【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 2012年版「観光白書」では、東日本大震災により打撃を受け、回復が遅れている東北地方の観光地の復興について、阪神・淡路大震災の鎮魂と都市の復興再生をテーマにした「神戸ルミナリエ」等を参考に観光資源を創出する取り組みを行うよう提言しています。震災復興事業としての「神戸ルミナリエ」と、神戸市職員労働組合が被災地支援・連携活動の一環として取り組んだ「神戸ルミナリエ」の支援活動について報告します。



阪神・淡路大震災復興事業 神戸ルミナリエの取り組み


兵庫県本部/神戸市職員労働組合・市民経済支部 竹川  猛

1. はじめに

 2012年6月に明らかになった2012年版「観光白書」では、東日本大震災により打撃を受け、回復が遅れている東北地方の観光地の復興について、阪神・淡路大震災の鎮魂と都市の復興再生をテーマにした「神戸ルミナリエ」等を参考に観光資源を創出する取り組みを行うよう提言しています。白書では「神戸ルミナリエ」や「原爆ドーム」を多くの人が訪れる理由として「被災の記憶そのものが、新たな観光資源としての魅力を持つ。」「悲惨な記憶に触れることで脅威に立ち向かった人々の力を感じる。」と説明しています。
 阪神・淡路大震災犠牲者の鎮魂と震災復興事業としての「神戸ルミナリエ」事業と、神戸市職員労働組合(以下神戸市職労)が被災地支援・連携活動の一環として取り組んだ「神戸ルミナリエ」の支援活動について報告します。


2. 神戸ルミナリエ

 光は闇の恐怖に対峙し、喜びや安全を導いてくれる象徴です。花火や送り火、かがり火に代表されるよう に、文明や風俗を問わず。人々は古来から“光”に夢や希望を託してきました。鎮魂と復興への希望がこめられている「神戸ルミナリエ」は、その意識と精神性を人々に強く訴えかけています。

(神戸ルミナリエ事業報告書より)

玄関作品「フロントーネ」

(1) 趣旨・経緯
 「神戸ルミナリエ」は、1995年1月に兵庫県南部地方を襲った、阪神・淡路大震災の犠牲者への鎮魂の意を込めるともに、神戸のまちの復興・再生への夢と希望を託して、多くの企業からの協賛によって同年12月に初めて開催されました。「夢と光」をテーマに旧外国人居留地に設置されたルミナリエには、11日間でのべ254万人を超す観客が来場し、神戸の夜に初めて灯ったイタリアからやってきた荘厳な光の芸術に感嘆の声があがり、震災で打ちひしがれた神戸の街と市民に大きな感動と勇気、希望を与えました。また、経済的にも予想をはるかに上回る波及効果を残し、閉幕直後から、復興が遅れていた集客関連産業をはじめとする神戸の経済界および神戸市民からの継続開催を求める強い声が寄せられ、冬の集客観光促進事業の柱として、また、震災の記憶を後世に継ぐ神戸の夢と希望を象徴する冬の風物詩として毎年継続して開催され、広く知られることとなり、毎年数百万人の来場者が訪れています。
 ※Luminarie:イタリア語で光の装飾(イルミネーション)

(2) 作 品
「神戸ルミナリエ」はイタリアの「電飾」の意味に由来する、アートディレクターによる「光の彫刻作品」で、このデザインに合わせた部材を現地で制作して神戸に運びます。神戸に運ばれた部材は、イタリア人職人の伝統的な技法で、日本人スタッフとともに組立・設置されています。
 さまざまなデザイン様式の木製アーチの構造体に色とりどりの電球による彩色が施されたこの光の彫刻は、その設置デザインによって三次元的な芸術空間を創造するもので、ルミナリエ会場の玄関作品となる「フロントーネ」や、これに続く光の回廊「ガレリア」、その終点の広場に展開する光の壁掛け「スパッリエーラ」等で構成されています。ルミナリエ会期終了後、作品はただちに撤収・解体のうえ、イタリアへ送還されます。

