【要請レポート】

市民の立場から人権文化の創造を
「人権教育のための国連10年」尼崎推進連絡会の軌跡

兵庫県本部/尼崎市職員労働組合

1. 結 成

 尼崎市における「人権教育のための国連10年」の取り組みは、1999年5月市長を本部長とする「尼崎市人権教育・啓発推進本部」が発足しました。幅広く専門的知見から意見を求めると共に、被差別当事者の意見を反映させるために、尼崎推進連絡会(通称「人権教育あまがさき」)を結成しました。

2. 「尼崎市人権教育・啓発推進基本計画」策定までの活動

(1) 提言書やパブリックコメントの提出
   第1次提言書(1999・9)は、国内行動計画を基調に「あらゆる場における人権教育」「特定の職業に従事する者に対する人権教育」「個別の差別課題への対応」を提言した。
   第2次提言書(2000・5)は国連行動計画を基調に、あらためて「人権教育のための国連10年」の意義を確認し、「被差別の当事者からの最重要課題の追加」をし、「尼崎市人権教育・啓発推進基本計画」(案)が出た時は、パブリックコメントをまとめて提出しました。

(2) 運営委員会の定例化
   毎月1回、参加団体の代表による、定例会の開催を実施してきた。

(3) ニュースの発行
   2ヵ月に1回を目標に「じんけんあまニュース」を発行し、毎回そのときの話題や出来事、参加団体の活動報告等を掲載しました。

(4) 「尼崎市人権教育・啓発推進懇話会」の傍聴「懇話会」の傍聴や議事録の公開を要求し、二回目からは人数制限はあるものの、傍聴が認められ、市の国連10年の動きを市民の目から見つめてきた。

(5) 資料の情報の提供
   他の自治体の「人権教育のための国連10年」行動計画書や個別課題(精神障害者、野宿生活者、在日外国人、沖縄、女性など)について新聞の切り取りやインターネットからの最新情報を提供した。

(6) 「JR尼崎駅など連続差別落書き事件」の報告
   あらゆる被差別の人たちに対し、連続して差別落書きを書いていた実行者について報告し、当事者ととしての行動提起をしている。

(7) 学習会
   呼びかけ発起人会の段階で部落解放・人権研究所所長の友永健三氏、準備委員会では、大阪大学の平澤安政氏の講演、結成大会では、尼崎の当事者団体のシンポジュウムを、第2回総会では、(財)世界人権問題研究センターの米田真澄氏の講演 第3回総会は、姫路工大の阿久津麻里子氏、第4回は、ヒューマンバンド「ひーと」によるライブ演奏、第5回総会は、「ヒユーライツ大阪」からジェフ・プランティリア氏の講演、また、運営委員会では、在日コリアン、障害者、沖縄、女性等の当事者からそれそれの抱える「現状と課題」を出してもらい、桃山学院大学の寺木伸明氏をゲストに「部落史の見直しを考える」のテーマで内部学習会を実施しました。

(8) プレゼンテーション教材の作成
   尼崎で当事者・市民・労働者等によるゆるやかな組織ができ、活動が開始されました。今まで個別に活動してきた団体が人権を基調に横のつながり生まれたことは画期的なことであった。

(9) 団体への呼びかけ
   新たな加入者への呼びかけを行ったり、「人権教育のための国連10年」兵庫県推進連絡会(「人権教育ひょうご」)や「人権教育のための国連10年」西宮推進連絡会(人権教育にしのみや)との交流会を持ち、お互いの活動報告会を開催しました。

(10) 活動の報告
   「第11回阪神地区部落解放研究集会」「部落解放研究第22回兵庫県集会」「自治労第28回地方自治研究集会」「自治研兵庫第4回平和・人権・環境を考えるつどい」などで活動報告をしていきます。

3. 提言作成で明らかになったこと

 『「ニューカマー」の「カマー」って朝鮮語かい?』『「DV」ってなんや?』『「CAP」ってなにするんや』『「コンフリクト」っわからん』これは、「人権教育のための国連10年」の提言書をまとめるとき、各事業団体から提出された提言の内容を検討するときに出た言葉です。このなかで、当事者と専門家の間で通用してきた言葉が普通の言葉としてまだまだ浸透していないこと、差別的状況が認知されていないこと。自分の差別はわかるが、他の差別ついて気づかない、理解できていないということを象徴している、知らないうちに差別をしてしまっていることにつながっています。

4. 提言の内容

 ① 「人権教育のための国連10年」の名称、内容を取り入れるべきである。
 ② 「懇話会」答申の中間まとめの段階で関係団体、市民からの意見聴取の場をつくること。
 ③ 尼崎市として特色のある「人権教育のための国連10年」を作ること。
 ④ 当事者の要求把握のため実態調査・人権白書をつくること。
 ⑤ 人権センターを作ること。
 ⑥ 人権の実現に影響力を持つ特別な立場にある人々の、人権教材カリキュラムを作ること。
 ⑦ 基本部分としての人権教育基本方針と個別分野ごとの基本方針を作ること。
 ⑧ 施策を推進するため学識経験者・関係機関、民間団体・当事者などからなる計画の推進体制(プロジェクトチーム等)を設置すること。
 ⑨ 尼崎市人権まちづくり条例をつくること。

5. 「基本計画」の評価

 「尼崎市人権教育・啓発推進基本計画」は、「人権教育のための国連10年」行動計画の期間と違い2001年度から2010年までの10年間となりました。国においては、2000年12月「人権教育・啓発推進法」が施行され、基本計画の策定が義務付けられました。「基本計画」を策定した地方自治体は当時としては珍しく、そのため、「基本計画」が貼り付けてある尼崎市のホームページにたくさんのアクセスがありました。

6. 「あまがさき人権まつり」の企画

 「人権教育あまがさき」では、「基本計画」の不十分な面だけを指摘するのではなく、自分達の手で人権を広げていくことも重要な課題でした。「基本計画」のサブタイトルは、「人権文化の息づくまち・あまがさきをめざして」が掲げられています。尼崎を「人権文化の息づくまち」にしていくためには、行政だけの力でなく、民間からのいきいきとした活力が必要です。そのために企画されたのが「あまがさき人権まつり」でした。「まつり」のサブタイトルを「市民の力で人権の花を咲かせよう!」とし、市民をはじめNPO、ボランティアグループなど様々の立場の人たちか゛あつまり実行委員会を立ち上げ、「まつり」の開催の企画、立案、開催とし、後援には、尼崎市、尼崎市教育委員会、尼崎市国際交流協会、協賛には、尼崎市人権・同和教育研究協議会、尼崎市人権啓発協会、尼崎市女性団体協議会が名を連ねています。ステージでは、和太鼓、エイサー、チャンゴ、バンド演奏、伝統盆おどり、朝鮮舞踊などがくりひろげられました。また、出店では、いろいろな料理や物産、フェアトレードの商品が販売されました。パネル展示では、環境問題や世界の人権問題など工夫をこらした内容になっています。

7. おわりに

 今、第二次「人権教育のための国連10年」行動計画が国連を通じて動きだしています。「人権教育あまがさき」では、本年度終わる「人権教育のための国連10年」の総括に向け、参加団体からの現状と課題をまとめあげ、「尼崎市人権教育・啓発推進本部」に新たな提言を提出することにしています。また、「あまがさき人権まつり‘04」では、「裁判と人権」をテーマに、冤罪や人権を救済する裁判制度のあり方を掘り下げ、その中で広く狭山差別裁判を訴えていくものです。


<参考資料>
「ひょうご部落解放2004/3、「人権教育のための国連10年」細見義博