【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 公共サービスが厳しい経済情勢や財政危機を理由に、次々と過度な競争入札による業務委託や責任の所在が不明確かつ市民協働という名のもとに切り捨てられています。サービス提供の担い手も直営職員から非常勤職員、業務委託業者職員等へと大きく変化しています。レポートは、時代の変遷と労働運動を通じて見えてきた、公共サービスの役割・提供主体、公務労働者の望ましい姿について報告します。



労働運動を通じて見えてきた公共サービスと公務員制度


宮城県本部/大崎市職員労働組合・大崎市職員労働組合地方自治研究センター 山中 政裕

1. はじめに

 公共サービスは、時々の国及び地方自治体の財政状況に左右されてきました。経済が好調であると公共予算も拡大され、不況に陥ると縮小され、国民からすると何とご都合主義であると思われています。公務労働者の労働条件についても予算規模に比例し、人数や労働条件がその時々の状況で大きく変動してきています。
 このような中で、本来あるべき姿としての公共サービス、その担い手である公務労働者の理想の姿はどうあるべきか、これまでの労働運動を通じて課題を明らかにして報告するものです。

2. 公共サービスの役割と区分

(1) 行政システムの誕生と経済活動の関係
 歴史を振り返れば、人間は厳しい自然の中で社会を構成して、災害・病気・生活困窮などに対し相互に協力しながら生活してきました。その後に共同体(集落等)による相互扶助システムが限界となり、それを克服するシステムとして行政が誕生したといわれています。
 経済の低迷や財政危機と時期を同じくして、民間活力導入・競争原理・小さな政府論などが盛んに言われていますが、過度に行き過ぎた競争社会は社会生活に大きな格差を生むことになります。そのことが教育の機会均等や少子化対策への悪影響、荒んだ社会を助長し、社会貢献活動の低下や犯罪の増加を招くことが懸念されています。現状の日本社会を見ると、生活保護者数の増加、平均年収の減少、非正規労働者の増加、格差を示すジニ係数の悪化など数々の事実が明らかに示しています。
 国・地方財政の危機的状況から、民活・規制緩和・国民負担・小さな政府論が出てきましたが、対症療法にすぎず、人間社会生活の原点が欠落していると言えます。
 経済システムが安定し社会生活や外交等も含めて問題がなければ、行政は必要がないと言えるでしょう。しかし、現実にはあり得ないことです。この行政システムの誕生を踏まえ、公共サービスの役割と区分、そしてサービス供給主体について厳しい経済情勢の中でどのようなあり方が望ましいかを考えてみます。

(2) 官民の役割と住民との信頼関係が不可欠
 行政の生い立ちや官民の役割とは何なのかを明らかにしないで、単に国・地方の財政的危機を理由とした民活導入および負担増では住民の信頼は到底得られるわけはなく、公務員バッシングへと結び付くこととなります。住民と接している市町村に対して、政治家や国県への不信・不満を訴える方が増加しています。
 解決の糸口として、住民の声を聴き政策に反映させる基礎自治体の仕組みが重要です。それには、官民の役割と住民との信頼関係(説明責任を含む)が不可欠で、そのためにも国・県・市町村の縦軸から横軸への転換と、全公務員の市町村所属構想の実現がカギを握っています。

(3) 公共サービスのエリアと提供手法
 住民生活を支える主要な役割を果たす主体は、国および地方自治体である行政、企業、民間団体、自治会・コミュニティ組織等地域自治組織などが支えています。
 この中で国と地方自治体が担う役割が公共サービスでありますが、行政・公共・市民社会サービスの区分として、①公務労働者による提供としての直営サービス、②行政が責任を持つ(民間委託による提供)領域としての行政サービス、③公共的な提供が望ましいサービスとして(市民・NPO・民間企業提供)公共サービス、④市民社会の存続に必要なサービスとしての市民社会サービスの区分モデルがあります(出典:武藤氏2003)。この区分から考えると、住民生活に不可欠な公共サービスの優先順位によるサービス提供主体を考えることが必要です。人命、憲法に規定する社会生活を営む上で最低限の社会保障については、直営を原則とし、以下公共サービスの区分に応じて提供主体を決定することが望ましいと考えます。特にこの間、公共サービスの民間委託、指定管理制度、民営化と公務員労働者を削減し財政効率化を追及してきた結果、本来住民が求める安全安心の社会生活としての制度設計を置き去りにしてきたことから多くの矛盾が出ています。制度設計を明確にして、サービス提供のありかたを議論すべきです。
 公共サービスの財源配分についても、国と地方の事業費に見合った配分を行うことが合理的ですが、現時点では地方事業費分の財源が不足しており、不足分については国から地方への国庫負担金や補助金等で賄う仕組みとなっています。国への権限集中と国と地方双方にとっての膨大な事務手続きがあり事務効率化と地方主権の壁となっていることから早期の解消が必要です。

