【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 2006年から導入された指定管理者制度によって起きている雇用や労働の問題点などを、運営をしている外郭団体の実態を通じて、まずは労働条件等を世間に知っていただきたい。また、2010年神戸市包括外部監査では、施設の存続を含めて議論すべきとの報告がされましたが、当の施設で働く者の立場から今後の雇用不安等について提言したいと思います。



指定管理者制度のもとに苦しむ外郭団体職員の現状と課題
神戸市立フルーツ・フラワーパークでは……

兵庫県本部/神戸みのりの公社労働組合 津村 崇夫

1. はじめに

(1) 神戸市立フルーツ・フラワーパークとは
神戸市立フルーツ・フラワーパーク
① 施設の設立
  総工費約300億円を投入し、1993年4月20日に神戸市北区に開園。約100haもの敷地(甲子園球場25個分)があり、株式会社神戸ワインが運営する。
② 基本テーマ
  「都市の農村の共存共栄」
  「人と花と果実のふれあいの場」を基本テーマに、市域農業の活性化、都市と農村の交流を図る。

③ 収支状況等(単位:千円)
               2011年度     2002年度(参考)
  入園者数         62万人      66万人
  売上高          1,669,000    1,690,000
  営業利益         29,000      43,000
  当期純利益        5,000      ▲501,000  ※2001年度は▲550,000
  累積赤字         4,400,000    3,800,000
  神戸市からの委託料    370,000

(2) 労働組合結成の経緯
 2005年に、翌年度から指定管理者制度が現施設に導入されることが決定しており、また併せて給与制度の見直し提案もあり、将来への不安、特に雇用、賃金に不安を覚え結成に至りました。神戸みのりの公社労働組合というのは、もともと2つの団体(公社と株式会社)で施設を運営し、どちらかに在籍しておりました。2008年度に分社化し、人事交流もなくなりましたが、現在も組合員として両方の団体に在籍しております。

2. 指定管理者制度導入によって起きたこと

(1) 神戸市からの委託料の減額について
 もともとの設立から随意契約によって運営してきましたが、指定管理者制度導入により神戸市からの委託料も変化していくことになりました。
 総面積100haの敷地を年中無休で運営するにあたり、莫大なコストがかかるのはお分かりだと思いますが、指定管理者制度が導入されたことによって競争原理が働き、結果的に委託料は下がることになりました。神戸市にとっては良い制度ではある反面、受託する側にとってはかなり厳しい制度となっております。
 一期目の指定管理者制度への応募の際、委託料の金額や内容などを決めたのは神戸市の派遣職員で、わたしたちが内容(具体的な提案内容)を知ったのは、神戸市への提案後でまさに事後報告でした。
 後日になりますが、ある神戸市の職員の方から「なんでもっと委託料を高くしとかんかったんや?」と言われた時には、しまったという感だけが残りましたが、この一期目の委託料が今後も目安になるのであろうと思うと後悔が残ります。
 現在は、いちばん少ない委託料から7,000万円ほど上乗せで協定できていますが、一期目の委託料から考えると1億円は委託料が下がってきています。利用料金制の一部変更もあり何とか収支も改善できてきているという状況です。

