【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 5市2町を連結する第三セクターの北近畿タンゴ鉄道は、高校生や高齢者、産業の維持発展を支える大動脈として、不可欠な社会資本である。しかし、利用者減により、運行維持費の赤字補填額は増加の一途をたどり、その赤字額は、不名誉な全国1位を揺るぎないものにしている。京丹後市では、6年前、市内を走るバスを200円均一にして利用者増と赤字削減に成功した。その経験を生かして取り組み始めた「200年レール」を紹介する。



日本一の赤字鉄道再生プロジェクトについて


京都府本部/自治労京丹後市職員組合・京丹後市役所企画総務部企画政策課・主任 野木 秀康

 京阪神と京都府北中部及び兵庫県北部地域の5市2町を連結する第三セクターの北近畿タンゴ鉄道(全長114km)は、沿線地域内の住民、特に高校生や高齢者などの交通弱者の日常生活及び地域の観光や様々な産業の維持発展を支える大動脈として、まちづくりに不可欠な社会資本です。しかしながら、利用者減に伴う収入減や、国鉄転換時からの老朽化した施設や車両の更新が見込まれる中、さらには大阪直通特急列車の運行維持費としての赤字補填額は増加の一途にあります。その赤字額は、8億円を超え、2位以下を大きく引き離し、ぶっちぎりの不名誉な1位を揺るぎないものにしております。
 しかし、地域鉄道がなくなってしまうと、人口減少の加速を招くことは、これまでの歴史が証明しています。京都大学中川大教授研究室では、1981年9月から1990年9月までの、廃止路線の人口変化と現存地方路線の人口変化の平均を比較し、廃線となった地域では10年後、20年後とその差は歴然と広がるばかりで、25年後には、3倍の人口減少の差になります。つまり、鉄道がなくなれば、25年後には、ただでさえ減少している人口減少に3倍の加速機を付けた結果になるのです。これは極めて深刻な話であり、危機感を持って取り組む必要がありました。市では、毎月の広報紙での連載をスタートさせ、市の施策の優先度が高いことを住民に周知するなどし、シンポジウムの開催では600人超の参加者になるなど、気運の醸成(利用促進の下地づくり)に努めました。

1. バスの取り組みから学んだこと。

 京丹後市は、2004年4月に市町村合併して出来たまち。京丹後市は、バス交通の「高い、不便、利用者減」の悪循環を断ち切るため、2006年10月、市内ならどこまで乗ってもバス運賃200円を試験的に導入。翌年から市内全域に拡大し、昨年9月末までの5年間で、乗車人員2.1倍、運賃収入22%増を達成、市のバス会社への補助金は導入前に比べ、昨年度約1,900万円減の6,843万円に抑制するなど、一定の成果を上げてきました。路線バスの経営も大変厳しい状況で、同じく廃線も含めた検討も行われていましたが、それまでの運賃(区間最大1,150円)を思い切って上限200円にし、バス路線の見直しとバス停の増設などを展開したことで、住民の皆さんに喜んで乗っていただける以前のバス交通を取り戻すことができました。北近畿タンゴ鉄道の対策も、これに学ぼうということで、安易な合理化策(利便性低下)に走らずに、住民の福祉を守るんだという使命感と責任感を持って、思い切った取り組みを行うことになりました。

2. 鉄道の思い切ったプロジェクトの始動 ~200円レールの導入~

 京丹後市は、昨年6月中旬から11月下旬までの約5カ月間、土日、祝日に限り、65歳以上を対象に、市独自で市内の駅で切符を購入した高齢者は片道上限200円とする社会実験を実施しました。例えば、市内の久美浜駅から福知山駅まで切符を買った場合、運賃1,530円を200円に減額。これにより高齢者の利用は前年同期に比べ2.8倍の2,341人に増えました。


【昨年の200円レール社会実験の利用のようす】

昨年の200円レール社会実験の事業の成果・評価など
 成果 1. 利用者が2.81倍(前年832人⇒2,341人)
    2. 費用対効果
      KTR収益=1,451千円(純増分)
      実施経費 =1,760千円(運賃差額補填額:市の投資額)
           =△309千円
総括 低額運賃での市民利用を提供することにより、昨年度の約2.8倍の高齢者にKTRを利用していただけたとともに、KTRに一定の増収効果をもたらした。さらに、①他の公共交通機関への乗り継ぎ増収効果、②家族によるマイカーの送迎負担軽減(時間的・経済的)効果、③外出が増えることでの消費拡大効果、健康増進効果、④地域鉄道を「乗って守る」気運の醸成効果、⑤団体利用など地域コミュニティの輪の拡充効果などを考慮すれば、投資額以上の施策効果はあったと判断。また、第三者評価として、NHKによる実験結果の報道が4度にわたり全国放送され、200円バスと合わせて、200円レールも過疎地域の公共交通施策のあり方に十分に一石を投じることができました。

