【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 臼杵市行政経営ツールは、財務書類、事務事業評価、施策評価、市民意識調査などそれぞれ必要に応じて個々に作られ、改善・発展してきました。そして、10年経過をした今、個々のツールを関連づけて、有機的に結合しながら、有効的に市政運営に反映できるしくみを構築しました。今回は組合員の皆さんに臼杵市の行政経営システムの状況を簡単に解説していきたいと思います。



『臼杵市行政経営システム』について


大分県本部/臼杵市職員労働組合 山木 哲男

1. はじめに

 近年の長引く景気の停滞に加え、本市においては日本たばこ産業の撤退など、今後の経済情勢も不透明な中で、市の行財政運営は一段と厳しいものが想定されています。
 こうした時代にあって、市民のニーズをしっかりと捉え、市民が自らの負担に見合うサービスを実感できるか、市民が期待するサービスをどうしたら効率的かつ効果的に提供していくことができるかといった視点に立ち、限られた資源と環境の中でいかに市民の満足度の向上を図ることができるかということが求められています。臼杵市では、「市役所はお役にたつところ」という考えから、「一番に市民サービスを向上させる」という目標のもとに行財政改革を行い、これまでさまざまな行政経営ツールを構築してきました。
 これら取り組んできた行政経営ツールは、財務書類、事務事業評価、施策評価、市民意識調査などそれぞれ必要に応じて個々に作られ、改善・発展してきました。そして、10年経過をした今、個々のツールを関連づけて、有機的に結合しながら、有効的に市政運営に反映できるしくみを構築しました。
 他の市町村も行財政改革や行政経営についての取り組みが行われているとは思いますが、今回は組合員の皆さんに臼杵市の行政経営システムの状況を簡単に解説していきたいと思います。

2. 臼杵市の行政経営に関するこれまでの取り組み

(1) バランスシート作成の経緯
 単年度予算主義に基づく予算・決算制度では、中長期的視点を持てず、資産額のほか減価償却費などの発生主義コストが、決算書では把握できないものとなっています。それでは、財政が逼迫した状況で、適正な行財政運営の判断ができないことから、全国に先駆けてバランスシート(貸借対照表)作りを1998年度にはじめました。2007年度に「新地方公会計制度実務研究会報告書」が公表され、臼杵市でも「基準モデル」、「改訂モデル」の財務諸表を作成しています。

(2) サービス検証システム導入の経緯
 2000年度より「サービス検証システム」の構築に向け、担当職員が行う「事務事業評価」を導入し行政評価に取り組んできました。このシステムは、「市役所は市民のお役にたつところ」という考えから、一番に「市民サービスを向上させる」という目標のもと、評価を実施する過程で「臼杵市総合計画(以下「総合計画」という)の総合的推進」「説明責任の徹底」「成果重視への行政転換」「市民本位の行政実現」を果たしていくことを目的に構築されたシステムとなっています。

(3) 施策評価導入の経緯
 2006年度より実施し、事務事業評価が主に事業改善・職員へのコスト意識醸成に成果を求めるのに対し、事務事業の“目的”と位置づけられ、臼杵市の将来像(あるべき姿)により近い部分での「施策」を検証することで、総合計画の進行管理ツールとして、また、市民等へ説明責任を果たすことなどを主な目的として実施しています。事務事業評価に加え、施策評価を導入したことで、事務事業を担当している職員から、施策を担当する管理職(部課長)まで、評価を行うこととなりました。

(4) 市民意識調査(市民アンケート)
 市役所の業務も総合計画に掲げる施策は、市民の皆さんが“充実した一生を送れるまちづくり”のためにあり、市民のニーズに沿った満足度の高い行政サービス提供のためには、サービスの受け手である市民皆さんの評価(ご意見)が不可欠となります。
 2002年度から、「臼杵市よりよいまちづくりアンケート」と題し、市民に対する意識調査(市民アンケート)を郵送方式で行い、市民の政策や施策に対する考え方を調査結果としてまとめ、市が行う施策評価の検証や施策評価を市民の目線から議論を行う臼杵市行財政活性化推進委員会の中で活用しています。

