【要請レポート】
「多文化共生と教育」について
群馬県本部/太田市・企画部・総合政策課 小林 豊
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1. 太田市の取り組み
(1) 本市の状況
太田市は人口約15万人で、自動車製造関連企業や金型製造企業を中心とした工業都市の観を有し、その製造に関しては低コストの労働力である外国人労働者に依存している。太田市に在住する外国人は約8,200人で、その内、日系のブラジル人は、45%を占めている。この景気の低迷により、今後もさらに製造企業は外国人労働者に頼らなくてはならない状況である。このような中で、国や地域としても定住化を希望する外国人労働者の受け入れについて、社会保障制度や健康保険制度、年金、医療、教育といった様々な課題を抱えているが、本地域としても益々促進されるグローバル社会の中で、外国人労働者との共生に向けた社会基盤を整え定住希望の外国人労働者が安心して暮らせる環境整備を推進しなければならないと自覚し、教育面では様々な施策をとってきた。
しかし、外国人労働者の子どもたちの教育に対する国の配慮は、まだまだ不十分であり、言葉の壁を乗り越えるためには、日本語の習熟度に応じた段階的教育と、母国語を使用した授業形態の必要性が重要視されてきた。
そこで、本市では、平成16年1月に、共生に向けた教育策として「定住化に向けた外国人児童・生徒の教育特区」の構造改革特別区域計画の申請を行い、同年3月24日付けで、内閣総理大臣より認定された。
子どもたちへの教育の機会は、国籍に関係なく平等に与えられるべきものであり、大きな可能性の芽を、「言葉の壁」によって摘み取ってしまうことは、定住化を希望する外国人にとって、進学や就職などの面でも大きなハンデとなってしまうからである。
2. 本市の外国人教育の現状
(1) 外国人の児童・生徒に対する教育は、現行制度において、週5時間の取り出し授業を特配教員により行っている。これは1日1時間程度であり、その他は通常授業となり、日本語の習熟度があがっていないのが現状であり、授業内容が全く理解できずにいるのが現状である。
(2) 日本語指導の特配教員は外国語が話せず、外国人の子どもたちとの心の会話ができず、各教科の理解度の向上も難しい。
(3) 外国人は、市内の各公立学校に点在しており、日本語指導の教員だけでは、日本語の習熟度も、教科の理解度も、向上させることは難しい。
3. 状況下における本市の取り組みの意義
(1) 本市では、公立学校において外国人の子どもたちを集中させ、日本語の習熟度を基本に外国人の子どもたちの特別クラスを編成し日本語の小・中一貫授業を行う。
(2) バイリンガル教員の採用(6名)により日本語の授業と、主要教科の授業を実施する。この取り組みは、工業都市である本地域にとって、外国人の子どもたちへの教育的配慮による進学率の向上や、選択肢の拡大を推進するだけでなく、外国人の定住化により、経済基盤の安定と地域経済の発展に大きく貢献するものである。
4. 特別区域計画の目標
(1) 日本経済を支える製造企業の労働力問題
日本経済は、少子高齢化の急速な進展に伴い、将来労働力が減少することは確実であり、製造企業や看護・介護など、我が国の経済社会や国民生活にとって不可欠な「ものつくり」の分野においても労働力不足を生じ、支障をきたすことが大いに懸念されている。
本市の現状は、自動車製造関連企業や金型製造企業を中心とした工業都市の観を有し、その製造に関しては低コストの労働力である外国人労働者に依存している。また、この景気の低迷により、今後もさらに製造企業は外国人労働者に頼らなくてはならない状況である。このような中で、国や地域としても定住化を希望する外国人労働者の受け入れについて、社会保障制度や健康保険制度、年金、医療、教育といった様々な課題を抱えているが、本地域としても益々促進されるグローバル社会の中で、他文化を持つ外国人との共生に向けた社会基盤を整え、定住希望の外国人労働者が安心して暮らせる環境整備を推進して行かなければならない。
(2) 外国人労働者が抱える教育問題
外国人労働者の多くは、日本語が解らないため、その子弟をインターナショナルスクールや、母国の学校へ通わせているが、母国の教育制度による母国語での学習であり、日本語の習得にはならない。その上、経費は高額であり、「単純労働」の外国人にとってその経費の捻出は容易ではないのが実情である。
本地域で定住を希望している多くの外国人労働者の子どもたちは、公立学校へ通っているが、日本語が解らないため、能力があるのに進学への道を諦めたり、不登校になったりする子どもたちも多く見受けられる。このため、本認定申請により、外国人労働者が定住化に向けて安心して共生できるよう、その子どもたちの将来に対する教育への不安を解消し、地域で安心して暮らせ、地域に根ざした外国人の育成を推進するものである。
(3) 「定住化に向けた外国人の児童・生徒の教育特区」の実施目標
この目標を実現するため、当該計画においては、市内の小中学校に外国人の子どもたちの日本語の習熟度に応じた集中校を開設し、外国人の子どもたちの特別クラスを設け、日本語習得、及び主要教科の理解度の向上を目指したバイリンガル授業を実施し、総合的な生きた日本語が習得できる先進的な教育環境を構築する。………参考資料1 学年別指導時間割合系統表(案)
