【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 農山村部においては、少子高齢化と過疎化が急速に進みつつあります。その結果、村の運営だけでなく、村そのものの存続すらも厳しいという状況です。このような現状を少しでも解決するために何ができるか、何をしていかなければならないかを一つの取り組みを紹介し、そこでの人々の意識の変化を見る中今後の地域の活性化の在り方を提案します。



太陽の光と地域の希望、地域活性化


兵庫県本部/丹波市春日町山王自治会 細田  勉

1. はじめに

 丹波市春日町のある自治会の世帯数12の小さな村(組)の取り組みです。南に竹田川が流れ、北面は山に囲まれた約5ヘクタールほどの農村です。人口は40人を少し超え、60歳以上が半数近くの高齢化が進む村です。3世帯が高齢者のみ、うち1世帯は1人住まいです。就学前の子どもが1人、小学生1人、中学生はいません。農村ですが、農業に従事する世帯は6世帯、各世帯の農地は3反ほどの兼業農家です。2世帯が自力では耕作ができず、ほかの人に耕作してもらうという状況です。限界集落にまっすぐ向かっています。「山王自治会の太陽光発電」としてテレビや新聞等で幾度も報道されていますので、もうすでにご承知の方もあるかと思います。
 年々住民の高齢化が進み、同時に少子化と過疎化が進んでいます。若い世代の働くところが少なく、高齢者世帯の収入が年金に頼らざるおえない現実の中、組の運営のための経費が大きな負担となってきていました。毎年の経費として組費が60,000円(組運営費、改修積立て費、共聴アンテナ維持費等)で、お寺の積み立て、自治会の運営費等々を含めると年間1世帯10万円近くの負担になります。これらの費用は年金暮らしの世帯には、重くのしかかります。また、若い世代が住むにも大きな負担となります。これらの費用とは別に、「日役」という作業があります。山の維持管理、お宮の維持管理、河川の掃除、水路の維持管理、等々経費だけでなく様々な作業によって、村が生活を営んでいるのです。しかしこのままいけば、高齢化と過疎化により組の運営そのものができなくなる状況もそう遠くない時期に来ていました。
 少子高齢化、過疎化を少しでもくい止め、「高齢者にとって安心して住める、若者にも住みやすいそんなところにしたい」と日々思い悩ますそんな状況が続いていました。


2. 村の活性化に向けて

(1) 活性化へ向けての提案
 みんなの悩みは、同じでした。高齢化と少子化、村がさみしくなるばかりの現実に何かできないかと頭を抱えていました。しかし、なかなか村の活性化を図るための妙案はありませんでした。この間、何もしなかったわけではありません。もう10年以上になりますが、夏の土曜日に村で夏祭りを取り組んできました。この祭りも、村を元気にしたい、年に一度はみんなが集える場所がほしいとの思いから取り組み、続いてきているものです。このときは、都会で暮らしている人や若者も帰ってきて一緒に楽しんでいます。また、子どもがまだ少しいたころは、自分たちで簡単な食事を作り配達をしたりしてつながりを持ったりしてきました。しかし、これらの取り組みだけでは村の活性化は図れませんでした。
 そんな中、ある家庭で屋根に太陽光発電設備を設置され、これが村の活性化に活用できないかと昨年の9月の定例常会で提案されました。私の村は、毎月25日の次の土曜日に組の定例常会を持っています。ここでは、自治会の取り組み・連絡、組の取り組み・連絡、お寺等と組費などの集金を行っています。

(2) 組費軽減の太陽光発電の設置
 もう30年近くになりますが、1983年、当時では記録的な大雨がこの地域に降りました。近くの村を含め大きな被害をもたらしました。この大雨による災害復旧において、河川改修が行われました。その河川改修で残った廃川敷の払い下げを県との話し合いの中で約束していただいていました。そして約2年前にようやく払い下げを受け、組(地縁団体)の土地として登記が終わりました。この土地の有効活用も、村の課題の1つでした。
 みんなの思いはひとつ、「組費を軽減して暮らしやすい村にしたい」です。しかし、設置のための3,000万円の費用がない。国や県、市の補助金もでない。また、設備が住宅用に設置されるものでないため災害や、破損等の保険の適用もない。「どうしたものか」と悩みました。費用の一部を、先に話した河川改修時に組の土地の買い上げがあり、その時にできた財源を充てることまでは決まりました。しかし、それでも足りません。「借金を次の世代に残すことにならないか」「災害や破損、盗難などにあったときどうするのか」などの反対意見も多くありました。