(4) 委託・民営化の功罪
 この間の行政改革は、人件費の削減を最終的な目標としており、特に平成の市町村合併は公務労働者を大幅に減らし究極の行革となりました。自治体財政の状況を示す地方財政状況調査(決算統計)を見てみると、業務委託や非常勤職員の導入により人件費の割合は減少したものの委託料や非常勤職員賃金による物件費が増加しました。この統計から言えることは、同じ人件費でも委託先の人件費や臨時職員の賃金は物件費に区分され、全体的には正規職員が減り委託企業人件費や非常勤雇用職員賃金に変わったわけです。このことは、同じ人件費であるのにもかかわらず、委託企業の職員や臨時職員人件費は物件費に区分されているということです。人件費削減が至上命題のようになっていますが、人的サービスにかかる提供経費は事業費であることを統計上も改め、住民に説明することが必要です。
 委託や非常勤職員でのサービス供給責任は自治体側にあるのは当然ですが、その内容に極めて大きな問題があります。財政削減のみを追求するあまり、過激な競争入札によりサービス供給に問題が生じたり、非常勤職員に過大な責任となったり責任の所在が不明確になり住民とトラブルになるなど、弊害が生じています。
 一定程度の財政削減は進んだことは事実ですが、その結果正規職員の大幅な減少、委託や非常勤職員化の推進による大量の官製ワーキングプアが生み出され、雇用やサービス供給責任問題や多くの課題を抱え、目に見えない煩雑な事務の増加や住民・委託業者・市町村との間に複雑な業務の流れから問題が生じているなど、特に合併により巨大自治体の誕生により行政が一層住民からかけ離れたものとなり、トータルではマイナスに傾斜したといえます。

3. 公務員制度のあるべき姿

(1) 国・地方を問わず、すべての公務員は基礎自治体に帰属させる制度の展望
 国の構成は、基礎自治体である市町村の連合体として捉えることもできます。国と地方、そしてそこに従事する職員は、法律上国家公務員法、地方公務員法とそれぞれ別組織として携わっていますが、住民からすると、そういう意識はないと思われます。住民は市町村に本籍および現住所を置き、そこで社会生活を営んでいます。公共サービスを提供する行政機関は細部の法的な区分はあるものの、市町村・都道府県・国と三層構造といえますが、市町村をベースにその連合体が国を構成しているという見方が分かりやすいと思います。
 公共サービスを提供する市町村・都道府県・国(各職員)は、それぞれの行政の任務分担で提供していることになります。そこを踏まえ、次のような考え方で国・地方の職員構成および住民公共サービスの考え方に立つことができます。
 行政組織の公務労働者は、当然のことですが市町村・都道府県・国と、それぞれ所属が違います。これまでそれぞれの所属や地域住民の立場で地域づくりにかかわっていることと思います。地方分権から地方主権と住民生活に密着している公共サービスは地方ということで進んできており、徐々に中央と地方のさまざまな面での格差や温度差が解消されてきていますが、依然として存在していることも事実です。多方面で、中央省庁、都道府県、市町村職員の意識や地域づくりへの取り組みに温度差があることなどが取り上げられたことがあります。
 そこで格差や温度差を解消するため、国家公務員・地方公務員を問わずすべての公務員は市町村に所属し、国を形成する基本である基礎自治体を意識し、かかわりを持つことにより効果的かつ効率的な行政体になると考えられます。すなわち、現在の自治労組織が理想的であり、すべての役員は基礎自治体に相当する単組から選出するシステムとして「自治労中央本部―都道府県本部―単組(基礎自治体)」が構成されており、住民生活や地域づくりに密着した分権自治に相応しい、現実を踏まえた組織として政策形成が可能となると思います。具体的には、勤務地については基本的に変わらず、採用された時点で所属を全国のいずれかの市町村に置き、その市町村とのかかわりを持ち、地域の実態を把握し同時に市町村の職員と情報および意見の交換を行って相互に地方と中央の情報と意識の共有を図り、行政運営や地域に密着した政策や制度の確立の推進に努めることとします。
 自治体労働者は、公共サ―ビス提供の直接担い手であり、複合的な公共サービスのマネジメントとコーディネートを行う重要な役割を担うことになります。

(2) 労働基本権関係
 労働基本権が制約された中での人事院勧告制度から、完全とは言えないものの労働協約締結権が復権した自律的労使関係へと変わることは大きく前進したといえますので、私たち公務労働者はフルに権利を行使するためにより一層の組織拡大と強化が必要です。一方で、賃金労働条件を決定するに当たっては、これまでの民間準拠方式を残しつつも公務労働が劣悪な賃金労働条件を望ましい水準へと底上げする牽引的な役割を持たせることが必要です。

4. まとめ

 労働運動を通じて見えてきた公共サービスとその担い手である公務労働者のあり方について考え方を述べてきましたが、取り巻く環境が厳しい時代ほど公共サービスの役割は重要です。このことは2011年3月11日に発生した東日本大震災の復旧復興活動で、より一層公務の役割が重要であることが明らかになりました。住民生活に密着したサービスは基礎自治体で担い、国家的なプロジェクトや外交等については国が担うなど役割を明確にすることが重要であり、その上で必要な財源としての税体系の構築をすることが不可欠であります。
 自治体が受け持つ公共サービス領域を軸に、NPO・企業が受け持つ領域、地域コミュニティ領域が持つ補完的領域を明確にすることから、制度設計や税財源のあり方を議論することが本来の意味で重要であります。このことなくして、最近クローズアップされている広域連合や道州制等は、目的が不明確であり現在よりもさらに複雑なシステムになることが推測されます。
 公共サービスの担い手である公務労働者のあり方については、基礎自治体勤務をベースとした自治労方式の制度設計を将来的にめざすことが地域主権を実現する早道と考えます。何れにしても、私たち自治体労働者にとって地域に密着した現場主義から労働運動と自治研運動が地方自治を発展的に創造するものであります。