【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 過疎化による沿線人口の減少と、少子高齢化による利用者の激減、経営安定基金の減少自治体の厳しい財政事情などで、存亡の危機に立たされている「第三セクター鉄道」(三セク鉄道)は全国各地に見られます。2015年春の北陸新幹線開業(長野・金沢間)によって、現在のJRから経営分離される並行在来線の開業準備を通じ、沿線自治体として感じたことなどを踏まえ、三セク鉄道の存続の可能性と展望について考えます。



厳しい地方鉄道の経営に向けた課題と可能性
~並行在来線問題に向き合う沿線自治体の視点からの考察~

新潟県本部/妙高市役所職員労働組合・執行委員 斉藤  誠

1. 新潟県妙高市を取り巻く並行在来線の課題

(1) 「並行在来線」とは
 「並行在来線」とは、新幹線開業によって「並行」する形で走る在来の鉄道路線のことです。
 1997年に長野新幹線(東京・長野間)が開業して以来、全国において在来線に並行して新幹線が開業する場合、その在来線の経営は、JRから分離するというルール(政府・与党合意)が適用されるようになりました。
 これは、JR各社の負担軽減のために、在来の路線から経営を分離し、県や沿線自治体でつくる第三セクターに経営を移管するなどの形がとられることになっています。
 2015年春の北陸新幹線の開業時には、当市を含む信越本線(長野・直江津間)と、北陸本線(直江津・金沢間)もこのルールに基づき、現在のJRから経営が分離され、第三セクター会社で運営することが決まっています。
 しかしながら、すでに開業した全国の並行在来線会社の多くは、沿線地域の人口減少や、マイカーの普及などにより、厳しい運営状況となっており、その補てんとして、県や沿線市町村が多額の財政負担をしているのが現状です。


【図1】新潟県の並行在来線 路線図

(2) 並行在来線開業に向けた当地域の取り組み
 1996年に北陸新幹線の着工が決まった際に、並行在来線のJRからの経営分離は、沿線市町村の同意が必要とされました。
 1997年、新潟県知事と沿線市町村長との間で、新潟県内の信越本線の並行在来線は、沿線市町村の協力を得ながら、新潟県が責任をもって存続を図ることを条件に、JRからの経営分離に同意しました。
 2008年度には、新潟県と沿線3市(妙高市、上越市、糸魚川市)で、「新潟県並行在来線開業準備協議会」を設立し、利用状況や需要予測などの調査を行い、並行在来線を引き継ぐ各自治体の財政負担軽減に向けて、国やJRに対する要望活動などに取り組んできました。
 2010年には、今後の並行在来線の姿や方向性を示す「経営計画」と、利用促進策などを盛り込んだ「鉄道とまちの共生ビジョン」を策定するとともに、並行在来線の運営会社となる「新潟県並行在来線株式会社」(現在は、「えちごトキめき鉄道株式会社」に会社名を改名)を設立。同社と新潟県並行在来線開業準備協議会が開催した住民説明会やワークショップなどを通じて沿線住民のニーズを踏まえた運行体制の方針案を決定し開業に向けた準備を進めています。


 
信越本線を走る普通列車の115系電車
 
特急タイプの普通列車189系妙高号

2. 三セク鉄道の経営状況

 国鉄民営化の際、国鉄再建法により、国鉄やJRから経営が切り離された赤字ローカル線(特定地方交通線)や、当地域のように、整備新幹線開業に伴う並行在来線区間を第三セクター会社が肩代わりした鉄道の経営では、国鉄やJRの経営の足かせにならないように切り離すとする趣旨や、設立された経緯から見ても楽ではありません。
 全国的にみても、現に危機的な状況におかれている事業者が多く、既に利用者の激減と関係自治体の財政悪化で支援が受けられなくなり、やむを得ず廃止された路線も数多くあります。
 経営が悪い理由は、特定地方交通線の場合、沿線人口が少ない上に、モータリゼーションの進展で鉄道の需要がさらに縮んだことが挙げられます。また、整備新幹線開業に伴う並行在来線の場合は、前述の事象のほか、主な収入源であった長距離旅客が失われることによる影響が大きくなっています。過疎化の進行や国の財政悪化により、鉄道をめぐる経営環境が年々悪化するなかで、特に少子化に伴う通学需要の激減による影響は測り知れません。
 また、JRからの転換で、既存路線から独立した料金体系になったため、JR運賃水準の1.2倍~1.8倍程度に割高になり、利用者離れが起きることもあります。
 三セク鉄道は経営状況を好転させるため、売店など周辺事業への進出、イベント列車の運行、地域密着イベントの開催、新駅設置、グッズ販売などで増収を図る一方で、列車本数の削減、設備の自動化、人員削減、他事業者の退職者を再雇用するなど合理化を進めていますが、これも限界に来ていると言えます。