その計画の中で、児童・生徒の日本語の理解度、及び習熟度を3段階に区別し、小・中学生の年齢を問わず、日本語の習熟度に応じて、計画的・継続的な学習を通して、生徒一人ひとりの能力や可能性を十分引き出すとともに、母国の歴史や日本の歴史を比較し、両国の理解を深め、地域経済や日本経済に貢献できる外国人を育成したい。………参考資料2 集中校習熟度別教育課程基準(時間割予定表)
また、日本語による教育に重点を置き、様々な人々との意思の疎通が図れる日本語能力の育成に努め、中学校修了段階で日本人と変わらない進学等の選択肢が持てる外国人の子どもたちの育成を目標としたい。
5. 「定住化に向けた外国児童・生徒の教育特区」の実施内容
(1) 外国人児童生徒の集中校の設置
太田市立の小中学校を6ブロックに分け、その中で、希望制により、外国人の子どもを集中させ、教育課程における教科の授業時間を変更し、日本語の習熟度に応じた特別クラスを設置する。………参考資料3 (国籍別・学年別)外国人子女就学状況(平成15年9月1日現在)
(2) 市費負担教員の採用
特区法810による市町村費負担教員(バイリンガル)の採用により、日本語の難しい表現や意味の理解度を高めるため、バイリンガル授業を実施する。
(3) 特別免許状授与手続の迅速化・簡素化の特例措置
事業実施にあたり、バイリンガル教員(ポルトガル語等)の採用を行う予定であるが、日本の教員免許は有しないが、外国での教員免許を持った人材の採用については、特区法に基づく808及び809の特別免許状付与手続きの迅速化・簡素化事業により、日本での教員免許状の授与を行い、外国人児童・生徒への教育的配慮を行う。
(4) ブロック内の複数集中校の訪問指導
居住地からの通学の問題から、児童が集中できずに集中校が複数となった場合は、教師がチームを組んで、ブロック内の集中校を移動するシステムも実施したい。
6. 構造改革特別区域計画の実施が構造改革特別区域に及ぼす経済的社会的効果
(1) 一般的な経済効果
① 市費負担による教員の雇用創出
市費負担によるバイリンガル教員の採用募集により、雇用の促進が図れる。
② 外国人労働力の確保による地域産業の振興
定住化が促進することにより、地域の製造企業にとって、安定した労働力の確保ができる。
③ 外国人の定住による地域経済の活性化
定住化が促進されると、外国人労働者の地域での生活基盤が確立されることにより、消費が促進され、税収の増加も見込まれる。
(2) 教育関連の効果
① 外国人の子どもたちの日本語の習熟度・教科の理解度の向上
バイリンガル指導により、外国人の子どもたちが、母国の文化と対比しながら、早期に日本語を理解し、学習に対する意欲が増進する。
② 外国人の子どもたちの進路等の選択肢の拡大
現在、外国人(特にブラジル)の子どもたちは、日本語が解らないことにより、各教科の理解度も低く、高校への進学を断念したり、また、日本語が解らないため、就職についても非常に厳しい状況にある。この特区の認定により外国人の子どもたちが進学や就職の面でも、自分の選択肢を拡大できると考える。
③ 当該地域の外国人の進学率の増加
中学校3年生になるまでに、登校しなくなったり、未就学だったりする生徒は除き、昨年度の外国人(ブラジル)の中学校の卒業生は16名でありその進路については下記の表のとおりである。
参考資料4
太田市の外国人生徒の進学状況
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人数
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公立高校
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私立高校
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在家
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就職
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帰国
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不明
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男
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10
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2(定時制1)
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1
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2
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3
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1
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1
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女
