【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 このレポートは、“理解と支援”を市民の方々や企業(雇用)主に得るために、2010年度に国東市で開催された“くにさきフォーラム”を通して取り組んだ経過と成果をまとめたものです。



理解があれば生きられる。支援があれば働ける。
~知ることから始めた“心の病”~

大分県本部/国東市職員労働組合

1. はじめに

 精神に障がいのある人は、大分県で3万人以上いると言われています。これは10家庭に1家庭の割合になります。この数からわかるように精神障がい者は、身近で誰でもなる可能性のある障がいと言えます。しかし、その障がいや症状は漠然としか理解されていないため、誤解や偏見はなかなか無くなっていきません。そのため精神障がいであることを隠して生活している人も多く、その人たちが何を思ってどのように暮らしているか、知られていないのが現状です。
 国東市でも精神保健福祉手帳の所持者は、153人、そして精神通院医療受給者証の認定者は、383人(2011年3月末現在)となっています。(計536人)
 ちなみに身体障害者手帳の所持者は、2,265人、療育手帳所持者は、206人となっています。
 一見、他の手帳所持者数と比較すると数字の上では、精神保健福祉手帳の割合が少ないですが、年代で比較すると身障手帳所持者のうち、65歳以下の方は453人で約高齢者8割、それ以外の年齢の方が約2割という状況から、精神の方が決して少ない状況とは、言えないことが分かると思います。(精神 → 高齢者1割、その他9割)
 また、この数から見えてくることは就労しなければ、地域で暮らしていけない人、親が生きているからこそ地域で生活できている人、そういう人たちが多くいることが分かってきます。
 「働きたいけど働けない。地域で暮らしたいけど暮らせない。」この課題を解決していくには、“理解と支援”が必要になっていきます。
 このレポートは、“理解と支援”を市民の方々や企業(雇用)主に得るために、2010年度に国東市で開催された“くにさきフォーラム”を通して取り組んだ経過と成果をまとめたものです。

2. まずは、実行委員会

 国東で、精神障がいのフォーラムを開催した“きっかけ”は、家族会(精神障がい者福祉会)からの福祉事務所への呼び掛けでした。
 家族会の方々は高齢化が進み、なかなか思うような活動ができず県内で同様のフォーラムを開催してきた竹田・大分・別府の取り組みを国東でも開催できないかということを福祉事務所に投げかけられ、それを断る理由もないことから、フォーラム開催に向けての準備を始めました。こういうフォーラムを開催しようとする場合、実行委員会を立ち上げ、目的を見据えたフォーラムの内容を企画するため、フォーラムに協力していただける関係者を集めます。
 家族会そして、それを支援する大分精神障害者就労推進ネットワークの目的は、精神障がい者の就労支援ということでしたので、フォーラム当日に就労先(企業・雇用主)の方々に来ていただければという思いで、実行委員会のメンバーは、障がいの分野に直接的に関係のない就労に結びつく関係者にも呼びかけをしました。(商工会・JAくにさき・漁協・企業会・別府法人会など)


 実行委員会は、2011年2月に開催する計画で2010年8月に実行委員会準備会、9月に第1回の実行委員会を開催し、以下6回の実行委員会を開催しました。
・ 9月 6日 第1回
・ 10月 7日 第2回
・ 10月 21日 役員会(1回)
・ 10月 29日 第3回
・ 11月 17日 役員会(2回)
・ 11月 26日 第4回
・ 12月 17日 第5回
・ 1月 27日 第6回

 
フォーラム実行委員 
商工会関係
1人
福祉団体関係
6人
企業会・雇用主関係
5人
福祉事業所関係
6人
医療・保健関係
3人
就労関係支援団体
5人
議員(文教、厚生)
1人
行政(福祉事務所3人・商工観光1人)
4人
31人