(3) あきらめず設置に向けて
 「太陽光発電の設置は、村の活性化につながる」その思いは諦めることなく、何か方法はないかと考える毎日でした。廃川敷(雑種地)の有効活用と太陽光発電の設置が一つになり「太陽光発電の設置場所はある」、「余剰電力の売電により収入が一定保障される」、「重くのしかかっている組の運営経費の軽減が可能になる」と話は進み、大きな期待を膨らませました。しかし、財源という大きな壁が解決できませんでした。しかも、初期投資の費用の回収には15年以上かかる。
 そんなとき、地方紙のある広告が目に飛び込みました。ある酒造会社が「空き地に太陽光発電を設置。しかもその初期投資費用が約10年で回収」というものでした。すぐにその会社にコンタクトを取り、現地を確認、見積もりを依頼しました。
 最終的に、3社から見積もりが出され、建設費、メンテナンス、保険等の検討を各社それぞれに対して行い設置することを決定しました。それが2月の最初ではなかったかと思います。設置の決め手は建設費が約1,700万円、約10年で回数できることと、災害、破損、盗難等の保険が付くということでした。これなら何とか設置ができると判断しました。組のだれでもが参加できる形で会議を持ち、会議には若者も参加し、その将来の不安も出してくれました。それらの不安を取り除くことができたので建設へと進んだのです。


 
<山王自治会太陽光発電システム>
・設備容量  42.12kW
・年間予想発電量  44,814kWh
・土地面積  約700平方メートル
・売電単価  40円/kWh(非住宅用、5/12現在)
・設備費用  約1,700万円

3. 明るい兆し

(1) 組費の軽減
 太陽光発電による年間売電収入の見込みを約180万円としました。初年度は、まだ年間の稼働をしていないため組費5,000円の半額を売電収入で充てることにしました。また、借入金の返済を10年間売電収入で行うことも決めました。残りを積立に回すことで歩き始めました。
 組費2,500円の軽減という少ない金額ですが、それでも月々の負担は軽くなりました。1年間の売電収入の状況を確認し、次年度からは組費の負担を0にしていきたいと思っています。

(2) 取り組みで変わった
 組の財源を投入し、約1,700万円をかけ太陽光発電設備を設置した目的は、各世帯の組費の軽減でした。そして、高齢者に安心して住み続けられる環境づくりと若者の住みたくなる村づくりへとつなげていきたいとの思いでした。U・I・Jターンをしてみようと考えてもらえるひとつのきっかけになればと考えたからです。つまり、過疎化の歯止めと若者の定住、そして新たな住民の獲得です。
 今はまだ、これらの成果は出ていません。しかし、村を上げて大きな事業を取り組んだことは私たちに自信を与えてくれました。それは、太陽光発電設備を設置して知ったのですが、この取り組みが地縁団体(自治会)として全国で初めてだったそうです。そのため、さまざまなメディアに取り上げられました。テレビでも放映され、ラジオでも流され、新聞雑誌にも取り上げられました。小さな村の大きな決断が、全国に波紋を投げかけたのです。一番驚いたのは、私たちの村のみんなでした。そんなことは何も考えず、ただ組費の軽減をしたい、村を活性化したいそんな思いだけで取り組んだこの事業が、これほど大きな話題になるとは思ってみませんでした。
 その後、市内、県内の自治会をはじめ和歌山、三重、滋賀、山梨、などからも問い合わせや視察がありました。個人の方からの問い合わせや視察も後を絶ちません。今でも、議員、大学の教授、エコを考える団体、福祉関係団体などからの問い合わせや視察依頼があります。
 これらのことが、あきらめの気持ちから「なにかできる」「なにかやろう」という前向きな気持ちに少なからず私たちを変えてくれました。このことは、本当に嬉しいことです。人々の意識が変わったのです。一番の取り組みの成果は、このことではないかと今考えています。

