【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 全国の基礎自治体数は1999.4.1時点3,229市町村であった。2012.1.4現在1,719市町村で、ほぼ半減した。広島県の基礎自治体数は86から23へと激減し、減少率73%であった。2000.11に「広島県市町村合併推進要綱」①地方分権が推進される中で、市町村の役割への期待②行政サービスの広域化や少子・高齢化、高度情報化に対応した体制整備③国・地方を通じた厳しい財政状況に対応した行財政の効率化、がだされたことが背景にあった。



広島県基礎自治体における
平成の大合併後の地域自治に関する調査
新潟県との比較分析

広島県本部/広島地方自治研究センター 泉  祐子

1. 広島県における市町村合併の状況

(1) 広島県内の市町村における「平成の大合併」の状況
 広島県内の基礎自治体は、2011年11月現在、14市9町の23団体で構成されている。このうち17自治体(12市5町)は、1999年の合併特例法改正以降に市町村合併を経て誕生した基礎自治体であり、全体の74%を占めている。6自治体(2市4町)は合併していない。合併は、2004年と2005年に集中している。
 現在の基礎自治体毎に合併関係市町をみると、最小2から最大9までばらつきがあるが、合併市町4が、現在の北広島町、江田島市、三原市、神石高原町の4件で最も多い。合併関係市町の最大は9で、呉市の一件である。
 なお、広島市は1980年以降、政令指定都市であるが、今回の合併市町のひとつである。
 合併の有無別に、人口、面積、議員数との関連をみると、合併を経て誕生した基礎自治体は、合併の当然の結果として、人口・面積とも大きく、議員数も多い傾向がみられる。この傾向は合併規模(合併関係市町村数)に相関している。
 他方で、人口規模が大きな自治体の中でも相対的に大きい自治体では、編入合併を選び、人口規模の相対的に小さな自治体では新設合併を選び、人口規模の小さく、面積も小さな自治体では合併していないという特徴がみられる。合併していない自治体の人口はすべて6万人未満であった。
 合併理由としては、「財政力の向上」「行政サービスの向上」が上位を占める。これらに「政策形成能力の向上」や「地域の活性化」が続いている。合併後の現在の基礎自治体の特徴別に、合併を選択した理由に違いはみられるのか。合併規模、人口規模、面積規模、高齢化率といった基礎自治体の基礎情報との関連を検討すると、以下の点に主要な違いが見て取れる。①全般的に「財政力の向上」を合併理由に挙げている自治体が多いが、なかでも人口規模の小さな自治体ほど、これを理由に挙げる傾向がある。他方で、人口規模の大きい広島市や呉市ではこれを理由とはしていない。②一般に、基礎自治体の人口と財政力指数とは正の相関があると言われているが、人口の少ない基礎自治体の合併ほど、財政力の向上が重視されたと考えられる。また、人口規模の相対的に大きな基礎自治体ほど、相対的に小さな基礎自治体に比べて、地域の活性化を合併の理由に挙げる傾向がある。③高齢化率との関係でみると、高齢化率の高さと人口規模の大きさは負の相関があるので、人口規模の相対的に小さな基礎自治体と同様、財政力の向上をめざして合併を進めたことが読み取れる。なお、事務権限の拡大や、行政サービスの向上、政策形成能力の向上という合併理由には、人口や面積規模との明示的な相関は見られなかった。
 合併しなかった理由の上位は、「財政効果に疑問」であり、「行政サービスの低下の懸念」、「その他」が続いている。合併をしなかった理由は、「その他」も含めて様々であり、特定の傾向は見られないが、合併するにしても合併をしないにしても「財政効果」が主な関心事であることが特徴として挙げられる。合併しなかった基礎自治体の特徴別に、合併しなかった理由には違いがみられるのか。主要な違いは次の点にみてとれる。
 まず人口規模及び面積規模では、人口及び面積規模の大きな基礎自治体ほど、行政サービスの低下を懸念、地域の特色が薄れる懸念を理由に挙げる傾向がある。他方で、人口と面積規模の小さな基礎自治体ほど「その他」を理由に挙げていることがわかる。小さな基礎自治体ではその他特別の理由があることが推察できる。
 高齢化率に関しては、高齢化率の高さは人口規模と負の相関があるので、高齢化率の高い基礎自治体ほど人口規模が小さく、合併しなかった理由として、「その他」を挙げていることとなる。
合併市町の名称
合併期日
合併方式
合併関係市町村 
福山市
2003年2月3日
編入
福山市、内海町、新市町
2005年2月1日
編入
福山市、沼隈町
2006年3月1日
編入
福山市、神辺町
廿日市市
2003年3月1日
編入
廿日市市、佐伯町、吉和村
2005年11月3日
編入
廿日市市、大野町、宮島町
大崎上島町
2003年4月1日
新設
大崎町、東野町、木江町
呉市
2003年4月1日
編入
呉市、下蒲刈町
2004年4月1日
編入
呉市、川尻町
2005年3月20日
編入
呉市、音戸町、倉橋町、蒲刈町、安浦町、豊浜町、豊町
安芸高田市
2004年3月1日
新設
吉田町、八千代町、美土里町、高宮町、甲田町、向原町
三次市
2004年4月1日
新設
三次市、甲奴町、君田村、布野村、作木村、吉舎町、三良坂町、(双)三和町
府中市
2004年4月1日
編入
府中市、上下町
安芸太田町
2004年10月1日
新設
加計町、筒賀村、戸河内町
世羅町
2004年10月1日
新設
甲山町、世羅町、世羅西町
江田島市
2004年11月1日
新設
江田島町、能美町、沖美町、大柿町
神石高原町
2004年11月5日
新設
油木町、神石町、豊松村、(神)三和町
北広島町
2005年2月1日
新設
芸北町、大朝町、千代田町、豊平町
東広島市
2005年2月7日
編入
東広島市、黒瀬町、福富町、豊栄町、河内町、安芸津町
三原市
2005年3月22日
新設
三原市、本郷町、久井町、大和町
尾道市
2005年3月28日
編入
尾道市、御調町、向島町
2006年1月10日
編入
尾道市、因島市、瀬戸田町
庄原市
2005年3月31日
新設
庄原市、西城町、東城町、口和町、高野町、比和町、総領町
広島市
2005年4月25日
編入
広島市、湯来町


