【自主レポート】

自治体の独自キャラクターによる広報の効果について
― テレビ広報番組 リサイクル戦隊「ワケルンジャー」 ―

福井県本部/自治労福井市職員労働組合 山田 克郎

1. はじめに

(1) ごみの新分別
   福井市のごみ排出量は、1997年度以降増加を続け、2001年度には、ついに10万トンを超え、過去最高を記録した。実に、市民一人が一日あたり、1,106グラムのごみを排出していることになる。
   そのため第五次福井市総合計画(2002年度~2011年度)では、「資源循環型社会の仕組みをつくる」という施策の中で、目標値として、ごみの排出量を753グラム、ごみのリサイクル率を31%(2011年度)とすることを掲げ、その施策の一つとして、2003年4月1日から、容器包装リサイクル法に基づき、「プラスチック製容器包装」「紙製容器(空き箱)」「ダンボール」の3つの分別収集を新たに始めた。

(2) 広報活動
   新分別の導入にあたって、担当の市民生活部環境事務所清掃清美課では、2002年末から、各地区での説明会の開催や、リーフレット・パンフレットの各戸配付などの周知・啓発活動を行い、万全を期していた。
   また、市長室広報広聴課でも、広報紙での特集、テレビ広報番組での放送など、広報媒体を通じて市民にPRを行ってきた。
   しかし、ごみの資源化と減量化を目的とした新分別について、市民の関心は非常に高いものの、理解がどれだけ進んでいるか分からず、もっとインパクトのある方法で、できるだけ多くの人に「ごみの減量化・資源化の大切さやごみ分別の必要性」を分かりやすく広報できないかと、2003年2月頃、広報広聴課内で話題に上がっていた。

(3) 「リサイクル戦隊ワケルンジャー」の誕生
   それではどうしたら効果的にかつインパクトのある広報できるのかと、いろいろな雑談から始まり、時には退庁後、酒を飲みながら語ったりするなど、職員同士が話し合う中で、子どもたちをターゲットにして、そこから保護者、地域へ分別の大切さを広げようという考え方が生まれた。
   そのためには、こどもたちに人気の戦隊もののヒーローをキャラクターにして、テレビ番組を制作することにいたった。
   特撮ドラマ仕立てのテレビ広報番組「リサイクル戦隊ワケルンジャー」の企画・制作が、ここに始まったわけである。
   番組の内容は、ごみ減量化と資源化の取り組みを支え、さらに発展させようと戦う5人の勇者「ワケルンジャー」が、新分別を邪魔するごみから生まれた怪獣「ゴミンガー」を倒すというものだ。
   特別な予算措置もない中で、特撮ドラマ仕立ての番組制作ができるのか、心配もあったが、企画や台本作成はもとより、職員が自ら出演し、衣装も手作りでコスト削減を図りながら、ようやく2003年4月2日の放送にこぎ着けた。

2. ワケルンジャーの制作

 リサイクル戦隊「ワケルンジャー」のテレビ番組をつくることは、当初から新分別の広報番組として予定されていたものではなく、福井ケーブルテレビ(FCTV)の行政チャンネル(ふくチャンネル29)で放送している「ふくい@見聞録」(福井の文化と風土などを紹介する15分番組)の特別企画番組して、制作することになった。
 本来外部委託すれば、数百万はかかるものを、通常の番組制作委託費の2本分(40万弱)と若干の予算流用(10万強)を合わせた約50万円で制作するしかなかった。
 したがって、企画、脚本はもとより主題歌の製作、衣装の準備、そして出演者などすべてを職員が行った。
 さて、テレビ広報番組では、これまでも職員が出演して新設体育館など施設の紹介番組などを制作した経験はあったが、今回ほど徹底したドラマ仕立て、しかも「戦隊ヒーロー」ものの番組は初めてであった。
 「行政がこんな番組をつくっていいの」という批判があるのではないかとの危惧もあったが、これまでの行政のパターンを引きずっていては、ほんとうに市民にインパクトのある番組はつくれないとの職員の強い思いもあり、今までにない、おそらく全国的にも初めてと思われる自治体広報番組を放送することとなった。
 しかし、このことが後で述べるとおり大きな反響を呼ぶことになったのである。

