【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 大分市職労としては一方的な合理化に対抗するため、1999年から、新たな施策を組合側から提案し実現させることを目的とした「自治体改革闘争」を運動の重要課題として取り組んできました。その成果として、給食調理員が中心となって運営を行う「市民ふれあい学校給食試食会」を報告する。



夏季休業日における児童への給食提供について
~一方的な合理化に対抗、先手を打って職場を守る~

大分県本部/大分市職員労働組合 小川 将史

1. はじめに

 全国の自治体では、厳しい財政状況を理由とした歳出削減や人員削減に歯止めがかかっておらず、良質で安定的な公共サービスの提供は危機的な状況となっています。大分市においても、多聞に漏れず“行政改革”の名の下、現業職場を中心に合理化攻撃に晒されており、大分市職労としては一方的な合理化に対抗するため、1999年から、新たな施策を組合側から提案し実現させることを目的とした「自治体改革闘争」を運動の重要課題として取り組んできました。その成果の一つが、給食調理員が中心となって運営を行う「市民ふれあい学校給食試食会」(下記参照)であり、今年で12回目を迎えました。
 しかし、その取り組みも10年以上が経過するなか、給食部会及び現業評議会では、今のままでは職場は守れないという冷静な判断の下、度々問題視されていた“三期期間中”に何か出来ることはないか議論するなか、「児童育成クラブ(以下、クラブ)」において、「昼食にコンビニ弁当やカップラーメン、菓子パンなどを食べている」、また、「お弁当箱を開けたら食パンが1枚入っていた子どももいた」という実態に対して、成長期にある子どもの栄養バランスや心情を考え、他都市でも成功実績のある「三期休業中の児童育成クラブへの給食提供」であれば、現状の人員・機材で実践できると判断し、自治体改革闘争の新たな取り組みとして実施にむけ当局との協議を開始しました。


「市民ふれあい学校給食試食会」

広く市民に学校給食を試食してもらうことを通 じて、学校給食の役割を検証するとともに、参加 者から意見を聞き、より安心・安全、豊かな学校 給食をめざしています。 献立は、地元産、県内産の食材を中心にしたメ ニューを考えています。

・夏野菜カレー・スタミナサラダ・手作りゼリー
・トリニータ丼・野菜のみそ汁・きゅうりのちょっと漬
調理をはじめすべての運営を給食調理員が行います

2. 保護者からの高いニーズ、事業化にむけ協議をスタート

 事前にクラブの指導員と保護者に対してアンケート調査を行い、指導員には、昼食の現状や給食提供の問題点などの質問、保護者には、クラブの利用頻度やお弁当の回数、給食提供のニーズについて質問を行いました。集計結果は、手作りのお弁当を持たせている保護者は88%いる一方で、スーパーやコンビニのお弁当などを持たせている保護者も12%おり、約10人に1人の児童が、手作りのお弁当を食べる児童の隣でコンビニ弁当や菓子パンを食べているという実態が浮かび上がりました。また、夏休み期間中に給食提供を希望する保護者は84.6%もいること、給食費も400円程度でも利用を希望する保護者が87.8%いるなど、クラブへの給食提供に対するニーズは高いものでした。一方、クラブの指導員からは、給食提供を行った場合、配膳や給食費の徴収などに課題があるなどの意見が寄せられました。
 アンケート結果から、課題が浮かび上がった反面、保護者からのニーズも高かったことから、組合側としては、「児童育成クラブへの給食提供」が、行政としても「子育て世帯の負担軽減(福祉)」と、「給食調理員と直接ふれ合う(食育)」を合わせ持った施策として、また、それが新たな財政投資を行わず、現在の人員・機材で実践できることを訴え当局との協議に臨むこととしました。


【保護者からのアンケート結果】
1. 夏休み期間中、育成クラブをどの程度利用していますか。
回答
人数
育成クラブがある日はほぼ毎日
187
67.0%
育成クラブがある日のうち4分の3くらいの日数
46
16.5%
育成クラブがある日のうち半分くらいの日数
28
10.0%
育成クラブがある日のうち4分の1くらいの日数
10
3.6%
育成クラブがある日でもほとんど利用していない
8
2.9%
279
 

2. 夏休み期間中、育成クラブでのお子さんの昼食はどのようにしていますか。一週間の概ねの回数も含めてご回答ください(複数回答可)
回答
人数
手作りのお弁当を持たせている
273
88%
スーパー・コンビニのお弁当
7
2%
スーパー・コンビニのパン・おにぎり 
32
10%
312
 

○手作りのお弁当を持たせている   237人
回答
人数
週1
0
0.0%
週2
9
3.3%
週3
26
9.5%
週4
76
27.8%
週5
151
55.3%
未回答
11
4.0%
273
 

3. 夏休み中に給食調理員が調理した給食を提供する場合、利用したいと思いますか。
回答
人数
毎回利用したい
126
45.2%
時々なら利用したい
110
39.4%
必要なし
39
14.0%
未回答
4
1.4%
279
 

○「時々なら利用したい」頻度
回答
人数
・週1回
19
17.3%
・週2回
43
39.1%
・週3回
35
31.8%
・週4回
1
0.9%
・未回答
12
10.9%
110
 
○スーパー・コンビニのお弁当 7人
回答
人数
週1
3
42.9%
週2
3
42.9%
週3
1
14.3%
週4
0
0.0%
週5
0
0.0%
未回答
0
0.0%
7
 
 
金額
人数
500円
1
400円
3
300円
3

○スーパー・コンビニのパン・おにぎり 32人
回答
人数
週1
23
71.9%
週2
8
25.0%
週3
1
3.1%
週4
0
0.0%
週5
0
0.0%
未回答
0
0.0%
32
 

