【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 大分市議会における「大分市子ども条例」の議員提出議案としての制定の経過と概要についての報告。



「大分市子ども条例」の制定について

大分県本部/大分市議会議員 宮邉 和弘・松下 清高

1. はじめに

 大分市議会では、2011年第1回定例会において、議員提出議案としての「大分市子ども条例」を全会一致で可決、成立させました。本条例の施行日は、周知期間の関係と子どもに関する条例ということで、こどもの日である2011年5月5日としています。
 全国的に見て、子どもに関する条例は、目的や狙いとするところは異なるものの、かなりの県及び市町で制定されていますが、そのほとんどは執行部からの提案であり、議員提出議案として成立しているのは、大分市を除くと秋田市のみとなっています。

2. 議会の活性化のために

 地方分権化が進む中、自治体の権限と責任は拡大し、また、住民の代表である議会の果たす役割もますます大きくなっています。二元代表制の一翼を担う議会は、自治体の最終意思決定機関であり、監視及び評価機能の一層の充実に加え、政策形成能力も求められています。
 こうしたことから、本市議会では2007年10月10日、議員全員による、市民本位の立場で会派を超えた政策研究に取り組み、政策的条例の策定や市長に対する政策提言を行うために、大分市議会議員政策研究会(以下「研究会」という。)を立ち上げました。
 研究会では、政策的条例の策定について、議員から政策課題を募集し、その中からテーマを選定、そして、具体的に内容を検討する推進チームを編成して、議論、協議を行った後、成案を得て全体会報告、議会運営委員会で決定、本会議に上程、可決成立する流れとなっています。
 この研究会での政策的条例の成立第1号は、「大分市議会基本条例」であり、本稿で取り上げる「大分市子ども条例」は、その2番目に成立の運びとなったものです。

3. 制定に向けての経過

 大分市議会は、2009年2月の選挙で新たな任期がスタートし、同時に研究会も11人の新人議員を含め、46人(定数2人減)で構成されましたが、同年6月から新たな政策課題を募集することとなりました。これを受け、社会民主クラブ(以下「社民クラブ」という。)として協議した結果、いじめや虐待の問題、少子化の進行など、子どもや子育て中の家庭を取りまく環境の厳しさを踏まえ、子どもに関する課題を提案することとし、宮邉、松下両名が共同で内容等を検討し、提案することとしました。
 課題の応募は、5会派から8課題が提出されましたが、選考の結果、当会派及び新市民クラブから提出された子どもに関する課題が採択されることになりました。
 そして、各会派9人で構成する推進チームを編成し、具体的な内容検討・調査研究を行うこととなり、社民クラブからは、課題を提案した宮邉と松下がチーム構成員となりました。 
 推進チーム全体の構成メンバーは、自民3人、社民2人、公明、民主、新市民、共産各1人で、同年8月5日に第1回の推進チーム会議を開催しましたが、まず、座長、副座長の選任が行われ、宮邉議員が副座長として選任されました。
 そして、条例案の成案に向け、計33回の会議と約1年7ヶ月の期間をかけた協議がスタートしました。

