【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 「地域は危機的状況だ」と評論しあっているだけでは悪くなるばかりで、避けて通れない問題です。「座して死を待つより、起って反撃に転じよう」の面々が集い、地域の人達と一緒に地域づくりをやろうと宇佐市民自治研究センター「よろうち いのちき」(共に生きる意味)の立ち上げと実践に汗している仲間達の報告です。



「生きづらさ」と協働


大分県本部/NPO法人宇佐市障がい者共同受注協議会・自治研センター理事 内尾 和弘

1. 協働を考える

 大分県自治研センター「社会保障部会」では2年前より「行政と市民との協働」をテーマとして活動を行ってきました。2011年度は「協働のイメージがわかない」という声から第53回自治研集会「社会保障 地域福祉分科会」で、午前中は県内で協働を実践している方々からの活動報告、午後は参加者アンケートを含め「協働」について討論しました。2012年度は県内市町村(姫島村を除く)で住民の困り事アンケートを実施し、部会で困り事の分野ごとの仕分けをまとめました。今後は自治体職員向けの「協働のマニュアル」の作成と困り事アンケートを元に解決に向けた県内外の実践事例の収集と先進地視察等を行い、出来ることからの実践へ結びつけることが必要と考えています。(アンケート結果の検証については別冊のレポートを参照)


2. 自らが人らしく生きるために「協働」を実践

(1) パートⅠ宇佐市民自治研センター「よろうち いのちき」を立ち上げて
 「何の手立てもなければ10年後地域がなくなる」これは議員活動として自分の住む小学校区に議会だよりを手配りしている市議の言葉です。高齢者(独居、夫婦のみ)世帯が激増、地域の世話役も60~70代、若者が少ない。人と人とのつながりが希薄化しまさに孤立無援社会が現実化してきているのです。
 自治委員をしている方から「私の地区も全く同じだし、貧困家庭も増えている。さらに市から自治委員に依頼される仕事がどんどん多くなっている。自治委員のなり手がますますなくなる」との声も上がっています。「地域は危機的状況だ」と評論しあっているだけでは悪くなるばかりで、避けて通れない問題です。こうした問題や課題の解決にむけ、地域の人達と一緒に地域づくりをやろうと宇佐市民自治研究センター「よろうち いのちき」(共に生きる意味)の立ち上げ2011年12月に設立しました。


(2) 仲間たちの声
① 孤立化に加えて、貧困世帯が急激に増えてきているし、そこから抜け出せない。働けなくなった高齢者世帯もそうだが、子どものいる世帯にも増えてきているし、教育面にも及び貧困が子どもの未来にも連鎖していくのではと危惧している。
② 夫婦と小学生3人の世帯。日給月給で時給800円は勤め始めて約10年間変わらず、残業がなければ給与は約12万円。社員は多いのに社保・厚年はおろか、雇用・労災保険にも未加入の脱法会社。せんだって仕事中に高い所から落ちて重症のケガをしたが、「治療費と12万円は保障するから労災とは言わないでくれ」と社長から口止めされた。あまりにもひどいので訴えようと言ったら、解雇された。高齢で仕事が他にないから腹がたつが諦めるしかない。
③ 夫婦と高・中学生の4人家族。基本給約12万円(時給800円、残業が月80~90時間)でやっと生活してきた、貯金はない。会社から「働きすぎだと言われないように残業を減らす」と言われ、今月から手取りが3万円も減った。また減りそうだ。


(3) 地域で共に生きる宇佐市民自治研究センター「よろうち いのちき」
 私の住んでいる所もそんなことがいっぱいありますが、つながりを強めるなかで何とかなっています。家庭の事情などで非行に走った子ども達を、「祭り組」(地域の祭りを行うための実行委員会)で包みこみ、寄付集めやお礼に回る活動や、地区の清掃等の役割を「若者組」(「祭り組」の青年組織)が責任をもってやっていくなかで立ち直ってくれています。 又それぞれの職場や困り事も、みんなで考えているから笑顔があります。先程の家族とは、夫婦喧嘩から何から何まで何年もつきあってきました。孤立無援状態だったが家計簿をつけ、毎月集まって翌月の収支計画と前月の振り返りを行っています。思いがけない支出があった時は「共に生きる基金」(「よろうち いのちき」がソーメン等を物販し、その収益を基金として困っている人たちに貸し出す)から借りて、その返済計画もたてています。両方の親からも「お金の事で夫婦喧嘩が減ったし何よりもどんな事でも相談できるので安心だ」と言われるようになりました。
 このような話し合いは「地域は危機的状況だ」と評論しあっているだけでは悪くなるばかりで、その地域に私自身も家族も親しい人達も暮らしているのですから、避けて通れない問題です。
 「座して死を待つより、起って反撃に転じよう」の面々が集い、地域の人達と一緒に地域づくりをやろうと宇佐市民自治研究センター「よろうち いのちき」(共に生きる意味)の立ち上げと実践に汗している仲間達からの報告です。