(2) 給与制度の変更について
① 導入の経緯
  株式会社神戸ワインというのは、神戸市が大半を出資する外郭団体で、もともとわたしたちが採用になった際には、待遇は神戸市に準ずるという条件でした。準ずるといっても、実際の給与や休日にも差はあります(外郭団体の方が待遇は下になります)。
  ちょうど、2005年にわたしたちが労働組合を結成する頃、外部から経営コンサルタントを呼び、「人財マネジメント」なる評価制度を導入した給与制度に変更するという話が出てきました。
  内容はというと、項目(10項目)を定めた評価表(6段階評価、点数で0点から5点)に基づき、給与を決めるというもので、これが後々厄介な事になったのです。
  当然、やればやるだけ評価が上がり給与も上がるという理想的な給与制度のようにみんなは考えましたが、実際のところ、人件費を圧縮されることにつながったのです。
  この制度の導入にあたって、労使でいろいろと検討もされましたが、ある場で、「この制度導入がなされなければ、みなさんは路頭に迷うことになる」とまで言われ、強引に導入されることになりました。
② メリットとデメリット
  メリットとして挙げられるのは、年齢に関係なく評価が上がれば給料も上がるということです。もちろんモチベーションも上がります。
  デメリットはたくさんあります。今まで積み上げてきたものはリセットされます。長く働いてきたからといって給料は多くもらえません。一例を出せば、年間200万円もの年収が下がった事例が出ております。もちろん3月の給料から次の4月にいきなり下がるわけではなく、激変緩和措置を取った後に変更するものでしたが、一時金はまず減りました。今までは、神戸市に準ずるということで、例えば市が一時金2ヶ月の場合、右に倣えの2ヶ月の支給から最低保証の1ヶ月にいきなり変更になりました。
  また、この給与制度は、毎月の給与だけでなく退職金にまで変更が及んでおり、新しく制度が変更になり、従来の退職金制度と比較すると退職時に500万円ほど支給額が変わる可能性も出ております。
③ 落とし穴
  評価が上がれば給料も上がるといえば、すごくモチベーションが上がると思いますが、実際は違うのです。評価者によって評価が違う。相対的評価を行い、管理職以上の人間で順列をつけて資格評価を決めるなど、労働者にとってはかなり不利な制度だと判明しました。まさに1年目に起きた事例です。
  さらに、この「人財マネジメント」制度の導入は、個々のやる気の向上、さらには人材育成にもつながるというものでしたが、はじまって5年が過ぎましたが、大半は評価の向上をあきらめている状態です。評価面接の前に、「今年はどうしてもみんな評価は上げられない」と上司が言うのです。いわゆる「出来レース」という事です。これをとってもそうですが、人材育成には全くといっていいほど関係性が無かったわけです。モチベーションも下がるのは理解いただけると思います。
  全体的に、自分の職場で言えることですが、大人しい人が多いのです。つまり、言われるままの人が多く、自分の意見が言い難い職場でもあろうと言えます。

(3) 人員不足について
 フルーツ・フラワーパークが開園した当初、嘱託職員と正規職員あわせて約100人と登録アルバイト約300人程度で運営してきました。
 業績悪化や指定管理者制度の導入もあり、その間に希望退職者制度の導入によって、現在は正規職員が28人にまで減ってしまいました。
 また、指定管理者制度導入と併せて、準社員という「社員の仕事をサポートする人」いわゆる「契約社員」も誕生しました。準社員も長い人で今年6年目を迎える有期雇用の人たちです。彼らは、結論から言うと、「安く社員と同じ仕事をさせる人材」という事につながります。もともとサポートで雇っているはずが、いつの間にか社員が減り、仕事がまわらない状況になり、準社員にも社員と同じ仕事をお願いせざるをえない事になっているのです。これは、同一労働同一賃金の原則を逸脱してしまった本当に悪い例です。改善に向けて、あきらめず協議を行っていく必要があります。
 わたしたちは、今まで退職者の正規社員の補充を常に要求してきましたが、経営状況が悪いので、株主の意向もあって社員の補充が出来ないままになっております。その代わり、苦肉の策で、人材派遣会社に人員を依頼するという現象が起きてしまっています。
 2012年6月末現在、人材派遣からの人員は6人も在籍しております。人材派遣ならば神戸市の意向も関係なく補充も素早く行いますが、一向に正社員は増えない状況です。なぜなら人材派遣は物件費だからです。
 人員不足は慢性化しており、この4月以降も正規社員が2人減り、別に1人体調不良で休職中です。いま、本当に余裕が無い状態で、ある部署ではここ数ヶ月80時間以上の超過勤務をしている社員がおり、下手をすると過労死してしまうのではないかと心配しております。もちろん上司も知っているのですが何も対策をしないので、安全衛生委員会の場で、証拠資料とともに懸案事項としてとりあげ、人材派遣を1人増やし現在も様子を見ているところです。
 また、この立地にもよりますが、アルバイトひとつとってみても、近隣に大型ショッピングセンターとアウトレットモールがあり、求人情報を見てもそちらの方が条件が良く、どうしてもいい人材を獲得しにくいという問題もあり、結果、個人個人の負担が増えているというのが実情です。

