【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 自治研センター「社会保障専門部会」は、2011年度の取り組みとして「地域の中で、市民と協働していかに安心・安全の社会保障システムを構築していくのか。生活保護に関連して年金や就労などの「生活支援」や高齢者や障害者の地域や市民との協働やネットワークをどうやって構築していくのか」について検証作業を進めてきました。この間の取り組みの経過を踏まえ、「市民と自治体の協働マニュアル」の作成を見据え、協働キャンペーンとして地域の困りごとアンケート(聞き取り)を実施した。



地域の困りごとアンケート(聞き取り)の結果と考察

大分県本部/大分県地方自治研究センター・社会保障専門部会

1. アンケート内容について

 今回実施した地域の困りごとアンケート、大分県地方自治研究センターの社会保障専門部会が、地域福祉向上のために実施した。まず市民の思いや願いを伺い、それをもとにして自治体(行政)として何をすべきかを考えるべきととらえた。大分県地方自治研究センターの社会保障専門部会は、住民と自治体(行政)は対立するものではなく、協力・協働するものとして、一緒に考え力を合わせることによってよりよい地域を作っていくことができるものと考えている。最終的には、市民からの声を分析・検討した上で各自治体担当者向けの「市民と自治体の協働マニュアル」を作成したいと考えている。
 質問項目も、そのような考えから作った。対象は、県内全自治体の市街地と周辺部の各最低20世帯以上の行政で実施した。県内17自治体・544人から聞き取りを行った。


 <最初にあなたの世帯の今についておたずねします>
1, あなたの年齢(回答者)・性別をおたずねします。
  年齢 (     )才   性別 男 ・ 女(○印を付けてください)
2, あなたは何人暮らしですか。
  ①一人  ②二人  ③三人以上
3, あなたの世帯の主なお仕事はなんですか。
  ①会社勤め  ②農林水産業  ③自営  ④公務員  ⑤無職  ⑥その他(     )
<次に、あなたやご家族が感じていることや願いなどを教えてください>
1, いま困っていることや不便に感じていることに○印をつけてください。(複数可)
  ①交通  ②買い物  ③医療・健康  ④子育て  ⑤福祉・介護
  ⑥収入・財産 ⑦仕事  ⑧農林水産  ⑨人間関係  ⑩災害
  ⑪地域づくり  ⑫世話役不足  ⑬その他
  それはどのようなことですか(                       )
2, 困ったことをどのように解決しましたか?
  ①区長に相談  ②行政に相談  ③地域で話し合う  ④何もしていない
  ⑤その他(     )
3, 周囲に困っている人はいませんか。
  ①いる  ②いない  いる場合内容は(                  )
4, 困ったことを解決するためには何が必要だと思いますか。また、あなたの地域にとっていま何が最も必要だと思いますか。
5, 自治体(行政)に対してご意見や要望がありますか。
6, 自治体職員についてご意見はありますか。
<自治委員の皆さんにおたずねします>
1, 一番大変なことは何ですか。
2, 地域で特に気を配っていることがありますか。
3, 行政に対して自治委員としてご意見がありますか。


2. 項目ごとに自治体に対して出された主な意見

(1) 交 通
 公共交通機関の整備。高齢者の交通の確保。インフラ整備。道が悪いので災害の時が怖いし、救急医療が間に合わない。道路の整備とか公共の乗り物の整備(回数)、独居老人の買物(中心部だけでなく、へき地の方にも目を配ってほしい)。道路が狭い。福祉バス等の本数を増やしてほしい。家の近くに病院がなく交通の便も悪い。バスが少なく病院に行く方法がない。市民タクシーの本数を増やしてほしい。道路状況が悪いので市道の整備をしてほしい。一人暮らしで車に乗らないから買い物に困る。年をとって子どもが近くにいないので不便。バスが通っていない。電車が通っていない。バス停までが遠く交通の便が悪い。交通弱者への配慮。

(2) 買い物
 コンビニは定価で困る。近くにお店がなし。帰るのが夜遅いので店が閉まっている。欲しいものが近くに売っていない。買い物をするところがない。食べ物はあるのですが、衣類などは休みの日を使って遠くの店へ出掛けねばならない。買い物は店が限られており、地元で買わず町外で買っている。近くに店がない。一人暮らしで車に乗らないから買い物に困る。

(3) 医療・健康
 親が歳をとり今後の世話がどうなるか不安。専門の病院を増やしてほしい。かかりつけ医の不在。市内に安心して通える病院が無い。施設に空きが無く在宅介護をしている状態で、また施設入居させたくても経済的に困難な状況。収入が減る一方で、貯蓄も無く老後が心配。医療費が高い。時間外の診察をしてくれない。小児科が無い事。加齢による体力の衰え。年金の中で医療費の割合が高くて生活が苦しい。企業年金(厚生年金基金)の大幅削減で年金受給が減少している。家の近くに病院がなく交通の便も悪い。高齢化に伴い予期しない疾病を患った場合、適切な病院に辿り着くまで時間を要すことが多い。両親の健康面や今後のこと、パート収入なので老後が心配。病院受診は診療科が少なく専門医がいないため、隣市まで出かけなければならず、公共交通機関が充実していれば気軽に受診できるが電車の本数が少ない。家族が送迎せざるを得ない。病院へタクシーで行くのでお金がかかる。小児科、産婦人科が無いことが不安。大きな病院がない、専門医(皮膚科)がない、病院が遠い。子どもが熱を出したときに小学生以上だと医療費がかかるのが困る。自分で病院に行けない、子どもが近くにいなく、将来が不安。1人暮らしなので、大病を患ったときに不安。

