【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 公共民間職場を取り巻く状況は、年々厳しさを増していますが、その要因のひとつには民間委託により価格競争の激化による、受託費の減があります。この事により、賃金労働条件は下がる一方です。さらに、雇用についても価格競争に負ければ職場を失い不安定となります。価格競争に勝つため賃金カットも仕方ない現状。自治体の民間委託が「官製ワーキングプア」の温床となっている現状を纏めました。



学校給食調理の民間委託は、
法的、現実的、教育の一環としてもそぐわない


鳥取県本部/鳥取市学校給食会労働組合

1. 公益財団法人鳥取市学校給食会について

 鳥取市学校給食会は、小・中学校の学校給食用物資を適性・円滑に供給することを目的に、1971年4月1日に財団法人鳥取市学校給食会として設立された。
 その後、鳥取市の学校給食調理業務の合理化に伴い、1976年4月から随時小・中学校の学校給食調理業務を受託(随意契約)し、1999年4月から旧市内の小学校(30校10,469食)・中学校(11校5,738食)全ての学校給食業務を受託した。
 2004年市町村合併(1市8町村)により、再び市直営の給食センターが誕生した。
 2009年からプロポーザル方式による民間委託が年次的に行われ、新たな職場小学校11校、中学校6校で合計2,570食の委託を受けるが、財団設立当時より委託を受けていた小学校19校、中学校6校合計8,450食を失うことになった。
 2012年4月1日より財団法人改め公益財団法人となり、現在は小学校(22校6,359食)・中学校(3,048食)を受託している。
*公益法人制度改革について
 公益法人制度改革において、法人の事業は、「公益事業」と「収益事業」に事業区分される。
 民間委託が公に行われている調理業務部門は、本来「収益事業」と位置付けられる傾向にある。現実に、当会の公益法人への移行認定の審議の際に、民間委託を理由に「収益事業」に当るのではないかと議論されたそうだが、当会の民間委託での業務実施状況においても、当会の独自の公益性の高い業務内容が認められ、調理業務部門を含む全ての実施事業が「公益事業」として認定された。


2. 民間委託の流れ

 鳥取市では、学校給食調理業務の民間委託を推進するにあたり、「鳥取市学校給食検討委員会」が2007年7月3日を初回とし、計6回開かれた。
 検討委員会の内容は、給食センターの統廃合・将来構想(民間委託)の2本柱でした。統廃合については、財政的に仕方なし、民間委託は、「現在、給食会に民間委託しているのであれば、民間委託が良いのか悪いのかは、議論するまでもないでしょう」でまとまり、結果センター統廃合・民間委託は年次的に行うことを決定され、11月に「鳥取市の学校給食の将来構想(案)」が提示された。
 2008年1月には、「鳥取市の学校給食の基本構想(案)」としパブリックコメントで意見を募集することで市民にも公表したとされたが、意見が寄せられたのは少数であり、そのほとんどが、民間委託反対でした。
 しかし行政は、「今と何も変わらない安心です。ご理解下さい。」の回答で民間委託ありきの回答です。(このパブリックコメントで市民に周知したとする行政の考えとは裏腹に、鳥取市のホームページ上のみの周知の為、当然ながらほとんどの保護者・学校・市民は知らないのが現実でした。)その後、地域説明会を開催し、反対意見が多数にも関わらず、委託ありきの説明と既に決定していることのように、理解を求めることに終始徹底していた。
 ここでの問題は、1つに「鳥取市学校給食検討委員会」の委員の認識だと思います。
① 現状を知らない。
② 一般から選ばれた委員は多少発言していたが、教育委員会と普段関わりのある委員からは意見が出にくい環境であり、座長は行政の方針どおり。
③ 検討委員会での質疑に対し答弁は行政が行うのでの「問題ない」「大丈夫」としか言わないが、このことを信じ判断をしている。委員独自で勉強が必要だと思う。
 2つに、パブリックコメント・地域説明会で反対意見を活かせなかったことだと思います。
 解決策と反省としては、「鳥取市学校給食検討委員会」の委員は責任を持って、分からないこと等、自分で理解するべき、委員に現場の職員も入れるべき。早い時期に反対の立場で取り組みをおこなうべきでした。
 反対の立場での取り組みは、議会対応はもちろん、自治体組合の主催でシンポジウムを開催はしたものの、市民、保護者を巻き込めなかったことは、日頃からの接点を持つことが重要と感じた。保護者の中には、給食が無くなるのは困るが、提供されるなら誰が作ろうが問題ないとの意見も多数ある。
 自治体と直接交渉、また受託する弱い立場であり表面的に活動が出来なかったこと。


