【自主レポート】

資源循環型社会構築へ向け
~出前講座の取り組み~

広島県本部/福山市職労・現業評議会・清掃部会リサイクルプラザ

1. はじめに

 リサイクルプラザは、福山市の南部地区に位置し、箕沖工業地域に隣接しています。
晴天時には四国の山々が連なり四季折々の姿を見ることができます。
 リサイクルプラザは、2000年9月に各種リサイクル関連法の制定に伴い建設されたリサイクル工場に併設され、循環型社会の実現に向け「体験学習」や「情報」の発信施設として建設されました。建設に伴い各施設とともに福山クリーンセンターとしてスタートしました。リサイクルプラザの業務内容は、クリーンセンターへの施設見学への対応やボランティアによるリサイクル体験講座などの実施、不用家具の展示・販売など、行政とボランティア(市民)が一体となった取り組みが特徴です。

2. ゼロからのスタート

(1) 「おじさん」たちの集まりです
   2002年度から清掃現場より職員が5人位置付き、現業・非現を合わせ計8人体制でスタートし、2003年度には現業職員1人増の9人体制となりました。
清掃現場から集まった職員の面々は、年齢層は20代~40代までの職員で構成されており、個性ある職員の集まりで落語研究会出身者から漫画家、語り始めたらセールスマン並に熱く語る男…様々なキャラをもつ「おじさん」が集まりました。

(2) どうする出前講座
   プラザへ現場職員が位置付けられたことに当初は戸惑いながら、自分がプラザで何をしていけばよいのか…。自分のデスクにパソコンが置かれ「さぁ~今日から何をするの?」これまでごみの収集を自らの仕事として当たり前に過ごしてきた者にとっては目が…の状況でした。さらには「教育現場へのごみ問題の啓発活動??」それも新たな取り組みで事例もない中で、冗談では済まされない立場にたたされました。

(3) 「公務労働拡大」の視点で…
  ① 福山市職労をはじめ、現業評議会で取り組んできた「公務労働拡大」の取り組みは、合理化攻撃を阻止するための取り組みとして清掃現場にも大きなうねりを起こし、少しずつではあるものの「実践」出来る現場体制に前進してきました。
   清掃現場での「公務労働拡大」の取り組みは、他部会との共同作業やこれまでの収集業務では行われていなかった草刈作業、剪定、道路清掃など、空き時間や収集体制の見直しなどを行い「できる事はやっていこう」「スキがあるなら見直そう」と、組合から提起を受けながら数年かけて取り組みを進めていきました。
  ② 「やれるだけやってみよう」と、開き直りが肝心と自分達に言い聞かせながら、清掃現場からプラザへ配置を得た事を前向きに捉え、「今までしてきた公務労働拡大の取り組みの大きな成果として受け止めていこう」「収集現場で経験したことを活かそう」と、職員間で心あわせをしました。これまでの私たちの職場では、現業・非現との仕事の領域がはっきりしていた中で仕事をしてきましたが、プラザの業務に現業・非現の領域はなく、仕事に対する考え方そのものも見直すきっかけとなりました。
  ③ 最大のテーマである「出前講座」では、これまで前例と実績のない新たな取り組みということでとまどいもあり、これまでの清掃職場の中での仕事の領域では考えられない業務であることに合わせ、ただ漠然と「ごみ問題を学校教育の中で・・」と、仕事のテーマは見えてはいるものの、具体を自分たちで創っていかなければならないゼロからのスタートとなりました。どう仕事をしていけばいいのか、これまで立ち入ったことのない領域での取り組みに対し
   ア 自分たちになにができるのか、なにが必要にされるのか
   イ 子どもたちになにを知らせていくのか、いきたいのか
   ウ 子どもとの関わり方をどうするのか
   など、多くの課題や不安を出し合い、仕事に対しての考え方の意識統一し、仕事のあり方を含め論議を重ねました。

