【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

夕張市下水道事業の現状と課題


大阪府本部/大阪市職員労働組合・建設局支部 伊藤 克俊・山本 善久

1. はじめに

 夕張市、名前の由来は、アイヌ語で「ユーパロ」(鉱泉の湧き出るところ)が語源といわれている。明治初期から炭鉱の町として栄え国内有数の炭鉱地として盛況を誇った。しかし、国のエネルギー政策の転換などにより炭鉱が閉鎖。その後、観光産業に力を入れたが観光客は減少、最盛期で12万人近くいた人口も約10分1の1万3千人に減った。その後も財政難は続き、2006年には、地方自治体として事実上の倒産となり「財政再建団体」に移行され、2007年3月から再建計画が正式にスタートしている。
 再建計画により、様々な公共サービスが縮小・廃止され、高齢者対策や産業育成などへの補助金もカットされた。また、小・中学校の統合や図書館の廃止、公立病院は診療所へ、さらに、市民税・下水道使用料などの公共料金の値上げも行われ、住民の生活を圧迫している。
 破綻の原因は、炭鉱閉山に伴い、炭鉱用地を夕張市が買い取り、その資金で労働者の賃金補償に充てたことや、大手リゾート開発の失敗を財政的に厳しい夕張市に押し付けた企業があったことが挙げられる。
 そのような状況で行われている、夕張市の今後の下水道について考え提案する。

2. 下水道整備状況及び業務状況

(1) 下水道整備状況(2007年度版 地方公営企業年鑑)
① 建設事業開始年月日  1989年12月26日
② 供用開始年月日 1995年3月31日
③ 排除方式 分流式
④ 総事業費 7,802百万円、管渠=4,984百万円、処理場=2,167百万円。ポンプ場なし
⑤ 財源 国費=43%、起債=41%、受益者負担金=5%、その他=11%
⑥ 管渠延長 32km(すべて汚水管)、管渠密度=129m/ha。処理場施設利用率=38%
⑦ 平和浄化センター OD2池、全面委託、放流COD=7.3、SS=9.0、BOD=2.1、N・Pは掲載なし(2005年度版 下水道統計)

(2) 業務状況
 財政再建計画スタート前の下水道施設状況と業務状況を下記の表にまとめた。この表から、処理区内の人口が年々減少していること、汚水処理費に対する使用量の割合(原価回収率)が低く、汚水処理収支で1億8千万円の赤字となっていること並びに財政難等により、下水道職員が大幅に減少していることが確認できる。


表-1 施設及び業務状況
夕張市の公共下水道 1995.3.31供用 単独公共・分流式
資料・地方公営企業年鑑、FGHLは計算。
Hの除数:2003年度は366。職員(管理)は全て「その他総務・管理部門」。
2007年度版 地方公営企業年鑑より

3. 現状の分析

(1) 人口と人口密度
汚水流入状況
 下水道工事に着手した1989年、夕張市の人口は2万4千人だったが、市の人口は1960年の11万7千人(国勢調査)をピークに急速な減少が続いており、下水道を供用開始した1995年では1万7千人(1960年の14.6%)、2007年は1万3千人(同11.1%)となっている。
 そのため、2006年度末で処理区域は計画の約84%を整備しているが、処理区内人口においては、計画(7,070人)の50%程度となっている。
 また、処理区域の人口密度(表-1F列)についても一貫して低下しており、計画23.9人/haに対し、2006年度の実績では14.2人/ha(計画の59%)にすぎない。
 これらは、市全体の人口減少(過疎化)の影響であると考えられる。23.9人/haという人口密度は、下水道工事に着手する数年前の数値に相当するもので、下水道計画の意思決定段階で使った数値が人口減少後も見直しされていない状況である。下水道は市街地に整備するのが原則である。都市計画法では、市街地の人口密度を40人/ha以上と定義しており、夕張市の計画自体がこの最低基準の6割しかなかったことになる。

(2) 水量密度と処理単価
 接続人口1人1日あたりの有収水量は420リットルであり、類型109団体の平均290リットルより4割程度多い。これは観光客などの使用水量が上乗せされていると推定される。しかし、処理区域の有収水量密度は1.73千m3/ha程度のため、施設の利用効率が悪く、処理原価は538円/m3となっている。数年間の処理原価の動向を見ると600円台で推移していたが、2006年度、急激に安くなっている。これは、下水道職員を削減した効果及び今まで行っていた維持管理を見直した結果と推測される。接続率は、82%であり100%に近づけば効率が現状より良くなり処理原価は下がるが、接続に要する費用が必要となるばかりか処理費の赤字が増加する可能性も考えられる。

(3) 汚水赤字と一般会計
 使用料平均単価は112円、原価回収率は20%に過ぎず、汚水処理収支で1億8千万円の赤字となっており、この赤字を補填するため一般会計からほぼ同額の借入を行っている。処理原価を100%回収するには使用料を約5倍に値上げする必要があり、不可能に近いと考える。そこで、維持管理費の削減や効率的な下水処理場の活用が必要と思われる。

