【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ統合分科会 地域社会の維持・発展をめざして

岩見沢市の市町村合併後の状況について


北海道本部/自治労岩見沢市職員組合

1. はじめに

 いわゆる「平成の合併」が1999年4月に始まってから、来年で10年を迎えます。
 2005年4月に5年の時限法として施行された「市町村の合併の特例等に関する法律」(合併新法)の期限も2010年3月に迫っています。
 一方、岩見沢市・北村・栗沢町が2006年3月27日に合併してから3年弱、その進捗状況を振り返るとともに、行政側と住民側の両面から見た場合の効果・課題などについて、幅広い観点から評価・分析を行うこととしました。
 しかしながら、市町村合併は地域の将来を見据えて行われるもので、その効果が表れるまで一定の期間を要することから、現時点においては、短期的な影響の分析に止まらざるを得ないことを予め申し添えます。

2. 岩見沢市の概況

  岩見沢市は、北海道の中西部に位置し、総面積は481.1km2、札幌から約40kmの距離にあります。

(1) 旧3市町村の沿革
 旧3市町村は、歴史的にも地域的にもつながりが深く、旧北村は1900年、旧栗沢町は1889年に当時の岩見沢村から分村したという経緯があります。
 旧北村は農業に重点を置き、旧栗沢町は、炭鉱と農業を中心に発展し、旧岩見沢は、周辺の炭鉱や農業の発展による人の交流と共に、交通の要衝として、また、商業の隆盛や教育などバランスある発展をしてきました。

3. 合併までの状況

 2006年3月27日に空知中央地区の岩見沢市、北村、栗沢町の3市町村が合併して新岩見沢市が誕生しました。
 当初の目的としては、少子・高齢化の進行をはじめ地域を取り巻く共通する行政課題に的確に対応し、住民満足度の高い個性的で魅力のあるまちづくりを進めていくため、行財政の整備を図ることとしています。
 少子・高齢化については2000年度国勢調査によると総人口に対する14歳以下の年少人口が13.8%で1985年度より6.1ポイントの減、老年人口が20.6%で9.6ポイントの増であり、少子・高齢化は着実に進行しており、特に老年人口は全道平均(18.2%)、全国平均(17.3%)を上回り、構成人数、比率ともに大幅に増加しています。
 また、この間の総人口は岩見沢地区では増加傾向にあったものの、北村地区、栗沢地区では一貫して減少傾向にありました。
 このような状況下で、合併に関するアンケート調査では住民の6~7割が賛成しておりました。行政課題解決への意識の他に元々の3市町村の沿革、地理的条件が背景にあると思われます。
 3市町村は歴史的にも地域的にもつながりが深く、北村、栗沢町とも当時の岩見沢村から分村した経緯があり、雇用面、商業面、教育面などで繋がりは現在に至るまで深い関係があり、それぞれ100年の歴史を経て、再び一つの街になりました。

4. 市民生活の変化

 合併後の市民生活の変化として、主観的側面での変化(住所変更、行政区域拡大に伴う所属意識、諸事象の変化)、金銭面での変化(諸々にかかるコスト、支出の変化、および収入の変化)、そしてサービスの変化(主に行政施設、制度等の改正が及ぼす市民への影響)が考えられます。

(1) 主観的側面
 自治体の広域化に関する他地区公共施設の利用意欲が増していることや、住所変更に伴う地元特産品のブランド名が無くなり商品競争力の減少が懸念される一方で、新岩見沢ブランドの創設による質の向上、地域産物・産品をより一層魅力的にしてゆく事、特に農業では水稲の収穫量(5,070トン)・作付面積8,460haと道内首位、農家戸数は、1,743戸、農業算出額は道内6位の195億円となりました。
 「たまねぎ」は道内第4位の産地(2003年)、「はくさい」は北村地区を中心に栽培され、全道一の生産(2003年)を上げ期待されます。
 また、先述の通り、生活圏が一致していて、自家用車や公共交通機関を利用して岩見沢地区の職場や高等学校等への通勤、通学、大型ショッピングセンターなどを利用している北村地区、栗沢地区の住民が多いことから、合併後の生活については、市役所利用時を除いてほとんど変わらないという意見が支配的です。

(2) 金銭面の変化
 当初の目的である行政の効率化が人件費縮小等により促進する一方で、対市民への色々な補助制度の整理による高齢者の交通費補助制度の見直し、市民団体への補助金の減少による活動費への影響、公共施設の有料化等が住民への直接的な負担となっています。