3. 責任の所在と格差について

 わたしたちは、この先もフルーツ・フラワーパークで残って頑張って働いていこうとして、かつて実施された希望退職者制度にも応募せず、日々いろいろな事に葛藤しながら働いています。
 そのなかで、やはり一番問題だと思うのが、会社全体が一丸となっていないという事だと常に思っています。何が一番かというと、やはり固有社員(プロパー)と神戸市からの派遣社員の考え方の違いだと考えます。
 ひとことで言うと、固有社員(プロパー)は痛みを伴うが、市からの派遣職員は痛みを伴わないという事です。わたしたちに今の給与制度を押し付け、わたしたちの給与は大幅に下がってしまったが、市からの派遣職員は地方公務員法によって守られているので、私たちが苦しい思いをしても、彼らにとっては何も痛みはないのです。
 典型的な事で言えば、夏と冬の一時金です。実質、手取り額は基本給の0.8ヶ月分です。基本給が25万円なら、手取りはせいぜい20万円そこそこというわけです。
 わたしたちは労働組合運動を通じて、一時金の上乗せ要求をこの6月も行いました。最低保証要求が基本給の1ヶ月分です。10年前では考えられないことで、多くの仲間は生活設計が狂いました。なかには、給料が少ないので共働きをすることで補い、本当は子どもが欲しかったけれど諦めた人もいるのです。
 そもそも、わたしたちの会社の経営については、いろいろと考えさせられる課題が多いということです。現在累積赤字が44億円。神戸市からの借入金が30億円。ふつうの会社なら倒産しているとよく言われます。
 では、ここでみなさんにも考えていただきたいのが、赤字の原因はプロパー社員の責任なのでしょうか?わたしは、1994年4月に採用していただき、今まで働いてきましたが、その間、予算・決算の資料を作る機会もあった訳ですが、実情に見合わない資料を作ってきた経験があります。
 次年度の経費は今年の5%カットで計算、売上は3%アップで計算、というような上からの指示が出て予算資料を作った経験がありました。今考えると恐ろしい事をしていたと思います。
 机上の空論。まさに、数字だけの話で作られていたのですが、では、赤字になって誰か責任をとったのか?
 誰も責任なんて取ってないのです。社長や常務、役員すべて給料はそのまま。何故なら、現職の派遣職員は地方公務員法で守られているから。
 そして、業績が悪くなって給料を下げたいときはみんな一律カット。ただし、派遣職員は関係なし。何故なら地方公務員法で守られているから。よく会社から法令遵守と聞く機会があったのですが、まさに守っています。
 さらには、例え年間で黒字を出したとしても、累積赤字があるだの、市からの借入れがあって返済しないといけないだの、株主=神戸市の意向があるだのという理由で、賃金は上げられないというのが現状です。
 施設の存続の話で議論される事については、どうしようも無い事ですが、過去に起きた事(累積赤字)に対する責任については、わたしたちプロパーだけが責任を取る事がないようにするべきで、自治体としての責任を明確化する必要が必ずあります。形だけの役員で責任の所在がないのならば、誰もが役員になれます。
 今の世の中で、中小企業なんかは一時金も出ない、賃金も定期昇給もないという会社が多い中、あるところからは一時金出るだけでもええ会社やないか? と言われる事もありますが、本当はもっと儲かっている会社だったはずです。その背景には、莫大な建設費がかかり、その結果借金をし、事業単体で見れば黒字の年もあるのに赤字になってしまった過去の経営が、今でも重くのしかかっている事を知っておいていただきたい。