(3) 運営形態
 「神戸ルミナリエ」は兵庫県・神戸市・神戸商工会議所等で構成する神戸ルミナリエ組織委員会が主催し、事務局を神戸市の外郭団体の(財)神戸国際観光コンベンション協会に置いています。
 「神戸ルミナリエ」の開催には昨年度実績で約5億円の経費がかかりますが、この約半分を地元をはじめとする600社近い企業・団体からの「協賛金」や「企業募金」で、残り約半分を行政からの補助金や会場への来場者・市民からの「個人募金(一人100円募金)」、公式グッズの販売による「グッズ募金」等で賄っています。
 会場では、神戸市職労組合員をはじめ地元の大学生を中心に高校生、市民、事業者、市内のボランティアグループ等多くの市民サポーターの協力により、開催支援のための募金(一人100円募金)や自然災害被災地支援募金の呼びかけ、会場案内、清掃、カメラのシャッターサービス等のボランティア活動が行われ、「神戸ルミナリエ」の運営が支えられています。

(4) 第17回神戸ルミナリエについて
 昨年2011年の第17回「神戸ルミナリエ」は、2011年3月11日に発生した東日本の被災地への思いを込めて、これまでの開催趣旨に「神戸から東日本大震災の被災地へ犠牲者の鎮魂の祈りと復興支援のエールを送る行事」とすることを加えて、作品のテーマを「希望の光(Luci di Speranza)」とした作品群を設置し開催しました。12月1日から12日までの期間中342万人の観客が訪れました。また、会場内に「東日本復興支援ゾーン」を新設し関連支援活動を展開するとともに、東日本大震災被災地支援募金活動を行いました。

光の回廊「ガレリア」

年度

会  期

作品テーマ

来場者数

1

1995

12/15~12/25(11日間)

夢と光(Dei Sognie della Luce)

2,543,000

2

1996

12/12~12/25(14日間)

讃歌-輝けるときを求めて(Ode per il tempo di luce)

3,855,665

3

1997

12/12~12/25(14日間)

大地の星たちに捧げる(LE STELLE DELLA TERRA)

4,732,346

4

1998

12/11~12/25(15日間)

光の星空(FIRMAMENT DI LUCE)

5,163,716

5

1999

12/13~12/26(14日間)

“Pure”な光の下で(Nel cielo di pura lice)

5,157,573

6

2000

12/12~12/25(14日間)

光の永遠(インフィニティ)(L’INFINITO)

4,737,907

7

2001

12/12~12/25(14日間)

光の願い(デジデリオ)(Desiderio di Luce)

5,190,000

8

2002

12/12~12/25(14日間)

光のぬくもり(La Luce ē Vita)

4,640,000

9

2003

12/12~12/25(14日間)

光の地平線(オリゾンテ)(La luce dell’Orizzonte)

5,066,000

10

2004

12/13~12/26(14日間)

神戸、光の都(La citta della Luce)

5,383,000

11

2005

12/ 9~12/22(14日間)

光の第二章(Inizia il secondo capitolo della Luce)

4,358,000

12

2006

12/ 8~12/21(14日間)

光の魅惑(L’Incanto del Cielo)

4,650,000

13

2007

12/ 6~12/17(12日間)

光の紀元(L’era della Luce)

4,043,000

14

2008

12/ 4~12/15(12日間)

光のインフィニート(Luce d’infinito)

3,755,000

15

2009

12/ 3~12/14(12日間)

光の抱擁(L’abbraccio della luce)

3,650,000

16

2010

12/ 2~12/13(12日間)

光の心情~輝きの記憶を留めるために~(IL CUORE NELLA LUCE)

3,434,000

17

2011

12/ 1~12/12(12日間)

希望の光(Luci di speranza)

