【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 練馬区では2010年7月に学校用務業務の全面委託提案が出され、最終的に全校委託による学校用務職全廃の当局方針が示された。労使交渉の中で、練馬区職労は直営職員の有効活用について逆提案、そのひとつが練馬区の制度を利用した障がい者雇用である。自治労現業アクションプランにある「縦割り行政を払拭する総合性の発揮」と「新たな技能職」像について、現場のたたかいをふまえ、レポートする。



学校用務現場へ知的障がい者を非常勤採用
保守的・閉鎖的な学校職場に大きな風穴を開け直営の存続へ

東京都本部/練馬区職員労働組合・賃金対策部長 矢内 幸夫
現業評議会・副議長 阿部 一勝

1. はじめに

 練馬区では2003年4月に学校警備員制度が廃止され、強制配置転換が実施された。さらに2003年度には学童擁護にシルバー人材センター委託が導入されるなど、職の廃止と職場の減少が進んでいる。他の職種でも新規採用の停止が常態となり、用務職は2002年、学校調理職は2003年度を最後に、新規職員が採用されない状況が続いている。すべての職種が退職不補充状態におかれていることに加え、時限的な特例転職(東京23特別区の任用替え制度)が実施され、現業職員数の減少に拍車をかけている。2011年4月には事務職も含む新規採用ゼロという厳しい状況におかれた。区当局の「委託化・民営化」方針を背景とした職員削減が続く中で、多くの現業組合員は自分たちの「職」の将来に対する不安を抱えながら働いている。
 反撃の第一歩は、学校給食現場から始まった。2005年4月、学校給食に民間委託が導入されると同時に練馬区職労・当該学校分会・現業評議会は、学校調理職について「直営職員の位置と役割」を検討するプロジェクトを立ち上げ、2008年度団体交渉で「直営の存続」を区当局に認めさせるに至った。その上で2010年度の団体交渉で最終的な直営校(モデル校)の数を確認して妥結した。学校調理職のたたかいの到達点をふまえ、現業評議会は、各職種における「職」あり方を追求し、直営存続の必要性を当局に認めさせる取り組みを継続しており、特例転職が終了する2014年の新規採用の再開をめざしている。


練馬区の現業・学校用務職員数

2. 練馬区の学校用務職員配置

 練馬区立の学校数は、小学校65校(2010年4月に8校が4校に統合された)、中学校34校である。
 学校用務職員は当初、学級数が算定基礎となる東京都基準により最大4人が配置されていたものの、退職不補充の影響で、配置人数が減員となり、各校正規(定年前)職員2人体制が続いていた。2012年4月現在、練馬区立の小学校11校、中学校11校の計22校で学校用務業務の全面委託が実施されている。また区立幼稚園は再任用職員の単独配置職場となっている。この間の学校用務業務の委託化進行の経過をふりかえっておく。
 2007年度の団体交渉前の事務折衝で、区当局は学校用務業務の全面委託提案を練馬区職労に打診してきた。精力的な折衝を重ねた結果、団体交渉では、「新たな定数を正規(定年前)職員1人に再任用または再雇用職員1人を加えた2人体制とし、部分委託を拡大(廊下のワックス清掃・U字溝清掃・調理職員の検体搬送)、業務の全面委託は行わない。この体制を概ね5年継続する」ことで妥結した。
 しかし、2009年度になって、区当局は「概ね5年、新体制を維持する」とした2007年度交渉の妥結内容を反故にし、学校用務業務の全面委託提案を行うに至った。唐突な提案に、区職労・当該学校分会・現評、は当局を強く批判するとともに、攻勢を強め委託の導入を1年延期させる到達点を得た。翌2010年度交渉では、区当局が再度12校の全面委託化を提案、区職労は条件を提示し、委託校を6校に圧縮する大綱妥結をした。
 2011年度になると、区当局は、既委託校6校に加え、新たに16校の全面委託を提案。区職労・当該学校分会は、毎年の交渉でなし崩し的に全校を委託しようとする当局の姿勢を強く批判、「学校用務の将来像」を区当局が示さない以上、今後の委託交渉には一切応じられないことを通告したのである。交渉の結果、当局提案の16校委託を受け入れるものの、労使双方による「学校用務のあり方に関する検討協議会」を設置し、年度内に一定の結論を出すことが確認され、大綱妥結をみた。
 このような労使確認が行われたにもかかわらず、当局側は協議に誠実に応じることはなく“サボタージュ”状態となったため、年度末に団体交渉を申し入れ、当局の不誠実対応を厳しく追及、区職労委員長と教育長とのトップ会談を経て、直営の存続を確認、検討協議を継続することとなった。検討協議会では、学校用務職員の役割について ①委託管理 ②障がい者雇用における職業指導 ③学校防災拠点要員 の3点とすることで合意をみた。これらの合意結果を踏まえ、本年(2012年)6月1日、最終団体交渉がもたれ、学校用務の直営を存続する学校数を確認し、妥結したのである。