(4) 下水道使用料
 2006年度までは、下水道使用料平均単価は、約120円/m3程度となっており、使用料制度単価(147円/m3)より20円以上も低く、使用料減免などが行われていたと考えられる。2007年度からは、財政再建計画がスタートし、下水道使用料についても147円/m3から約1.7倍の244円/m3に引き上げられている。破綻のツケは確実に住民に回ってきている。

4. 今後の課題

 急速な人口減少という状況を踏まえると、夕張市は下水道事業に着手すべきではなかったと言えるデータとなっているが、今後を考えると下水処理コストを軽減し、住民サービスの低下を極力来たさない手法を検討する必要がある。
 夕張市には、し尿処理場があるが、人口減少に伴い下水処理場とし尿処理場の処理一本化の検討が必要であると考える。
 また、当面、下水処理区域の拡大を行わず、現在配管のみされている地域については、試算の上で公共下水道を使用しないことも視野に検討すべきである。
 下水道使用料については、下水道使用料体系は基本料金部分を別にして147円/m3の単一単価である。1人1日あたり有収水量が多い(420m3)ことから、大口使用者(観光関係)の存在が想定できる。収支改善効果は分からないが、逓増制使用料の導入についても検討が必要と考えられる(水道も1リットルあたり336円の単一料金なので同時に検討すべき課題である)。
 今回、上記内容の中より下水処理場とし尿処理場の処理施設一本化について検討を行う。

5. 汚水処理施設の集約化

(1) 夕張市の汚水処理
 夕張市では、公共下水道を平和浄化センター、し尿及び浄化槽汚泥を平和し尿処理場で処理を行っている(表-2参照)。両施設については、人口減少の影響から利用率は、50%に満たない状況となっている。そのため、平和浄化センターにおいては、流入水量から推測すると、OD(2池)稼動している場合、滞留時間が50時間以上となっている可能性もあり、流入水量減少に伴う課題と考える。また、平和し尿処理場は、供用後50年を経過しており、使用部分のみ修繕更新を行いながら運転を行っていると推測される。
 処理状況の水量・水質について2005年度版下水道統計をもとに表-4にまとめた。流入水質については、若干高めの数値となっているが、流入水量が少ないこともあり放流水質は概ね良好である。


表-2 汚水処理内訳(2005年度)

施  設

処理人口(人)

処理割合(%)

公共下水道

3,097

22.9

し尿処理

6,598

48.9

浄化槽

3,814

28.2

行政人口

13,509

100.0

地方公営企業年鑑及び一般廃棄物処理実態調査結果より

表-3 汚水処理施設の能力・処理実績(2005年度)

施設

能力(計画、公称)

処理量

利用率

処理方式

処理開始年

平和浄化センター

3,100(m3/日)

1,436(m3/日)

0.46

OD(2池)

1995年

平和し尿処理場

64(kl/日)

22(kl/日)

0.34

嫌気性消化+活性汚泥処理

1957年


表-4 水量・水質(2005年度)

 
現 状
計画値
処理水量(m/日)
1,436
3,100
水 質
流入水
放流水
 
透視度(度)
3.9
47.6
 
BOD (mg/L)
262.8
2.1
170/20
COD (mg/L)
115.3
7.3
 
SS (mg/L)
210
9
150/70

(2) し尿受入れ許容量の推定
① 条件:浄化センターの処理能力は計画値とし、計画施設は完成済みとする(計画処理人口7,070人)。処理可能人員は、し尿の汚水に対する排出原単位の比率で算出し、BOD又はSSの比の小さい値を採用する。


表-5 し尿の汚水に対する比率

原単位

BOD(g/人・日)

SS(g/人・日)

汚水

58

45

し尿

18

20

比(汚水/し尿)

3.22

2.25


② 処理可能人員:(計画人口7,070人-処理人口3,097人)×2.25=8,940人
③ 受入れ検討人口:し尿汲取り人口:6,598人 浄化槽(汚泥)人口:3,814人
④ 浄化槽汚泥のし尿負荷への換算
 ア し尿と浄化槽汚泥の性状(用水廃水ハンドブック(4)p765より)


表-6 し尿と浄化槽汚泥の比率

原単位

し尿

腐敗槽型

曝気型

浄化槽平均

浄化槽/し尿

BOD(mg/L)

12,000

8,000

2,000

5,000

0.42

SS(mg/L )

18,000

14,000

6,200

10,100

0.56


 イ 原単位:生し尿 1.806L/人・日 浄化槽汚泥 0.960L/人・日
⑤ 上記、④ア、イより浄化槽汚泥のし尿に対する負荷比率は0.56×0.96/1.81=0.29となり、し尿ベース人口>(し尿人口+し尿換算浄化槽人口)が成立することにより、現行の計画能力の範囲内となれば、し尿及び浄化槽汚泥の公共下水道(平和浄化センター)への受入れが可能となる。
8,940人>(6,598人)+(3,814人×0.29)=7,705人 ⇒処理可能