3. 実行委員会がフォーラム

 フォーラムの参加人数を100人から150人程度に目標をおく中で、実行委員が31人になったことは、フォーラムを毎月開催するようなものです。ましてや、“障がい”という分野と今まで縁もゆかりもない方が参加するなかで、「なぜ、当事者が困っているのか?なぜ、家族が苦しんでいるのか?どうしたいのか?」最初の実行委員会でまず疑問になった点です。当然といえば当然のことなんですが、その辺のことが、見えないというか。そういうことに関心がなかったため、気にもとめていなかった。分からないから教えてほしい。という意見が出されました。
 実行委員会の中で、関わっている相談支援事業所や就労支援事業所の方からの説明、家族会や就労推進ネットワークの方々から、障がい者の現状等を説明していただき、お互いに知ることから始めていきました。
 フォーラムの企画というよりも国東市の現状を話し合う、そのような会議をしていくなかで、実行委員の意識が段々変わっていったような気がします。少しずつ現状を知っていくなかで、「実行委員も地域の方々もそして、雇用主の方々も同じことだ。現状を知らない限り、就労支援には結びついていかない。」そういう意見に落ち着いていきました。
 今回のこの“くにさきフォーラム”で伝えたいことは、『就労支援』がテーマ(課題)ですが、その前に‘偏見をもたずに受け入れてくれる地域づくり’がまず、取り組むべき課題であり、そのためには、地域の方々にあるであろう偏見を取り除き、理解していただく取り組み。理解していただくためには、知っていただく取り組み。それがフォーラムで訴える、伝えること。そのようなテーマにしていかなければという雰囲気になり、フォーラムのメインテーマを「理解があれば生きられる。支援があれば、働ける」としました。
 就労というテーマから、障がい分野と日頃から関わらない方が実行委員として参加していただいたことにより、『何をするべきか、何から始めるべきか』が明らかになっていった実行委員会でした。当初は、実行委員会の必要性は、理解していましたが、来年の2月に開催するのに8月から準備していくことについて疑問はあったものの、その疑問は毎月の実行委員会がフォーラムのようなものになってしまったことから、吹っ飛んでいってしまいました。

4. 知ってもらうには視覚で

 就労の成功事例ということで、就労している障がい者の紹介ビデオがあるということで、就労推進ネットワークの方が当日のフォーラムで紹介できたらということで、10月の実行委員会で視聴しました。内容は、働いている当事者の様子を当事者である自らが司会者(インタビューをする人)になり、紹介していくという内容で、当事者の気持ちを引き出したすばらしいものでしたが、多分その状況(映像)が大分市での紹介(出来事)でしたので、実行委員の方々は、どことなく、この内容を国東市に置き換えたときに違和感とまではいわないまでも‘しっくり’こなかったようです。「上映するなら、国東市内の現状を紹介したビデオを制作すれば」という意見がだされました。
幸いにも国東市ではケーブルテレビがあり、直営で運営しています。
 市のケーブルテレビは、自主放送番組を制作してきている実績があることから、福祉にスポットをあてた番組を制作したかったというケーブルの思いもあり今回、共同でビデオを制作し、フォーラム当日に上映しました。
 完成したビデオを実行委員会で事前に視聴したときに、「フォーラム当日だけに上映するだけでは、あまりにももったいない。惜しい。」という意見が出され、2月のフォーラムの当日の様子を含めて、編集をやり直しケーブルテレビで市内に2週間にわたり放映しました。
 このビデオを市のケーブルテレビで放映したことは、『地域の方々にこの国東市に、こういう思いで暮らしている障がい者がいる。それを支えている事業所がある。また、支援している地域の方々がいる。』ということを視覚で伝えたことにより、大きな反響がありました。
 ただ、このビデオを制作するにあたり、当事者が写りだされ、当事者の気持ちが放映されることになりますから、当事者を知らなかった方々も、知ってしまうことになります。このビデオに出演することは、当事者そして家族の勇気と思いがなければ、制作できていません。
 『知られることは、もしかして辛くなるかも知れない。でも、知ってもらうほうが楽だ。』とそんな思いをこのビデオは伝えているような気がします。

5. まとめ

 実行委員の「分からない、知らないから教えて欲しい」という言葉から始まったフォーラムの実行委員会。「何で、自分に実行委員を押し付けたのか。」といわんばかりにまるでけんか腰にくってかかる実行委員。でもその方が、「知らん。と何も始まらんじゃろ。知ることから、始めようじゃないか。」そこから、始まった実行委員会でもありました。
 “フォーラム”を開催する意義は、もちろん当日の行事が一番大切なことですが、そこまでに至る間に、多くの方を引っ張り込んで、理解していただくこと。知っていただくこと。それが、できるか、できないかによって、その成果が2倍にも3倍にもなっていくことが、実証できた取り組みでした。“心に病”をもたれている方が、地域で安心して生活できる地域づくりをしていくためには、地域や市民の方々との協働がなければ成り立ちませんが、この協働は、地域の方々が何を思っているのか、何を感じているのか。言い換えるなら行政の目線でなく、市民の目線で携わることにより、その方向性が見えてくるような気がします。今回、国東市で"フォーラム"開催したことにより、そのことを強く感じるようになりました。
 事項からの資料は、“くにさきフォーラム”の資料とフォーラムが契機となり、市の単独助成事業に扱ぎ付けた事業の紹介となります。