【図2】事業者別の輸送密度の比較

3. 施設老朽化等への対応

 三セク鉄道は、国鉄時代の問題を引きずっているところが多く、近年は、線路やトンネル・橋梁などの施設、電気・信号設備や、リニューアルしていない駅舎など、施設・設備の老朽化が目立っています。中には、開業時に購入した車両は、既に20年以上使用しているところも多く、安全確保の面からも更新を迫られる状態にあります。
 それに対して計画的に順次更新している会社もあれば、年間の運輸収入が軽量気動車1両の購入費にも満たないため、更新費用が捻出できない会社もあります。
 また、人材確保の面でも問題が出ています。鉄道会社の要員は当初、JRからの出向者と退職者の再雇用によって確保したケースが多い状況です。しかし時間が経ち、再雇用者はリタイヤ、出向者は派遣元に戻るなどしたため、近年の運営体制はプロパーが主体になりつつあります。
 その結果、プロパーのみの経営によって、現在、要員確保や技術伝承が大きな課題になっています。
 このように三セク鉄道は、これを支える人材、財政、両面で困難な問題に直面していると言えます。

4. 三セク鉄道問題の経緯

 従来の地方交通線問題は、沿線人口が少なくなり、自動車の一般家庭への普及で公共交通の輸送需要が落ち、鉄道の経営が維持できなくなったことから端を発していました。しかし、近年では、整備新幹線の開業により、当地域のように、在来幹線鉄道が地方交通線になるという新しい形体の問題が生じています。
 転換対象線区に上がると、沿線住民や地方自治体は「廃止反対」を叫びますが、実際の利用者は高校生など一部の住民で、普通の利用者は高校生など一部の住民で、普通の人はめったに利用しない場合があります。このように、地元が廃止反対を叫ぶ理由としては、鉄道経営が赤字でも自分たちの負担はあまりないため、めったに利用しなくても、存続してくれれば地域イメージの維持に役立つという考えが根底にあると考えます。
 ところが、国の特定地方交通線対策は、鉄道維持について沿線社会の責任と負担を求めることになり、その結果、鉄道を維持するため、道府県、沿線市町村、企業、団体などが出資し、鉄道会社(三セク)を設立し、さらに毎年発生する多額の運営上の赤字をすべて負担しなければならなくなりました。
 しかし当時は、何が何でも維持しなければという熱気が各地に見られ、勢いに任せて突き進んだり、緊急避難感覚で後のことまで考えずに設立した例もあります。
 その後、1992年には、運輸省(当時)は地方私鉄の欠損補助を打ち切る意向を表明し、さらに2000年3月には、鉄道事業法を改正して鉄道の廃止を許可制から事前届出制にしました。
 それまでは、鉄道を廃止する場合、事業者には沿線地域との調整が義務付けられていましたが、法改正により以前と比べて簡単な手続きで廃止できるようになり、これは、革命的な変化といわれるようになりました。
 それを受けて、2001年以降、JR・私鉄双方から不採算路線の廃止計画が一挙に打ち出され、同年4月に下北交通大畑線と、のと鉄道七尾線の一部が廃止されたのを契機に各地で続々と実施されました。
 また、1990年代に入ると、新しいタイプの地方交通線問題が浮上。整備新幹線の建設に関して、従来の鉄道を地元移管する問題、つまり、当地域にもあてはまる「並行在来線」問題です。
 それに対して新しいルールが決定され、新幹線の建設費についても、地元も一定の比率で負担しなければならなくなるとともに、新幹線に並行する幹線在来線は、JRの経営から切り離して、地元がつくる第三セクター鉄道に転換しなければならなくなったというジレンマに陥りました。
 並行在来線問題をかかえる当地域でも、実際に、それまでは、地方自治体の行政業務として鉄道の運営など考えたこともありませんでしたが、鉄道問題について真剣に考えざるを得なくなったことも、並行在来線問題を抱えはじめた沿線自治体にとって、新たな悩みを生みだしました。