(3) し尿(浄化槽汚泥を含む)の希釈水量の算定(BODを対象)
  し尿の受入れを行った場合、BOD負荷が過負荷となるため、希釈水量の検討を行う。し尿由来のBOD負荷量は、し尿については18(g/人・日)×6,598人=118.8kgBOD/日となり、浄化槽汚泥については18(g/人・日)×0.42×0.96/1.81×3,814人=15.3kgBOD/日となる。よって、し尿(浄化槽汚泥を含む)全体では、134.1kgBOD/日となる。
 希釈水量は、BOD濃度を200mg/Lと仮定し計算を行った。
 134.1(kgBOD/日)×10/200(g/m)=671m/日(必要希釈水量)

(4) 酸素供給量の検討
  し尿投入後の必要酸素供給量は、計画値より求めた必要量とほぼ同じであり、計画施設での処理は可能と考える。また、現状の倍量に相当することから、OD2池の運転となる。


表-7 し尿受入れ後の水量・水質

条件

水量
(m3/日)

BOD
(mg/L)

T-N
(mg/L)

MLSS
(mg/L)

OD池(m3)

計画値

3,100

170

35

4,000

3,376

し尿投入後

2,107

200

52

4,000

3,376

現状

1,436

262.8

28

3,795

1,688


表-8 酸素供給量

条件

BOD

T-N

MLSS

計(kgO2/日)

計画値

317

422

1,488

2,227

し尿投入後

253

426

1,012

1,691

現状

227

157

810

1,194

BOD酸化:BOD(kg/日)×0.6
T-N硝化:T-N(kg/日)×4.57×0.85  0.85:硝化率
汚泥内生呼吸:MLSS(kg)×0.8×0.15  0.8:MLVSS


(5) し尿受入れ後の運転状況推定


表-9 水量・水質

 

現 状

受入れ後

計画値

処理水量(m3/日)

1,436

2,107

3,100

水 質

流入水

 

透視度(度)

4

 

BOD(mg/L)

262.8

200

流入170

T-N(mg/L)※3

(28)

52 ※2

 

COD(mg/L)

115.3

 

SS(mg/L)

210

89 ※1

流入150

※1:発生汚泥量(DS換算)/0.75/Qin=89mg/L
※2:原単位より 10×58/45g/人・日 し尿9/人・日


表-10 運転状況

施 設

項 目

現 状

受入れ後

計画値

OD

BOD-SS負荷(kg/kg・日)

(0.07)

0.06

0.04(0.03~0.05)

A-HRT(hr)

22

15

25

MLSS(mg/L)

(3,795)

4,000

(3,000~6,000)

返送汚泥(mg/L)

(3,254)

 

返送率(%)

(140)

(100~200)

最終沈殿池

OFR(m/日)

4.4

6.5

10(8~12)

HRT(hr)

18.7

12.8

8.3(6~12)

汚泥濃縮槽

投入汚泥量(m3/年)

17,900

37,700

 

投入汚泥濃度(%)

(0.33)

0.51

(0.5~0.7)

投入固形物負荷(kg/m2・日)

19.9

42.0

(30~50)

引抜汚泥量(m3/年)

(3,928)

8,267

 

引抜汚泥濃度(%)

(1.5)

(1.5~2.0)

脱水機

発生汚泥量(t/年)

(325)

684

 

含水率(%)

(84.2)

(81~84)

☆( )内は実績値。以外の数値は算出値


6. 考察

 下水処理場とし尿処理場の処理施設一本化について検討を行った結果、数値的には処理可能という結果となった。しかし、多くの課題も確認できた。1点目は、し尿受入れ時の希釈水の確保である。希釈水としては、処理水・河川水が考えられる。しかし両水とも利用するための設備が必要となり経済的ではない。そのため、夕張市内にある温泉施設の残水の利用を考えた。しかし、温泉水の泉質次第で下水施設への流入が不可能となる。また、硫黄系の泉質の場合に嫌気状態で硫化水素を生成するなど、下水道の受入れには慎重を期す必要がある。2点目は、T-Nの上昇により運転管理が難しくなることである。夕張市では、全面委託を行っているため運転管理を行っている企業との綿密な検討が必要となってくる。3点目は、処理施設としては処理可能となったが、ポンプ等の設備能力がし尿を受入れたことによる運転に耐えられるか検討が必要となり、不可能となった場合は、新たな改造費用が発生することが考えられる。
 しかし、平和し尿処理場が供用後50年を経過しているため、処理施設一本化は早急に検討するべき課題である。また、希釈用のポンプ施設等を新設した場合においても、し尿処理場での現状の維持費より安価となることが予想されるだけでなく、当面安定した汚水処理事業が提供できることも、今後の検討で考慮すべき点であると考える。
 今回の検討内容については、文献調査内容に基づいて行っているため、詳細検討を行う場合は、実際の浄化センターの運転状況等についても調査したうえで検討を行う必要がある。