(4) 子育て
 生活費、子どもの病気、休日保育。無料で気軽に利用できるこどもルームが近くにない。共働きで核家族の為、子どもが病気になったとき困る。見る人がいない。ファミリーサポート等色々探しているが値段と合わない。子ども達が運動できる場所や音楽鑑賞できる場所が欲しい。小児科の不足。学校が遠い、地域のまとまりが悪くいがみ合っている。教育に力を入れてほしい、教育行政の充実。子どもが少ないため、大勢の中で育つ環境に慣れていない。保育園の受け入れを増やしてもらいたい。

(5) 福祉・介護
 独居老人の身の回りの世話。特養への入居待ち。近所の人も高齢者ばかり、若い人がいない。福祉サービスの充実。相談相手がいない。障害を持つ2人の子どもと病気の母が暮らしているが母の病状が急に悪化したときに子どもだけで対応できるか心配。高齢者が配偶者を1人で介護している。老齢化により身体の自由がきかない。祖母の健康状態と介護の不安。母の認知症、介護施設の入所。一人暮らしで車に乗らないから買い物に困る。年をとってこれからが不安。へき地のため生活がしづらい(高齢化が進み)。父母の今後の介護について。将来介護が必要となったときに適切な介護が受けられるか不安。

(6) 収入・仕事
 いつまで仕事ができるか不安。市内の人を採用してもらいたい。企業誘致を進めてほしい。雇用の場を作って欲しい。地元を優先の求人をして欲しい。若い人達への安定した雇用のための対策。仕事を複数もたないと生活できないので子育てがうまくできない。仕事を選べるほどの企業がない。地元の工事は地元業者に発注して欲しい。

(7) 農林水産
 農作物等の価格の低下による収入減。鳥獣被害の拡大。高齢化及び後継者不足。森林の公益的利益の再評価。TPPに関する不安。

(8) 人間関係
 年配者と若者の考え方の相違。消防団のあり方について。防災設備の充実。高齢者、障害者の避難対策。

(9) 地域づくり・世話役
 同じ地域の同年代の人はわかるが年代がかわると人が分からず地域間のつながりが希薄になりつつあると感じている。道路の整備(消防、通学道路、農業道路等)による流通・交通改善と地域振興の確立。自治会関係・町内での役員不足。地域づくりのリーダーがいない。自治会長をしているので高齢者が多く地域づくりが大変。高齢化と共に空き家が増えている。地域の世話役、役員になり手がいない。自治区に子どもが少ない。自治会長に若い人が協力的でない。地区の役が多い。行事が多い。若者が地域のことに対して無関心である。自治区の役員のなり手が無い。自治会役員が決まらない。地域からの行事への参加要請があるがいつも同じ顔ぶれとなって広がりができない。地域での一般的な協働・協力の欠如。
 地域づくりのリーダーがいない。過疎高齢化による人材不足。

3. 自治体(職員)への要望として出された主な意見

 職員各位のスキルアップ。もっと地域を回って現状を見て欲しい。市民の立場に立って物事を考えてほしい。地域行事への積極的な参加。市民目線で仕事をしてほしい。市民の要望を聞く姿勢をもってほしい。市民目線で仕事をしてほしい。融通を利かせて迅速に対応してほしい。住みよい市になるよう最善を尽くして欲しい。もっと地域の事に参加してほしい。地域と行政のつなぎ役になってほしい。市から下ろされてくる事業に対して職員の参加意識が薄い感じがする。「プライバシー」が強く表に出て町内でも誰が職員かつかめず、働き掛けがしにくい面もある。合併したので他の地域のことをよく知って欲しい。もう少し住民のニーズを把握してもらいたい。限りある予算を有効に使ってほしい。地域活動の協力が薄い。小さな事にも踏み込んで仕事をしてほしい。窓口職員の担当業務に対して詳しく理解しておくことが必要。地域ともっとかかわってほしい。課別に職員と各地区の住民との話し合いを年に数回もって頂きたい。対応をよくしてほしい。市民目線で仕事をしてほしい。情報収集・発信能力をつけてほしい。市民の要望を聞く姿勢をもってほしい。市民に対するあたたかい姿勢。振興局に尋ねても、本庁に聞かないとわからないと言われる事が多い。いろいろなことを聞いても職員が知っていないことが多い。机だけが仕事の場所でなくもっと地域に出廻り地域を知ってほしい。