4. 今後の課題と取り組み

 わたしたち正規社員は、自分が定年退職するもっと先の未来まで考えた時、人材がいないのです。正規社員自体がいないのです。いま、一番の若手社員で37歳です。
 2008年の分社化の際、不足の事態(団体の解散など)が起きた場合、もともと在籍していた公社、株式会社、そして設置者(市)は、使用者責任を全うするという協定を結びましたが、いまの現状で考えると人員不補充は市の戦略かもしれません。今わたしたちが置かれている立場としては、極論を言うと、社員が減ったとしても会社を存続させていく他ないのです。
 わたしたちの使命は、来ていただいたお客様に喜んで帰っていただく事。それが農業に関わっていようが否かは別として、公共サービスの一環として考えても利益を追求しないと無理があります。利益を追求するには、良いサービスを提供しなければいけない。良いサービスを提供するには、良い人材が必要です。結局、人を大事にしていかないといけないという事につながります。
 現在、わたしたち正規社員の平均年齢は48歳です。働く人の大半は学生アルバイト、フリーターなど非正規雇用ばかりです。巷では40歳定年制がどうだとかいう話題もありますが、このままいくと組織として成り立たない状況になりつつあります。また、2011年度から定年退職者が毎年出てきます。ほとんどの社員は20代や30代から雇用してもらっているので、ようやく定年退職が出始めるというのが現状なのです。
 まずは後継者の育成という観点からも、正規社員の人員の確保を行っていかなければならない。そして、わたしたち正規社員の陰で力になってもらっている準社員を正規化しないといけない。特に、準社員のなかには給料が安くて結婚できないなど様々な問題も抱えております。今の彼らの賃金は、平均すると16万円弱になります。つまり世間でいうワーキングプアを生み出しているのです。さらに、いまのところ正社員への登用もない状態なので、いわば飼い殺し状態なのです。
 また、人員不足が原因で、サービス残業をせざるを得ない状態が起こっている事実もあり、労働法をも守れない部署も問題として浮上してきました。
 わたしたちは、一会社員でもありますが、一労働者としてまもとに働ける職場を作れるよう、労働組合の立場としても、まずは会社に労働環境の是正を提言すること。そして自治体に提言することを行っていくしかないと考えております。
 究極の課題としては「儲けること」の他ありません。儲けられないと、給料が出ません。上がりません。これは民間の事業者でも同じことですが。わたしたちの職場をご存知の方は多いと思いますが、神戸の一番北の田舎のなかにあります。この田舎という環境を活かして、現在、地元の農家の方々と連携し、田舎ならではの取り組みとして、いちご狩りやとうもろこし狩り、いもほりなどといった収穫体験を、地元の生産力とフルーツ・フラワーパークの知名度とPRによって集客を行っております。
 最後に、わたしたちは正規社員といえども、この指定管理者制度が継続してある限り、自分のところの施設で言えば、4年間の契約社員ということです(指定管理期間が4年なので)。
 現在、2期目の3年目が始まりました。来年の秋には、次期指定管理者の応募が待っています。ここでも、累積赤字を出している会社に指定を任せるのはどうか?などとよく議題に出される事がありますが、わたしたちには継続して応募するしか道は残されていないのです。そして応募するからには、今以上にこのフルーツ・フラワーパークを良くしていく、活性化していく、お客様に満足していただくことを念頭において日々努力しております。
 お金があれば、もっといろいろな事が出来るかもしれませんが、無いなかで知恵を振り絞って生き残っていきますので、機会があれば是非ともいろいろな提言を逆にいただければと思います。
 今後とも神戸市立フルーツ・フラワーパークをよろしくお願いいたします。