4. 推進チームでの作業経過

 推進チームスタート直後の会議では、全国の子ども条例の制定状況や関係法規、政策法務等について確認するとともに、現在大分市が実施している各部局の施策等についての説明を受け、メンバー間の現状等についての認識等の共有化を行いました。
 また、他市の条例を分類すると子どもの権利救済や虐待防止などを主眼とする個別条例、子育て支援や健全育成を中心とする施策推進型、そして全体を網羅した総合型など様々でしたが、大分市が目指す条例は、総合的な条例とすること、2011年3月議会での制定をめざすことなどを各段階の協議を経て確認しました。
 その後、条例(案)の名称を「(仮称)子どもに関する条例」として、その背景等についての議論を行い、執行部からの現在取り組み中の施策、事業等の説明を受け、子どもや子育て中の家庭など、子どもを取り巻く環境等についての分析、整理を行いました。これは、議会基本条例の中に明記されている「市民意見交換会」のテーマとして「(仮称)子どもに関する条例」を取り上げることとし、市民からの意見をいただき、その意見を参考としながら、検討を進めていくための説明資料とするためでした。
 市民意見交換会は、全議員が1回以上参加することとしていますが、推進チームメンバーは、必ず13地区(会場)に複数名出席することとし、出席者と説明役等の役割を分担して対応しました。その中で、「子どもを取り巻く現状と課題」、「条例制定の必要性」としてまとめたものと少子高齢化や子どもに関する相談件数なども参考資料として説明し、それらを基に出席された方から意見をいただきました。また、これらの資料等は、その後のPTAや民生・児童委員、社会福祉士会など、子どもに関わる関係者15団体等との意見交換会も実施しましたが、同様に説明資料として活用しました。
 さらに、当事者である子ども達の意見を聞くことが必要であるとして、小中高校各1校の児童・生徒との意見交換会を開催するとともに、小中高校計25校の6年生や2年生を対象としたアンケートなども実施し、子ども達の思いなどを集約、整理し、条例に反映することとしました。
 なお、児童生徒及び関係者との意見交換会等については、チームを3班に編制して、日程の調整や説明、書記などの運営を対応しました。
 この間、条例作りに反映させるため、東京都目黒区及び秋田市等の行政視察を行い、制定の背景や制定後の施策への反映など現状等について調査し、その後の議論の参考としました。
 そして、意見交換会などでの主な意見を集約、分類して、条例の基本方針についての協議を行いました。推進チームで協議した基本方針は「市民、子どもの意見、要望項目を尊重し、条例の基本理念を明確に掲げ、子どもの権利(他者の権利への配慮)を含みつつ、市民を巻き込み、社会全体で子育てや子どもの育ちを支援する施策推進の根拠をめざす」こととし、各会派での協議を踏まえ、全体会で決定しました。
  2010年7月の第19回推進チームの会議以降、基本方針を踏まえつつ条例素案のたたき台の検討、協議を行うこととなりました。条例素案作成に当たって、条例の枠組みを大まかに分けて、チームを2班編制として、それぞれで検討、協議することしました。そして、班ごとに協議した内容をチーム全体で協議し、条例素案の骨子(案)としてまとめ、役員会、各会派で協議し、修正、取りまとめた骨子(案)を全体会で決定しました。
 その骨子(案)を、2010年度の市民意見交換会で説明し、質疑・意見交換を行うとともに、同年10月から1ヶ月間、市民からのパブリックコメントをいただくことにしました。
 その後、市民意見交換会やパブリックコメント等でいただいた意見等を参考として、条例素案の検討、協議に入り、執行部との意見交換や法制面での検討も行った後、チームとしての素案をまとめ、役員会に提出、その確認の後、各会派に報告して協議を行うこととなりました。
 各会での協議の後、条例素案の修正、条例の名称及び施行日についての協議を行いました。
 条例の名称については、3案が出されましたが、最終的に「大分市子ども条例」とすることを確認し、同時に、パブリックコメントで寄せられた意見に対する大分市議会としての考え方についても協議しました。また、条例の解説書等についても協議を行い、33回目の推進チームの会議で、チームとしての条例素案及び解説書案等を確認しました。
 その後、役員会での了承を得た後、2011年3月7日の研究会全体会で、活動経過の報告とともに、各会派毎の協議結果を基に検討した条例(案)及びパブリックコメント(案)について、承認、決定しました。
 そして、研究会から、議会運営委員会に2011年第1回定例会の一般質問初日に、「大分市子ども条例」として議員提案する旨報告を行い、同年3月11日の第1回定例会一般質問初日に、施行日を子どもの日でもある5月5日とする、大分市子ども条例が全議員賛同の下、可決されました。

5. 条例の目的と概要

 「大分市子ども条例」は、家庭、学校等、地域、事業主及び市が連携協力し、子育てや子どもの育ちを社会全体で支援することにより、すべての子どもが健やかに育つ社会の実現を図ることを目的としています。
 条例は、7章18条で構成され、第1章では総則、目的、定義、基本理念を規定しています。定義の中で、「子ども」は18歳未満の市民と規定しました。これは、児童福祉法や児童の権利に関する条約等との整合性をとるようにしたものであり、「市民」とは、大分市内に住所を有する者及び市内に通学し、又は通勤等する者としています。
 また、第2章では子どもの権利等への配慮を規定していますが、第4条では子どもの持っている権利を明らかにするとともに、他者の権利を尊重することが大切であることも定めています。
 以下、第3章では、関係者の役割として家庭及び学校等、地域、事業主の役割を規定し、第4章では市の責務を、第5章では主な施策を、そして第6章では推進計画を規定し、第7章で議会の評価等を規定しています。

6. 制定の意義

 本条例の最大の特徴は、議会が策定したものであるため、具体的な施策等を条文として規定するのではなく、子どもの育成に関する市の施策が効果的に推進されるよう、監視及び評価をするとともに、必要に応じた提言を行うことを第7章第18条の中で、明文化したことにあります。
 ある意味でこれは、この条例の精神が生かされ、すべての子どもが健やかに育つ社会の実現に向けた、議会としての責任の表明と言えるものです。
 本条例は、2011年5月5日に施行されましたが、私たちは条例の制定そのことが目的ではなく、この条例の精神が、市民全体に共有化され、社会全体で子どもの育ちや子育てを支援するため、いかに実効性を確保していくか、が大事であると考えています。

7. 結びに

 第18条の規定に基づく議会としての監視及び評価をすること、そして必要に応じた提言を行い、本条例の実効性を担保するため、本年第1回定例会で、本条例の執行等を所管とする「子ども育成・行政改革推進特別委員会」が設置されました。
 今後、当面は条例制定の周知を図るため、パンフレットを作成、配布することとしていますが、市民全体の理解を得、いかに施策の充実、推進を図り、条例の実効性の確保を図るかが、この特別委員会の重要な役割を担うことになりますので、議会及び私たちの責任は大きいものと認識して、行動していきたいと考えています。