4. 検 証

 高齢化社会の進展に伴い、生活全般におよぶ不安が現実化しており、なかでも介護への困り事が切実なものとなっている。介護保険制度ではカバー出来ない、独居・高齢者のみの世帯、地域での人のつながりの希薄化、自治機能の低下等の問題が山積みされている。介護の困り事では家族で介護を考えざるを得ない実態と介護が必要となっても「子どもが遠くにいる」「施設入所がなかなかできない」等が声として上がっている。当事者でなく「周囲に困っている人は」の問いに対しても、圧倒的多くの方が一人暮らし、高齢者のみの世帯が直面するであろう困り事が、意見として出されている。困ったことを解決するために必要なことでは、地域での話し合い、助け合い若い人が増える環境づくり等地域づくりが必要という声、気軽に相談できる所、専門的知識を持っている地方自治体や市民団体の組織的な協力体制が必要という答えもあった。
 これらの困り事は、自治体職員にとっても他人事ではなく将来、自らが直面する問題でもある。地域の現状実態を知って欲しい、住民の声をもっと聞いて欲しい、等自治体職員に対する住民の声に応えるためにも市民との協働が改めて必要である浮き彫りとなった。さらに、交通・買い物・医療・健康・子育て等に共通して言えることは、少子高齢化に輪をかけて市町村合併による過疎化が進行し自治体単独の公共サービスでは地域・市民の不安に対応の限界が出始めている。収入面でも雇用場が無く生活に対する将来の不安が多く意見として出されている。職員数も今後、市町村合併の一本算定による削減が5~6年後から行われ、職員数も減少せざるを得ない現実を考えたとき、自治体は地域・市民の声にどうやってこたえていくのか、非常に重たい課題となる。地域の高齢化が進むと、若年層が少なくなるとともに地域の人口も減少している。
 さらに、若年層は情報化社会により興味のある出来事の範囲が拡大する一方で、地域に対する関心については縮小し、世代間の考え方の相違などが以前に比べ大きくなっていることも考えられる。結果、地域に住む若年層が、地域に無関心となり都市に流出することに繋がっている。若年層の関心を取り戻すためには、地域の魅力を若年層に再確認させることが必要である。そのためにも、小さい頃から地域の行事への参加を積極的に促すなど、幼い頃から地域に関わってもらい、近隣住民との交流を大事にする環境が必要である。そして、地域では若年層の生活スタイルに配慮することも必要である。共働き家庭など子育てに困りそうな家庭には、育児の手伝いを行うなどのケアが必要である。また、年代ごとに困っていることを相談できるような会合を開き、世代間の縦の関係のみ見るのではなく、横の連携も築かなければ地域づくりは成功しないと思われる。また、自治体(職員)に対する意見は「少ない人数でよく頑張っていただいている」等の意見もあったものの大多数が「地域にもっと密着して欲しい」「もっと市民・地域の声を聞いて欲しい」との要望が挙げられた。
 このことは市町村合併により職員の本庁への集約化による支所機能の縮小と、市町村合併前の役場のように地元出身の職員によるきめ細やかなサービスが行えなくなっている実態がうかがえる。地域と自治体の距離を縮めるためには、市民との交流を深めるための仕組みが必要になってくると思われる。問題は、それをどのように設けていくのかであろう。一方通行ではなく、地域と行政とが連携し協働作業で積み上げていくことが重要である。さらに、東日本大震災を機に地震、津波を心配する意見が多い。子ども・高齢者・障がい者の避難方法など地域ごとに対策と周知を徹底していくべきであろう。
 最後に今回自治体(職員)に対する意見では、記載以外にも職員の給与・対応等で厳しい声も寄せられた。特に地方経済が低迷している中で、自治体職員の給与・勤務労働条件面について「給与が高すぎる」「休日も対応して欲しい」「もっと働くべき」等の意見が出されていた。今後、公務員制度改革が実現され人事院勧告制度が廃止されれば、これまで自治体職員の勤務労働条件の指標が失われ、このような市民の声は議会で取り上げられる可能性が高くなる。加えて、これまではインフラ整備(公共事業)という地域・住民と共通の目的があり国や県の指示に応え、実現すれば地域・住民から満足してもらえたが、これからの自治体行政サービスは地方分権、地域主権の時代を迎え、地域の実情に合った自治体独自の対応が求められるとともに、先進的な取り組みを展開している自治体との比較が市民から行われるであろう。自治体職員としてだけでなく、地域住民として地域・市民から寄せられた要望や意見を、「現行制度、では解決不可能」「自治体の権限の範囲・範疇外」「予算・人員不足」で片付けるのではなく、直ちに全て解決できなくても、何らかの支えあう仕組みはできないか地域・市民の要望に思いをはせ向き合っていくことが、正に問われている。一方で事務局に市民から今回のアンケート(聞き取り)に対し、「初めて自治体職員が自分のところに困っていることはありませんかと尋ねてきてくれた。とても嬉しかった」との連絡も数人寄せられたことも紹介しておく。
 社会保障専門部会として今回のアンケート結果を踏まえ、「市民と自治体の協働マニュアル」の作成を見据え、引き続き協働キャンペーンとして地域の困りごとアンケート(聞き取り)を継続していくつもりである。