【自主レポート】

子供たちが安心して学校生活をおくれるために

群馬県本部/前橋市役所職員労働組合 天海 宏人

 前橋市職労・学校分会では、学校用務技士がどのように子供たちの学校生活に関わって行けるか、子供たちのために何ができるかを模索してきました。ひとつの結論として出たものが、子供たちが安心して学べる環境創りです。わたしたちはそのために具体的に何をしたらよいかを議論してきました。
 まず学校を運営していくうえで自分たちだけが考え実行しても、学校全体を見た場合、まとまりがつかなくなります。そこで教職員全体とコミュニケーションをとることからはじめました。いままで参加していなかった朝会や職員会議にも自分たちから積極的に参加することなどを、分会全体で取り組んできました。このことにより学校の一日の流れや長期的な行事計画など今まで以上に知ることができました。また会議で話を聞くうちに、今まで何も言わなかった教員が、気がつかなかったような問題点や改善すべき点を指摘したり、また逆に用務技士の意見も全体に浸透していきました。そうした取り組みをしていくうちに、用務技士で改善できることがいくつか挙がってきました。
 いくつか取り組んだ中で今回は、①ストーブガードの製作、②クロス貼り、③体育館の天井の補修および蛍光管の交換、④児童が使う机・椅子の修理、⑤校内危機管理体制の確立を順次報告したいと思います。

(1) 一つ目はストーブガード造りの取り組みです。前橋市の学校では冬季の暖房器具に主に灯油ストーブを使用しています。そのため、小学校などではストーブガードを設置しないと危険な状況が発生してしまいます。従来は市販のものを使用していましたが、見栄えはいいのですが、あまり丈夫とはいえず、元気な子供たちの前ではしばしば壊れることがありました。かつて1シーズンのうちに何回も用務技士が修理を行い使ってきましたが、元々が貧弱な造りのためあまり長持ちせず、すぐに買い替えなければならない状況でした。しかし1セット約2万円という高価なもので、学校には教室がたくさんあり予算的に多数買い換えるというわけにはいきませんでした。私たちは市教委と相談を行い、なんとかもっと丈夫で安価なものは無いか探しましたが残念ながら見つかりませんでした。そこで役員・技士長で相談を行い、「無いものは造ってしまおう」というわけで、ストーブガードの自主制作プロジェクトがスタートしました。
   はじめに「どのような物を作るか」の検討を行いました。毎シーズンの出し入れや補修を行っていましたので強度的に丈夫なものでしかも未使用の時は物置にしまっておくものなので、あまりかさばらないものが求められました。さらに財政的にも優しい安価なものを作るために検討が進みました。
   はじめに鋼材専門店に行き、ストーブガードに適した材料探しからはじめました。お金をかければいくらでも良い材料はありますが、できるだけ安価に作るために材料は絞られてきました。そしてコンクリートの下地に使う芯材を利用することに決まりました。次にその材料を使いどのようなものを作るかの詳細設計に取り掛かりました。いくつかの図面がひかれ、試作品の製作を行いました。共同作業で製作することが前提となるため、技術的にもあまり難易度が高くないよう、作業効率も良くなるように考慮し次々に手直しされていきました。また、よりいっそう作業がしやすくするために、製作に使う専用工具および治具の考案も行われ、いくつかの新開発の工具および治具が誕生しました。さらに品質の均一化のためや材料の無駄を防ぐため、細かい部品の製作については技士長らの手によって行われました。出来上がった部品をみると、まるで工業製品のように均一できれいに仕上がっており分会員一同で驚いた次第です。また、はじめは研修も兼ねて、技士長だけの手によりいくつかのストーブガードの製作を行い、製作手順のマニュアル化や注意点などの洗い出しなどを行いました。
   いよいよ夏休みに入り製作の日がやってきました。工具の数の関係から2グループに分かれ日程を変え製作を行いました。材料を切る人、曲げる人、運ぶ人、削る人、溶接をする人、補助をする人、それぞれがうまく役割分担をこなし次々にストーブガードが出来上がっていきました。最後に銀色の耐熱塗料で塗装を行い、たくさんのストーブガードが完成しました。これも入念に設計され製作工程のことも十分考慮した下準備の良さによるものかと思いました。
   完成品は学校関係者や市教委にも披露され、大変よいものができたと評価を受けています。材料費も市販品の約10分の1となり丈夫で安価なストーブガードを造ることに成功しました。これにより今まで予算の都合でストーブガードが設置できなかった教室まで行き渡らせることができ、冬季のストーブによるやけど事故から子供たちを守ることができるようになりました。

(2) 二つ目は教室や廊下の壁に張ってある壁紙です。前橋市の学校は、教室内の壁と廊下の教室側の壁はすべてクロス張り仕様となっており普段、児童・生徒の描いた絵や書道の作品・ポスター・壁新聞などの展示をするのに大変便利に使われています。しかし、画鋲を何回も抜き差ししているうちに引っ掛けて破れてしまったりします。破れが小さなうちは用務技士がのりをつけて補修していましたが、経年変化でひび割れてきたり、生徒のいたずらで大きくはがされてしまうこともたまにありました。全面張替えは、使用されているクロスが裏面布付きの厚く重い物であるため、その学校の用務技士だけでは困難で、また業者に依頼すればかなり費用がかかってしまいます。そのまま放置すると見栄えが悪いばかりでなく、環境の乱れは心の乱れで子供たちにも悪影響となります。そこで技士長を中心とした共同作業により壁紙の張り替えを行う事を提案しました。また切り売りで買うと単価が上がってしまう壁紙用クロスも100メーターひと巻きで買うとぐっと安く買えました。実際の作業は技士長の指揮のもと数名でクロスを持ち上げ一気に貼り付けてしまい手早くしわを伸ばすという手順によりスピーディに仕上げることができました。仕上がりは、さすがにプロ並というわけにはいきませんでしたが、既に何回も作業を行っておりかなり腕も上達してきました。壁紙の張り替え前と後の見た目の違いは歴然としており、作業を行った学校では校長をはじめ多くの先生方からもたいへん喜ばれています。