(3) 何かやろう 太陽の光と蛍の灯り
 先に書きましたが「なにかできる」「なにかやろう」という気持ちから、村のみんなにアンケートをしました。まだ集計はできていません。山王が好きですか、どんなことがしたいですか、何があればいいですかなど小学生からお年寄りまで全員のアンケートです。
 またこのアンケートとは別に、地形で述べましたが南に竹田川が流れています。太陽光発電設備を設置したその前の川には、夏になると蛍がたくさん飛び交います。「そうだ、ホタル観賞をやろう」「ホタル観賞で地域の交流をやろう」「都会からも来てほしい」そんな話が定例常会の中から出ました。そして、「今年はとりあえず村のみんなでホタルの鑑賞会をやろう」となり若者の参加もある中、鑑賞会をしました。時期的に少し遅かったので、ホタルの数は少なかったです。また源氏蛍と姫蛍の変わる時期でもあり、さみしい灯りでしたが、みんなの顔は生き生きとしていました。
 「できること、村の活性化の素材は遠くにあるのではない、私たちの日常の生活、周りにあるのだ」そんな思いを強くしました。

(4) 村の見直し
 「村の活性化は、村の生活、自然、環境の中にある」私たちは、もう一度私たちの住んでいる地域の見直しから始めることにしました。その最初が、先にあげたアンケートです。まだ、どうすればいいかなんて結論は出ていません。ひょっとしたら結論なんて出ないかもしれません。しかし、私たちの村を見直すこと、そして知ることが活性化の第一歩であると同時に、まず歩き出すことだと気づきました。


4. 今後の課題

(1) 継続事業のための課税
 組費の負担軽減、地域の元気づくりを目的に取り組んだ太陽光発電設備の設置は、継続事業に該当するということで、地縁団体が取り組むと法人格があるとみなされ「法人税」「固定資産税」が課税されます。全く想像もしていなかった結果が、私たちの返済計画と組費軽減及び運営に大きな壁となりました。地域の活性化に大きな夢と期待を寄せ取り組んだ事業が、利益を追求する一般法人(会社)と同等に扱われるのです。しかも、この事業は住宅に太陽光発電を設置するのでもなければ中小企業の取り組みでもないため、補助もなければ税の軽減措置もありませんでした。
 今、多くの自治会等で太陽光発電設備の設置を考えられています。視察や相談も多くありました。私たちは、行政に地域の取り組みにおいての補助制度の創設、税の免除及び軽減の要望を行っています。地域の人たちの頑張りに、行政の支援は欠かせません。大企業などが取り組むメガソーラーなどは行政が優遇措置をします。個人の住宅も同じです。ぜひ、地域の自治会などの地縁団体の取り組みにも目を向けてほしいのです。

(2) 行政主導から地域主導へ
 もう一つこの取り組みで感じたことがあります。地域の活性化、限界集落解消、U・I・Jターンの取り組みなど行政主導の制度や補助制度があります。しかし、地域の活性化に本当につながっている事業は少ないのではないでしょうか。行政が企画を作る行政主導の地域活性化よりも、地域主導での取り組みが今必要なのではと考えます。補助メニューを探しながらそれに当てはまる取り組みをするのではなく、地域が主体となって取り組みを計画しその取り組みに行政が支援できる仕組みが今は求められ、同時にそれらの取り組みには地域もリスクを背負うことが大切であると考えます。

(3) 地域もリスクを背負う
 今までの補助制度を利用しての取り組みは、もし失敗しても誰もその責任を問われることはなかったのではないでしょうか。「地域もリスク・責任を負う」そのことが大切であると思います。
 補助メニューがあるから取り組みをする、事業を展開するのではなく、予算がなくてもできることを取り組む、予算がなければ自分たちで必要財源を作る、そのことを前提とした活性化に向けた取り組みが地域を元気にするのだと考えます。先にも述べましたが、行政は地域の様々な取り組みに対して柔軟な姿勢で支援ができるシステムを作ることです。これは補助事業のメニューにはい、なじまないなどと尺時定規で地域の取り組みを判断するのではなく、地域がやろうとすることをどうすれば支援できるか、なければ補助メニューを作るくらいの気持ちで応援してほしいと思います。行政の支援、応援は地域の住民にとって大きな力、後押しになります。

 まず、できないことを上げるのではなく、できることをする、何か取り組む。そのことが、地域の人々の意識を変えていきます。諦めればそこで終わりです。