【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 合併して2年目の2006年8月、国から新しい財政指標として「実質公債費比率」が公表された。全国の市町村がランク付けされた中で、香美町は28.8%で全国7位となり、町に衝撃が走った。実質公債費比率とは何なのか。公債費比率の高い要因とは何なのか。どのように改善していったのか。そして、今後の課題は何なのか。合併後の自治体財政について考えてみた。



合併後の自治体財政について考える
―― 実質公債費比率28.8%、全国ワースト7位からの脱却 ――

兵庫県本部/香美町職員組合 水垣 清和・小林 和真

1. 全国ワースト7位の衝撃

(1) 3町合併して香美町誕生
 2005年4月1日、平成の大合併の号令の下、美方郡美方町、村岡町と城崎郡香住町が合併し、中国山地から日本海まで矢田川水系の流域が一つの町となり、面積369.08m2、人口約21,500人の香美町が誕生しました。香美町は、世界ジオパークネットワークに加盟が認定された「山陰海岸ジオパーク」の真ん中に位置し、多様な自然環境の中で、全国的に有名な但馬牛や松葉ガニをはじめとする特産品に恵まれています。2007年に策定した総合計画では、将来像を「美しい山・川・海 人が躍動する 交流と共生のまち」と定め、山と海の特色を活かした町づくりを進めています。

(2) 交付税の削減、厳しい財源不足
 しかし、合併してバラ色の町づくりがはじまった訳ではありませんでした。
 2005年度の予算編成では約3億円の財源が不足。2006年度の予算編成においても、歳入で、国勢調査結果による人口減少分(約1,800人減)で、地方交付税は約1億5,000万円減額する一方、歳出では、特別会計への繰出金などに約1億5,000万円の増加が予想され、2005年度ベースの不足額と併せ、約6億円の財源不足を補う必要がありました。
 そこで、特別職をはじめ一般職員などの人件費、建設事業に充てる一般財源、補助金や物件費などを全面的に見直し、約5億8,000万円の財源不足の改善が図られました。しかし、特別交付税などの減額で新たに約2億1,400万円の財源不足が生じ、当初予算では約2億3,400万円の不足額を基金から補わなければならなくなりました。

(3) 実質公債費比率28.8%、全国ワースト7位で町に衝撃
 小泉内閣は構造改革の一環で「三位一体の改革」として、国から地方への税源の移譲、国庫補助負担金の改革、地方交付税の改革という3要素の一体的改革を行いました。政府は、地方債の改革について、「地方の自主性・自己責任の強化」を強調し、国の許可制だった自治体の地方債発行を協議制とし、国の同意がなくても議会の承認で発行できるように自由化しました。これに伴って、地方債の信用を維持する目安とする財政指標のひとつとして、2006年8月に「実質公債費比率」が公表されました。全国の市町村がランク付けされた中で、香美町の実質公債費比率は、財政再建団体となる北海道夕張市の28.6%(8位)を上回る28.8%と、全国7位となり、町に衝撃が走りました。
 この実質公債費比率は、国がこれまで起債を許可する際に用いていた基準「起債制限比率」を見直し、従来は考慮されていなかった、下水道など公営企業会計への元利償還金分の繰出し(借金返済)、一部事務組合等への負担金等に対する一般会計からの支出も算定に加えるなどして、財政の「実質」が反映されるようにしたもので、実質公債費比率が18%を超えている全国の市町村は、北海道歌志内市の40.8%を筆頭に、406団体(22.2%)ありました。比率が18%以上の場合は、従来通り地方債発行に国の許可が必要で、公債費負担適正化計画の策定が求められるようになりました。

(4) 歳出の大幅削減による行財政改革に着手
 このような厳しい財政状況を踏まえて、2006年10月に「香美町行財政改革大綱」が策定されました。この行財政改革の主な取り組みとして、(1)職員定員適正化などによる人件費の削減(約1億5,000万円削減)、(2)投資的経費の削減(約1億700万円削減)、(3)補助金などの見直し(約5,000万円削減)①各補助金のゼロベースからの見直し、②類似事業、類似団体の補助金の整理、③旧町間格差の是正、④事業費・運営費補助金の補助率の上限を原則2分の1、⑤食料費、慶弔費は補助対象外(約5,000万円削減)、(4)施設の維持管理費、事務経費などの削減(約1億3,600万円削減)(5)使用料、手数料、負担金などの見直し(約650万円収入増)が盛り込まれました。
 これにより、町長以下、町職員の給与カットをはじめ、町の施策や事業全般を見直すとともに、各種団体への補助金、町民の使用料まで大幅な見直しが行われました。

2. どうして28.8%になったのか―要因を分析する

 それでは、どうして香美町の実質公債費比率が28.8%、全国7位という数字になったのでしょうか。町が作成した資料をもとに主な要因について分析してみました。
 実質公債費比率の算定には、①一般会計等の公債費、一時借入金の利子、②特別会計、企業会計の公債費への繰出金、③一部事務組合の公債費への負担金、④公債費に準ずる債務負担行為の決算額が用いられます。

