【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 近年、温室効果ガスの増加とともに地球規模で問題になっている温暖化、人間の活動が要因となって失われつつある生物多様性など、環境に対する意識が高まっています。
 豊な自然と美しい景観を未来へ残すために、行政に携わる者として、市民や事業者と協力する必要があります。本レポートは、勝山市のこれまでの活動紹介と、今後の取り組みについて提言します。



環境保全活動を通した協働のまちづくり


福井県本部/勝山市職員組合 辻  和博

1. はじめに

 勝山市は、福井県の東北部に位置し、市の周辺は1,000メートル級の山々に囲まれ、中心部は県下最大の河川である九頭竜川の中流域にあります。
 市街地は九頭竜川の流れに沿って形成された河岸段丘に位置しており、明治以来の地場産業である繊維産業を基幹産業とした商工業と、古くから農林業が盛んな水と緑の豊かな田園都市です。
 行政の組織は明治の市制町村制により現市域内に1町9箇村が誕生し、その後1954年9月1日、町村合併法により現在の勝山市が発足しました。
 勝山市には福井、富山、石川、岐阜の4県にまたがる白山国立公園の一部区域が含まれ、国立公園全体が自然の保全と両立が図られている地域として「ユネスコエコパーク」(生物圏保存地域)に認定されています。
 この美しい自然を未来に残し、“人が住むための環境”を備えた「エコ環境都市」の実現を目指しています。


2. これまでの取り組み

 当市職員組合では、市民団体が主催するイベントや、市が主催し市民と共に活動できるイベントに積極的に参加し、自治研活動に取り組んできました。

(1) エコミュージアムによるまちづくり
 勝山市は、2002年から市の再生と未来への進化を目指した「ふるさとルネッサンス」を理念に、「勝山市エコミュージアム構想」に基づいたまちづくりを進めています。これは勝山市に残る豊かな自然や白山平泉寺などの文化・歴史資産、「ゆめおーれ勝山」などの産業遺産等、また、旧町村単位で、各地に残る資産等を将来にわたって保全・活用し、市域全体を「屋根のない博物館」とする構想です。この構想の主体となるのは、旧町村ごとに組織されたまちづくり団体です。この団体に、住民と共に市職員も参画し、各種イベント等の開催、参加をしております。これまでに、地域や市民の積極的な参画により数々の成果が生まれ、それらの取り組みを通して、新たな魅力を市外に発信できるまでになってきました。また、職員もこれらの活動から得た知識や経験を、自らの業務にフィードバックできるようになっており、今後さらにこの取り組みを発展させ魅力的な郷土を育てていくことが、市民が誇りを持って次代に継承するまちづくりにつながると考えています。
国史跡白山平泉寺旧境内

(2) かつやまをきれいにする活動

植栽活動の様子
 市民との協働による勝山市の魅力づくりは、環境を保全する活動にも広がっています。
 河川清掃活動は、勝山青年会議所が全市民に呼び掛け「クリーンアップ九頭竜川」事業を積極的に行っています。また、2006年からは市内各地区や事業所が参画する「勝山をきれいにする運動」を展開し、一年を通して様々な組織が、様々な場所で清掃・美化活動を行っています。2012年4月現在の参加団体は118団体にのぼります。清掃活動はまちの美化のみならず、平泉寺地区による国史跡「白山平泉寺旧境内」の清掃活動など、歴史遺産の保全活動として長年続けられている事業もあります。
 これらの清掃活動等には、職員もボランティアの一員として毎年参加しております。市民と共に汗を流すことで、市民との交流を深めております。
 地域のコミュニティを中心としたこれらの活動は、地域を愛する心を育むとともに、エコ環境都市をベースにしたクリーンな観光都市を目指す勝山市の重要な取り組みになっています。