3. 出前講座実施

(1) 内 容
   子どもたちに啓発するために自らの仕事のあり方を見つめることから始め、現場を知る者だからこそ出来る啓発とは何か?を模索しながら職場で論議を重ねていき「目的」「ねらい」を設定し、それを具体化しマニュアル化していこうと確認しました。私たちが伝えられることは「現場で働く者の思いを子どもたちへ」と現場職員の主体で実践していくことを確認しました。
  ① ねらいとして
   ア これからの地球環境問題に向けて意欲的に取り組めるよう動機付けとして取り組む
   イ 現在の福山市のごみ緊急事態をもとにごみ問題への理解と協力を求める
   ウ ごみ分別の徹底を実現し、ごみゼロ社会に向けた意識と考えるきっかけを子どもたちに提起し、教育現場と連携するなかで子どもたちから大人への意識改革につなげる
   エ これまで現業差別撤廃に向け、市職労が中心となり1997年作成・配布された福山市独自の副読本の活用の推進に取り組んできた経過を踏まえ、副読本のみならず出前講座のなかでも差別意識の払拭に向けて役割をはたす
   オ 出前講座でごみの行方のなかの「分別と収集」に焦点化し、後のクリーンセンター(処理とリサイクル)の見学や学習につながるよう流れをつくる
   とし、教育委員会との連携を重ねながら具体を論議しました。
  ② 具体として
   基本的には楽しみながら学べる体験型学習を実施、ゲーム形式やパッカー車を持ち込み身近に見るなど、実体験させるなかで暮らしの中にあるごみ問題を見つめ現実を理解してもらい、足元から取り組む重要性を伝えることとし、実施に向けて次の内容で取り組むこととしました。
   ア 分別ゲーム
   イ ごみ問題リサイクルクイズ
   ウ パソコン紙芝居(ペットちゃんとビンすけの大冒険)
   エ パッカー車の持ち込みによりごみの収集体験
   オ 廃材工作
   カ プレゼンテーション
   など、あくまでゲストティーチャーであることを自覚し、ごみ問題の学習が学校でどのように実施されているのかを十分に把握した上で、決して答えを出さない動機付けの役割をはたすこととしました。

(2) 出前講座スタート
   2002年5月7日を皮切りに小学校4学年の社会科の単元である「ごみのしょりと活用」の中でスタートしました。職員体制は、3人一グループ2班に分かれ、これまでの経験を生かし、あくまでもゲストティーチャーとして、学校との連携をしっかりもちながら、講座の日に向けての予習と実施後の復習をお願いしました。また、パッカー車の持ち込み等については各事業所との連携も密にしながら取り組みました。日頃現場の中で、何気なく当たり前に考えていたことを、人に伝えることの難しさを痛感しながら、まず伝える側が自分の仕事をどれだけ知っているのか?これまでの自らが歩んできた仕事を振り返りながら、整理すると同時に学習を積み重ねました。

(3) これまでの経過
 
02/4月 現業職場より5人の職員が配置され、臨時職員を含め8人体制
  ごみ問題を教育現場へ現場職員による「出前講座」実施に向けて確認
02/4月~ 出前講座に向けて 職場研修(50時間)
02/4月 教育委員会との連携
 〃 小・中校長会にて「出前講座」実施に向けてお願い
02/5月 出前講座実施:小学校4年生の単元「ごみのしょりと活用」の授業時間に対応
 ~6月 (市内小学校4学年、モデル校11校、希望校15校 計26校で実施)
02/6月 教育委員会の学習指導内容(案)とプラザの企画(案)のすり合わせの実施
 〃 26校の実施結果の総括
02/7月 引き続き小学校4学年対象に実施をする
 〃 内容の充実をはかる(視覚で訴えるITツールを活用する)
 〃 「総合的な学習」の中で実施
 〃 保育所・幼稚園で実施に向けてのお願い
 〃 講座内容のレベルアップと年齢に応じた内容の作成
パソコンの使用と紙芝居(現場職員によるもの)作成
 〃 現業評議会への業務実施報告
02/8月 保育所・幼稚園開始
 〃 総合的な学習の進め方を職員研修 10月(学校に行こう週間)
 〃 教育委員会と出前講座の中間総括
 〃 総合的な学習への対応
 〃 保育所・幼稚園での本格実施
 〃 パソコン・紙芝居の実施
02/10月 リサイクルフェスタ開催
02/11月 市職労組織集会 出前講座実演
03/2月 小・中学校教頭・校長会出前講座実演
 〃 現評組織集会実施報告
03/4月 現業職員6人 計9人体制
03/4月 小学校出前講座前項実施計画
03/5月 パソコン紙芝居2作目制作開始
03/7月 リサイクル子どもフェスタ開催
03/10月 リサイクルフェスタ開催 パソコン紙芝居2作目開始
(プレスくんの一番熱い日)