金額
人数
金額
人数
100円
1
350円
10
150円
1
300円
1
200円
5
400円
7
250円
2
500円
1

4. 「毎回利用したい」「時々なら利用したい」と回答した方について。給食費として以下の金額についてどう考えますか。
○500円程度/食
回答
人数
・高いと思うが利用したい
58
24.6%
・利用したい
24
10.2%
・利用したくない
123
52.1%
・未回答
31
13.1%
236
 

○400円程度/食
回答
人数
・高いと思うが利用したい
95
40.3%
・利用したい
112
47.5%
・利用したくない
27
11.4%
・未回答
2
0.8%
236
 


≪検討会議メンバー≫
当局側:教育総務課、スポーツ健康教育課、子育て支援課
組合側:書記次長、組織部長、執行委員1人、現業評議会3役、給食部会4役

≪大分市の基本情報≫
・学校配置の給食調理員は正規106人(2012年4月1日現在)
・小学校は市内53校で自校方式 ※中学校はセンター方式(民間委託)
・市内の児童育成クラブは54ヵ所(内7ヵ所が校外)
・児童育成クラブは運営委員会方式(校区ボランティアと保護者で構成)※直営ではない
・大分市はクラブの建設費と運営費の補助金を交付


3. 当局の消極的な姿勢に協議は難航

 当局との協議は、2012年3月28日から6月26日の間で計4回行いました。第1回の協議では基本的な課題として、クラブ(民間団体)への給食提供は法律上問題ないこと、小学校の調理場を使用することも、本来業務に支障を及ぼさない範囲で一時的に他用途に使用する場合であれば問題ないことが確認できた一方で、クラブへの給食提供は学校給食にはあたらないとして、食中毒が発生した場合の補償、管理監督者の任命などの課題が残ったほか、給食費についても、人件費・光熱水費・衛生用品費などを含めた場合、相当程度、高くなるとの指摘を受けました。第2回の協議では、「食中毒が発生した場合の補償は、全国市長会で加入している『市民総合賠償補償保険』で対応できる」との見解が示されましたが、その他の課題として、教育財産の使用許可、補正予算、市議会への説明、全クラブ対象の給食提供体制、指導員の負担 など、当局から“事業化できない理由”が多く出たことから、試行までに整理が必要な課題を次回までに明確にすることとして協議を終えました。
 第3回の協議では、試行までに整理が必要な課題として、①全クラブへ給食提供できる体制(全体の流れ)、②児童育成クラブ運営委員会との合意形成 について協議を行い、①については、組合側から「給食の基本的な枠組み」を提案しましたが、当局は、体制としては実施可能としながらも、自家用車(公用車登録済)を配達に使用することは衛生面で課題が残ることや、②については、クラブの指導員の負担が明確でなければ運営委員会との合意は困難との意見が出ました。

4. 児童育成クラブへの給食提供の足がかりを掴む

 3回の協議を終えて、当局の後ろ向きの姿勢に具体的な進展が見られなかったため、改めて当局の考えを確認したところ、当局からは、児童育成クラブ運営委員会の運営は校区のボランティアに委ねており、クラブごとの体力差が大きく、また、クラブと学校(教育委員会)との連携がほとんど無いなかで、給食提供の提案を合意させるのは困難、との見解が示されました。そういったなかで、当局に対して、事業化を望む組合側の熱意を訴えた結果、オープンスクールの取り組みの一環として、今年の夏休み期間中に、教師や児童(児童育成クラブに通う児童を含む)、保護者などを対象に、給食調理員の知識や技術を活かした食に関する啓発、指導などを行う「(仮称)夏休み食育推進ふれあい給食会」として試行するとの方向性を見出しました。具体的には、今年度は1校において夏休み期間中の数日間で試行し、給食提供と併せて食育に関してのミニ展示会や給食調理員との意見交換会などを実施するという内容であり、当局としても、今回の試行を検証し来年度以降も拡大するという意向であったことから、組合側としても、将来的な事業拡大の可能性を見据え、「(仮称)夏休み食育推進ふれあい給食会」の試行を実施することとしました。
 当局が消極的だった理由としては、提案が教育委員会と市長部局を跨ぐ事業だったこと、しかもそれが、市がこれまで直接関与してこなかった児童育成クラブ(民間団体)の運営に影響するものであったことが大きかったことが挙げられます。組合としても、当局の姿勢はある程度予想していましたが、今回の協議で痛感したのは、市民サービス向上につながる提案であったとしても、当局は事業化に及び腰であり、それが組合側からの提案であればなおさら懐疑的だということです。もちろん、初めての施策を事業化することは、大変な労力と時間を要するわけですから、組合側としても全面的に協力して事業化に結び付けようと努力しました。結果的には、組合側が提案した内容とはなりませんでしたが、将来的な「児童育成クラブへの給食提供」への足がかりは築けたと思っていますし、何より、現場の組合員が粘り強く協議を続け、その熱意と覚悟が当局に伝わり、具体的な取り組みが市の事業として認められたということが一番の成果だったと思っています。

5. おわりに

 私たちは、「自治体改革闘争」の必要性を頭では理解しても、いざ実践となると自らの労働強化につながるため、及び腰になってきたのかもしれません。しかし、行政サービスを最前線で担う者として、地域のサービスを担保する現業職場を自然消滅させるのを許してはなりませんし、そのためには仕事のあり方を変えていくことも必要です。今回で給食職場を取り巻く問題がすべて解決するとは思っていませんし、今回の成果もどのように実を結ばせるかは、これからの取り組みにかかっています。
 大分市職労の「自治体改革闘争」はまだまだ端緒についたばかりです。今後もネバーギブアップの精神で、問題意識と将来展望を持って取り組みを進めていきたいと思います。