【論文】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

医療現場における現業職員の課題とこれから
―― 看護に不可欠な介護を担う ――

兵庫県本部/神戸市従業員労働組合・衛生支部 渡邉 直子

 高齢化社会から超高齢化社会に向かう現代、医療現場において介護という分野を外しては考えられない現実がある。私の勤める「急性期医療の現場」での、介護にかかわる現業職としての今までの取り組みと課題、これからの方向性について述べていきたいと思う。
 神戸市立中央市民病院は、新病院建設、移転という話があり、2009年4月、独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立医療センター中央市民病院となった。そして、2011年7月には新中央市民病院へ移転。移転を機に、PFI導入という形をとり、様々な部署で民間委託へと変化する状況の中、私たち現業職である病院業務員は、全面委託の提案を退け、直営を守って現在を迎えている。
 当然、この厳しい時代の中で、神戸市職員としての補充はなく、法人化になっていることから、法人の正規職員を採用しての現在ではあるが、直営であるからこその業務ができていると実感している。
 まずは、現在に至るまでの経緯、「これまで」を書かせていただきたい。
 1995年1月17日阪神・淡路大震災に見舞われ、復興に向け力を出し合っていた頃、私たちの大先輩は、当時の看護部長と連携をとりながら、「看護補助者として、今後どういう業務が求められるのか」を考え、検討していくことになる。
 震災前、私たち病院業務員という仕事は、掃除・退院後の片づけ、配膳などが主な業務だったが、「これから先、このままの仕事では厳しい時代がくる」「もっと患者さまに寄った仕事を」という事にたどり着く。急性期医療の現場で、必ずしも看護師でなくてもいい、医療行為にならない看護補助業務。患者さまがより良い入院生活が送れるようにと様々な業務をするようになっていった。
 このことをきっかけに、私たちの業務はめまぐるしい変化を経ていく。モデル的に脳神経外科の患者さまなど、重症な方の多い病棟で、ケア係りとして1日のほとんどを特殊浴室での入浴介助を行うようになり、そのことから他の病棟でも少しずつ業務の内容は広がっていった。
 そのおかげというべきだろう、私たちは各病棟で、チームの1人として、なくてはならない存在になっていった。仲間の中での意見の相違、あまりに大きな変化による不満、体調不良など、様々な問題はあったが、必要だと言ってもらえる存在になれた。その結果、直営を守ることができ、定数増へと結びついた。
 震災から17年が過ぎ、新たな変化の時を迎えようとしている私たちは、「これから」をどう考えるべきなのか。そこには、医療と介護の連携が不可欠だということが重要な要素ではないだろうか。
 急性期医療の病院で、三次救急も対応している中央市民病院は、さまざまな科に高齢者も多く、交通外傷と高度医療を必要とする患者さま、本当にさまざまな患者さまが入院されている。
 患者さまのなかには、認知症があり、自分の置かれている状況を把握できず、たえず何かを訴えて大きな声をだす。「動いてはいけませんよ」と言われても、気づけばどこかへ行こうとしている。
 高齢者に限らず、自由に体を動かすことができない患者さまもいる。自分で食事をしたくても手を動かすことができない方、麻痺があり、自分一人での入浴は難しい方。つらい治療に日々耐えている方もいる。
 看護師は、どんな患者さまにも必要な医療を提供していくことが最優先されなければならない。しかし、介護に手をとられ、看護に集中できない。それが介護施設ではない、病院というものではないだろうか。そういう目を離せない患者さまがいると、看護師はつきっきりになってしまい、看護が思うようにできない。受け持つほかの患者さまに充分な時間を費やすこともできなくなってしまう。そうして過酷な勤務に耐えられず離職してしまう。そんな問題も抱える今、介護という分野で患者さまの話し相手になれ、一緒に散歩にいける人材。食事のお手伝いをさせてもらい、入浴のお手伝いをさせてもらう人材が、大きな力を発揮できるのではないだろうか。急性期医療のこの病院で、それを担っているのが私たち看護補助者である。