(5) 各部(課)の主な運営計画・各部(課)重点施策導入の経緯
 2009年度より、各部課の運営を有効かつ適正に行うために、年度当初の4月に「各部(課)の主な運営計画」を所属長が策定しています。ここでは、市長マニフェスト(政権公約)や中期目標に基づき、これまでの取り組みの成果や課題を踏まえ、1年間の重点項目、具体的方策、評価指標を定めています。そして、半期(9月まで)の中間報告(年度の進捗管理)を10月に行うことによって、3月までの達成結果を課長、部長によって総括されています。さらに、運営計画の評価を踏まえて、各部(課)重点施策を抽出し、市長ヒアリングを経て、予算編成方針への反映を行っています。

(6) 業務棚卸し・業務モデル導入の経緯
 2008年度から、業務棚卸し・業務モデルを導入しています。業務棚卸しは、各部課が効率的に業務を行えているか、他部課と重複しているような事務や事業がないか、本当に市がやるべき事業なのかなどを検証することを目的としています。また、業務モデルは事務引継ぎの側面も有しています。この結果は、組織の見直しや翌年度の職員配置などに活用されるとともに、各部課において業務を整理できる効果があります。

3. 臼杵市における行政経営システムとは

 臼杵市において、これまで取り組んできた行政経営ツールを有機的に結合し、所管部課における事務負担の軽減を図るとともに、各行政経営ツールの相互連携を図ることによって予算編成に役立てるなど、より有効かつ効率的な行財政運営を行っていくことが、行政経営システム構築の目的です。

(1) 行政経営システムのイメージ
 予算編成方針策定には、市政方針、行革ツールのほか、サービス検証システムの結果が反映されます。
 サービス検証システムは施策評価が主となり、施策評価結果において、重点すべき施策や事業、新しく始めるべき事業などを整理し、意思決定(市長ヒアリング等)を踏まえたうえで、予算編成方針に反映します。また、施策評価を行うための情報として、市民意識調査(市民アンケート)、事務事業評価、施設分析を位置づけます。それらの主要な3つの結果を踏まえて、施策の評価を行い、それらを含めたサービス検証システムは、毎年度行うことによって、継続的にPDCAを行い、より改善を図っていきます。
 また、行革ツールのうち「公共5ヵ年施設整備計画」は中長期の視点が必要であるため、施策評価と連携が必要であり、「バランスシートなど財務4表」は事務事業評価(コスト情報等)や施設分析(コスト情報等)と連携を図るべきものです。



(2) サービス検証システムの流れ
 現在は、以下のような流れでサービスの検証を行っています。総合計画、財政状況、市長(市政)方針などから、予算編成を行い、議会議決を経た後、事業を実施し、1年経過した後、決算を迎え決算整理を行います。予算執行を行って、すぐに次年度の予算編成を行うのではなく、執行した結果の評価・検証を行います。決算整理した後、下の流れが「情報開示」「市民評価」となりますが、歳入歳出決算のほか、バランスシートやサービス形成勘定を合わせて情報開示します。それをもとに、臼杵市の財政状況を、資産や行政コストの観点を踏まえて開示しています。
 それ以外に、市民意識調査(市民アンケート)を実施し、総合計画に記載されている政策や施策の重要度や満足度について市民の意見を聞いています。市民意識調査(市民アンケート)を集計・分析(市民評価整理)したものは評価に活用されています。庁内で行う内部評価は、上の流れであり、まずは事務事業の担当者が事務事業評価を行い、その結果を踏まえて課長、部長が施策の評価を行っています。それらの評価(内部評価)結果を踏まえて、市民の代表で構成する臼杵市行財政活性化推進委員会で外部評価を行っています。