(3) 三つ目はローリングタワーを使った体育館の天井の補修および蛍光管の取り替え作業です。従来は業者に頼み修繕を行っていましたが、櫓を組んでの高所作業となるため、かなり経費がかかっていました。そのため依頼は年一回と限られており業者の作業を行った後壊れた天井や切れた蛍光灯が修理されるのは約1年後となっていました。学校の体育館は社会教育の場として、地域の人たちが仕事を終えた後の活動の場としてあらゆるスポーツを楽しんだりまた各種大会にむけ練習をするために貸し出されています。そして小学校の体育館は若干天井が低く、また天井の材質が石膏ボードなので、バレーボールなどでたまに天井を壊してしまうのは仕方の無いこととは思いますが、その後早急に修理をしないと、石膏ボードの破片が落ちてきたりして危険であり、また地域の行事などを行う時も見栄えも悪いままとなります。また蛍光灯が切れているとその周辺が暗くなり、バドミントンのシャトルが見えなかったりして運動するのに不都合が生じてしまうだけではなく怪我の原因ともなり大変危険でした。そのため特に夜間使用する地域の人たちにはいままで申し訳ない思いでいっぱいでした。
   ローリングタワーを導入したいきさつですが、たまたま地区公民館のホールの蛍光灯が切れているのを改善するよう市民要望が出たとき、市当局は予算がないので改善はできないという回答でした。その話を聞いた組合では、櫓さえあれば自分たちで交換できると申し出たところ、そのやる気に感銘した市長の特別決済により公民館にローリングタワーが購入できました。そこで、せっかく購入してもらったものなので有効活用をするという意味で学校の体育館での作業にも使うことにしました。
   ローリングタワーは3段で、高さが5メートル未満の監督責任者が不用のタイプですが、それでも組みあがった上段の高さが4メートル50センチとなるため大変危険な作業となります。そこでまず技士長だけで集まり、タワーの組み方や安全に作業するための研修を行いました。そして学校用務技士全員を集め技士長らが実地研修を行いました。
   いまではどこの学校から依頼がきても短い期間で修理が完了できる体制が整備され、市教委・学校関係者また利用する地域の人たちからも評価されています。

(4) 四つ目は児童・生徒が使う教室にある机と椅子の修理です。いままでも溶接のはずれなどは随時用務技士が修理を行っていましたが、机・椅子が多少壊れても報告しない児童・生徒が多く、よほど使えなくならない限り修理依頼はほとんどありませんでした。毎年、夏季休業に入るまえに、教室内の机・椅子のチェックを行い、壊れているものを終業式の日に玄関前に集めておくと業者が取りに来て修理して持ってくる、という流れでした。しかし修理費用がかなりの高額となっていたり、修理してくれるのは特定のメーカーの製品だけというのも問題でした。そのため修理してもらえないメーカーのものは用務技士が修理を行っていましたが、机・椅子のパイプは薄くこれを溶接するには一定の技術が必要でした。そこで、どうせ修理するならすべて自分たちで行うことを提案しました。また技士長を中心とした共同作業で行うことで技術面をカバーすることができます。また従来行っていた溶接のはがれの補修に加え、ゴムキャップの取り替えや机の天板や椅子の背板・座板の取り替えも手がけることとしました。これにより高額な修理費は材料費のみとなり大幅な経費の削減ができました。さらに用務技士の溶接技術の向上に加え、机・椅子の補修部品も準備できたので、いままで子供たちに不自由な思いをさせていたことが大幅に解消されました。これにより子供たちは嫌な思いをせず学業に専念できるようになったと思います。

(5) 最後に危機管理体制の確立です。近年全国で学校に不審者が侵入する事件が多発しており、中には児童・生徒を殺傷するというような大変凶悪な犯罪まで起きています。この問題に対処するために自分たちで何が出来るかを話し合いました。まず、子供たちが登校する時間帯に校門に立ち、不審者が侵入するのを防ぐ取り組みを始めました。さらに朝会や職員会議など教職員が子供たちに目がとどかない時間帯を中心に校地内の巡回を行い、常に不審者への監視を行う取り組みも行っています。そして子供たちが下校時にも周囲に目を配り安全確保に努めています。さらに警察関係から講師を招き安全対策について講義を行ってもらい、不審者にどう対応したらよいかなどをケースごとに学習しています。
   以上のような取り組みは、学校関係者・地域・保護者からも評価いただいており、PTAが行っている校外の通学路などの巡視と一体となって子供たちの安全確保に効果を挙げています。
   また仕事を離れボランティアになりますが、市全体で取り組み始めた「街の安全をひろげ隊」による市内パトロールにも積極的に参加し広く社会貢献を行っていると自負しています。

 以上5点取り組みを報告いたしましたが、子供たちが安心して学校生活が過ごせるためにこれ以外にもたくさんの取り組みを行っています。この取り組みにより、前橋の子供たちが少しでも不安を持たず、充実した学校生活が送れることを願ってやみません。