【自主レポート】

地域住民と労働組合との協働
~松阪鈴踊り~

三重県本部/松阪市職員組合

1. はじめに

 私たち松阪市職員組合では、7月に開催される松阪三大まつりのひとつ「松阪祇園まつり」において、最終日恒例の「松阪鈴おどり」というイベントに、ボランティアスタッフとして毎年参加してきている。
 この活動は、市役所に労働組合があり、この組合がどの様な活動をしているかを地域住民の皆さんに理解・認知していただけるものとして、市職自治研活動の一環として取り組んでいるものである。
 同時にこの活動は、公務でしか接点のない商店街・個人事業主と連携をとり、町おこし・ふるさとづくり、を同じ視点から協働できる取り組みとも考えている。
 この祭り自体TMO事業として自主運営されており、住民主体のまちづくり活動として注目すべきものであるが、ここでは、このイベントへ私たち市職員組合がどの様に関わりを持ってきたかを紹介してみたい。

2. 「松阪鈴おどり」との出会い

 松阪鈴おどりは、2001年、松阪出身の国学者・本居宣長の没後200年を記念して取り組まれた「宣長さん200年」行事の夏の主要イベントとして誕生した。企画運営は、松阪商工会議所青年部が実行委員会を組織し行っている。
 もともとは、「松阪祇園まつり」の宵宮には、三社(松阪神社・八雲神社・御厨神社)のみこしが勇壮に練りだすものの、翌日曜日には大掛かりなイベントは実施されていなかった。そこで、この「松阪祇園まつり」の日曜日を利用して、「宣長さん200年」に合わせて「1,000人踊りをやってみたい」という企画会議での提案から始まったものである。
 2001年初旬、この企画が進む中、市職事務所に商工会議所のスタッフが訪れ、中心市街地で1,000人規模の踊り手が一斉に踊る際、相当数の警備が必要となったことから、ぜひこのパートをボランティアでお願いしたいとのことであった。私たちとしては、商工会議所をはじめ、様々な団体がこの企画にボランティアとして参加していることに感銘する中で、市職員組合の自治研活動として取り組むこととした次第であった。

3. 市職の位置づけ

 市職はあくまで裏方に徹することとした。行政がこのような企画に公務で参加した場合、事務局は行政が担い、形ばかりの実行委員会を組織して、細部にわたっては市職員が行うことがしばしばである。また、逆に市職員が形式的な参加をした場合、「役所の職員」という目で常に見られ、その仕事ぶりの評価は決して高くない。これは、市民からみれば市職員の参加は公務の一環という基準で判断されることが多いからである。
 そこで、「松阪鈴おどり」の実行委員会の方々には、あくまで労働組合の組合員として参加をするものであり、「市職員として参加するものではない。」ということを十分認識していただくことからスタートさせた。
 そして、要請を受けた数が100人、これについては職場からの動員という手段はとらず、組合員に直接お願いし、スタッフを集めることとし、結果的には趣旨に賛同する組合員100人が集まってくれたものである。
 当初このスタッフ集めについては、本当にボランティアとしてどれだけの組合員が強制でなく任意で集まってくれるのか、すなわちこのイベントへの参加趣旨をどれだけ理解してもらえるのか、といった心配を抱いたものであったが、意外にも組合員、特に青年部層や現評層を中心にした組合員が快く了解して引き受けてくれたことは、執行部として大きな喜びであった。
 これは、組合員として、市職員として、例えば福祉や環境や都市計画などの専門性を有する分野での市民との協働というものでなく、祭りという分野が、誰も気軽に参加しやすいものであり、市民との協働が叫ばれる今日にあって、うまく組合員の心を掴んだのであろうと考えている。
 結果的には、祭りへの参加という形による市民との協働への呼びかけが、組合員の秘めたエネルギーに火をつけることになったのである。

4. まつりの当日

 当日、踊り手の数は2000人を超え、詰めかけた大勢の見物客と1つになって、「松阪鈴おどり」で中心市街地は大賑わいだった。この中で、踊り手と見物客が適度な距離を保って、踊り手の集団がスムースに行進できるよう他のボランティアスタッフと協力し、最後のフィナーレを迎えた。
 まつりの終了後、踊り手、スタッフ、また一部見物客らで会場周辺の清掃作業を30分程度行った。
 暑い中でのイベントで、全員が汗だくになっての終了であったが、参加者それぞれ疲労の中に充実感を味わっている様子が、その笑顔から伝わってきたものであった。それぞれの持ち場、役割を完全にやり遂げた充実感である。

5. これからの活動

 このまつりで、「市職員に対する認識が変わった」とある商工会議所のスタッフに言われた。過去、行政と商工会議所は、様々なイベントを相協力して実施してきたのも事実だが、この「松阪鈴おどり」に関しては今までにない一体感があったという。
 行政という立場で参加した場合、どうしても住民との距離がある。しかしながら、労働組合の組合員という立場であれば、必ずしも同じとはならないかもしれないが、極めて近い立場で接することができる。"仕事"ではないからだ。自らの営利を求めるのではなく、地域づくりの活動という同じ目的で活動できたからではないか。
 労働組合の活躍の場は、時代とともに移り変わっている。今必要なことは、住民が共感できる活動を行うことである。どんどん外に出て活動し、地域住民とともに行動し、お互いを理解する。このことが、地域活性化の核となりその輪が広がってくるのではないか。
 その際、企画の中心にいることにこだわるのではなく、できることをしっかりやる。そして継続することが大切である。
 今年も7月18日に「松阪鈴おどり」が催されるが、昨年より松阪地協全体の活動を位置づけ、地協傘下の労組もスタッフとして参加をするようになった。これからも地域住民と接点の持てるこの活動を継続し、地域づくりの一端を担っていきたいと考えている。
 最後に、組合離れが叫ばれ、労働運動が難しくなってきているといわれる時代にあって、今後の組合活動の知恵はできるだけ地域に求めていくことの重要性を、こうした協働事業の展開を通じて、今改めて再認識しているところである。