(3) サービス検証システム(行政評価)について
 行政経営システムの中核をなす行政評価(施策評価、事務事業評価)の全体像は以下のとおりです。



 「臼杵市総合計画 後期基本計画(2011年~2015年)」(総合計画)は、臼杵市の最上位の計画であり、そこでは2015年までに目指す姿が記載されています。施策評価は、2015年までに目指す目標があり、それに向かって年々の進捗状況はどこまで進んでいるのかをチェックする評価であり、2015年に向かって順調であればそのまま続け、進捗が遅れている場合は、その原因を追究したうえで、今後の対策を検討します。
 また、事務事業評価は、施策体系の最も下位に位置づけられ、予算事業とほぼ同じ事業の単位となっています。事務や事業の担当者が、1年間を振り返り、事務や事業について、自主改善を行うための評価です。事務事業評価と施策評価、そして戦略策定(意思決定)と予算との関係は以下のようになっています。
 まず、事務事業評価を行って、事務改善を図るための評価を行います。そして事務事業評価の結果(「①評価結果」)を課長が検証します。課長は施策の管理責任者ですから、課長が事務事業内容を十分に把握したうえで、施策の評価を行います。施策評価では、施策の進捗管理を行うほか、どの事務事業を優先的に進めるべきなのかを検討します。その評価結果を、部長と協議したうえで、戦略策定の場にあげ(「②反映」)、施策評価結果からを戦略策定を行う際の資料とします。
 市長、副市長、部長による協議では、施策方針や新規事業などを検討します。そこで、翌年度以降の方向性が出れば、「③戦略決定」「④事業方向性指示」によって、施策や事務事業の方向性が出されます。
 このように、事務事業評価から始まって、施策評価、経営本部会議での戦略決定を経て、再度、施策、事務事業レベルまで方針が浸透することをイメージしています。

(4) 行政評価(施策評価、事務事業評価)と市政方針、予算編成との関連づけ
  施策評価については前記のとおりですが、ここでは評価シートの項目にしたがって、予算編成との関連づけについて説明します。施策評価を行う際には、施策が市政方針に大きく影響されることに留意する必要があります。市政方針にうたっている項目が順調に行われ、市民サービスが十分に行われているか検証する必要があり、そのためにも施策評価を機能させる必要があります。
 総合計画(基本計画)に今後10年(前期計画5年、後期計画5年)の臼杵市が取り組むべき項目が書かれています。その総合計画の進捗管理を行ううえでも、施策評価は重要なものとなります。
 また、予算との関連付けですが、財政担当課では以下のように「重点項目」や「具体的方策」に記載されている内容を踏まえて予算要求されているか、評価結果との不整合はないか、をチェックしています。それらを踏まえて、予算査定を行っています。

4. 行政経営システムの目指す姿

 国によって使途が定められている「ひも付き補助金」の代わりに、地方が使途を同時に設定することができる地方交付金である「一括交付金」が導入されています(2012年度は県政令指定都市を対象)。これによって、これからますます臼杵市役所内部で財源の使途(歳出)を決める必要に迫られる可能性があります。そのため、意思決定を行うための情報をできる限り収集し、それに基づいて適正な意思決定を行っていかなければなりません。そのために、これまでの行政経営ツールを有機的に結合して、適正な意思決定ができるように体制を整える必要があります。
 その体系が完成すると、各部課でも情報収集を十分に行ったうえで事業の方向性検討を行い、市長との協議を踏まえて、適正な意思決定ができ、また、それが予算編成に反映されることになります。
 「行政経営システム」は、これまで開発実践してきた個々の行政経営ツールの有機的結合をスタートとするものであり、今後これを使いこなしていくことが、臨機応変の経営体となるための重要な要素となります。

5. おわりに

 今回、臼杵市の行政経営システムについて、解説しましたが、本行政経営システムの中で、底を支えるものは、一般職員が行う「事務事業評価」です。この事務事業評価は導入後、13年が経過しますが、この「事務事業評価」自体も、本来の目的を理解し、職員が個々の事業に優先順位をつけ、取捨選択能力を身につけることで、さらなる有効なツールとなります。しかし、この部分が形骸化すれば、システムも本来の効果が得られないことが考えられます。
 今後もシステムの改善や他のツールとの連携は行われますが、その都度、行政経営システムを含めた検証は常に必要であると思います。それ以上に、運用する職員がどれだけ理解し、システム自体の効果を納得し使っているかでシステムの効果が大きく変わると思います。
 2012年3月に職員向けのマニュアルが作成され、説明会も開催されました。マニュアルは今まであったツールをまとめたものです。
 一方で、これらシステムの導入は、事務の増加になっている部分もあります。
 臼杵市職労としては、本システムを有効活用し「希望・安心・活力の笑顔ゆきかうふるさとづくりに向けて真に安定的・持続的な行財政運営できる臼杵市」を構築していくためには、職員の勤務労働条件など含め、職員の理解・納得は不可欠と考えるため、今後も職場の意見を聴取しながら、今後も注視し検証していきます。