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6
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3
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2
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1
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0
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0
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0
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計
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16
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5
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3
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3
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3
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1
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1
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*進学率等の努力目標
特区認定後、目標として現在の低学年(小学校3年生以下)が中学校3年生になる時点(6年後)においては、外国人の子どもたちの進学率が90%以上になるよう努力して参りたい。
④ 不登校の減少による地域犯罪の削減
地域性から外国人の犯罪件数は増加傾向にあるが、この特区認定により犯罪へ手を染める外国人の削減の一助となると考える。
⑤ 外国人のスラム化の防止
未就学や、不登校の外国人児童・生徒が増加し、また、家で遊んでいる青少年が増加すると日本語が解らないため、また、安定した収入が得られないため、居住に関しても集中し、スラム化が進むことが予測されるが、特区認定後は日本語の習熟度の向上が推進され、進学や就職率が向上することによりスラム化が防止できると考える。
7. 特区事業及び関連事業
(1) バイリンガルによる日本語指導の授業の実施
日本語が全く解らない外国人の子どもたちは、公立学校に入学しても、全く授業について行けない状況である。そのため、まず、日本語の習熟に重点を置き、母国語と日本語のバイリンガル教育により、日本語学習と、各教科内容の理解の向上を目指す。
(2) 日本語塾の開校(プレスクール)
本塾は、入学予定の外国人の児童、及び中途来日者で、日本語が全く解らない子どもたちを対象とした日本語塾を平成17年4月に市有施設を利用し開校する。日本の教育制度、及び日本語の事前準備を実施し、小学校入学後の日本語の授業に充分対応できる能力を身につけさせる。
なお、開校時間は一般の幼稚園終了後の午後3時から6時までの2~3時間程度を予定し「塾」形式とする。
(3) バイリンガルスクールの開設
外国人の小中学生、及びその保護者を対象とした、母国語と日本語の対比によるバイリンガルスクールの開設(日本の風土や習慣及び国保・年金・税などの社会保障制度、教育システム等の理解度を高める)
(4) サタデースクールの開校
公立学校に勤務するネイティブスピーカーや、バイリンガル指導助手による、市内の小中学生のためのバイリンガルスクールを開設する。対象は入学を希望する小中学生とし、学校は土曜日などを利用し授業を行う。よって子供たちに日本の風土や風習を理解してもらい、日本語能力の向上を図る。
(5) 一般外国人居住者を対象とした日本語講座の開講
集中校に勤務する教師陣による、一般市民向け講座を開設し、外国人全体の日本語の会話能力の向上を図る。これによって市内に在住する外国人とのコミュニケーションが活発になり、落ち着いて生活できる環境をつくる。
(6) 集中校教師陣のボランティア活動による短期外国語会話講座の開設
ボランティア活動による市民を対象とした外国語会話講座を開催し、日本人が外国語を学ぶ機会を設け、より外国人との共生のための理解増進を図る。
(7) 外国人児童生徒の日本語スピーチコンテストの開催
小学生から中学生までの子どもたちを対象に、日本語のスピーチコンテストを実施し、日本語の習熟度向上と、日本での生活についての夢を育む。
(8) 外国人会議の開催
年に2回~3回程度、外国人と市長の対話を持ち、共生に向けて生活上の問題点や、要望などを話して貰い、また、太田市の方針や施策などを紹介し、今後の他文化共生時代への足がかりとしてゆく。
構造改革特別区域計画の工程表(案)・工程表の説明
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