3. 学校給食の民間委託は法に抵触する

 委託するには次のことを行わなければ偽装請負となる。
① 機材等は受託者が準備しなければならない。もしくは貸借契約を結ぶこと。
② 食材は受託業者が準備すること。
③ 受託者の責任において調理業務を行う(調理業務について指揮命令を受けない)。
④ 市のマニュアルでなく独自で。
など……。
 しかし、1つだけ抵触していても即、偽装と判断されるわけではなく、ひどいものに対しては、指導を行っていく程度である。つまり黒でなくグレーなら大丈夫と認識になるが、法律にグレーってあるのか?行政がグレーで委託業務を行って良いのか行政のモラルが大きな問題だと思う。
 実態は、受託した会社の職員が、市の給食センターに通い働いている。食材、機械、機材等の貸借契約も結んでいないことを踏まえれば、委託契約法に抵触しており、完全なる違法である。となれば、派遣法適用となり3年間の事業しかできず、その後は事業廃止かそこで働く職員を直接雇用し事業を継続するしかない。
 民間委託を行うことで、業務コストを抑え、かつ、民間企業が持つノウハウを生かす、また、専門的な技術やコスト意識の導入がおもな目的としているが、現状は自治体から提供される施設・器具で調理を行うので企業のノウハウは生かされません。ただ、コスト削減だけが先行していく事になり結果、臨時パート職員が多く雇われ、人の入れ替わりが増す事により一番大切な安全・安心が損なわれることが懸念される。
 日々条件(食材の汚れ・大きさ・解凍具合・水分等、天候等)が変わる現場において、事前(2週間前)に提出される調理指示書では物足りない状況、その都度必要に応じ直接指示を口頭で行うことになるが、このことは、法に抵触する。
 給食調理業務は、実情を非常に理解されにくいが、教育や保育と同様に、日々同じ状況での業務はなく、ルーティンワークとして確立しにくい状況であり、人材の定着と、経験と技術の継承が重要である。
 当会では公益財団法人として、各種法令の遵守及び労働組合の活動によって、比較的労働環境が守られていることから、人材の流出は最低限に留まっているが、複数の競合他社が混在し実施する業務の中で、人件費や労働環境を理由に、業者間での転職など人材が他社に流出し、人材が定着しづらい状況にある。
 人材の流出は、技術やノウハウの流出にあたり、競争原理を謳った民間委託において問題になっていると同時に、サービスの向上の妨げにもなっている。
 また、業務の受託期間の定めから、正規職員の新規採用及び正規職員への登用などが困難な状況にあり、不安定な雇用環境が業務の安定性と発展の妨げとなっている。
 そのほかに、従来から業務を行っていた団体から、民間業者へ業務の受託が移行する際、今まで従事していた職員の転職を期待して、事業計画を練られているケースも多く、転職の際の身分保障や雇用体系などは約束されない場合も見られる。


4. 公募型プロポーザル(企画提案)方式による民間委託

 学校給食に取り組む企業理念、調理業務の実績、危機管理や衛星管理の体制、調理人員の体制、学校との交流企画、受託コストなどについてプレゼンテーションとヒアリングを実施し、総合的な評価審査を行うとしているが、受託コストについては人件費、衛生費等内訳も評価されているが、実際にそのとおり執行されているか検証は出来ない実態であり公契約条例の制定が早急に望まれる。なお、プレゼンテーションまたはヒアリングで提案されたことは評価に影響があり、契約書の中に盛り込まれることが一般的ではあると思うが、委託契約書には、まったく盛り込まれていない。この件に対し議会答弁は、「企業のやる気を見るためだから…」契約書には盛り込む必要は無いみたいな答弁。しかし、実際には評価され加点されており、言ったが勝ちの実態である。
 評価項目を見直すことが必要だが、それ以前に行政の考えを正すことが大前提である。
 業務の受託に際して、契約書を交わすが、契約内容は最低限の内容にとどまり、提案書やプレゼンテーションで紹介し評価された取り組みなどが、現実に実施しにくい状況となっている。これは、ほかに業務を受託する競合他社と比較した場合の、サービスの一定性、教育的観点による平等性によるためと思われるが、「民間業者の優れたノウハウを生かした業務の実施」という部分から見ても、民間委託の必要性に疑問が生じるとともに、受託業者としての自主性が損なわれている。


