【要請レポート】

広島県本部の「地対財特法」法期限切れ後の取り組み

広島県本部

1. はじめに

 広島県本部は各地域総支部・部評から部落解放推進委員を選出し、県本部内の部落の完全解放に向けての取り組みをしています。具体的には部落解放同盟広島県連合会と共闘を組み、①狭山再審要求・特別抗告審闘争勝利に向けた集会参加、学習会の取り組み、②2004部落解放・人権啓発講座に参加、③県本部主催の人権学習会、④部落解放・人権政策の確立を求める広島県民集会に参加をしています。今日の情勢は国家主義、全体主義が台頭する中、平和と人権、民主主義は、戦後かつてない危機にさらされています。
 部落問題をめぐっては、差別の現実を無視した「地対財特法」打ち切りに不況という経済情勢が国民生活を追い込む状況の中で、差別の実態である格差が拡大する方向にあります。意識の面では、「同和問題の取り組みはもう終った」との意識を国民や行政、教育関係者の中に蔓延させています。
 私たちは、このような現状を踏まえ、法が失効した2002年から、決意を新たに、「部落解放・人権政策の確立を求める集会」に参加し、差別の現実を踏まえ、市町村から県、県から国へと新たな部落解放・人権政策の確立を求めていくことを確認してきています。

2. 広島県本部の取り組み

(1) 自治労広島県本部は「部落の解放なくして、労働者の解放はない」「労働者の解放なくして、部落の解放はない」という立場に立って、部落解放同盟広島県連合会・広島県部落解放共闘会議と地域、県内で共闘をしてきています。そして、県本部は部落解放推進委員会を設置して、各地域総支部から推進委員を選出し、各単組への取り組みを行ってきました。1965年の同対審答申を受けて、1969年から特別措置法によって同和対策事業が行われました。1985年には特別措置法では部落問題の総合的・抜本的解決が図れないということで部落解放基本法制定運動が始まりました。運動は地方自治体・企業・宗教・労働組合の幅広い結集によって取り組みを展開してきました。しかし、今日、政府の人権行政をめぐる状況は、「地対財特法」期限切れ後は行政が一般施策に移行する状況になり、反動化しています。

(2) 2002年「地対財特法」法期限切れ後の取り組み調査結果からみると
  ① 各単組の推進委員会体制については、
   ア 推進委員会を設置して、取り組みをしている単組が78単組中、34単組。
   イ 推進委員会は未設置であるが、労働組合、共闘会議・部評段階での学習会の取り組みをしているところ、22単組です。
   ウ 機構等の見直しと団体交渉については住民課同和対策係から住民課人権対策係に機構見直しを行い、職員数が3人から1人に変更になっているところ等あり、「同和行政」が後退しています。団体交渉については管理運営事項で押し切られたり、交渉が出来なかったりしています。従来の「同和対策課」が縮小され、名称変更になっています。
   エ 予算について、ハード事業は継続するが新規事業はしない、又は、一般施策に移行している。
   オ 解放奨学資金は一般奨学資金に移行
   カ 子ども会指導員・生活指導員は継続しているが、人数の削減がされている。
   キ 広島県の教育は機会均等の理念により、1994年度から1998年度までの5年間に渡り、県教育委員会、学校現場の努力により、「定員内不合格者」を出さない取り組みを実現してきました。このことは結果として、高い進学率の全国順位と低い中途退学率を保つこととなりました。高校入学時における機会均等の保障が結果として、高い学習意欲を促すことになった証でありますが、1998年に県教育長の「定員内不合格を出さない学校は無責任だ」との発言により、定員内不合格が容認されてきました。高等学校の入り口で、特定の入学希望者を学校不適者と決め付け、位置付けるのは其の後の、大学進学率順位を下げ、中途退学率を急激に押し上げる「無責任」な結果と成っています。そこで、平和運動センター、部落解放同盟広島県連合会・自治労広島県本部、高教組、広教組、私教連で「豊かな教育と暮らしを確立する県民連合」を発足し、署名活動、定員内不合格に対する申し入れの取り組みをしています。<資料2>
   ク 平和・人権の取り組み状況をみると、原水爆禁止世界大会・非核平和行進は各単組が各地域から参加した取り組みを継続しています。そして、青年・女性を中心に各自治体を平和の灯のリレーをとうして、非核自治体宣言の取り組みをしてきました。人権の取り組みでは部落解放県政樹立広島県民集会に組合の参加と同時に、部落解放は「国民的課題である視点」で行政の参加が行われてきたが2002年以降、「地対財特法」期限切れ後は、行政からの参加はしなくなるという極めて、部落解放行政を後退していく状況がおきています。具体的には、広島県同和教育研究大会・解放こども会活動・社会教育が大きく後退しています。そして、元号法制化・国旗掲揚・君が代が自治体と教育現場に強行されています。その中で、組合として取り組みができる学習会「元号」を不使用などの取り組みをしているところです。