3. 学校用務現場に障がい者雇用を実現(2011年4月 2校・2012年4月 3校)

(1) なぜ障がい者雇用なのか
① 経 過
  すでにふれてきたように、練馬区当局は学校用務業務の民間委託を区内小・中学校全校に拡大する方針を打ち出し、2010年度交渉で、委託提案が出されるに至った。多数の現職が存在する用務職の全校委託方針は、あまりにも横暴であり、労働組合として到底受け入れることはできない内容であったが、他区においても委託化の流れは急ピッチであり、民間委託では絶対にできない学校用務職のあり方を構築する必要に迫られたことも事実である。労使交渉を進めていく中で、区職労は学校用務現場への知的障がい者雇用の導入を逆提案した。もちろんこれまで現業職場での知的障がい者の就労実績はゼロである。もし仮に実現すれば、従来、区の福祉部が進める障がい者施策と教育委員会との間でかけ離れていた縦割り行政の壁を打ち破る画期的な実験となる。このような構想は労働組合でなければできない大胆なものであった。区職労では委員長が先頭に立ち、教育長に障がい者雇用の必要性と学校現場で実現可能な具体的な作業予定内容の提案・説明を行い、教育長がこれを受け止め、了解する中で実現をみたのである。交渉の妥結後、教育委員会は採用に向け、職員課・障害者施策推進課と協議の上、一般公募による募集に入る。受け入れ校については教育委員会が校長会に打診し、特別支援学級が設けられている区立小学校2校の校長が受け入れを了承した。
  知的障がい者採用にあたっては、練馬区の業務協力員制度(註1)を適用し、一般公募による選考(4日間の研修結果と面接・作文)を経て、2011年4月より区立小学校2校に各1人が配置された。さらに本年2012年4月には配置校を1校拡大、現在、3校に計3人の業務協力員が配置されている。
② 直営だからこそできる仕事
  練馬区職労では、現業活性化を考える中で、以前から「練馬区の公立学校に障がい者雇用を実現する」という構想について、論議を重ねてきた。もっとも大きな理由は「けっして民間企業にはできないこと」だからに他ならない。障がい者が働く職場選定にあたっては、特別支援学級を設けている区立小学校を第一条件とした。特別支援学級で日常的に障がい児と接していることで、児童・生徒・職員の理解を得やすいこと、また特別支援学級へ児童・生徒を通学させている保護者への大きなアピールとなることも考慮した。「官から民へ」をスローガンとする現業合理化攻撃に対し、「官だからできる」現業職員のあり方を模索していた現業評議会にとっても、現業活性化の大きな一歩と評価できる課題であった。皮肉なことであるが、学校用務業務の全面委託提案がきっかけとなり、実現につながった。どんな取り組みでもそうなのだが“転んでもただでは起きない”ことが大切なのだ。
③ 技能長(技能業務系人事任用制度)の活用
  東京都23特別区では2005年4月より現業職に4層制の人事任用制度(1級―主事・2級―技能主任・3級―技能長・4級―統括技能長)が導入されている。また、2007年の賃金確定闘争で業務職給料表が最大10.8%引き下げられたこともあり、昇給のためには昇任する必要性が大きくなった。練馬区職労、現評は、大きな発想転換をはかり、昇任率が各区協議事項(1~3回選考の昇任率は全区統一)となった4回目の技能主任選考から行政系の主任主事選考と同様の5枝択一筆記選考を導入、現業労働者のチャレンジぶりを示し、当局に存在価値を認めさせ、さらに高い昇任率を実現させている。
  一方、3級職以上について、現業評議会は区職労とともにあり方を検討し、配置基準の緩和、拡大をてこに任用される数の拡大を図ってきた。その結果、学校用務職にあっては、業務協力員の指導を技能長の職責のひとつとして位置づけ、指導員として配置することとなった。
  2012年4月現在、学校用務職の技能長は全部で5人である。このうち3人が学校現場配置で日常業務と業務協力員の指導、2人は教育総務課学校業務係次席として、委託管理業務を中心に行っている。