3,421,000


3. 神戸市職労の神戸ルミナリエの取り組み

(1) 自然災害被災地支援と連携活動
 多くの神戸市民の尊い命を奪った阪神・淡路大震災から17年が経過しました。これまで神戸市職労は、犠牲となられた方々への鎮魂を願うとともに、震災の経験を風化させないように取り組んできました。また、近年ますます増加する自然災害の中で、国内外の被災地への支援行動や社会貢献活動に積極的に取り組み、被災地との連携を広げてきました。私たちは、単に震災時の支援に対するお返しというだけではなく、被災地の自治体職員に私たちと同じ辛さを味わわせたくない、少しでもお役に立ちたいとの思いから、震災以降積極的に自然災害被災地支援活動に取り組んできました。
 近年の国内外の大規模な自然災害は多くの被災地の人々を苦しめています。市職労は、いずれの災害にも機敏に対応し、組合員のみなさんにカンパを訴えるとともに、東日本大震災をはじめ国内での地震災害や豪雨災害等の被災地へは、神戸市職労ボランティアによる泥かきをはじめとする数々の支援活動を行ってきました。
 被災地支援活動が、被災地の自治体職員を励まし、被災地の人たちを勇気づけ、被災地同士の連携と交流を深めています。こうした被災地支援行動は2008年の石川県穴水町との助け合い協定へと発展しました。そして2011年には新たに山口市職労と助け合い協定を締結しました。東日本大震災では、穴水、山口、神戸が共同して宮城県石巻市での支援行動に取り組む等被災地連携の絆を強めてきました。
 こうした神戸市職労の取り組みは、自治体労働組合のこれまでの枠を超える運動として国内外の被災地からも大きく評価を受けています。「KOBE」という文字や響きが自然災害に苦しむ被災地をはげます世界の共通語になるよう、これからも国内外の被災地の支援活動を積極的に取り組むとともに交流と連帯を深めていきます。
 「神戸ルミナリエ」が阪神・淡路大震災の犠牲者への鎮魂と震災の記憶を後世に語り継ぐ行事であることから、神戸市職労は、「神戸ルミナリエ」を自然災害被災地支援及び連携活動の重要な事業の一つとして位置づけ取り組んでいます。

(2) 神戸ルミナリエの取り組み
① 第1回神戸ルミナリエ
  阪神淡路大震災で大きな被害を受け、未だ震災の影響が色濃く残り、復旧途上の灯りの消えた街に温かく灯った第1回「神戸ルミナリエ」の光は、震災で打ちひしがれた神戸のまちと市民に大きな感動と勇気を与えました。当時、私たち神戸市職員は、自らも被災しながら復旧・復興に全力で取り組んでいました。全国の自治体をはじめ国内外のみなさんから多大なご支援をいただきましたが、未曾有の災害に対する活動は困難を極めていました。そのような中で訪れた第1回「神戸ルミナリエ」の点灯の瞬間、感動で涙が出たのを覚えています。多くの組合員は「神戸ルミナリエ」の希望の灯りに感動し、震災で犠牲になった方々の無念さを想い、神戸の復興を固く心に誓いました。
② 神戸ルミナリエ会場「旧外国人居留地」
  「神戸ルミナリエ」が開催される旧外国人居留地は、大丸神戸店から神戸市役所までの周辺に位置しています。1868年(明治維新)から1899年の返還までに、旧神戸村を造成、格子状街路・街路樹・公園・街灯・下水道等を整備し、外国人へ126区画に分けて競売された治外法権の場所でした。当時、東洋における最も整備された居留地とされ、この整然とした街路は今もそのままです。現在は近代的洋風建造物が並ぶ歴史的景観地区で、外国の町並みのような雰囲気があります。街区内の洋風建造物の1階テナントが有名ファッションブランド店のみで構成された日本でも珍しい商業街区です。来場者の周遊性を高めるため石畳の歩道を拡幅し、街路樹を多く配置する等の工夫もされ、近くには中華街等もあり一年を通じ休日には多くの観光客や買い物客が全国から訪れます。
  その旧外国人居留地も、大震災で、大丸神戸店も含め周辺の建物は倒壊や損壊等大きな被害を受けました。第1回「神戸ルミナリエ」が開催された震災の年の12月には、まだまだ建物や街の復旧が進んでおらず、外灯や建物の明かりも少なく、周辺が暗闇につつまれていた中での開催でした。
③ 神戸ルミナリエ(開催初期)の支援活動
  開催初期の神戸市職労の「神戸ルミナリエ」の支援活動は、全国から来場されるみなさんに、「神戸ルミナリエ」を気持ちよく鑑賞していただきたいとの想いから、「神戸ルミナリエ」を所管する神戸市職労経済支部(現市民経済支部)の組合員が会場内での道案内ボランティアや、会場内の「慰霊と復興のモニュメント」(東遊園地内)の警備ボランティアに取り組むとともに、神戸市職労環境支部組合員が期間中の会場周辺の清掃ボランティア活動に取り組んでいました。

