【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 本来であれば正規職員が行わなければならない事業の多くを担ってきた臨時・嘱託職員。民間だけではなく、公務職場も安価な労働力を求めています。臨時・嘱託職員は、施設管理や保育士等多種多様な職務についており、市民の生活をより豊かに、より快適にするサービスを提供しています。2005年度朝来市で起こった「臨時・嘱託職員民間会社転籍問題」は、非正規と呼ばれる職員の不安定な雇用を市民に知らしめることになりました。



公正労働により朝来市を輝く街に
臨職組織化で包括委託を阻止した経過から

兵庫県本部/朝来市職員労働組合・臨時・嘱託職員評議会 夜久るみ子

1. はじめに

 今から9年前の2002年秋、数枚にわたるアンケートが、朝来郡内の役場や広域行政などで働く臨時職員や嘱託職員に向けて配られました。さて、それがどこからの発信だったか、問われれば全く記憶にありません。ただ、内容は今の自分の雇われ方に不満はありませんか? 労働組合を知っていますか? というものであったことは覚えています。労働組合という言葉は知っていても、それは正規職員が入れるもの、正規職員だけのものとして捉えていたのです。特に気にすることもなくアンケートに答えました。それが後に、自治労兵庫県本部の市町合併対策のひとつの取り組みとして行われたことを知ることになったのです。
 同年5月、「労働組合に関する集会」があるということで、同じ職場に働く正規職員から「出席して話を聞いてくれば」と後押しされ出席しました。朝来町にある「ささゆりホール」に集まった郡内の仲間たち。舞台には県本部から数名と郡連の役員、そして兵庫県臨時・非常勤職員等評議会の当時議長であった中谷紀子さんの姿がありました。その集会で中谷さんは熱く語られた。「臨時や嘱託でも組合に入れます」この言葉は、とても大きな勇気を私たちにくれました。 
 そして、同7月18日、朝来郡臨時・嘱託職員労働組合を結成。生野町、朝来町、郡広域の三か所の臨時・嘱託職員の連合体の組合が発足しました。その時の組合員はわずか43人。しかしこの臨嘱労を組織できたことが、後の朝来市で働く臨時、嘱託職員を包括して人材派遣会社へ転籍させようとした「朝来市臨時・嘱託職員民間会社転籍問題」をたたかい抜けた、一つの要因だったと思っています。

2. 市町合併に伴い市職労の傘下へ

 先に書いたとおり、朝来郡臨嘱労として組織した私たちの組合は、全く労働組合というものを知らない、ただ労働組合に入れば自分たちの雇用を守ってもらえると安易な考えを持っていました。そして、きっと正規職員の組合の中に入れて貰って一緒に活動できるのだと……。
 ところが、朝来郡臨嘱労を結成したときに、郡連の中に入れてほしいとお願いをしたところ、これから市町合併を控えているところなので、どういう体制になるかわからないので引き受けられない。と断られてしまったのです。組合を作ったはいいが、活動の仕方ひとつわかりませんでした。それでも、とにかく仲間と色々と問題を話し合う場を設け続けました。そして未熟ながらも、生野町、朝来町、郡広域それぞれの臨嘱労で合併前の諸問題についての交渉を繰り返しました。
 合併後の私たち臨時、嘱託職員の取り扱いについて、「市が全額出資する株式会社」を設立するという話も持ち上がりました。また、合併後の雇用については、新たな雇用となる。必ずしも雇用されるとは限らない、と当局から通知があり、私たちの不安はつのりました。しかし、合併協議の中では結論が出ずじまいのまま、新市へ雇用されたのです。
 2005年4月1日、生野町、朝来町、和田山町、山東町の旧4町が合併し、朝来市が発足し、同時に朝来市職員労働組合が設立されました。そして同時に私たち臨嘱労は朝来市職員労働組合・臨時・嘱託職員評議会として出発をしたのです。基本組織の中に入るにあたっては、県本部並びに郡連の執行部の方々のお力があったからこそと思っています。ただ、市職の傘下に入ったとは言え、組合員は43人のままで、当時の臨時・嘱託職員の5分の1にも満たない人数だったのです。  