(2) 教育委員会の障がい者雇用率
 練馬区の障がい者雇用率は、2000年度2.61%~2012年度2.28%で、区全体では毎年法定雇用率を達成している。部ごとの統計は出ていないものの、教育委員会単独では法定雇用率(註2)を達成できていない状況にあった。そうした点では、学校用務職現場における業務協力員制度の導入は、教育委員会としても大きな成果につながったのである。団体交渉の中で区職労委員長は「障がい者雇用に積極的に取り組んだ組合を適正に評価するとともに、その取り組みに教育委員会は感謝すべき」と強く述べた。


練馬区の障がい者雇用率
年  度
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
障がい者
雇用率
2.77%
2.40%
2.42%
2.37%
2.53%
2.53%
2.56%
2.53%
2.10%
2.28%
 

4. 業務協力員の作業内容

 業務協力員は練馬区の非常勤職員である。月の勤務日数は16日以内、現在配置されている3小学校では基本的 に月曜日から木曜日を勤務日とし、金曜日は就労支援移行事業所等に通い、民間就労をめざしている。
業務協力員の作業(区立大泉東小学校の場合)
7:45 廊下清掃            13:00 トイレ清掃
    トイレ点検           14:15 階段清掃
    来賓用下駄箱点検        15:00 昇降口・玄関マット清掃
9:00 作業内容打ち合わせ       15:50 作業日報作成
9:15 屋外清掃・除草等            作業日報確認(技能長)
    (雨天時は適宜屋内作業)    16:15 作業終了
11:45 作業日報作成(午前作業分)
12:00 昼休み



5. 今後の課題

(1) 民間への就労
 業務協力員制度が目標としているのは一般就労である。現在、練馬区立小学校に配置されている業務協力員のうち2人は2年目をむかえたが残念ながら一般就労は達成しておらず、今後の大きな課題となっている。毎日の職場では、仕事を身につける(体で覚える)ことを当然の目標としながら、仕事に取り組む姿勢(仕事をすることの意味)、社会人としてのマナーについても繰り返し訓練を行っている。また、就労移行支援事業所と連携しながら就職情報の収集、就職試験の模擬練習などにも取り組んでいる。

(2) 地域との連携
 区立小学校に障がい者雇用を取り入れたものの、公募に対し応募人数が多くないという現実に直面している。
 その原因として考えられるのは、①制度が区民に認知されていない ②任用期間が最大でも3年 ③結果が出ていないこと(一般就労の実現)などが考えられる。3年目を迎えるにあたり、制度を継続、充実させることはもちろんであるが、同時に練馬区内に生活する障がい者の保護者(小・中学校の保護者、親の会など)にこの制度の理解をもっともっと深めてもらわなければならないと考えている。また、特別支援学校高等部と連携した研修生の受け入れなど、特別支援学校での職業訓練をサポートするような取り組みも重視しなければならないだろう。
 こうした地域や保護者の理解・協力・連携を糧に、練馬区では、業務協力員配置校の8校(小学校)までの拡大をはかる予定である。




註1:練馬区の業務協力員制度
 練馬区では、民間企業や他の公的機関に率先して障がい者の自立の促進に向けた就労支援を行うため、職業訓練的な観点から、障がい(知的障がい)者を業務協力員(非常勤職員)として任用。これは、厚生労働省が提唱する「チャレンジ雇用」の趣旨に基づいている。「チャレンジ雇用」とは、国・自治体において1~3年就業し、その業務経験をもとにハローワーク等を通じて一般企業等への就職実現をめざす制度。2011年度に実施された選考の応募資格は「愛の手帳を持ち、自力で通勤できること(練馬区に住民登録または外国人登録のある区内在住者を対象)」であった。
註2:法定雇用率とは
 民間企業、国、地方公共団体は「障害者の雇用促進等に関する法律」に基づき、それぞれ以下の割合(法定雇用率)に相当する数以上の身体障がい者又は知的障がい者を雇用しなければならないこととされている。
○民間企業  一般の民間企業(常用労働者数56人以上規模の企業)……1.8%
       特殊法人(常用労働者数48人以上規模の法人)……………2.1%
○国、地方公共団体(職員数48人以上の機関)………………………………2.1%
  ただし、都道府県等の教育委員会(職員数50人以上の機関)…………2.0%