【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 姫路市職員の公務災害発生件数は、ここ数年20件程度で推移しています。この数字は、同規模の民間企業と比較しても決して少ないものではありません。職業柄か本市職員の安全に対する意識については、高いものであるとは言い難く、現場を抱える所属に配属されて初めて労働安全衛生法の存在を知ったという職員も少なくありません。そのような状況ではありますが、本市では、職員一人ひとりの安全意識の向上に向けた取り組みを精力的に行っており、そのいくつかを紹介します。



職員の安全意識を高めるために


兵庫県本部/姫路市職員組合・研修厚生センター 宗實 政人

1. はじめに

 姫路市は兵庫県の南西部に位置し、古くから播磨地域の政治・経済・文化の中心地として栄え、皆様もご存知の世界遺産・姫路城や書写山円教寺など数多くの歴史的資源を有する播磨の中核都市です。
 2006年の近隣4町との合併を経て、本市の現在の人口は、約53万6千人となり、約3,800人の職員が市民生活を支えるため、それぞれ、日々の業務に従事しています。
 本市職員の公務災害発生件数は、ここ数年20件程度で推移しているところですが、この数字は、同規模の民間企業と比較しても決して少ないものではないと考えています。
 公務災害の発生件数が減らない根本的な原因は、「安全に対する知識不足」や「職員自身の安全意識不足」にあると考え、職員の安全に対する知識や意識の向上を図るとともに、公務災害を防止するため、各安全・衛生委員会や各事業場の協力を得ながらさまざまな対策を取り入れ実践しています。

2. 各種対策

(1) 安全・衛生委員会の細分化と安全衛生審議会の設置
安全衛生審議会の風景
 市の業務は、事務・保育・美化・道路・下水・公園など多種多様で、事業場の規模も様々です。
 そこで、本市においては、現場で作業に従事する職員の声をより反映しやすくするため、また、現場の状況に即した形で安全衛生を推進するために、安全・衛生委員会(以下「委員会」という。)を労働安全衛生法の規定以上に細分化して設置しています。
 細分化することにより、職員が委員会を身近に感じ、安全衛生問題についてより関心を持つことができるものと考えています。また、快適な職場環境や労働条件について具体的な対策をより効果的にかつ効率的に実施できるというメリットもあります。
 委員会の細分化は、一方で、市全体として取り組むべき事項や各職場の実情が把握しにくくなるというデメリットがあると考えられます。
 そのため、本市では、細分化している委員会の取りまとめを行う事を目的に、委員会の上部組織として独自に安全衛生審議会を設置し、委員会間の調整を図るとともに、全庁的な事項を調査審議するなど、デメリットの解消に努めています。


姫路市職員安全衛生委員会組織体系図

(2) ヒヤリハット活動報告と公務災害報告書
 4S活動をはじめ、ヒヤリハット活動は、今や民間企業においては、常識となっているものです。
 毎年20件程度の公務災害が発生しているということは、ハインリッヒの法則によれば、公務災害の10倍のヒヤリハット事例が存在することになります。公務災害の発生を抑制するためには、ヒヤリハット事例をフィードバックし、職員間で共有することが効果的であるとの観点から、2008年度から、ヒヤリハット活動の職員への周知を行うとともに、ヒヤリハット事例の報告を義務付け、活用することとしました。
 具体的な手順としては、各自が「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたことがあった場合に、
① 作業者または所属長が報告の内容をヒヤリハット報告書に記録し、その報告書をもとに各職場でヒヤリハット事例を分析し、改善を行ったうえで、ヒヤリハット事例と対策を各職員に周知徹底し、同じ職場で二度と同じような事例が発生しないようにする。
② 各所属長は、所管する安全衛生委員会にヒヤリハット事例の報告書を提出する。
③ 報告書の提出のあった安全衛生委員会においては、ヒヤリハット事例を報告し、各職場で同じような事例が発生しないよう安全衛生委員に周知徹底する。
④ 各安全衛生委員会は、提出されたヒヤリハット事例の報告書を安全衛生所管部署である研修厚生センターに提出する。
⑤ 研修厚生センターはヒヤリハット事例を庁内ネットワークに掲載し、全職員に周知する
という流れになっています。
 ヒヤリハット活動は、職員各自が「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたときに、これがまさしく「ヒヤリハット」であると認識し、さらに報告の必要に思い至らなければ、活発な取り組みには発展しません。
 そこで、2010年度からは、さらに、ヒヤリハット活動を補完するため、公務災害を防止するには、現実に発生した災害に学ぶことが重要との観点から、公務災害が発生した場合に、各所属において、その原因を分析し、改善策について検討した結果を「公務災害報告書」として、委員会と研修厚生センターに提出してもらうこととしました。
 「ヒヤリ」としたり、「ハッ」としたことは、本人しか把握していませんが、公務災害は、研修厚生センターでも把握できるため、「公務災害報告書」の提出がない職場に対しては提出を促しています。
 また、市の安全衛生活動とは別に、組合でも時間外に組合員が集まり、安全衛生部会において、この「公務災害報告書」を活用して勉強会を行い、安全意識の高揚に取り組むようになっています。
 これらの取り組みは、緒についたばかりで、効果の程は、未知数です。根気よく継続して取り組み、公務災害が1件でも減らすことができればと考えています。