(2) 地域審議会の設置と活動状況
 地域審議会を設置しているのは、合併経験のある17自治体のうち4自治体で、約23%である。このうち全ての自治体が合併法による設置であり、一部地域への設置が三原市と東広島市の2自治体、全域への設置が三次市と庄原市の2自治体である。
 各自治体における地域審議会設置区域は、概ね合併前の旧市町村の区域ごとになっていることから、合併規模(合併関係市町村数)と各基礎自治体内の地域審議会数とはおおよそ同数とみてよい。定員数は15人が3自治体、12人が1自治体となっている。委員の任期は2年で再任は可で共通している。
 会議回数は、年平均1.7回であるが、年2回開催のところが最も多い。委員報酬は平均すると1回7,785円であるが、自治体人口の規模に応じて報酬が高くなる傾向がみられる。また、1年間に開く会議の回数が1回の自治体よりも2回の自治体のほうが報酬額が上がる傾向がみられる。
 地域審議会に対する行政としての取り組みの上位は、「審議の公開」「議事録の公開」であり、「広報推進」がこれに続いている。
 そもそも広島県の合併自治体では、地域審議会を設置した数が4自治体と少ないのであるが、その地域審議会の活動状況の評価も、すべての自治体が「あまり活発でない」と回答している。


(3) 地域自治区制度に伴う地域協議会について
 広島県の基礎自治体の場合、地域自治区制度を導入しているところはなく、伴って地域協議会の設置もない。


(4) 市町村独自の地域自治組織について
 地域的まとまりの組織化状況として、市町村独自の住民組織に焦点をあてると、三次市、竹原市、江田島市、廿日市市、安芸太田町、福山市、呉市、神石高原町の8自治体がそれぞれ独自の住民組織を設置していると回答している。
 行政の支援活動としては、自主活動に対する財政的支援、広報推進、ネットワークづくりの支援、協働事業の実施が多くなっている。活動状況の評価は「活発である」が62.5%となっており、先の「地域審議会」の不活発さと対照的な結果となっている。