(3) サービス面での変化
 主に、市役所を中心とする、自治体や各種団体の合併時の事業調整によるものが大きな割合を占めています。
 自治体は目標を重複組織の解消に伴う低コスト化、高効率化により、財政基盤を強固なものにしてゆくが、各地区対等・平等の精神に立って偏入される両町村の今後のまちづくりに十分配慮するとしています。
 旧市の多様で高度なサービス内容の享受、各地区の窓口使用が可能になり、より近距離での利用が出来る場合があること、また、高速通信網が整備され事務処理の電算化、効率化が図れるなどサービスのレベル向上への利点もありますが、各地区の住民からは合併に よる公共サービスの低下を懸念する声が多い状況です。
 内容として、組織効率化の影響が大きいのが北村・栗沢両支所で、職員数が減った心情的な寂しさや支所等の権限の少なさが合併に対する不満につながっていて、各種手続きの迅速な対応が悪化や、建設部門、水道部門などは本庁に担当課がまとまり不便になった、幼稚園・保育園などで旧市になかった施設の対応、市としての取り扱いが曖昧である、ごみ分別収集方法の変化による混乱、除雪サービスが低下した、苦情対応の処理時間が長くかかる場合が見受けられる等の意見があります。
 岩見沢地区の住民についても行政の予算緊縮に伴う公共サービスの低下を懸念する声が多く実際対応や規則に変更が無くても、苦情の際に合併の影響だと誤解しているケースが多く見られます。
 コスト削減、人員削減と広域サービスの質を維持してゆくことは、相対するものであり、より一層の努力と創意工夫が必要です。

5. 自治体経営の変化

(1) 旧栗沢町・旧北村地域への振興等
(対等・平等)
 合併方式については、岩見沢市に編入する編入合併ではありますが、編入される両町村の思いに配慮し、「対等・平等の精神に立って編入される両町村の今後のまちづくりに十分配慮する」との意見を付したところで、きめ細かい行政サービス提供するために、両区域に学識経験者や公募委員で組織した地域審議会を設置しており、2006年度は各3回、2007年度・2008年度についても定期的に開催しています。
 また、旧地域で開催していた「くりさわ農業祭」(栗沢町)や「きたむら田舎フェスティバル」(北村)などの観光イベントの支援や自治体ネットワークセンターや自営光ファイバーネットの整備など地域の活性化・住民サービスの充実に向けて取り組んでいるところです。

(2) 地域の伝統・文化等の保存・継承
(新市共通の財産)
 編入された地域の伝統や文化は、新市にとっても財産であることから、郷土芸能団体を支援し郷土芸能の保存・伝承を促進するとともに、各種文化団体の普及発展のために地域における文化祭の開催を支援するなど、地域振興に努めています。
 また、旧栗沢町と姉妹都市提携を結んでいたオレゴン州キャンビー市との姉妹都市提携についても新岩見沢市に引き継がれており、旧岩見沢市の姉妹都市であるアイダホ州ポカテロ市と同様に国際交流を行っています。

(3) 地域自治組織
(市民が主役)
 当市では「市民が主役の行政」を住民自治の基本コンセプトとし、その実現に向けて、①市民が主体的に活動できる環境づくり、②市民と行政の意識改革と人づくり、③市民と行政の顔の見える関係づくり、への取り組みを推進しています。
 そこで、地元町会の垣根を越えた活動を展開すべく、2つの地域をモデル地区(2005年度~2007年度)として指定し、「○○○(地域名)まちづくり委員会」としてメンバーが主体的に地域としての問題を出し合い、その原因を探り解決するための方策を検討しながら、地域づくり計画(事業計画)を策定して、独自の地域活動を展開しています。
 具体的には、地域の子ども達を見守る「おさんぽ隊」「歩期待(あるきたい)」、花によるまちづくり、地域自主防災訓練の実施、地元のお祭りの開催、地域づくりセミナーの開催、コミュニティ紙及びホームページによる地域におけるまちづくりの紹介などの事業を展開しています。
 なお、2007年度は、今まで市から各町会等へそれぞれの事業別に支出していた9事業の補助金等を一本化し、使途制限のない「一括交付金」としてまちづくり委員会に支出し、モデル地区においての新たな事業展開を模索する試みを実施しています。
 今後は、地域経営を担う人材に多くの経験をもつ団塊の世代の活用や、次代を担う地域に愛着を持った意欲ある若者の参画が期待されます。