(3) 職場環境改善アドバイザー派遣事業
 各委員会では、定期的に各職場の職場巡視・安全パトロールを実施し、委員がお互いに巡視結果を報告しあって改善に取り組んでいますが、どうしても危険箇所を見過ごしてしまっている場合があります。
 そのような危険箇所の見落としを防ぎ、危険の解消を図るため、本市では、2008年度から財団法人地方公務員安全衛生推進協会が行っている職場環境改善アドバイザー派遣事業を活用しています。この事業は地方公務員安全衛生推進協会から派遣された労働安全の専門家が各事業場に出向き、安全・衛生診断を行い、事業場が職場環境の改善に向けたアドバイスを受けるというものです。2010年度は、再資源化施設1箇所と保育所1箇所を、2011年度は、市内の給食施設1箇所と公園現場1箇所の診断を受けています。
 診断の結果、これまでの取り組みが評価された事項も多数あり、その点については、委員の自信に繋がり今後の活動の励みになったようですし、指摘を受けた事項については、改善策を講じ、重点的に安全衛生対策に取り組むこととして、危険箇所の解消や安全意識の向上には大いにプラスに作用していると考えられるため、引き続き、この事業を活用していきたいと考えています。


 
職場環境改善アドバイザーによる指導
 
職場環境改善アドバイザーによる職場巡視

(4) メンタルヘルス対策
 他都市でも同様の傾向にあると思われますが、心の病による長期病休者は、年々増加しており、2005年度は18人で、職員数に占める割合は0.50%であったものが、2010年度は45人で、職員数に占める割合は1.17%となっており、職員数に占める割合で比較すると約2.3倍となっております。
 また、90日を超えて病気休職となった職員は、2005年度は10人で、職員数に占める割合は0.28%であったものが、2010年度は25人で、職員数に占める割合は0.65%となっており、職員数に占める割合で比較すると約2.3倍となっております。(表1)
 財団法人地方公務員安全衛生推進協会が実施している「地方公務員健康状況等の現況」を基に、全国と本市の心の病による職員千人当たりの長期病休者率を年度ごとに比較すると、いずれも全国を下回っていたものが、2010年度は全国を上回る傾向にあります。(図1)


【表1:心の病による長期病休者数及び90日を超えて休職となった職員の経年変化 (単位:人)】
年 度
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
2010年度
職員数
3,567
4,029
4,019
3,955
3,894
3,849
長期病休者数
18
26
23
23
31
45
長期病休者数/職員数
0.50%
0.65%
0.57%
0.58%
0.80%
1.17%
休職者数
10
19
19
19
20
25
休職者数/職員数
0.28%
0.47%
0.47%
0.48%
0.51%
0.65%
※ 長期病休者とは、傷病のため勤務していない期間が引き続き1ヶ月以上ある職員
※ 同一人物が複数年にまたがって引き続き休職した場合は、それぞれの年度にカウント
※ 同一年度に同一人物が複数回休職した場合は、その年度は1人でカウント
※ 再任用職員を含む
※ 年度途中の退職者を含む

【図1:全国と本市の心の病による職員千人当たりの長期病休者率の経年比較】

 増加の原因は、事務事業の増加や市民ニーズの多様化、さらには行政改革に伴う組織のスリム化、事務の効率化、職場のIT化等による仕事の形態やスピードの急激な変化、仕事量が増加する中での人間関係の複雑化、過重労働の増加によるところが大ではないかと考えております。
 心とからだの健康を保持し、職員がいつまでも生き生きと働くことができるためには、組合としても、力を入れて取り組んでいかなければならないテーマであると考えています。
 ここでは、本市が現在、取り組んでいるメンタルヘルス対策について、いくつか紹介させていただきます。
 まず、悩みを抱えた職員が専門医に相談できるよう、市内の10ヶ所の専門医療機関と提携し、無料で相談できる制度を設けています。そこでの無料相談については、現時点では年間数件に留まっていますが、今後、職員への周知に努め、利用の促進を図っていきたいと考えています。
 次に、近年、新採用職員がメンタル不調をきたす事例が多く見受けられます。新規採用職員は、学生時代とは大きく生活環境が変化し、その変化に順応できていない、仕事に対するストレス耐性が備わっていない、新たな人間関係の中で、誰にも相談出来ず、仕事を抱え込んでしまうなどからメンタル不調に陥るケースが多くみられるようです。
 そのため、2011年度から、健康状態や職場での適応状況を把握・確認し、メンタル不調の症状がみられる職員の早期発見と早期対応を目的として職員の健康管理を担当する保健師が、新規採用職員への個人面談を実施しています。
 個人面談の結果、メンタル不調であると感じた場合には、必要に応じ、保健師が継続的なフォローを行ったり、本人の了承のもと、所属長と連携をとり、その解消に努めたりしています。
 また、2010年度から組合から推薦を受けた職員と健康管理を担当する部署が定期的に会議をもち、厚生労働省が策定した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づき「心の健康づくり計画」の策定に取り組んでいます。
 この計画では、「療養中の職員のケア」や「職場復帰支援プランの作成」、「試し出勤」などにも取り組んでいくこととしており、今後は、計画に基づき、これまで手薄であった職場復帰、再発予防対策にも力を入れていきたいと考えています。

3. まとめ

 公務災害を無くすためには、①職員の安全と健康を確保するための制度・環境を確立すること、②職員一人ひとりが自らの安全意識を高く持ち続けること、③安全衛生部門、各安全・衛生委員会、各事業場が協力・連携することが重要であると考えています。
 公務災害を無くしていくことは、職員自身やその家族のためでもありますが、人材及び経済的損失を防ぎ、ひいては、それが、市民サービスの向上にもつながるものと考えています。公務災害ゼロを目標に、現在取り組んでいる各種安全対策をさらに充実させつつ、今後も労使が協力し知恵を出し合いながら、根気よく継続していきたいと考えています。