(1) 一般会計等の公債費、一時借入金の利子
 まず、2001年頃までに、旧町で集中して実施してきた社会資本整備(観光交流施設やごみ処理施設、学校施設などの建設事業)によって、一般会計における借入金返済額が高い水準となっていました。1996年度以前の地域総合整備事業債は、実際の償還を20年間と設定して行っていたため、実質公債費比率算定において、元利償還額がそのまま分子の値となり、単年度の比率に換算して3.9%と大きくなっています(以下、金額は元利償還額、%は単年度の比率換算の数値を表しています)。主な施設は、海の文化館(1996年竣工、65.6百万円、1.1%)、温泉保養館おじろん(1992年竣工、63.8百万円、1.0%)、八幡山公園(1992年竣工、22.5百万円、0.4%)、福祉村(地総債分、1992年竣工、29.1百万円、0.5%)があげられます。
 1991年度から1993年度にかけて建設されたごみ処理施設「矢田川レインボー」に係る地方債(一般廃棄物処理事業債)の元利償還額が毎年約300百万円、1.4%となっていました(当時、矢田川流域一部衛生事務組合が建設し現在は香美町の直営施設)。
 また、旧村岡町と旧美方町は過疎地域の指定を受けていたため、過疎対策事業債を活用し、道路改良、観光施設整備など社会資本整備を積極的に行ってきました。これにより元利償還額が増大し、元利償還額に対する普通交付税措置70%を控除しても、4.5%と大きくなっています。主な施設は(元利償還額の( )内は、交付税措置控除後の額)、町道改良事業(元利償還額:379.9百万円(114.0百万円)、1.9%)、観光等施設(元利償還額:144.9百万円(43.5百万円)、0.7%)、ゴンドラリフト(元利償還額:126.6百万円(38.0百万円)、0.6%)、福祉施設(元利償還額:86.2百万円(25.9百万円)、0.4%)となっています。
 1987年度から1989年度にかけて建設された村岡中学校と兎塚中学校に係る元利償還金が多額であるため、普通交付税措置額70%を控除しても、それぞれ0.5%、0.6%となっています。香住小学校の大規模改造と用地取得(借地解消のため)、柴山小学校の校庭拡張に係る元利償還金については、いずれも普通交付税措置がないため、それぞれ0.4%と0.3%となっています。
 その他の義務教育施設については、1960年代から1980年代にかけて建設されたもので、当時の校舎・体育館等の建設に要した地方債の償還は完了していますが、1986年度以降に大規模改造や耐震改修等に要した地方債の償還を行っており、義務教育施設整備分で3.0%となっています。
 その他の地方債等で6.9%です。

(2) 特別会計・企業会計への繰出金
 特別会計、企業会計の公債費に対する一般会計からの繰出について、公立香住病院事業企業会計への繰出金は、1990~91年度に建設された公立香住病院に係る病院事業債1,768百万円の償還が多額(1年当り約168百万円)であることから、普通交付税措置額を控除しても、2.2%と大きくなっています。また、普通交付税措置は、1991年度以降の病院事業債が対象であるため、1990年度分1,420百万円が対象外となっていることも影響しています。
 簡易水道事業債に係る普通交付税措置は、1991年度以降借入分が対象であるため、1990年度以前借入分の元利償還額126.2百万円は対象外となっています。このため、他の普通交付税措置額を控除しても、1.8%となっています。

(3) 一部事務組合等への負担金
 養父市と香美町で構成する公立八鹿病院組合負担金のうち、病院等の建物、医療機器の整備に要した病院事業債の償還に充てたと認められる準元利償還金、香美町と新温泉町で構成する美方郡広域事務組合負担金のうち、消防・救急業務に係る資機材等の整備に要した地方債の元利償還額に相当する額を、それぞれ1.2%、0.2%計上しています。

(4) 債務負担行為に係る決算額
 「社会福祉法人香寿会が、特別養護老人ホーム建設のために借り入れた資金の元利償還金に対して補助金を交付する」ことを定めた債務負担行為(1996.3.28議決)、「兵庫県が但馬区域畜産基地建設のために借り入れた資金の元利償還金に対して負担金を支出する」ことを定めた債務負担行為(9件、1986年~1992年にかけて設定)が、公債費に準ずる債務負担行為に該当するため、それぞれ0.4%と0.2%となっています。
 ここまで見てきた公債費については、1990年代に入り、バブルが崩壊し、日本経済が深刻な構造不況に入っていくころ、国にかわって景気対策が地方自治体に転嫁されるようになり、地方単独事業が財政投融資金による地方債・地方交付税措置によって行われるようになった建設事業が多くあります。旧3町が集中して実施してきた観光交流施設やごみ処理施設、学校施設、病院施設の建設などの社会資本整備は、地方交付税措置と地方債への依存をつよめ、徐々に財政を圧迫していました。
 そして、2006年8月、国が「起債制限比率」を見直し、従来は考慮されていなかった、下水道など公営企業会計への元利償還金分の繰出し(借金返済)、一部事務組合等への負担金等に対する一般会計からの支出も算定に加えるなどして、この実質公債費比率が導入されたことにより、財政の圧迫状況が明らかになったわけです。