3. 臨時・嘱託職員民間会社転籍の提案

 2005年7月、新聞に「臨時・嘱託職員を派遣する人材派遣会社設立」という報道がされ、私たちは市職労とともに抗議文を提出しました。しかし一向に協議すらされず、2006年1月26日、臨時・嘱託職員を民間の業務請負会社に転籍させると提案してきたのです。転籍と銘打っていても、200人を超す臨時・嘱託職員を解雇するということは、決して許されることではありません。唯、私たちの力では到底太刀打ちできる問題ではありませんでした。そしてこの問題は、朝来市だけの問題に留まらず、県下や全国に働く臨時・嘱託職員の雇用に大きな影響を及ぼす問題のため、県本部に団体交渉権の委任を行い、対策委員会が設置されました。
 ひょうご共済会館の一室で、県本部の対策委員の方から、「組合員を全部の臨時・嘱託職員の過半数にできるか?」との問いを受けた時、即座に「できます やるしかありません」と当時の議長と共に答えました。私たちが出来ることは、仲間を増やすことしかありませんでした。


4. 仲間を増やすために

 私たちに何ができるか? どうすれば過半数の臨時・嘱託職員に組合に入ってもらえるか? 
 なにより難しかったことは、非組の人に組合の必要性をわかってもらうことでした。
 旧朝来郡臨嘱評を立ち上げる時に、同じように説明を聞きながら組織化できなかった二つの町の臨時・嘱託職員と交流することが大変難しかったのです。そこで
① 臨嘱評ニュースを発行し、現状を非組の臨時・嘱託職員にも周知する
② 市職労ニュースに臨時・嘱託職員転籍問題について掲載し、正規職員にも協力を得る
③ 現組合員が同じ職種の人に声をかける(同職種であれば話がし易く共感できることが多い)
など実行しました。
 そして次に、集会を何度も開催しました。そこで、自分たちの仕事は自分たちで守らなければならないこと、そのために組合に入って一緒に活動しましょうと言い続けました。
 始めは、本当に少ない人数の集会でしたが、派遣会社に転籍するということがどういうことなのかが少しずつ分かりはじめ、2か月後に今と同じように仕事ができるかが分らないという不安をもった人たちがだんだん参加してくれるようになり、3月9日には朝来市の臨時・嘱託職員の数の過半数以上の133人になりました。
 こうして、過半数の臨時・嘱託職員で組織された朝来市臨嘱評は、残された半月を一丸となって、たたかい抜いたのです。組合員の人数を増やすことが、私たちに課された使命でした。そしてそれができたからこそ、県本部の「朝来市臨時・嘱託職員民間会社転籍問題対策委員会」に現場の声を直接届け、渾身の力で私たちの雇用を守るための交渉を行って下さったのだと今になって思っています。