【制作内訳】
・ワケルンジャーの5人の衣装代:約10万円
 ツナギの作業着(最近はカラフルなっており、5色揃えられた)、ヘルメット(さすがに5色なく、特別発注した)、その他(白ゴム長、手袋、白い布、蛍光テープ、ベルトなど)
・ゴミンガーの衣装代:0円
 農業用の黒い網目の生地を職員がカンパ、美術館職員の協力
・撮影日数:のべ7日間
 主に土日に撮影し、振り替えや時間外手当で対応
・出演者
 ワケルグリーン(FCTVのレポーター)、ワケルピンク(アマチュア劇団員)及びゴミンガーに襲われる守衛(印刷会社の営業マン)以外は、全て職員が担当

3. ワケルンジャーの人気

 放送をはじめると、全く予想していなかった反響が、市民や他自治体だけでなく多方面から寄せられた。特にマスコミからの取材は、地元の新聞、放送局はもとより、全国ネットのワイドショーやスポーツ新聞などで紹介されるなど、行政の取り組みとしては考えられない反響となった。
 また、番組を見た子どもやその親から多くの感想が寄せられるようになり、番組制作の意図であった「子どもやその親に、ごみ分別に対する関心を持ってもらう」ということでは、一定の成果を感じたが、その後の番組に対する反響の大きさは、単に番組を見た子どもたちから生ずるであろう範囲を大きく超えたものとなった。
 マスコミなど、全国的に反響を呼んだのは、
① 環境問題の番組
② 行政がゴレンジャーの流れをくむキャラクターをつくって番組を制作
③ 職員の手作り・出演により最小限の費用で最大限の効果
この3つがキーワードだが、反響が大きくなった理由を列挙すると、次のようなものが考えられる。
① 番組の制作中から、市政記者(広報広聴課の隣にクラブ室がある)が非常に興味を持ち始め、地元紙が撮影現場などを取材し、大きく報道した。
② 予算の面から職員の手作り感が随所にみられる仕上がりとなったが、予想以上に戦隊ヒーローものとしての完成度が高く、小さな子どもたちの反応が非常によかった。したがって、番組への批判は、隊長の台詞が棒読みであったということ以外にはほとんどなかった。
③ 子どもたちの反応はそのまま親たちの番組への評価に反映し、口コミでの広がりがあった。市民は、地元キャラクターを待っていたのかも知れない。
朝日新聞「青鉛筆」
④ 広報担当の職員が、自らワケルンジャーやゴミンガーに扮していることが「戦隊ヒーロー」ものでありながら「行政の広報番組」としてのアイデンティティーを失うことがなかったのが、いい結果をもたらした。
⑤ 朝日新聞の話題のコーナー「青鉛筆」に、福井支局の市政記者が試しに本社へ記事を送ったところ、早々と掲載された。また、共同通信も記事を発信することになった。朝日新聞、サンケイスポーツ、東京新聞等々で掲載されたことにより、全国からの問い合わせが一気に増えてきた。インターネットのウェブサイト「ZAKZAK」などで掲載されたことも大きく影響した。
⑥ ワケルンジャーのホームページへのアクセス件数も仙台市の「ワケルくん」には遠く及ばないが、約1月半で20,000件を突破した。(04.7.1現在、99,556件)
 ※ワケルンジャーホームページ
 (http://www.city.fukui.fukui.jp/kohou/wakeru.html)
 
  また、是非番組を見たいとの問い合わせが、市内外から多く寄せられた。そのためビデオを100本作製し、各公民館へ配布するとともに、貸し出しの依頼に対応することとした。
 2003年5月に入ってからは、全国ネットのテレビ局からの問い合わせや取材が急に増えてきた。取材のポイントは「行政が“戦隊ヒーロー”ものの番組をなぜつくったのか」「戦隊ヒーローは誰なのか」「この番組によってごみの分別は進んだのか」「職員がこうしたヒーローを演じた感想は」といったもので、市役所で普通に仕事をしている職員が、突如、戦隊ヒーローに変身するという、そのギャップが、ワイドショーで扱うにはピッタリのネタになったようである。
 テレビ局の取材は連鎖的に広がり、同じ日に2局の取材を受けることもあった。
 第2弾制作の要望があちこちからあり、2003年7月に制作し、8月に放送した。

