取り組んで行く必要があります。そのためには、それらの多様な主体がともに担っていくといった視点を持ち、新しいしくみづくりも検討していく必要があると考えています。
そのひとつの手がかりとして、今年度は、家庭や地域のつながりが希薄となってきたために、実際の仕事や働くことを理解していない若年者と現場で働く人を「おしごと広場みえ」が仲介役となって、テレビ、ラジオ、ホームページなどの媒体や、直接コミュニケーションをとることのできるメールやミニセミナーなどによってつないでいく「おしごとナビゲーター」事業を立ち上げ、産業界、労働団体等の協力を得て推進していきます。
最後に、個人的な課題ですが、社会人の先輩として、これからの時代を担う若年者の皆さんに働くことによって得られる充実感や喜びなどを伝えてきたいと思っています。
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