(4) 人らしく生きるとは
 ある集会で、障がいのある方が「障がいとは『生きづらさ』なんですよ」と言っているのを聞いて、「生きづらさ」であれば障がいがあるなしに関わらず誰もが持っているもので、生きづらさをいっぱいかかえている方々と協働していくことが、少しでも安心して暮らせる社会(地域)になっていくんじゃないかと思い、さらに実践を積み重ねていこうと考えたわけです。ところが、日本の障がい福祉で障がいがある人と言われている方々は、障がいそのものでその人をあらわされたり、とらえられたり、個人の問題だとされてきました。、「生きづらさ」を個人で、また、家族の責任で「克服」していくことを求められてきました。つい最近の話ですが、「障がいのある子どもの自立へ向けた生活と就労の相談に市役所に行ったら、後日、市の担当者がわざわざ家までこられて『あなたのお子さんはいろんな問題をかかえているので、家族がめんどうを見るべきだ』といって帰られた。こんな事があっていいんですか、家にいれないから住むところを見つけたのに」という事でした。障がいのある子どもさんをもった親から、「私が介護を受ける状態にあるのに子どもの世話をしなくてはならない」「私たちが亡くなった後が心配でなりません」という声をよく聞きます。こんな思いをしなくて済む社会でないと、私自身の一生も人らしく生きられません。


(5) パートⅡ「農業」と「福祉」のコラボレーション
 日本の農業は高齢者が担ってかろうじて生き延びてきました。農業地帯である宇佐市でも体力的にも、収入面からも、これ以上続けられないと次々と離農する農家がでてきました。その受け皿となって頑張っている農家も大規模化すればする程、労働力もなく、機械化に頼らざるを得なくなり、その支払いに追われる暮らしとなっています。跡継ぎもなく10年先はその多くが離農していく年齢になります。一方、障がいのある人の現状は「働いて自立したい」というニーズとは程遠く、就労継続支援B型では20日間働いても全国平均工賃は1万4千円台となっています。困ったものどうしの農業と福祉が「協働」して地域でともに働き暮らしていく事ができればと、農業と福祉のコラボレーションに取り組んできました。


(6) 農園とのコラボレーション
① 安心院農園
  安心院農園を経営する川村さん夫婦は(大阪出身)、50歳で会社経営をやめ、安心院でぶどう園を始めました。地域では唯一の栽培方法に取り組み、私達の見たことのない種類の「ゴールドフィンガー」等、数十種のぶどうや車いすでも入れる素晴らしいぶどう園をつくりあげています。喫茶店もつくり多くの定着したお客様もいます。川村さんは「責任ある経営者でいられるのは65歳が限界」と決められ、手塩にかけた農園をついでくれる方を探し求めていました。川村さんから障がいのある方々を雇用したいという話を伺い、私達の事業所が跡継ぎになろうと決心して昨年より「協働」に取り組んできました。だれもが認めるぶどうをつくるという川村さんの思いが、「一日一日の創意と工夫が必要。」「数十種のぶどうの特徴を全て覚えることが必要」等の言葉となり、私たちにとって、「毎日がとまどいの日々」を積み重ねています。
② すばらしい、ぶどうがいっぱいの安心院農園

③ 丘のうえ のんきファーム
  ここも安心院にあります。川村さんと同じく他県より新規に就農された小林さんの無農薬野菜と有精卵の農園です。現在職員2人と障がいのある方6人が働いています。

④ イマージン
  宇佐市と中津市の境にある農園で、大きな畑とビニールハウスがあり、青汁の元、大麦若葉(約2町歩)とケールの栽培、ハウス野菜(ホーレン草、チンゲン菜等の葉物野菜、茄子、トマト、豆類)の栽培・収穫と販売をしています。
  職員2人と障がいのある方6人が働いています。


3. おわりに

 大分県自治研センター「社会保障専門部会」で県内市町村(姫島村を除く)で住民の困り事アンケートを実施したところ、高齢化社会の進展に伴い、生活全般におよぶ不安が現実化しており、なかでも介護への困り事が切実なものとなっていることが明らかになりました。介護保険制度ではカバー出来ない、独居・高齢者のみの世帯、地域での人のつながりの希薄化、自治機能の低下等の問題が山積みされています。介護の困り事では家族で介護を考えざるを得ない実態と介護が必要となっても「子どもが遠くにいる」「施設入所がなかなかできない」等の課題も挙げられました。
 当事者でなく「周囲に困っている人は」の問いに対しても、圧倒的多くの方が一人暮らし、高齢者のみの世帯が直面するであろう困り事が、意見として出されています。困ったことを解決するために必要なことでは、地域での話し合い、助け合い若い人が増える環境づくり等地域づくりが必要という声、気軽に相談できる所の必要性に加えて、専門的知識を持っている地方自治体や市民団体の組織的な協力体制が必要という答えが多く寄せられました。
 住民に一番近い場所にいる自治体職員に何ができ、何をなすべきか。
 一つ目に住民の立場に立って考えることです。住民で、役場に好んで行く人はあまりいません。例えば、何か困った時や人生における節目であったり、経済活動の準備、不慣れな事をするとき、等がおおよその理由です。不慣れで困っている人に積極的に声をかけ、話に耳を傾け一緒に考えることはあたりまえの行いではないでしょうか。その結果、住民との間に役場に行けば相談が出来るという信頼関係を築くことができると思います。
 二つ目に工夫をすること。知らないとか、担当ではない、法に書いていない、役場の仕事ではないと言い訳をする前に、自分が知らなければ関連部署に問い合わせたり、制度上困難であれば違う方法を工夫してみるなど、手立てはきっとあります。法から利用者を見るのではなく利用者の立場から法の利用を考えてみることです。
 人と人がつながり、人らしく生きていけるように、少しでも生きづらさをなくしていけるようにと、二つの取り組みを報告しました。しかしこの取り組みは資本主義社会の中で、競争原理がはびこり、その中で人と人が分断され、個の責任になすりつけられる現実があり、なかなかうまく取り組めてないところも多くあります。弱い人とともに生きていける社会、協働(共働)できる社会を作り上げることこそが、今自治体職員に求められていると思います。