(4) 合併後の住民サービスの充実・維持等
 (既存する旧岩見沢市のサービス、システムを維持継承、拡大運用⇔サービスの変化に伴う旧町村部住民の意見反映が課題)
① 組織・体制に関する取り組み内容
 ア 総合支所の設置
   組織体制については、簡素で効率的な行政機構の構築に向けて取り組んでいます。とりわけ合併による共通の事務事業の集約化、同一・類似の事務事業の統合などにより、組織体制を見直すとともに、教育委員会事務局など各執行機関組織についてもそれぞれ本庁に統合するなど、それぞれ支所の組織体制を縮小させました。
   なお、両方の役場を総合支所として存続させていることから、地域住民にとっては、生活に密着した窓口業務等が支所で行えるため、合併前の状況と変わらず住民サービスを受けることができるようになっており、さらには庁舎の有効利用もされています。
 イ 地域審議会の設置
   編入される地域の声が新市の施策に反映されにくくなることが懸念されることから、地域住民の意見を市政に反映させ、きめ細やかに行政サービスを提供するために、旧北村、旧栗沢町の両区域に地域審議会を設置し、地域の声を反映できる体制を整え、住民サービスの向上に努めています。
 ウ 組織の専門化
   子ども課・農業資源保全課・環境対策室などが新設されています。
② 既存事業に関する取り組み内容
 ア 乳幼児医療費助成事業の実施
   旧岩見沢市が実施していた乳幼児医療費助成事業は、補助者である北海道の助成基準よりも拡大して実施しており、子どもを健やかに安心して生み育てられるよう子育て支援に取り組んできました。
   合併後もこの事業を継続し、旧北村、旧栗沢町の住民も利用できるようになるなど住民サービスの充実に努めています。
 イ 学校選択制度の適用
   旧岩見沢市は、保護者や子どもの希望により入学したい中学校を選ぶことができる学校選択制度を実施し、学習意欲の向上や開かれた魅力ある学校づくりの推進に取り組んできた。この制度により新市全ての中学校を選択することができることから、編入された地域の子どもたちの選択の幅が広がり意欲的な学校生活が期待されます。
 ウ 緑化推進事業の適用
   旧岩見沢市では、身近な公園等に植栽する苗木等を町内会などの団体に配布し、花と緑のまちづくりを進めてきました。
   合併後もこの事業を継続し、旧北村、旧栗沢町の住民も利用できるようになるなど住民サービスの充実に努めています。
③ 新たなサービス向上への取り組み内容
 ア 図書館システムの構築
   旧3市町村で別々に稼動していた図書館システムを再構築し、それぞれの利用者、蔵書データを統合し、利用者サービスの充実を図るとともに、3館どこからでも所蔵する資料の状態の確認と資料の貸出・予約状況等が容易に把握でき、最寄りの館への返却が可能になるなど住民サービスの向上に取り組んでいます。

(5) 効率化
(スリム化・情報共有)
 組織体制や業務内容の見直しの観点から、共通の事務事業を集約化し、同一・類似の事務事業を統合するなど行政のスリム化に努めるとともに、旧役場が総合支所の機能を担うことから、本庁と支所を光ファイバーで結び、庁内LAN経由による情報の共有を図れるようにネットワークを整備するなど行政の効率化に努めています。

 以上の点から言える事は、基本的に旧市既存のサービス・システムを維持継承し運用拡大することにより、行政サービスの均一化、効率化を図っていることである。
 また一方で大きな影響がある旧町村部について意見の反映が課題であり、前出の合併による公共サービスの低下を懸念する声や混乱、苦情処理の効率低下等の組織や制度の集約化・効率化と逆行するかの様な矛盾が生じている状況下で、それらの在りかたや規模についてこれからも検証し、修正していく事が必要であり、合併効果の半減につながる過度のサービスを避けるためにも、全市的な視点から公平で、客観的なバランス感覚がこれからの自治体運営に不可欠です。
 しかし、合併して2年を経過し、若手職員には融和の雰囲気が見られるものの、未だ旧市町村の枠組みにとらわれている職員がいることも確かです。全市的な視点からの公平で客観的な自治体運営を行うためには、全職員が一体なって行政を進めることが重要であり、更なる職員の意識改革が必要となってきます。

6. 最後に

 現段階では、元々日常生活圏が一致していて、岩見沢地区へ自家用車や公共交通機関を用いて生活している北村地区、栗沢地区の住民が多いことから、合併後の生活については、市役所利用時を除いては目に見える形での変化が少ないようですが、新岩見沢市としての自治体や各機関、市民のより深い一体感を醸し出すまでにはまだ時間がかかりそうです。
 今後は財政状況が悪化し続け、さらに職員の削減がなされるこれからの自治体運営には、全市均一なサービスを前提とする一方でその水準の維持は困難であることから、市民においても困難や負担を伴った自治をする覚悟は必要であり、市民と行政との適切な役割分担の構築に努めていかなければならず、防災、福祉、除排雪、環境美化など様々な分野で「新岩見沢市づくり」について市民と共に知恵を出し合い、地域性を生み出すものに積極的に取り組むなど、市民が主役の魅力あるまちづくりの推進に向けて官民協働・連携体制の構築が必要だと思います。