精神障がいがある人とみんなのための国東フォーラム

・フォーラムのメインテーマ
~~~ 理解があれば生きられる。支援があれば働ける。~~~
・開催日   :  2011年2月4日(金)午後1時30分~
・場 所   :  武蔵保健福祉センター
・参加者数  :  230人
・主催    :  精神障がい者国東フォーラム実行委員会

フォーラムの内容
 2010年9月に「精神障がい者国東フォーラム」実行員会を立ち上げ、精神障がい者福祉会(家族会)、大分精神障害者就労推進ネットワーク、在宅障害者支援ネットワーク、福祉事業所、行政、市議会議員、自立支援協議会、自治会、商工会、漁協、ボランティア連絡協議会等 31人の方々に協力をいただき計6回の実行委員会を開催する中、“市民のみなさまに国東市の精神障がい者の現状や障がい者の生活を知って、障がいについて理解していただきたい、そして支援があれば働けるということを知ってもらいたい”という共通認識のもと、以下の内容で開催しました。


フォーラムの感想
● ビデオ上映 「理解があれば生きられる 支援があれば働ける」
                      ~国東市ケーブルテレビ共同制作~
● 事例発表  当事者(グループホーム入居者)・家族・事業主の思い
● 家族からのメッセージ  ~国東精神障がい者福祉会~
● ハンドベル演奏     ~三角ベース音楽クラブ~
● パネルディスカッション  ―地域で支える方々による意見交換―
   「理解があれば生きられる 支援があれば働ける」
   アドバイザー   三城 大介・別府大学文学部人間関係学科准教授
   パネラー     行政・地域支援者・障がい福祉サービス事業所
            医療関係者 他

 フォーラムに参加していただいた方々にアンケートを行い、感想をいただいたところです。特に、アンケート結果から推察できることは、フォーラムの内容について設問したところ、[とても良かった。が47.9%・よかった。が39.4%]と87.3%の参加者から好評をいただいた点です。また、障がい者への偏見を持っていた方が29.6%と約3割弱の方々がいるということが分かりました。そして、このフォーラムに参加されて考え方が変わったという設問に50.7%の方が考え方を見直されたという点からもフォーラムの目的でもある「精神障がい者の現状や障がい者の生活を知って、障がいについて理解していただきたい、そして支援があれば働けるということを知ってもらいたい」ということに対して、成果が得られたと考えています。
 今後もこうした地域のみなさまに啓発を含めた情報発信の必要性を改めて感じたところです。


 
くにさきフォーラム パルディスカッション 様子
 
ビデオ撮影の様子
 

フォーラムアンケート集計

 A-1 あなたのお立場は    
   
回答数
構成比
   
(1)
当事者(障がい者) 
17
23.9%
(2)
家族
15
21.1%
(3)
福祉関係者
17
23.9%
(4)
医療関係者
0
0.0%
(5)
企業関係者
3
4.2%
(6)
行政
9
12.7%
(7)
個人
4
5.6%
(8)
その他
5
7.0%
  無回答
1
1.4%
 
71
100.0%

 A-2 今日のフォーラムは    
   
回答数
構成比
   
(1)
とてもよかった
34
47.9%
(2)
よかった
28
39.4%
(3)
普通
3
4.2%
(4)
あまりよくなかった
1
1.4%
(5)
よくなかった
0
0.0%
(6)
わからない
2
2.8%
  無回答
3
4.2%
 
71
100.0%

 A-3 精神障がい者への偏見    
   
回答数
構成比
   
(1)
持っていた
21
29.6%
(2)
持っていなかった
33
46.5%
(3)
わからない
15
21.1%
  無回答
2
2.8%
 
71
100.0%

 A-4 精神障害者に対する考え方    
   
回答数
構成比
   
(1)
変わった
36
50.7%
(2)
変わらない
24
33.8%
(3)
わからない
6
8.5%
  無回答
5
7.0%
 
71
100.0%

 B-1 精神障がい者が地域で暮らすために大切なこと    
   
回答数
構成比
   
(1)
家族・友人
44
62.0%
(2)
民生委員・ボランティア等
23
32.4%
(3)
地域の理解
49
69.0%
(4)