(5) 町会・自治会の地縁組織について
 町会等の地縁組織の加入率を把握している自治体は、7自治体、全体の30%に止まり、内訳は市が5、町が2であった。加入率の把握方法としては、連合町会・自治会単位で加入率をまとめてもらう方法を採用している自治体が2自治体、行政が単位町会・自治会毎の加入率を直接把握する方法を採用している自治体が3、その他が2であった。
 今後、地縁組織にとくに力を入れて活動してほしい分野を3つまで選択してもらったところ、防災訓練、備品の整理などの防災に関する活動を選択した基礎自治体がもっとも多く、地域福祉、より大きな地域自治組織への参画、施設の維持管理、親睦・交流が続いている。
 このなかで、最も力を入れてほしい分野としては、「防災活動」がもっとも多く、「広域の地域自治組織」への参画が続いている。
 地縁組織を支える人材が、「相対的に充足傾向」にあると行政から評価されている活動分野は、「行政への要望活動」(14件、66.7%)「親睦・交流」(14件、66.7%)である。
 他方、「特に不足気味」であると評価されている分野は、「ハードストックの維持管理」(21件、100%)、「環境保全」(17件、81.0%)、である。また、相対的に低い評価となっているものは、「広域自治組織への参画」(15件、71.0%)、「防災」(①6件、76.2%)、「公園・公民館の維持管理」(14件、66.7%)である。
 地縁組織の活動力(自主事業の企画や地域の課題に対する組織的対応など)が行政から特に高く評価されている活動分野は、「行政から依頼する活動」(18件、85.7%)「親睦・交流」(18件、85.7%)である。
 また、相対的に高く評価されているのは、「行政への要望活動」(13件、61.9%)、「防犯」(13件、61.9%)、「環境美化」(16件、76.2%)、「地域福祉」(16件、76.2%)、「子ども」(15件、71.4%)となっている。
 他方、特に低く評価されている活動分野は、「ハードストックの維持管理」(21件、100%)、「環境保全」(18件、85.7%)である。「広域自治組織への参画」(15件、71.4%)は相対的に低い評価となっている。
 地縁組織の活動状況のうち、地縁組織間の連携・協力の側面について、行政から特に積極的に評価されている活動分野は、「行政から依頼する活動」(17件、81.0%)、「子ども」(17件、81.0%)、「親睦・交流」(19件、90.5%)である。
 また、相対的に積極的に評価されている活動分野は、「行政への要望」(14件、66.7%)、「防災」(13件、61.9%)、「防犯」(14件、66.7%)、「環境美化」(16件、76.2%)、「地域福祉」(13件、61.9%)であった。
 他方、特に消極的評価に留まる活動分野は、「ハードストックの維持管理」(18件、85.7%)であり、相対的に低い評価に留まる活動分野は、「環境保全」(14件、66.7%)、「広域自治組織への参画」(14件、66.7%)であった。
 地縁組織とNPO等との連携・協力の側面について、行政から特に積極的に評価されている活動分野はない。
 他方で、特に消極的な評価に留まる活動分野は数多い。「行政への要望」(15件、83.3%)、「防災」(15件、83.3%)、「防犯」(16件、88.9%)、「環境保全」(15件、83.3%)、「親睦・交流」(15件、83.3%)、「公園・公民館等の維持管理」(15件、83.3%)、「ハードストックの維持管理」(16件、88.9%)、「広域自治組織への参画」(17件、94.4%)である。
 さらに「行政からの依頼」(14件、77.8%)など、その他の活動分野もすべて、相対的に消極的な評価に留まっている。
 地縁組織と行政との連携・協力の側面について、行政が特に積極的に評価している活動分野は、「行政からの依頼」(19件、95.0%)、「行政への要望」(18件、90.0%)、「防犯」(17件、85.0%)、「環境美化」(18件、90.0%)、「子ども」(18件、90.0%)、「親睦・交流」(16件、80.0%)である。
 その他「防災」(15件、75.0%)など多くの活動項目でも、相対的に積極的に評価している。


(6) NPOやボランティア団体について
 各市町を活動の本拠とするNPO法人等の市民活動組織の数を把握しているのは、9団体(41%)であった。
 把握の方法は、NPO法人とボランティア団体とでは異なっており、NPO法人については、認証機関である県のホームページから取っている自治体が多い。ボランティア団体については自治体独自の登録制度によるところが多いが、登録は任意であり登録していない団体もあるので、全体数は定かでない。
 NPO等の市民活動組織に特に力を入れてほしい分野を上位5つまで選択してもらったところ、上位(10件以上)は、まちづくり、保健・医療・福祉、地域安全であった。
 また、最も力を入れてほしい分野を1つだけ選択してもらったところ、「まちづくり」と「中間支援」に回答が集中した。
 行政として今後連携を強めていきたい分野を上位5つまで選択してもらったところ、「まちづくり」が最も多く選択され、ついで、「保健・医療・福祉」「地域安全」「中間支援」なども多く選択された。また最も連携を強めていきたい分野を1つだけ選択してもらったところ、「まちづくり」と「中間支援」が多く選択される結果となった。


