【要請レポート】
長崎における平和運動
― 「『戦争法』に反対する市民の会」の活動を通して ―
長崎県本部/長崎県職員組合 崎山 昇
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1. はじめに
いま日本は「戦時」である。日本は自衛隊をイラクへ派兵し、ブッシュ米大統領とともに対テロ戦争を戦っている。「戦時」下の運動をどうつくっていくのか。日本を「戦争しない国」から「戦争ができる国」へ、さらに「戦争する国」へと変貌させようとする流れ、そして憲法9条を改悪しようとする流れを止める運動をどう構築できるのか。長崎における「『戦争法』に反対する市民の会」の運動を通して考えてみたい。
2. 私の思い
私は原爆被爆二世である。被爆二世として、再び戦争犠牲者、被爆者をつくらないためにとの思いから活動を続けている。これまで、原爆投下を肯定する在日韓国人被爆者、原爆で解放されたと思っているアジアの人々、再び日本が戦争しないように日本国内でもっと頑張れと指摘する在韓被爆者、日本は再び侵略戦争をしないでほしいと訴える南京大虐殺幸存者(生存者)などと出会った。
私たちが世界に核廃絶と戦争反対を訴えるとき、過去の侵略戦争による加害責任を認識し、再び戦争をしないと決意(憲法9条)しなければ理解が得られない。過去の侵略戦争の被害者の痛みを心に刻み、憲法9条を守るために、日本を再び「戦争する国」にしないために献身したいと思っている。
3. 「戦争ができる国」にしないための運動の始まり
(1) 新ガイドラインを許さない県民の会
1998年4月、周辺事態法案をはじめ新ガイドライン関連法が閣議決定され、国会に上程された。これほど重要な法案が、7月の参議院選挙では全く争点にならなかった。このような形で日本が再び戦争への道へ向かおうとしていることに、多くの人々が危機感とともに苛立ちを募らせていた。選挙後、新ガイドラインに反対する運動のネットワークができないか準備を重ね、9月7日、労働団体、被爆者団体、市民運動団体、平和運動団体、個人が参加して、「新ガイドラインと有事立法に反対し、長崎の空港や港湾など県や市が管理する施設の軍事利用を許さない県民の会」を発足した。いわゆる「新ガイドラインを許さない県民の会」である。
「県民の会」では、地元長崎新聞に見開き2面の意見広告「私たちは新ガイドラインと有事立法の成立に反対します」「県や市が管理する施設を軍事利用させないことを求めます」を掲載。また、長崎市一番の繁華街浜の町の鐵橋で2週間に1回の街頭活動、「私たちは有事立法に反対します」との内閣総理大臣や国会議長宛の署名と「長崎の空港や港湾を軍事利用させないでください」との知事宛署名を集め、国会や知事への要請行動など、新ガイドライン関連法の成立を止めるための取り組みを行ったが、成立を止めるには至らなかった。
翌99年には新ガイドライン関連法、地方分権一括法、国旗国歌法、憲法調査会設置法、組織的犯罪対策3法(いわゆる盗聴法など)が成立。住民基本台帳法「改正」も行われ、この年は「新たな戦前の始まり」といわれた。
(2) テロにも戦争にも反対する(長崎)市民の会
2001年9月11日の同時多発テロ以降、アメリカのブッシュ大統領はアフガニスタン、タリバーン政権への報復攻撃を企てていた。10月5日、アメリカの軍事報復とそれに対する日本の支援、新法成立による自衛隊の海外派兵を止めることを目的に、個人参加の「市民の会」を結成した。8日にはアフガニスタンに対する米・英の報復攻撃が始った。29日には米軍支援を目的としたテロ対策特別措置法が成立し、11月25日には自衛隊がインド洋へと出発した。私たちは、街頭署名、市民集会、抗議行動を連日集中的に行ったが、止めることはできなかった。
4. 「戦争法」に反対する市民の会の活動
(1) 結 成
「市民の会」は、2002年3月4日、小泉内閣が有事関連法案を通常国会に提出しようとしていた時期、法案の成立を止めることを目的に結成された。個人参加の会で現在の会員数は105人。現在も活動している。
(2) 主な活動
① 有事法制を止めるために(第1期:結成~2002年12月)
・ 3/ 9~ 7/末、10/中旬~
有事法制に反対する街頭署名活動(4/16閣議決定・国会提出以降週1回街頭行動)
・Q&A方式のマンガパネル、「有事法制(戦争法)に反対します」ステッカー
・集会参加:「いきいき憲法フェスタ」
「STOP!有事法制(戦争法)県民大集会」
「有事3法案を廃案へ九州ブロック総決起集会」
・ 6/ 2 「有事法制(戦争法)に反対する市民大集会」とピースパレード
93団体が賛同、2,000人余参加、全国TV放映