道案内ボランティア 清掃ボランティア
④ 神戸ルミナリエ(開催後期)支援活動
開催年(回数)
支 援 被 災 地
募 金 額
ボランティア数
2009年 (15回) イタリア中部地震
インドネシア・スマトラ島沖地震
兵庫県西・北部台風9号豪雨
744,352円
288人
2010年 (16回) 奄美大島集中豪雨
インドネシア津波・火山噴火
684,181円
323人
2011年 (17回) 東日本大震災
1,873,551円
356人

  しかしながら、神戸の冬の風物詩として定着した「神戸ルミナリエ」も、震災を体験した神戸市民も減少していく中、回数を重ねる毎に観光的な要素が強くなり、震災犠牲者の鎮魂の行事としての意義は薄れてきたとの声もあり、「神戸ルミナリエ」開催の原点に立ち返り、大震災の記憶を次世代に語り継ぐ行事としての位置づけを再確認する必要がありました。この一環として開催当初よりボランティア活動に携わっていた神戸市職労の提案で、神戸ルミナリエ組織委員会は震災から15年が経過した2009年の第15回開催より、新たに自然災害被災地支援募金活動を行うため被災地支援募金箱を会場内に設置し、募金の呼びかけは神戸市職労組合員のボランティアにより行うことにしました。
  以降、神戸市職労の「神戸ルミナリエ」支援の取り組みは、開催支援カンパ、会場案内、施設警備、会場周辺清掃、被災地支援募金の呼びかけへと広がり、市民経済支部・環境支部の取り組みから神戸市職労全体の取り組みとして拡大し、ボランティア活動は全職場に呼びかけて行いました。
  また、震災から17年が経過し、震災を経験した神戸市職員は半数近くに減少してきたため、ボランティア活動の取り組みを、震災を経験していない採用されてから間もない若い組合員を中心に行うこととし、毎年ボランティア活動には300人近い若い組合員のみなさんに参加していただいています。
道案内ボランティア 募金ボランティア(被災地支援募金)
⑤ 神戸ルミナリエを通じての自然災害被災地との連携
  ルミナリエ会場では、ボランティアの一生懸命さに心を打たれた観光客や市民の方がたくさんの募金をしてくださいました。いただいた自然災害被災地支援募金は、神戸ルミナリエ組織委員会と神戸市職労が、海外は各国の領事館に、東日本大震災は在大阪の各県事務所などの関係機関に直接出向き、励ましの言葉とともに募金を届けています。被災地からは感謝の言葉をいただき、被災地交流の輪を広げています。
2009イタリア中部地震被災地への募金を
在大阪イタリア総領事に贈呈
募金ボランティア(被災地支援募金)


4. 最後に

 「神戸ルミナリエ」は集客観光促進の復興事業として成功し、神戸に大きな経済効果をもたらしました。しかしそれ以上に「神戸ルミナリエ」は私たち神戸市民に「鎮魂と復興への希望」という大きな財産を与えてくれました。
 ルミナリエ会場では、小さな子どもが胸に下げた小さな財布から募金をする姿や、若いカップルがお祈りをしながら募金をする姿に感動し、ご来場の皆様からいただく「寒いなかですが、頑張ってください。」と言う温かい励ましの言葉に感激します。私たち神戸市職労では、ボランティア活動に携わったからこそ受ける感動や感激をお金では買えない“心の所得”と呼んで大切にしています。
 「神戸ルミナリエ」の支援ボランティア活動の取り組みは、活動に参加した若い組合員をはじめ多くの組合員に大きな感動を与え、震災の記憶や体験を後世に伝えることのできる貴重な機会の一つとなっています。
 「神戸ルミナリエ」支援活動に携わり感じた大切なことは、何か人の役に立ちたいという気持ちを持つこと、そして、その気持ちを持った若い人たちの背中をそっと押してあげることのできる先輩たちが周りにいること。この環境がある限り近い将来、神戸市職員から阪神・淡路大震災を経験した職員が一人もいなくなっても、この若い力が明日の神戸市や神戸市役所を支えてくれると思います。
 神戸市職労は、震災を体験し、国内外から多大な支援と暖かい励ましを受けた自治体職員として、これからも震災の記憶と経験を風化させることなく、広く後世に伝えていくことを責務として、震災の記憶を後世に継ぐ「神戸ルミナリエ」の取り組みをはじめ、さらなる被災地支援活動に全力をあげて取り組みます。