 しかし、北近畿タンゴ鉄道は、路線バスのように京丹後市内で完結するものではなく、5市2町を跨ぐものであることから、本市だけでなく、KTR沿線全体の取り組みにしなければ大きな意味は持ちません。そこで、昨年の本市での実績を引っさげ、より広域的な取り組みとなるよう他の自治体への営業活動を昨年12月から開始しました。
 すると、実績が出るまでは興味を抱かなかった沿線自治体から、200円レールを一緒にしたいという申し出が出始め、昨年度の社会実験をさらにバージョンアップさせ、平日利用も可能にした上で、本年10月から来年3月末までの半年間を沿線2市2町で試験的に運賃上限200円を導入していくことが沿線首長会議で了承されたところです。既にNHKや時事通信社による全国放送も行われ、広く注目の的の施策になりつつあります。

3. かすかな自信 200円レールの拡大施策

 公共交通で大事なことは、①分かりやすく ②使いやすいこと の2項目に尽きます。200円レールの取り組みは、まさにそれを実行する唯一の方法であり、200円さえあれば乗れるという安心感を作り出すことが、指示され利用される成果につながるものです。
 しかし、目標は3倍(3倍に利用者を拡大できれば運賃を引き下げた分を増収などでカバーできる)に設定しており、大きな目標ではありますが、過疎地域の公共交通施策は、あきらめずに頑張れば成果がでるものだということを、広く全国に証明するとともに、同じく過疎地域で厳しい状況にある全国各地の仲間にエールを贈るとともに、さらなる次のステージへ駆け上がろうと、地域の豊かな暮らしを描いて、仕事に取り組んでまいりたいと思います。
 次に、住民に対してではなく、観光集客のために思い切った取り組みも同時に必要であります。本市からSL運行や200円レールの拡大など、積極的な利用促進策を提言し、首長会議で検討を重ねているところであります。水戸岡列車(鉄道車両の有名デザイナーである水戸岡鋭治氏が手がけるデザイン車輌)の導入なども現実味を帯びつつあり、観光誘客対策からも目が離せません。

 どうか、皆様、北近畿タンゴ鉄道に乗って、鉄道旅の思い出を、丹後で作ってやってください。

4. 目立ってなんぼ、発信してなんぼ

① 吉本興業とのコラボ
  全てを笑いに変える吉本興業さんとタッグを組み、昨年度沖縄映画祭CMコンペティションにCM作品を応募。日本一赤字鉄道を笑いにしたKTR動画が全国10傑に残り、さらにインターネット投票の決勝大会で第3位の成績を収めた。
  これが縁で、吉本のなんばNGKにて北近畿タンゴ鉄道を題材にした新喜劇が上演され、7月21日(土)に毎日放送にてテレビ放映が実現し、京阪神地方のおばちゃんまで北近畿タンゴ鉄道と沿線の様々な魅力の認知度が上昇中。
② 住民の皆さんや「鉄ちゃん」とのコラボ
  日本一の赤字鉄道をなんとか支援しようと、多くの市民や北近畿タンゴ鉄道ファンの皆さんが様々な企画を実施していただいております。地元信用金庫が乗車運動を展開(月に2度乗る)していただき、地元ラジオ番組やケーブルテレビ局は、番組内で北近畿タンゴ鉄道をテーマにトークなどを展開していただいております。さらに、ピンク色の服を着て100人で列車内を染めようプロジェクトでは、撮り鉄などの皆さんとのコラボで、見て楽しい同鉄道の動画を作成することができ、現在、動画投稿サイトのユーチューブに公開が始まり、シェアの動きが広がってきているところです。さらに、市内の各駅には保育園児から、高校生、高齢者らの老若男女が集い、各駅のプラットホームなどに花の植栽を一斉に展開し始めたところであり、この春には、マリーゴールド、トウテイラン、カンナ、ベゴニア、ニチニチソウなどの苗を植えていただいたところです。保育園児の散歩コースが駅に寄ることが追加されるなど、鉄道と住民の皆さんの距離も大きく縮まってきました。世代間の交流も生まれるなど、鉄道があることで、地域の輪が広がっていく素晴らしさを改めて強く感じております。
  また、KTR専門のWEBサイトが登場し、一気に仲間が増えるなどソーシャルメディアの活用も、北近畿タンゴ鉄道にとっては重要な施策であると思います。『丹後鉄景』サイト(http://www.orangeplanet.jp/ktr/)は一見の価値ありです。ネットを通じて、ますます、北近畿タンゴ鉄道ファンを獲得しているところです。


【丹後鉄景サイトのフォト集から】
~京丹後市民による企画列車と列車に手を振る園児たち~

5. 開業20年余りで初のファン感謝デーの開催

 KTR職員や行政職員、市民の有志が裏方となり、終日KTR職員と触れ合える楽しい催しを実施させていただきます。この7月には、KTRのホームページもリニューアルし、『変わらなきゃ』を着実に、関係者から始めており、いよいよ取り組み成果も出てくるのではと期待が膨らんでいるところです。
 乗って楽しいKTRに、行政と沿線住民の皆さんが支援を強化することで、より魅力的で便利な鉄道へと大きく前進させる1年(2012年度)にしたいと思います。
 詳しくは、北近畿タンゴ鉄道株式会社のリニューアルされたばかりのホームページから、御確認ください。同社HPアドレス、http://ktr-tetsudo.jp/へ。