(7) 行政分権について
 基礎自治体の事務を地域的に分掌する機関としての出先機関(支所・出張所・連絡所等)について、21自治体(91.3%)から設置していると回答があった。合併の有無との関連を見ると、合併経験のある基礎自治体のすべてが出先機関を設置しているが、合併していない基礎自治体(6自治体)では、出先機関を設置していないところも2自治体ある。
 近年、支所・出張所のあり方を見直した市町は、15基礎自治体であり、特に見直していない市町は、8基礎自治体であった。見直した内容は、「権限・財源を縮小」が最も多く、ついで「縮小・廃止」であった。
 行政機関の集中と分散について、行政体制の側面からたずねたところ、本庁方式を採用している基礎自治体が最も多かった。
 合併経験のない基礎自治体では、本庁方式が主流であるが、合併経験のある基礎自治体では、それぞれの事情に応じて、本庁方式、総合支所方式、分庁方式を使い分けている様子がうかがえる。「その他」は、地域のまとまりごとに設置される廿日市市の「円卓会議」の事例である。
 出先機関の所長の職位は、支所の場合は部長級が3(16%)、課長級が10(53%)と課長級が主流であるが、出張所では、課長級が2(22%)、係長級が3(34%)と係長級とその他が主流となっている。連絡所では、その他が多い。
 なお、広島県では政令指定都市の広島市が財産区という大規模な出先機関を持っているため、この所長は局長級であり、ほかの基礎自治体とは異なった組織構造となっている。
 各出先機関の分掌事務をみると、全ての支所で、住民基本台帳、戸籍業務を行っているほか、ほとんどの支所で、印鑑登録、税収納、国民健康保険・国民年金業務を行っている。住民相談や町会・自治会との連絡業務を行っている支所も多い。
 地域審議会の支援、地域自治組織の支援を行っている支所もある。
 また、すべての出張所で、住民基本台帳業務を行っているほか、多くの出張所で、戸籍、印鑑登録、税収納を行っている。
 今後の各出先機関のあり方をたずねたところ、「現在の体制を維持」「できるだけ統廃合」との回答が多くなっている。「その他」についてはそれぞれの市町の具体的事情によるニュアンスの違いがあるが、全体としは整理・統合していく考えの基礎自治体が多い。


(8) 自治基本条例、議会基本条例について
 いわゆる自治基本条例を制定している基礎自治体は、3自治体、全体の13.0%となっている。
 合併経験自治体では、合併を経験していない自治体に比べて、自治基本条例の制定活動が活発な傾向がみられる。
 本アンケート調査実施時点で、いわゆる議会基本条例を制定している市町は、5基礎自治体であるが、そのうち合併経験のあるのが4自治体、全体の17.4%である。制定する予定がある市町も5基礎自治体であるが、そのうち合併経験のあるのが4自治体である。検討したが制定していない市町は4基礎自治体であるが、すべて合併経験のある自治体である。
 自治基本条例にくらべて議会基本条例制定にむけての活動が活発であるが、とくに合併経験のある基礎自治体においてその傾向が著しい。


2. 新潟県で行われた調査を利用し、比較

 「地域自治」は住民主体の自治活動そのものであり、また行政からすれば日々の行政活動の展開に欠かすことのできないパートナーたる地域住民からその協力を得る組織・仕組みでもある。こうした地域自治について、合併後にどのような変化が生まれているか、またその現状や課題について、行政としてこれをどのように認識しているか、本調査を通じて探ることを目的にした。
 このような趣旨で新潟県の基礎自治体について行った調査があり、比較研究を目的に調査アンケートなど利用許可を得た(2010年6月、(社)新潟県自治研究センター、首都大学東京と市環境科学研究科 羽貝研究室)。新潟県は、今回の市町村合併において112から30へと基礎自治体の数が減少した。奇しくも減少率73%と、広島県とトップを競った地域なのである。
 そこで、広島県の「地域自治」の実態を調査することとあわせて、新潟県との対比を行うことも意図して、新潟県の調査と同じ設問で広島県の基礎自治体に対して調査を行った。
 調査は2011年10月に実施され、23市町すべてから回答を得ることができた。


3. アンケート調査を県立広島大学吉川教室に委託した

 今回の調査は、新潟県研究センターの協力を得て、県立広島大学吉川研究室に委託した事業である。広島県は基礎自治体が23市町に激減し、基礎自治体自身旧合併自治体の形式を残したままであったりし、地域住民も職員も違いがあることさえ知らされてなかったりする。またどうあるべきかの課題自体明確でないこともあり、今回の調査をもとに、今後項目ごとの調査研究をしていく必要がある。


資料 広島県の市町村合併の動向