3. 終わりに

 1969年の「同和対策特別措置法(同対法)」施行以来、数次の特別措置法に基づいて行われてきた特別対策による解放行政は、県内のほとんどの単組で一般対策並びにハード面の終止、機構の改革、学習会の人権一般への移行等、大きくは「部落」「同和」という文言の消滅を図りながらの攻撃がかけられてきました。
 解放行政の枠組みの変化や本格的な地方自治が新しい時代を迎えている今日、地域住民に常に密着したさまざまなサービスに行政の責務として的確に応えていくためには、いかに創造性・主体性を発揮して問題解決を図っていくか、自治体労働者としての真価が問われていることを認識し、取り組みの強化を行っていかなければなりません。社会全体が右傾化するなかにあって、「身分と階級の統一的把握」という難しい言葉をより身近に理解しやすくするためにも、自治体労働者である自らの在り様を問い直し、身近に現存するあらゆる差別実態を見抜き、克服し、打破していく更なる運動の構築が必要です。そのために、県本部部落解放推進委員会は役割を果たしていかなければならないと考えます。

資料1

同和対策見直しについて

平成13(2001)年12月14日
広島県同和対策推進本部
(同和対策室)

 同和対策は、事実上一般対策の枠外に置かれてきた同和地区、同和関係者に対し、その差別の解消を図るため、特別に施策を講じる必要があったことから、昭和44年(1968)以降、特別措置法のもとで実施されてきたものである。「国においては、こうした特別措置法に基づく特別対策の実施により、生活環境の改善等、おおむねその目的を達成できる状況になったことから、平成13年度末をもって、特別対策を終了し、一般対策の中で、他の地域と同様の施策によって対応することとしている。広島県においても、国の方針に準じて対応するものとする。
 平成14年度(2002)以降は、これまで実施してきた同和対策事業の成果等を踏まえ、施策ニーズに対しては、地方公共団体の通常の施策の中で必要に応じ実施するものである。

Ⅰ 見直しに係る基本的事項
   「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」は、平成13年度末で失効し、国の同和対策事業は、特別対策から一般対策に移行する。 
   本県においてもこのような状況を踏まえ、次の基本的考え方により同和対策事業の見直しを行う。

【基本的考え方】
 1 国庫事業
   国の方針どおり実施する。
 2 県単独事業
 (1) 同和地区、同和関係者に対象を限定して実施する特別対策については、廃止する。
 (2) 事業の廃止に当たり、その性格上経過措置が必要なものについては、その措置を講じる。
 (3) 一般事業の中で同和対策関係事業として実施してきた事業についても(1)(2)と同様の視点で見直す。
 3 教育・啓発事業については、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づき策定する、人権教育・啓発に関する県の指針に基づき実施する。

【事業別の考え方】
 1 物的整備事業
   これまでの取り組みにより、住宅、道路等の物的な生活環境については一定の改善が進んだことから、平成13年度(2001)末をもって廃止する。今後は、既存の一般事業により実施する。
   なお、国庫補助事業の「地方改善施設整備事業」及び「小規模住宅地区等改良事業」については、「対象地域を要件としない一般対策事業として実施する」とした国の方針に従って、一般対策事業として実施する。
 2 個人給付・貸付事業
   国においては、同和関係者の生活は、平成5年(1993)同和地区実態把握等調査結果からみると、就労・教育等に一部課題を残しているものの、物的な生活環境をはじめ様々な面で存在していた格差が大きく改善されており、同和地区、同和関係者に対象を限定して実施する施策は終了するとされている。県においても同様の措置とする。
   なお、平成13年度(2001)末現在、償還中の同和対策修業資金支給事業」「広島県同和奨学金事業」の給付・貸付の対象者については、所定の修業年限の間、経過措置を講じる。
 3 事業費融資償還費等補助事業
   「地域改善対策高度化事業」については国の方針に従い廃止する。
   平成13年度末現在、償還中の「同和地区住宅改良促進費」「市町村同和対策事業債償還補助事業」「同和地区中小企業融資制度」「同和対策農林漁業振興資金利子補給補助事業」については、償還終了までの間、経過措置を講じる。
 4 人的配置事業等
   相談員、指導員等の特別対策としての人的配置事業等は、平成13年(2001)度末で廃止する。
   なお「相談活動支援事業」については、同和対策修業資金支給事業及び広島県同和奨学金事業の経過措置期間に合わせて、最大3年間の経過措置を講じる。
 5 団体補助事業
   各種団体に対する事業費補助金のうち、対象を主として同和地区、同和関係者に限定した事業については、廃止する。
 6 隣保間関係事業
   「隣保間」は平成9年度(1997)から社会福祉法上の社会福祉施設として一般対策事業に位置づけられており、「対象地域を要件としない一般対策として実施する」とした国の方針にしたがって、関係事業を含め一般対象事業として実施する。
 7 その他
 (1) 国庫事業
    「小規模事業活性化推進委託事業」及び「職業指導、職業紹介及び職業相談事業」は、国の直轄事業であり、国の方針では、一般対策事業として実施される。また、「小規模事業経営支援事業費補助金(一般対策移行分)」については、国の方針に従い、対象地域を限定しない一般対策事業として実施する。
 (2) 県単独事業
    「へき地巡回診療事業」「同和対策推進費(同和地区住民に対する就職支援事業等)」については、事業対象を同和地区、同和地区関係者に限定した事業であり、廃止する。