 病院という治療を必要とした現場なので、私たちだけで出来る事は限られているが、食事介助、洗髪、手・足浴、清拭や検査・診察への搬送など、看護師から注意するべき点の支持を受けさえすれば行える事はたくさんある。患者さまに、よりよい入院生活が提供できるよう、看護師と私たち看護補助者は、チームとして情報交換をしていく。こういう事が医療と介護の連携といえるのではないかと思う。
 新病院移転時、「より患者さまに近い業務を」という想定で業務の話し合いも進めていた。しかし、まだまだ課題が多く、今まで同様に病棟の中の片づけや、退院後の対応にも追われる日々が続いており、ケア業務などは思っていたより対応できずにいる。
 1年が過ぎ、移転後の問題点などを整理・改善し、よりよい病院づくりのために私たちの「あり方検討会」が立ち上がった。これからの私たちにできることは何かを考える時期にきている。
 「より患者さまに近い業務を」という想定を実現するため、業務整理はもちろんだが、介護という分野に、より踏み込んだ位置に立つ必要がある。病院としてもその力を必要としてくれている。
 しかし、受け身でいるだけでは進まない。先々を考え、私たちに何ができるのか。
 診療報酬改定にともなって、看護補助加算に夜勤加算もはいってきた今、やはり介護の力は大きく期待されているのだと思う。そのことから、私たち自ら夜勤というところまでを模索しているところである。私たちが夜勤をすることで、どのような患者サービスにつながるのだろうか。
 夜勤が、すべての病棟で必要というわけではないだろうが、私たちが一緒に夜勤をすることで、看護師の介護という部分での助けになれば、そこから患者さまへのよりよい医療の提供につながるのではないだろうか。この試みには、大きな可能性があるように思う。
 大きな変化は、いろいろな不安や不満を作る原因にはなるが、より「なくてはならない存在」にならなければ、委託になりかねない。委託業者ではできない、「直営だからこそ」のチームワークが作れると信じている。それは、今までの経験、知識が日々の業務の中でも活かされていると感じるからである。
 自己啓発によって介護福祉士の資格をとった者もいる。介護福祉士の受験資格に認められなかった一般病院が、実務経験として認められ、受験できることになった経緯も、私たちの運動が実を結んだ結果である。その機会を活かし、さらに進んだ患者サービス提供につなげるため、何らかの支援をと訴えてきたその結果、資格支援制度の導入を決定してくれた。この支援制度は介護だけではなく、看護師、コメディカルなどの分野もあり、病院として、より質の高い医療と患者サービス提供を考えていることの結果だと思う。
 そんな病院の一員として、さらに前向きな意識で取り組んでいく必要があるのではないだろうか。
 もちろん、全員が前向きなわけではないが、来年度にむけ、意識改革をしていこうとしている。その中には、法人職員の給与引き上げも含めなければならない。大きな変化だけではなく、それに合わせてしっかりとした給与ベースを確保していくことも、前向きな意識には不可欠な要素ではないだろうか。
 私たちは、これからの前向きな取り組みに向かって、必要な人員確保も訴え、定数にもつなげていきたいと思っている。
 看護師が、より看護に集中できるように、私たちは、私たちのできる介護も担っていく。それによって、患者さまは、より快適な入院生活を送ることができ、安心して治療していくことができるのではないだろうか。
 今までの考え方を大きく変え、しっかりとした役割分担をしつつも、私たちと看護師が一緒に患者さまのためにという意識でチーム医療を提供する。そんな病院になっていくことを想像し、少しずつでも近づけるよう、改革を進めたいと思う。やっていきたいと思うことは、たくさんある。日々の忙しさに流されず、医療と介護の連携のとれた病院をめざしていきたい。
 「私たちがいるからこそ」そんな強気な気持ちで、より良い病院にしていきたいと思っている。自分や、自分の家族に何かあったとき、迷わずこの病院を選ぶことができるような病院になっていてほしいと思う。それは、地域住民にとっても望む病院であり、市民病院として、そうあるべきだろうと思っている。