4. ワケルンジャーの取り組み

(1) ポスター、シールの作成
   “資源となるごみは分けて出しましょう”をフレーズとしたシールとポスターを制作。シールは市内の保育園等に配付。ポスターは、公民館、市の施設、幼稚園、保育園、小・中学校や希望者に配付した。

(2) 清掃清美課による啓発活動
 清掃清美課では、ワケルンジャー人気にあやかり、保育園や幼稚園の夏祭り、イベント、運動会などで、親子相手にごみ分別の啓発を行った。2003年7月から9月にかけて、清掃清美課職員が交替で、約30ヶ所で分別教室を行った。

 
保育園での啓発活動
広報紙にも度々登場

(3) その他
 ワケルンジャーのキャラクターは、その後の広報広聴課での広報活動のみならず、環境演劇に使われたりするなど、広く利用されてきている。
 また、市の関係するイベント(環境展、長寿福祉祭りなど)には職員有志で出演し、制作したワケルンジャーショー(10分程度)を演じている。
 さらに、このショーのテープと衣裳を、地域やイベントなどに貸し出ししている。今でも多くの問い合わせがきている。

5. ワケルンジャーの効果

(1) イメージアップ
   ワケルンジャーは、ごみの新分別の啓発番組として制作したが、啓発の効果以外にも、自治体独自のキャラクターとして、自治体のイメージアップに大きな成果があった。
   職員の企画の良さと手作りの良さが、前述したように大きな反響と子どもの人気を得ることになったが、ワケルンジャーがマスコミに取り上げられることになって、ワケルンジャーのキャラクターとともに、福井市の新分別の取り組みが、全国に紹介されるという大きな効果があった。
   また、ワケルンジャーが契機となり、各地の戦隊ヒーローもののキャラクターがいっしょに紹介されるようになり、相乗的な効果が得られるようになった。

(2) ごみの減量化・資源化
 ごみの減量化と資源化については、次表の「ごみ収集実績」のとおりである。
 分別が始まった2003年度と前年度を比較したものであるが、「燃やせるごみ」「燃やせないごみ」ともに減量されている。
 また、資源ごみの収集量も、新たに始まった「プラスチック製容器包装」「ダンボール」「紙製容器」だけでなく、「乾電池」「空きびん類」「空き缶類」「ペットボトル」も相乗的に伸びてきている。
 新分別が始まった2003年4月から6月は、特に「プラ製ごみ」については、いわゆる不格品が混ざっており、警告シールを貼られ収集されないものが相当多くステーションに残された。さらに、収集されてもリサイクル工場において、収集段階では分からなかった不適品も数多くある状況でした。
 しかし、ワケルンジャーによる啓発活動、ワケルンジャー人気の高まりとともに、徐々にその問題も解消され、90%を超える分別にいたっている。
 一方、担当の清掃清美課職員も、ごみ分別の啓発という地道な活動を、ワケルンジャーによって楽しくでき、さらに説明会場では、ワケルンジャーを例に出すことで、ごみ分別の必要性など分かりやすく説明できた。
 ここにもワケルンジャーの効果があった。

「ごみ収集実績」(集団回収等は除く)
分 別 の 種 類
収 集 量 (t)
前年比
02年度
03年度
(%)
焼却等処理  ①燃やせるごみ
84,255
79,762
94.66
②燃やせないごみ
16,672
14,037
84.19
小 計
100,927
93,799
92.93
再資源化 ③資源ごみ 乾電池
46
61
132.6
空きびん類
1,232
1,603
130.11
空き缶類
605
859
141.98
ペットボトル
99
266
268.68
プラスチック製容器
※1
928
ダンボール・紙製容器
※25
1,692
小 計
2,008
5,409
269.37
102,935
99,208
96.37
※ 02年度に市内の3地区で6ヶ月間モデル実施