5. 食 育

 1954年に学校給食法が施行され、学校給食は教育の一環として位置付けられることになりました。 
 1985年の通達「学校給食業務の運営の合理化」、さらには2003年の事務連絡「学校給食の運営の合理化」により、学校給食の民間委託や共同調理場の推進が図られてきました。
 学校給食は教育の一環として位置付けられてきましたが、2005年6月に制定された「食育基本法」では、学校給食の中での食育の推進には、教職員・保育士、栄養教諭・栄養士、調理員及び行政関係者が一体となり、地域との連携も図り、児童・生徒へのきめ細やかな指導が行わなければなりませんが、委託の条件上、栄養士は委託先の調理員に、直接作業指示・注意が出来ないこととなり、本来、栄養士と調理員が協力し、一体となって給食を作っていくという大切な関係に、致命的な悪影響を与えることになります。このような「子どもの食」そして「食教育」に対する行政責任の放棄にも似た学校給食の業務委託、などの「合理化」問題で一番影響を受けるのは給食を食べる子ども達です。食も教育の一環とするならば給食調理においても行政が直接、調理職員に指揮命令が行えるよう委託のあり方を見直し給食を提供するべきと考えます。


6. 学校給食法の定め

 学校給食法は、「学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資し、かつ国民の食生活の改善に寄与するものであることにかんがみ、学校給食の実施に関し必要な事項を定め、もって学校給食の普及充実を図ることを目的。」として定められた法律である。
 〔学校給食の目標〕
 学校給食については、義務教育諸学校における教育の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
 ① 日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと。
 ② 学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと。
 ③ 食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること。
 ④ 食糧の生産、配分及び消費について、正しい理解に導くこと。


7. 今後の取り組み

 当会は、公益法人に移行したことにより、従来どおり行政の事業を補完する機関、公益のため自主的に活動する機関、民間業者として業務を遂行する機関の3つの要素を兼ね備えている。
 しかし、一民間業者としての側面が、行政との密接な関係性を許さず、従来からの行政と一体となった公平で安定した公共の利益のための事業の発展を阻害している。
 民間委託には様々な目的があるが、最終的にコスト面が重視されている傾向がある。近年の民間委託の流れの中で、公共の外郭団体は淘汰されていくのは仕方ないのかもしれないが、公益法人制度改革により、組織や事業の体制を整えた団体は、民間業者と同等のコストで同等の業務を行えるようになり、その上で民間業者が収益を得る部分を公共の利益のために、定められた業務内容以上のものを実施可能である。
 単純に経営の安定性や施設の維持管理等ではない、教育・福祉・公共の利益を目的とした、行政の意向や健全性が色濃い事業について、民間業者と遜色ない公益団体が存在する場合はどうあるべきか。
 民間業者と同等の事業を行える団体が育っている場合(又は行政が責任を持って育てる必要がある。)は、行政と一体となって公益のために働ける組織に事業を委ねる体制を確立すべきである。
 以上のことを行政に理解をさせるよう当局(給食会)に要求書を提出する。議会対応も同じく行い民間委託の見直しを求めていく。


8. まとめ

① 行政は学校給食が、なぜ教育の一環と位置づけられているのか、これからを担う子どもたちに行政が何を引き継ぐのか、しっかりと見極めていく必要がある。学校給食は当初の栄養補給の役目から、食を通じ文化だけではなく、人と人との繋がり(食材の生産者、食材を調達する人、調理員等)・感謝の気持ち等これから必要となるいろいろなことを学べる教材である。
② 民間委託を行う理由に、民間のノウハウとよく言われるが、実際は新たに受託した業者は、今までそこで働いていた職員をそのまま雇用しているので、新たな民間のノウハウは期待できない。受託した業者名だけが変わっている現状である。よって経費削減と事故が起こったときの自治体が責任を逃れるための民間委託といえる。そもそも、学校給調理業務は日々条件が変わりその都度、支持・打ち合わせが必要、2週間前に出される指示書、事前打ち合わせでは対応できないこと、また資材調達、機材使用等を踏まえれば、学校給食の調理業務は民間委託にはそぐわないと確信できる。
③ 栄養士が食育に今まで以上に時間が確保できるといいながら実態は、指示書等文書作成に時間を取られ、時間外勤務は慢性化の状況。はたして、委託後にどれだけ食育についやす時間が増えたかは怪しい。 
④ 検討委員会の委員といっても、検討となる要件について、何も知らずただ、行政が準備した資料のみの知識しかなく、行政の思うように操られている、有識者、関係者と言われるのなら、自分で調べ理解をするべきである。
⑤ 外郭団体は、行政側との交渉が直接出来ないことで、単組としての取り組みが出来ないし、受託側ということもあり、へたに運動をすると、公募に参加できなくなることが危惧される。
⑥ 自治体単組が一緒に取り組まないと、公共民間単組だけでは民間委託に対してなにも出来ない。
⑦ 自治労は公共民間労組が抱える問題に対しても自治体と同様に機敏に取り組みをされることが重要で、たとえば公契約条例制定に向け更なる取り組みが必要である。