Ⅱ 見なおし結果

区 分
国庫補助事業 県単独事業
合  計
事業を廃止するもの

事業

事業

20

事業

28

  経過措置を講じないもの
14
19
経過措置を講じるもの
  個人給付・貸付事業
事業費融資償還費等補助事業
その他
 
一般対策として実施するもの
12
合  計
17
23
40

 

資料2
2000年8月9日

広島県教育委員会
 教育委員長  小笠原 道雄 様
 教育長     関  靖直 様

豊かな教育とくらしを確立する県民連合
議長 向井 高志

定員内不合格に関する申し入れ

 広島県では、1994年から1998年までの5年間にわたり、一人の定員内不合格者も出していませんでした。これは高校希望者全員入学の視点で、教育行政と現場教職員の双方が努力した結果です。また1995年には、「未就学者を出さない」という趣旨で選抜Ⅲが導入されました。
 ところが、1998年7月に着任した辰野元教育長の、定員内不合格を容認する方針の表明によって、1999年度入試で30名の定員内不合格者を出し、以降、2000年度入試では150名、2001年度入試では328名、2002年度入試では542名、2003年度入試では385名、そして、2004年度入試においては、578名という過去最悪の定員内不合格者数となり、2004年度は全日制本校だけでも1,029名分の空き定員を生じさせています。
 その結果、中学校卒業後の進路状況調査(県教育委員会)によると、中学校卒業後に進学も就職も決っていない進路未決定者は、1998年度の199人から1999年度には290名と急増し、2003年度には377名にまで膨れ上がっています。
 そもそも公立高校における入学定員は、「この人数までは高校進学を保障します」という、県行政による県民に対する公約と言えるものですから、県教育委員会・学校とも、それを違えることのないよう努力しなければなりません。加えて、合否の判定は各学校の責任で行われるものとはいえ、定員の決定は県行政(県教育委員会)が行うものですから、定員内不合格を出した学校に対してはその事情を確認し、指導すべきと考えます。その際、合否の判定内容については透明・公正・公平性が求められますから、県民の良識に耐えうるものとなるよう指導するとともに、詳細な情報公開の方針を出してください。
 高校準義務化とも言われる今日において、高校不合格の仕打ちは、受験生の心を深く傷つけ、生きる意欲をも喪失させることになりかねません。選抜Ⅰ、選抜Ⅱ、選抜Ⅲと受験したにもかかわらず、最後の選抜Ⅲにおいて定員内不合格になった生徒もいます。特に、選抜Ⅲにおける定員内不合格は、中学校卒業生のその後の進路に大きく影響し、進路未決定に直結する可能性の高いものです。
 以上のことを踏まえ、透明・公正・公平性の原則に基づく合否判定を行い、選抜Ⅰ、選抜Ⅱ、とりわけ高校進学を希望する生徒に対する就学保障の観点から実施される選抜Ⅲにおいて、定員内不合格者を出すことなく、憲法第26条(教育を受ける権利、教育の義務)や教育基本法第3条(教育の機会均等)の精神に基づき、希望者全員入学の選抜を実施するよう県立高等学校に対して指導を徹底することを強く要請します。

定員不合格者数・進路未決定者数の推移
 
99年度
00年度
01年度
02年度
03年度
04年度
選抜Ⅰ
3
9
11
42
61
77
選抜Ⅱ
19
81
191
293
218
350
選抜Ⅲ
8
60
126
207
106
151
合 計
30
150
328
542
385
578
学校数
6
20
40
44
53
55
学科・コース数
7
23
49
55
71
78
進路未決定者数
290
291
308
390
377