(4) 実施状況
 
2002年度実施状況
  市内数 実施数  人数 実施率
小学校(モデル校・希望校・総合的な学習)
68
29
1,772
43%
中学校(総合的な学習)
30
7
954
23%
高 校 
1
360
保育所・幼稚園(公立のみ)
96
21
1,308
22%
その他(地域・組織)
13
470
合 計
71回
5,107人

 2003年度実施状況
  市内数 実施数 人数 実施率
小学校(4学年・総合的な学習)
68
48
3,355
71%
中学校(総合的な学習)
30
17
2,109
57%
高 校 
1
360
保育所・幼稚園(公立のみ)
96
20
1,162
21%
その他(地域・組織)
25
862
合 計
111回
7,848人

(5) 出前講座に思うこと
   実際に学校に入ってみて感じたことは
  ① パッカー車を持ち込み、現場での経験を基に話をすることで収集現場に対する偏見の払拭に効果的である
  ② 分別ゲームでは、日頃家庭ではあまり関わりが薄いごみ分別を体験することで、自らの暮らしを見つめる材料になる。
  ③ 小学校4年生は単元である「ごみのしょりと活用」について事前に学習を重ねてあることと、視点がはっきりしていることで、比較的出前授業を受け入れられやすかった。
 

それらの課題や成果が少しずつ見えてくるなかで、7月以降「総合的な学習」のなかの一つの柱である「環境」にあわせての講座や、保育所・幼稚園で取り組み、年齢層の幅を広げていきました。しかし、年齢層の広がりと併せ、学校によって視点が異なる中での講座の開始は、課題も少なくなく、低年齢の子どもへの対応(言葉の問題)、学年によって中身の検討の必要性、中学校・高校での関心度への不安などが課題として改善・工夫をしながら取り組んでいきました。
   紙芝居などのツールは、シナリオから制作まですべて職員の手作りとし、職員の特技を活かし、低年齢から大人まで楽しみながら学べる効果的で、安いコストでできるものとしました。また年齢に応じて保育所・幼稚園の低年齢では遊びを中心に取り入れ、遊びを通してごみ問題の関心を高めていき、中学校・高校については、OA機器を使ったプレゼンテーションで視覚に訴え、小学校からの環境問題に関する教材の復習・応用、生徒自身が自ら調査・研究できる材料提起など、意欲的に取り組めるようサポート体制をめざしました。また、わたしたちがこれまで環境行政に携わる中で感じてきたことを「人」を通じてごみ問題を伝えることを重要に取り組んでいます。

(6) 子どもの声
  各学校、地域、様々な実態とニーズがあります。多くの子どもは珍客(?)に興味津々…。「おじさん質問!」質問と言う言葉に当初はドキドキしながら過ごしていました。答えに困ったら「また工場に来てね…」こんな言葉で逃げている場面も多々ありました。ある学校の先生に「工場に来て学習してね…」を○○回言いましたよ!と指摘を受けることもしばしば…。笑ってごまかせ!作戦も使いました。
   リサイクルプラザからおじさんが来ると事前に聞いているので、山のように質問を用意してる子もいます。しかし子どもと過ごしてるとハッと気づかされることも多く、無意識に使っている言葉が子どもにはあまりにも難し過ぎたり、個々の子どもによって、理解する時間も違うことにも気づかず、無神経に自己都合でしゃべってしまったり…。人と向き合うことがいかに難しいか、そして大切なことかを実感しています。
   しかし、後日送られてくる感想文などでは「家に帰っておうちの人に話したよ!」「お母さんにリサイクルについて教えてあげたよ!」などなど…。また帰るときに「また来てね!絶対よ!」「給食食べて帰り!」うれしい言葉の連続です。反面、「よく分からなかったよ」とか「おじさんボケ~っとしてないで仕事したら…」なんて言われる職員も。
   満足のいく出前はこれまで出来たか…と言えば疑問ですが、子どもたちとのふれあいのなかで私たちも成長しています。