 

6. 終わりに

 ワケルンジャーの取り組みにより、「ワケルンジャー」は、ごみの分別、さらには資源循環型社会へ向けた取り組みのシンボルとして、市民の間に浸透してきている。特に、子どもたちの間では、ごみの分別について相当理解が進んでいる。
 「リサイクル戦隊ワケルンジャー」の制作意図である「子どもたちから家庭に、家庭から地域に、ごみ分別の大切さが広まっていけば」ということが、達成されたといえるのではないだろうか。

【資料】ビデオを貸し出した小学校から送られてきた感想(一部)
(1) よくわからなかったけど、ワケルンジャーは正じきに、すっごいよわいけど、リサイクルの分別がよく分かった。
(2) ゴミのぶんべつがふえたこともわかって、ビデオもおもしろかった。ワケルンジャーの人がごくふつうの人だった。
(3) はじめは「こんなの小さい子の見るビデオだ」と、バカにしていたけれど、ビデオを見るにつれ、かえってこっちの方がよく意味もわかるし、おもしろいという事がわかりました。それに、今までゴミをちゃんと分別せずにすてていたので、このビデオのおかげで、最近ちゃんとゴミを分別するようになりました。
(4) 福井県ではゴミのぶんべつにすごく力をいれているんだなと思いました。さい近とうきょうでゴミのぶんべつをめんどぐさがっている人がいるようですけど、そういう人にはこのビデオを見せてあげたいと思います。
(5) ぼくは電池やプラスチックなどはどうやって分ければいいかわかりません。でもゴミンガーにはぜったいなりたくありません。
(6) ポイ捨てをしたら、"ゴミンガー"の仲まになる。私は前までゴミンガーでした。(少しだけ)
ごみも分別しなきゃだめ! ポイ捨てもだめ! ですよね。
(7) ビデオを見て、いいなぁと思った事が2つあります。1つは、みんなで協力していた事、2つ目は1回まけても、もう1どちょうせんしていた事です。
「おっちゃん」の
喫茶店での場面
(8) 子供たち及び先生からの質問
  ① キャストは全員市役所の人たちなのでしょうか?
  ② 制作費は私費でしょうか?
  ③ ゴミンガーの方は、プロなのでしょうか?
  ④ 企画の発起人はどなたでしょうか?
  ⑤ 第2弾の製作は完了したのでしょうか? また、放映のご予定は?
  ⑥ 福井県はどこにあるのでしょうか?何が有名なのでしょうか?(すみません、子供にきかれて、即答できませんでした。)
  ⑦ ワケルレッドは、本当に学校の先生なのでしょうか?
  ⑧ 「おっちゃん」が課長級の方のように思えるのですが、呼び名は「おっちゃん」のままなのでしょうか?
  ⑨ ワケルンジャーたちの憩いの場は、通常はレストランなのでしょうか?
(9) ワケルンジャーのふくの大きさが、おなじみたいでピンクの人のふくが、がぼがぼで、また赤の人は、ピチピチでした。なんとなくゴミンガーがおもしろかったです。
(10) わたしは、二回見たので内ようが二回目は、わかっていたけど、二回見てもまだ見たい。ダンボールと紙せいよう器が分別の時、ちがっているなんてびっくりした。
(11) たいちょうのはなしかたを今ふうにしたほうがいいと思いました。
(12) うちでも、ゴミの分べつをしているけど、めんどくさいって、いっていました。マンガみたいでよく分かりました。
(13) へんしんして、へんなポーズをしていたので、はじめて見た時、みんなが、ざっとわらいました。わたしも、わらいました。ゴミンガーは、そんなにせいかくわるいのかなと、思いました。
(14) イエローのプラボールは、ふつうのボールみたいだったけど、すごいボールだなぁとびっくりしました。ぼくが大人になっても、ゴミの分別をきちんと分けたいと思います。
(15) ゴミンガーは、町をゴミできたなくしていって悪いなぁ、と思いました。みんながあんなことをしていたらとてもこわいなぁ。