3. 財政健全化への取り組み

 景気が低迷する中での社会資本整備、公共投資であったとはいえ、厳しい財政状況におかれていたことは確かです。この実質公債費比率28.8%の改善に向けて、香美町では、2006年度に公債費負担適正化計画を策定し、公債費等の縮減に向けて次の取り組みを進めることとしました。
① 一般会計等における公債費の縮減
 ア 公的資金について補償金免除となる繰上償還(271百万円)を民間等資金による借換債発行により実施(2007~09年度)
 イ 県貸付金の繰上償還(20百万円)を実施(2008年度実施)
 ウ 2011年度末までに償還が終了する銀行等縁故資金の繰上償還(250百万円)を実施(2008年度実施)
② 公営企業会計に対する繰出金の縮減
 ア 公的資金について補償金免除となる繰上償還(2,205百万円)を実施(2007~09年度)※償還財源として民間等資金による借換債発行
 イ 上下水道料金の段階的引き上げを実施(2008年度条例制定)
 ウ 公立香住病院の経営改善
   2008年度に策定した「公立病院改革プラン」に基づく経営改善を進めることで、一般会計からの繰出金の適正化を図る。
③ 一部事務組合に対する負担金(公債費分)の縮減
 ア 公立八鹿病院組合において、公的資金について補償金免除となる繰上償還(981百万円)を自己資金により実施(2007~09年度)
④ 公債費に準ずる債務負担行為に係る債務の縮減
 ア 2010年度に完了予定の債務負担行為に係る2010年度負担分(24百万円)を2009年度に繰り上げて履行
 さらに、財政の早期健全化を図るため、将来の借入金返済額等の縮減に向けた次の取り組みを進めました。
① 借入金の繰上償還、低利な借入金への借換えの実施
② 建設事業については、必要性、緊急性の高い事業を計画的に進め、一般会計における新たな借入金を最小限度(年平均12億円程度)に限定
③ 上下水道料金の段階的引き上げや公立病院の経営改善により、特別会計(病院、上水道、簡易水道、下水道)自ら財源確保に努め、一般会計から特別会計等への繰出金を抑制
 2006年度には第一次行財政改革大綱も策定され、行財政のスリム化に向けた取り組みが本格化しました。公債費の縮減、人件費総額の抑制、物件費などの経常経費、投資的経費や補助金等の歳出削減を図るとともに、旧町間で不均一であった施設使用料や上下水道使用料を統一し、窓口手数料やごみ処理手数料など住民負担も求めました。
 これらの取り組みにより、2009年度決算において実質公債費比率は24.6%となり、早期健全化基準を下回りました。


図1 実質公債費比率の推移

4. 今後の展望と課題

 実質公債費比率が、早期健全化基準を下回ったことを受けて、香美町では、今後の財政運営の方針を次のように示しています。
① 健全財政の確保に関する事項
  実質公債費比率の改善に向けた取り組みを進めるとともに、経常経費の削減や町税などの収入の確保を行う。
 ア 経費の効率的使用に関する事項
  a 公債費の縮減
   ・繰上償還等の実施 ・新たな地方債の発行の最小限度化
  b 公営企業に対する繰出金の縮減
   ・上下水道の使用料の段階的に引き上げ ・下水道事業の接続率向上 ・病院事業の経営改善
 イ 収入の確保に関する事項
  a 町税等の収入確保
   ・全庁体制での連携強化 ・インターネットによる公売の促進
  b 財産収入の確保
   ・未利用地の売却処分などの促進
 ウ その他
  a 定員管理の適正化
   ・段階的な組織体制の見直し
② その他財政の運営の合理化に関する事項
  組織・機構の見直しを進め、住民の満足度の向上に資する目的・成果を重視した行政組織の構築に向けた取り組みを進める。
 香美町は、人口の減少、景気低迷の長期化により、町税等の増収が見込めない状況の中で、今も緊縮した財政運営を続けています。さらに、合併10年後の2015年には、普通交付税算定の特例期間(合併算定替)が終わり、普通の自治体として一本算定された普通交付税のもとでの財政運営に入っていきます。そこでは、財源不足が見込まれることから、基礎的自治体として最低限の行政サービスを永続的に提供していくためにも、今後とも、財政の健全化に向けた取り組みを継続していく必要があります。
 上記の財政運営方針を見る限りでは、これまでの緊縮財政を継続する施策ばかりで、「住民の満足度の向上」につながる施策が十分展開されているとはいえません。安定した財政運営を進めていくことは必要ですが、節約するだけの守りの行政ではない、産業振興策、定住対策、少子化対策などを効果的に推進することにより、地域を活性化させ、税収を増やしていけるような町政を進めていきたいものです。