4. 循環型社会に向けて

(1) 自覚と役割
   「公務労働拡大」の視点に立ったとき、新たな仕事・考え方の中で、余分な仕事という感覚だけには陥らないようにしています。仕事に責任を持つこと、すなわち行政としての説明責任を、価値観の多様化する市民をはじめ、さまざまな年齢層に果たしていく取り組みだと感じています。    現在の仕事をベースにしながら、自らの仕事の領域を模索しながら、専門的分野での公務員として求められる「啓発」に対する考え方をしっかり持ちながら取り組んでいきたいと考えています。これは特別なことではなく、「公務労働拡大」の取り組みの原点である自らの仕事を見つめることであり、住民のための公務サービスへの第一歩だと考えています。

(2) 出前講座を通して
   子どもたちと向き合い、直接ふれあい、話し合うなかで現場の思いを伝えることができると実感できました。これまで大人から伝えられる偏見のなかで、こどもはただごみを積んでいる「収集車」を見るだけで「くさい」「きたない」など「ごみ」=人に向けた職業差別を露骨に出す子どもを目の前にしてきました。出前講座により、収集車を持ち込んで身近に接し、感じることで、子ども達の「ごみ収集」に対する意識の変化や、収集車を運転・操作・収集する人に対する思いも変わってくることが読みとることができました。
   収集現場で働く者の思いを込め伝えることにより少しずつではあるものの、職業差別撤廃に向けた意識改革と「ごみ」問題を収集する側の問題ではなく、一人一人の問題であるという提起ができたと実感できました。

(3) こんな出前をめざします
  ① 小学校4年生を対象とした出前講座は、今年度の目標を全校実施として設定しました。
   教育委員会と連携しながら取り組みましたが、達成はできませんでした。数をこなせば良い…というわけではありませんが、まだまだ現実的には、ごみ問題に対する地域・家庭間の温度差がかなりあり、清掃現場と学校・地域・家庭の連携を基本に、点の取り組みで終わるのではなくこれからの環境問題に線でつながるよう、取り組まなければならないことを強く感じています。線でつなぐ取り組みにするためには息の長い出前講座でなければならないと思います。
  ② 出前講座へのニーズとして環境問題の多岐にわたったテーマの解説を求められる事も少なくありません。しかし、様々なテーマを学習し材料として身につけることの必要性は感じるものの、現場職員の役割の原点は、収集現場の実態を基本に伝えることだと思っています。地域のごみ問題から暮らしへ、さらにはごみ問題を解決することが、暮らしをみつめ、環境=いのちを守る営みであることを提起していきたいと考えます。
  ③ これまでの出前にとらわれず、タイムリーな内容で子どもたちや学校のニーズに合う出前講座をめざしていきたいと思います。また、教材の開発や研究、リピーターにも対応できる内容の充実に向けて取り組んでいかなければならないと感じています。

(4) 今後に向けて

  ① 2002年度に現場職員が配置になり、2回のリサイクルフェスタを開催しました。この間のフェスタでは、収集現場と連携し、事前準備から当日の任務まで取り組みをともに行いました。同時に部会間との連携も行い横断的な取り組みが実現しました。
    2003年度には、収集現場から企画・立案の段階から連携し、主体的な取り組みとなりました。前年度に比べ大きく来客数を増やし、4,000人を越える集客結果となりました。この成果をもとに収集現場と啓発業務が一体となった清掃行政をつくることが必要だと考えています。
  ② 2003年度には、新たな試みとしてリサイクル子どもフェスタを開催しました。これは日頃の生活では体験できない自然の中で、「ものづくり」を通して「資源」の大切さと人間の知恵を学び、また食を通して家庭や学校の調理の工夫、無駄のない調理方法やごみの出ない工夫など、「人」を通して感性を養う場として取り組みました。
    またチップ機を持ち込み、廃材をチップ化して燃料に使用し、ボランティアの廃材利用の体験講座など、リサイクルの仕組みや考え方を提起しました。
    そして大きな成果として、給食士部会と連携し、日頃の食教育を育む立場として協働する横断的な取り組みを行いました。このことは、それぞれの職域の専門性を発揮し、効果的に取り組めました。これは部会間の横断的な取り組みゆえの相乗効果があり「公務労働拡大」の取り組みに学ぶものです。
    今後これに留まらず、様々な各部会と連携し、共に高まっていく協働に向け、費用対効果を考慮に入れた企画をしていきたいと考えています。
「資源循環型社会」に向け、清掃労働者の責任と役割を明確にしながら、直営であるからこそ出来る連携と専門性を武器に取り組んでいきたいと思います。