就労場所
37
52.1%
(5)
相談支援事業所
29
40.8%
(6)
障害者福祉サービス
29
40.8%
(7)
その他
5
7.0%
  無回答
2
2.8%
 
218
 

 B-2 就労のために今度何が必要か    
   
回答数
構成比
   
(1)
本人の意欲・能力の向上 
35
49.3%
(2)
企業の受け入れ体制
46
64.8%
(3)
適切な支援体制
41
57.7%
(4)
地域の理解
43
60.6%
(5)
その他
1
1.4%
  無回答
4
5.6%
 
170
 


【精神障がい者に係る交通費助成事業】

助成への現状認識

○ 精神障がい者は、身体障がい者、知的障がい者に比べて経済的な負担が大きく、その負担軽減が課題となってきています。
その要因は医療機関への定期的な通院と服薬を行わなければ日常生活を送ることができない事例が多く、特に精神科医療機関が国東市では、二病院しかない状況等から、市外の精神科医療機関(大分・別府・宇佐)に通院する方も多いことなどから交通費は大きな負担となっています。
○ また、長期わたる服薬により精神科以外の疾患を併発する者も多くいるほか、多くの精神障がい者は、障害の快方や社会復帰に向けて作業所やデイケアに通っており、その通院や通所のための交通費の負担も重くのしかかっている状況です。
○ このような状況の中、当事者や家族等から交通機関への助成については、何らかの支援を望む声が上がってきており、国東市においても、今後取り組むべき課題の一つにも挙げられています。

助成の理由

○ 本来この交通費の助成については障がいの種別によって異なっていることから、国の制度上(道路運送法)の課題であり、障害者自立支援法の理念を踏まえて国の責任において行うべき障がい者福祉施策であります。
○ しかし、交通機関の割引制度については、各交通事業者の経営判断によるもので、その割引される額については全額事業者負担で行われていることから、事業者側は国の通達等が発せられれば検討の余地はあるが、現段階では新たに割引の範囲を拡大することは経営上困難な状況にあるという考えです。
○ 国東市としては、このような状況を踏まえ、交通機関の運賃割引制度に係る障がいの種別による支援の差異を早急に解消し、精神障がい者に対する運賃割引制度の適用を実現するため国・県において適切な措置を講ずるよう今後も求めていくこととし、その間の暫定的支援策とし今回、精神障がい者交通費助成事業を実施します。

 
精神障がい者の外出状況と希望に関するアンケート報告書  ~ 抜粋版 ~

1 .調査方法
 ① アンケート実施期間
・ 平成22年12月1日(水)~ 平成23年1月6日(木)
 ② 調査対象者
  ・ 市内の就労支援事業所に通所している精神障がい者
    【事業所:三角ベース・秀渓園・輝くピアホーム・NPO法人みずき】
  ・ 相談支援事業所が関っている精神障がい者
    【事業所:三角ベース・タイレシ】
 ③ 調査項目
  ・ 「外出の状況と希望に関するアンケート」
2. 調査結果
 ① アンケートの回答者総数・・・49名
 ② 設問による結果からの考察
  ○ 主たる設問
   ・ 外出の頻度については、毎日が30%、1週間に3~6日が、41%となっており、71%の方が1週間に3日以上外出していることが伺える。
   ・ 移動手段は自家用車が43%、バスが14%となっている。
   ・ 外出先は病院29%、買い物28%、事業所27%となっており、病院と事業所とで56%を占めている。
  ○ バス利用者への設問
   ・ 利用頻度については、1ヶ月に1~2日程度が33%、次いで1週間に3~6日程度が22%、1日~2日程度が17%となっている。
   ・ 1ヶ月のバス料金は、5千円~10千円が33%、2.5千円~5千円が22%となっている。
   ・ バスの利用先は市内、市外に限らず、病院がそれぞれ33%、52%となっている。
  ○ タクシー利用者への設問
   ・ 利用頻度については、1ヶ月に1~2日程度が50%、次いで1週間に3~6日程度が17%、1日~2日程度が33%となっている。
   ・ 1ヶ月の料金は、10千円以上が33%、5千円~10千円が33%、2.5千円~5千円が17%となっている。
   ・ タクシーの利用先は市内、市外に限らず、病院がそれぞれ43%、67%となっている。 


精神障がい者にな係る交通費の助成について(事務処理手順:フロー図)