・ 6/ 6 長崎県知事に申し入れ「有事関連3法案に関する質問と申し入れ」
・ 8/ 5 シンポジウム「働く場から見た有事法制」in ピースウィーク
・10/27 「国民保護法制」学習会
・11/23 講演会「アメリカのイラク攻撃と有事法制」(自治研センターとの共催)
・12/ 1 「アメリカのイラク戦争・有事法制(戦争法)に反対する市民大集会 in NAGASAKI」とピースパレード 139団体が賛同 約1,000人参加
② イラク戦争に反対して(第2期:2003年1月~4月5日)
イラク戦争反対に軸をおいた活動
・ 1/12~2/末 毎週街頭ハガキ行動「拝啓ブッシュ大統領様イラクへの戦争をやめてください」
・ 2/16 イラク戦争反対の国際共同行動に呼応し、「ピースライブ」全国TV放映
・ 3/ 8 世界同時行動「WORLD PEACE NOW」に呼応し、座り込みとハガキ行動
・ 3/18 ブッシュ大統領がイラクへ最後通牒。JR長崎駅前高架広場で座り込み
・ 3/20 イラク戦争開始。原爆中心地公園でピースキャンドル(戦争反対と犠牲者の追悼)
・ 3/21 座り込み、イラク戦争中止を求めるブッシュ大統領宛の街頭ハガキ行動
その後、他のグループとも合流しピースパレード「戦争反対と攻撃中止を訴え」
・ 4/ 5 世界同時行動「WORLD PEACE NOW」に呼応し「イラク戦争の即時中止を! 4/5WORLD PEACE NOW 長崎集会」とピースパレード 約700人
③ 再び有事法制を止めるために(第3期:2003年4月19日~6月6日)
通常国会で4月当初から有事法制の審議入り
・ 4/19~ 小泉首相への街頭ハガキ行動「有事法制の撤回を求めます」(毎週)、街頭ウォーク
・ 5/ 3 学習会「有事法制を止めるために」
・ 5/11 「止めよう!有事法制(戦争法)市民大集会」及びピースパレード 約700人
・ 5/15 有事関連3法案が衆議院本会議を通過 9割の国会議員が賛成 抗議集会
・ 5/25 市民集会とピースパレード
「有事法制廃案!四十八時間ハンガーストライキ」に参加
・ 6/ 6 有事関連3法案が参議院本会議で可決成立
爆心地公園で抗議集会と「憲法9条のお葬式」
④ 止めよう!イラクへの自衛隊派兵(第4期:2003年6月13日~2004年3月31日)
・ 6/13 有事関連3法案が施行、イラク特措法が閣議決定、国会上程
・ 6/15 学習会「イラクへの自衛隊派兵を考える集い」
・ 6/21、28 小泉首相、民主党菅代表宛「イラク特措法の廃案を求める」街頭大型ハガキ行動
・ 7/ 4 与党の賛成多数で衆議院通過
・ 7/ 5 衆議院通過への抗議と法案の廃案を求める小泉首相宛街頭大型ハガキ行動
・ 7/13、20 「イラクへの自衛隊派兵に賛成?反対?市民投票」
派兵反対758票(約86%)、賛成41票(約5%)、わからない79票(約9%)
・ 7/26 参議院本会議で可決成立、爆心地公園で抗議集会
・ 8/ 2 シンポジウム「反テロ戦争の時代」in ピースウィーク
・ 9/27 国際共同行動に呼応し自衛隊派兵反対の訴えとチラシ配布
・10/25 「10・25 ワールド ピース パレード ―止めよう!イラクへの自衛隊派兵―」と題して市民集会とパレード 集会参加約70人 パレード参加約50人
・11/末 日本人外交官2人がイラクで殺害
・12/ 6、14 街頭ハガキ行動「拝啓小泉首相様 イラクへの自衛隊派兵の中止を求めます!」
・12/19 石破防衛庁長官が航空自衛隊先遣隊に派遣命令。JR長崎駅前高架広場で抗議集会
・12/22 爆心地公園で抗議及び派兵中止を求めピースキャンドル
・12/26 空自先遣隊20人が出発、みぞれ混じりの冷たい雨の中抗議集会
・ 1/ 1 平和公園で「平和な2004年を求める正月座り込み」に参加
・ 1/11 市民会館前で「止めよう!イラクへの自衛隊派兵」長崎市民集会とピースパレード 約400人参加 イラクへの自衛隊派兵反対の意思表示「白いリボン」を提案
・ 1/16 陸自先遣隊約30人が出発。爆心地公園でピースキャンドル
・ 1/18、1/25、2/1 浜の町アーケード大丸前で「広がれ!白いリボン」街頭行動
・ 2/ 3 陸自本体第1陣約90人出発。爆心地公園でピースキャンドル
・ 2/15、2/22、2/29、3/7、3/14 「広がれ!白いリボン」街頭行動
* 2/15 「2.15 イラク派兵に異議あり 声をあげよう!長崎集会」に参加
* 2/18 WORLD PEACE NOW 3.20 第1回実行委員会
* 3/20 WORLD PEACE NOW 3.20 ナガサキ
~世界の人々とともに~ 終わらせようイラク占領! 撤退させよう自衛隊!