(3) 環境教育の充実

赤とんぼと共に生きるプロジェクト活動報告会の様子
 勝山市は、バイカモやミチノクフクジュソウ、ホタル、クマタカなどの貴重な動植物や、希少種の自生する湿原・里地里山を有しており、NPOや市民団体による保全活動や観察会など、様々な取り組みが行われています。
 そのひとつとして、2011年から勝山市、小学校、JA等が連携して、「赤とんぼと共に生きるプロジェクト」をスタートしました。赤とんぼ(アキアカネ)は全国的に減少傾向にありますが、勝山市では、まだたくさん見ることができます。農耕文化と密接な関係にある赤とんぼの舞う生態環境を保全するために、「羽化調査」、「移動ルート調査」、「講演会・報告会」、「生息環境の維持」の4つの事業を実施しています。
 「羽化調査」と「移動ルート調査」には市内4つの小学校の児童が参加。石川県立大学の上田教授のアドバイスを受け、2011年から配置した環境保全推進コーディネーターが指導を担当しました。赤とんぼの移動ルート調査の過程で、7月に羽化した赤とんぼが8月に高地(法恩寺山山頂)で見つかり、「赤とんぼが平地から高地へ移動すること」を直接確認した日本で初めての発見が生まれました。
 子どもたちの環境学習は、環境保全推進コーディネーターが中心となって学校の教職員と連携する形で行っており、また広く市民に対しても環境保全に関する情報を発信し、市民の環境意識の向上を推進しています。
 この事業は、昨年に引き続き2012年度も実施しております。今年度は、市民調査員を募集し調査範囲を市内全域に拡大しております。調査員は市民と共に職員もボランティアとして参加しており、互いに協力しながら調査をしております。

(4) 恐竜ブランドを活かしたまちづくり
 勝山市北谷町で1988年に肉食恐竜の歯が発見されたのをきっかけに、福井県による恐竜化石発掘調査が続けられており、2000年には福井県立恐竜博物館が開館しました。勝山市では、発掘調査と博物館を活かしたまちづくりを進めています。博物館のある「かつやま恐竜の森」では、年間1万人以上の子どもたちが化石発掘体験に参加しています。
 さらに、2009年10月には日本ジオパーク(地球活動の遺産を主な見所とする自然公園)のひとつとして「恐竜渓谷ふくい勝山ジオパーク」が認定され、更なる事業の充実を図っています。
 恐竜ブランドを活かしたまちづくりは、観光事業の発展につながる中心的取り組みになっており、職員も協力してブランドの強化活動を行っています。

かつやま恐竜の森

(5) 環境自治体会議かつやま会議
 2012年5月25、26、27日の3日間にわたり、第20回環境自治体会議かつやま会議が開催されました。環境自治体会議は、環境政策に積極的に取り組んでいる55の自治体で構成され、自治体や団体間のネットワークづくりを推進し、情報を共有することにより、環境施策を推進することを目的としています。
 大会は、初日、3日目が全体会、2日目が市内11カ所に分かれて分科会が開催され、期間中全国から延べ3,000人を超える参加者がありました。このような全国規模の大会が勝山市で開催されることは初めてであり、参加者のおもてなしや大会運営など、市民ボランティアと職員が協力して準備にあたりました。
 ボランティアで参加した市民の方は、環境やイベントに対する意識が高く、様々な提案や意見を持っており、職員にとってもいい刺激となりました。

かつやま会議受付の様子


3. まとめ

 ここに紹介したとおり、当市では市民と職員が、互いに協力しながらまちづくりを進めてきました。市民と職員がイベントを通じて、交流を図り、また互いに刺激し合いながら活動してきました。
 著しく変化する環境を保全していくということは、行政だけでは到底できるわけがなく、市民の協力が欠かせません。これまでの交流を柱とし、これからも勝山に住む人間が心を一つにして、保全活動に取り組んでいく必要があります。
 これから、市民と行政の関係が、サービスを受ける者とサービスを提供する者の関係ではなく、互いに手を取り合い、協力しながら未来の子どもたちにより良い自然環境を残していくためのパートナーの関係になる必要があると考えております。当市のこれまでの活動をより発展・継続させて、すべての市民が望む未来を将来に残していけたらと考えています。