【図3】地方交通線における廃止対象路線の転換方式
区 分
第三セクター
バ ス
民営鉄道移管
第1次廃止対象路線(40線区)
16線
22線
2線
第2次廃止対象路線(31線区)
11線
20線
第3次廃止対象路線(12線区)
9線
3線
36線
45線
2線

5. 三セク鉄道の今後を考える

 鉄道は、大量輸送という特性と高速・定時運行という長所を生かせるところに存在意義があります。しかし、大量輸送の特性を発揮しているのは全国の三セク鉄道では、数者のみで、第三セクターでこうした鉄道特性を生かしたところは少ないのが現状です。
 2001年度の実績でも、輸送密度が1,000人を超えるのは全国の第三セクター鉄道の中でも13社しかありませんでした。このように利用者が少なくて多額の経費を賄えず、今後の維持の見通しがつかないところが多いので、今のままでは限界が見えていると言わざるを得ません。
 鉄道事業は、線路の保守や安全設備の維持補修、乗務員・保守要員などの人件費、気動車の燃料、地域によっては除雪など莫大な投資が必要な事業です。コストダウンの取り組みは、すでに実施可能なことは終えており、鉄道の存続は地域住民がいかに利用するかと、行政の支援が受けられるか、コンセンサスを得られるかにかかっていると言えます。
 当市を含む地域でも自動車の保有台数が比較的多く、地方特有のモータリゼーションが進展しています。また、冬期間は、豪雪による列車の運休が相次ぎ、他地域の三セク鉄道と比べても、不利な地域といえます。
 さらに、全国になる三セク鉄道の半数近くは、輸送量と経費を現実的に検証すればバス輸送のほうが効果的なことは明らかとなっているケースも多く、自動車と比べて鉄道が優れている高速性、定時性の面を引き合いに出しても、経済性に基づく比較では、地方の鉄道に優位性があるとはいえません。
 したがって、三セク鉄道の活性化は、より多くの人から「乗ってもらうこと」に尽きると言えます。鉄道廃止やバス転換の話が出ると、沿線住民や自治体からは「将来の地域づくりに必要」とか、「地域間交流や地域開発に貢献」、また「鉄道にはコストで割り切れない効果がある」というシンボル論や、「大都市重視、地方軽視の政策」といった政治批判の感情論など、莫大な財政負担を棚上げした議論が出がちです。
 さらには、自分はマイカーを利用しながら、勢いに任せて「高校生や高齢者など交通弱者のために必要」という他人事のような無責任な議論も出ることにもなります。
 しかし、空気を運ぶ状態の鉄道に莫大な税金を投入することに、多くの理解が得られるでしょうか。赤字補てんとして財政支援を行うべき道府県や沿線自治体の財政力も、すでに限界に来ているところが多いのが現実です。
 また、会社の「自助努力」は多くの第三セクター鉄道に共通して見られますが、会社によって取り組み方は様々で、まだ経費削減の工夫の方法がありうる場合もあれば、もはやこちらも「やりつくしている」と言わざるをえない会社も多くあります。
 「鉄道」という形で運営していくにはある程度の費用がかかることはやむを得ず、費用の削減にも限界があることは間違いなさそうです。このように、第三セクター鉄道が可能な「自助努力」は、大方行われてきている以上、更なるアクションを起こすことが困難な場合も多く、全体を取り巻く状況は非常に厳しいと言えます。
 地方鉄道における住民支援団体からは、スローガンとして、「乗って、残そう」という言葉が聞こえてきます。
 繰り返しになりますが、鉄道を存続するためには、住民が日常的に利用することに尽きます。したがって、それらのスローガンは、鉄路を残したい沿線住民自らの行動指針としては、ごくシンプルで、わかりやすい言葉です。しかしながら、行政も、言葉だけで住民へ広報・周知したり、けしかけるだけでは無責任かもしれません。
 三セク鉄道をもつ地域では、地方特有のマイカー依存社会でありながらも、都市資源として、本当に「鉄道が必要」と思うのであれば、鉄道を地域の重要な社会資本として、「行政も」「住民も」強く認識し、各種計画等に位置づけ、総合的な視点での一貫した政策展開が必要であるのではないでしょうか。


【写真1】九州新幹線(八代・鹿児島中央間)開業により並行在来線となった「肥薩おれんじ鉄道」