・ 3/21 陸自本体主力部隊第1陣140人出発。平和公園でピースキャンドル
* 3/22 講演会
「長崎出身のフリージャーナリスト・常岡浩介がみた イラクの今と現代の戦争」
・ 3/27 天木直人講演会「立ち上がろう、自立した平和外交に向けて」
長崎県地方自治研究センターと共催(結成2周年特別企画)
・ 3/31 陸自本隊主力部隊第2陣出発。平和公園でピースキャンドル
⑤ 有事関連法案の成立を止める、イラクからの自衛隊の撤退を求める(第5期:2004年4月~)
・ 4/ 6 「有事関連7法案」を考える学習会
・ 4/ 8 日本人3人のイラク拘束事件
・ 4/10 拘束された3人の救出を求め小泉首相に「自衛隊の即時撤退を求める」街頭ハガキ行動
・ 4/18 有事法制に反対する長崎県連絡会と街頭ハガキ行動
・ 5/ 1 学習会「イラク戦争、有事法制、憲法改悪 いま、何をなすべきか ─ 小泉政権下での今後の運動を考える ─」
・ 6/14 国会で有事関連7法案が成立。JR長崎駅前高架広場で抗議集会
* 6/20 講演会「安田純平さんナガサキへ イラク人質事件を語る 拘束の背景とイラクの現状」
・ 8/ 4 シンポジウム「日本は『戦争する国』になるのか」in ピースウィーク
(3) 活動の主な特徴
① 個人が個人の責任で参加するスタイル。代表は置いていない。事務局会議で活動について具体的なことを決めているが、そのとき出席した者が事務局員である。
② 集会やパレードを企画するにあたり、多くの団体、個人が参加できるように市民の会が主催し、広く賛同を募り参加を呼びかけるスタイルをとってきた。
③ 街頭に立ち市民に呼びかける活動を行ってきた。そのときどきの市民の反応が伝わってくる。
④ 幅広く団体や個人に参加してもらえるようにいろいろな企画を試みた。
5. ワールド・ピース・ナウ・ナガサキの結成 ― 新たな段階へ ―
① 団体も個人も参加できる実行委員会により運営している。
② 一般の市民が参加できるような企画・内容を試行錯誤しながら検討している。
③ これまでの活動
* 2/18 WORLD PEACE NOW 3・20 第1回実行委員会
* 3/20 WORLD PEACE NOW 3・20 ナガサキ
~世界の人々とともに~ 終わらせようイラク占領! 撤退させよう自衛隊!
* 3/22 講演会「長崎出身のフリージャーナリスト・常岡浩介がみた イラクの今と現代の戦争」
* 6/20 講演会「安田純平さんナガサキへ イラク人質事件を語る 拘束の背景とイラクの現状」
6. 今後の課題
(1) 一般の市民、今の状況にあって何か行動しなければと思っている人、今は無関心な若者たち、今は政治に関心がない人々の心を引きつけ、きっかけをつくる企画をどうつくるか。また、そういう人人とどうつながっていくか。
(2) 被爆地ナガサキから発信することには大きな意味がある。被爆地ナガサキでは若い世代の運動が育っている。長崎における平和教育と平和運動の成果である。若い世代が運動できるように私たちがいかに頑張れるか。
(3) 戦争を知る者こそ戦争に反対するといわれる。戦争の真実をどう知らせるか。被害者意識だけではなく、過去の侵略戦争に対する加害責任を認識した上で、日本を再び侵略戦争をする国にしないという思いにつなげられるか。いま日本はアフガニスタン戦争やイラク戦争に加担している。また、先進諸国の一員として途上国に対する構造的暴力の加害者となっている。そのような認識に立つことができるようになれるか。アジアや世界の人々と連帯した運動ができるか。
(4) 運動が政治につながらない。運動とつながる新たな政治的パワーをつくれるか。
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