5. 地域からの応援

 こうして朝来市臨嘱評は最終的には138人の組織となり、当時兵庫県下でも最大級の非正規職員の組合となりました。
 次に私たちにできることは、地域の住民に私たちの置かれている状況を伝え、協力を得るということでした。私たちは非正規という「身分」ではありますが、多種多様な職務で公共サービスをする労働者として、精一杯働いています。地域の人にも今の状況を伝えたい。そして、支援をお願いしなければならない。そのために、まず行動をしたことは、市議会議員への要請でした。
 朝来市議会議員を一人ひとり訪ね、非正規職員の置かれている立場を説明しました。そして、当局が行おうとしている「臨時・嘱託職員民間会社転籍問題」は、法的にも違法であることを訴え続けたのです。合併直後で大変お忙しい中にも関わらず、私たちの訴えに熱心に耳を傾けていただきました。
 中には、何度も職場まで足を運んでいただき、臨時・嘱託職員の働き方の実態を見て下さった議員の方、臨嘱評幹事と度重なる懇談をし、思いを聞いて下さった議員の方。特に30年以上労働運動にかかわって来られた議員の方は、市議会定例議会においても、何度もこの臨時・嘱託職員の丸投げ問題を追及する質問をされ、私たちも出来る限り休暇をとり傍聴しました。そして、この議会の模様はケーブルテレビでも放送され、一般市民の知るところになったのです。
 私たち地方の過疎地域の市の住民は、周りを見渡せば皆知人であったり、中には親類縁者が同じ市の職員であったりします。いくら正しいこととはいえ、大きな声を張り上げてシュプレヒコールをすることは難しいのです。そんな中で、市議会の一般質問でこの問題が取り上げられたことは、市役所に250人もの非正規の職員がいて、正規職員と共に働いているということを、改めて市民に知ってもらう機会になったと思います。
 また、この問題に対して連合但馬地域協議会も行動を起こしていただきました。
 こうして地域の方の応援をうけて、2006年3月27日「朝来市における行政事務組合事業のうち、民間への業務委託問題については、2006年4月1日実施にこだわらず、労使協議を継続するものとする」との確認書に調印し、希望者全員が継続雇用されることになりました。
 その後、1年かけて臨時・嘱託職員の具体的な処遇や委託などの問題について引き続き協議が行われ、2006年3月14日に「臨時・嘱託職員の60歳までの継続雇用」の確認書に調印し、この問題は一応の決着を迎えました。
 合併前の朝来郡臨職労結成から3年弱。労働問題を何一つわかっていなかった私たちが、こうして一致団結して自らの仕事を守り、家族の生活を守れたのも、全国自治労の皆さん、地域の皆さんのお陰だと本当に感謝しています。

6. 最後に

 市の業務に就く労働者を直接雇用せずに、経費節減を名目に民間会社へ転籍させようとした「朝来市臨時・嘱託職員民間会社転籍問題」はこうして決着をしたわけですが、この問題は、現在社会の問題となっている「非正規雇用」で働く者、皆が背負っているものなのです。
 不安定な雇用形態であるがゆえに、契約打ちきりになるまいと懸命に働く契約社員や派遣社員。その収入はご存知のように、年収300万円にも満たないのが殆どです。また、福利厚生面についても、正規で働く人とは格段の差があります。たしかに色々な事情で、非正規雇用という就業の仕方を選ぶ人もあります。「家庭の事情でフルタイムでは働くことができない」「夫の扶養の限度内で働きたい」などという理由です。しかし「可能ならば正社員で働きたい」と思っている人が多くの割合を占めているのではないでしょうか。私たち朝来市臨嘱評が、市長に向けたメッセージのなかにも「生活費の補助の為に働いているのではありません。生活費の為です」「この仕事(保育士)を昨日今日始めたわけではありません。10年以上の積み重ねの中、一生懸命働いています。仕事は正規の保育士と同様です。」「嘱託職員でありながら、20年以上勤めています。正規職員が職員の適正化計画から、年々少なくなっている中、業務量は減るわけではありません。正規職員の採用が抑えられ、臨時や嘱託職員が正規職員と同様の責任を持ち働いています。非正規の職員がいなければ、行政サービスは行えないのではないですか? でも、同じ仕事をしているのに待遇がこんなにも違うのはおかしい。是正をお願いします。」等、正規職員と同等の働き方をしていると書いています。
 市は、本来正規職員が行わなければならない業務であるのに、財政難から臨時や嘱託職員を採用しています。公正な雇用をリードしていかなければならない立場の自治体であるはずです。地域の模範となる労働条件を作ってほしい。私たち臨嘱評は、たとえ亀のような歩みではあっても、決して諦めることなく言い続けていこうと思います。労働組合をみる目が非常に厳しい昨今ではありますが、正当な要求を掲げ、団結して解決していく、そのことが朝来市職の臨時・嘱託職員だけではなく、この朝来市の非正規で働く全ての労働者の雇用条件の向上につながるのではと思います。
 「朝来市」は、朝が来る街 朝日が昇る明るく輝く未来に向かっての街をイメージします。すべての住民が希望を持って生活が出来るように、私たちは心をこめて住民サービスの業務を行い、地域の人に愛され、頼りにされるそんな職員でありたいと思います。そして、労働組合は、そんな職員が一つになってより良い環境で働けるようにしていく大切な組織だと思っています。