【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 トキとの共生をめざす佐渡島において、トキ野生復帰、自然再生、生物多様性、GIAHS(世界農業遺産)認定などの枠組みで様々な事業が展開されています。環境整備には市民や島外のボランティア、企業のCSR活動が貢献しています。また、トキが販促に貢献しています。本レポートでは、ヒト、モノ、カネがどのように巡ってきているのかを概観し、トキとの共生の地域づくりに必要な取り組みのあり方について提言します。



トキ放鳥と環境
美しく、環境にやさしい島づくりプロジェクト

新潟県本部/NPO法人トキの島・事務局長 中島 明夫

1. はじめに

 日本では野生絶滅したトキを中国の協力のもと人工増殖に成功し、再び野生下に戻す取り組みが行われています。単にトキを野生下に戻すだけでなく、トキが生息できる環境を整えつつ、ヒトも精神的、経済的なメリットを得ることをめざしています。これまでの取り組みを見つめ、今後の取り組みのあり方について提言します。

2. トキ野生復帰の経過

(1) 始まり
 当初からトキとの共生を意識した様々な事業が展開されています。
① 環境庁 共生と循環の地域社会づくりモデル事業(2000年~)
② その後、各省庁、新潟県、佐渡市などで様々な事業が展開

(2) トキ野生放鳥
 2015年に小佐渡東部に60羽定着を目標に取り組みが行われています。
① 2008年9月に1回目放鳥
② これまでに6回、91羽野生放鳥(現在生存確認60羽弱) 
③ 2012年春 野生下でヒナ8羽誕生および巣立ち
④ 2012年9月7回目放鳥予定

(3) 拠点づくり
 活動・研究の拠点、飼育・訓練の拠点、観光の拠点があります。
① トキ交流会館
 ・佐渡市担当部署、大学関連の事務所、環境省外郭団体、NPOなど
 ・トキ学習、環境整備備品貸出、宿泊、会議場
 ・年間施設利用者のべ2万人
② トキの森公園
 ・展示室  年間20万人(トキ生態展示、飼育トキの観察)
 ・佐渡トキ保護センター(非公開)
 ・佐渡市ふれあい施設(2013年春オープン予定)
③ 野生復帰ステーション(観察棟が公開)

(4) トキ関連基金の創設
 環境整備活動、啓発活動などの資金創出の取り組みが行われています。
① 新潟県:新潟県トキ保護募金 
      佐渡での野生復帰に向けた取り組みを支援、生息環境の復元、中国への支援
② 佐渡市:佐渡市トキ環境整備基金
      ・営巣地となる里山の保全、トキビオトープ整備事業(棚田の復元やビオトープの造成)、朱鷺と暮らす郷づくり認証事業(環境保全型稲作の普及)、ドジョウ養殖助成事業、普及啓発事業
      ・トキの森公園展示館環境協力費、ふるさと納税、レジ袋代金寄付、土産販売寄付、米販売1kg1円寄付など

(5) 環境整備活動を支援する主なメニュー
 基金の活用で環境整備活動、啓発活動を展開する団体、集落へ支援が行われています。
① 新潟県 トキ生息環境整備地域活動助成(現在10数団体が活用)
② 佐渡市トキビオトープ整備助成(20以上の団体が活用)
③ 佐渡おこしチャレンジ事業
④ 佐渡市ボランティア送迎バス
⑤ トキ野生復帰学術研究等奨励補助金(現:生物多様性学術研究等奨励金)

(6) 環境整備活動で活用している主な支援制度、助成金
 集落向けの制度を活用したり、民間助成金の取得活用が行われています。
① 中山間地直接支払制度交付金(集落ごとの組織で活用。NPOとの協働もあり)
② 農地・水保全管理支払交付金(集落ごとの組織で活用)
③ 民間の助成金を島内外のNPOなどが取得して活用

(7) 佐渡で事業展開をしている島外の主なNPO
 島外のNPOなどが、それぞれの事業目的に沿ってトキ環境整備・啓発活動を行っています。
メダカのがっこう(環境保全型稲作関連)、棚田ネットワーク(棚田保全関連)、樹恩ネットワーク(森林整備関連)、地域自立ソフトウェア連携機構(トキ検定など情報関連)、さど(CSR、事業化関連)、生物多様性農業支援センター(生き物調べ関連)、早稲田大学学生環境NPO環境ロドリゲス(地域づくり関連)

(8) トキ関連で調査および活動を展開している主な大学・専門学校
 大学や専門学校などが、それぞれの研究テーマに沿ってトキをキーワードに地域調査、環境調査、ボランティア活動などを行っています。
 獨協大学、新潟大学、四日市大学、武蔵工業大学、東京農業大学、九州大学、東京工業大学、東京工科大学、大東文化大学、フェリス女学院大学、日本自然環境専門学校、伝統文化と環境福祉の専門学校

(9) 社会的貢献活動として活動している主な企業
 NPOなどの環境整備活動に企業がCSR活動として参加しています。
イオンリテール労働組合、金羊舎、ダイワハウス、NEC、三井物産・三友会、アイマーク環境

(10) 教育活動と人材育成などによる啓発活動
 トキ関連の教育活動、人材養成、啓発活動が行われています。
① 修学旅行などにおけるトキ学習(トキ交流会館) 年間2,000人ほど
② 佐渡の学校におけるトキ学習  NPO連携、各大学などが随時
③ 佐渡kids生きもの調査隊(佐渡市) 年間50人
④ 佐渡市市民環境大学       約のべ400人
⑤ 佐渡市トキガイド養成講座    約50人修了
⑥ 環境省 トキモニター養成講座  約50人修了
⑦ (社)佐渡生きもの語り研究所 田んぼの生きもの調査アシスタント養成講座 のべ300人
⑧ 新潟大学 朱鷺の島環境再生リーダー養成ユニット 5コース 70人養成(年間)
⑨ トキファンクラブ  会員約5,000人
⑩ 佐渡市生きもの調査の日 6月第2日曜日、8月第1日曜日 年間のべ1,400人参加

(11) 調整機関
 様々な取り組みが展開されていますが、それを集約する組織がありません。
① 人・トキ共生の島づくり協議会
② トキの野生復帰連絡協議会(現在解散)
③ 環境省など行政主催のトキ関連の会合は複数あり

(12) ネットワーク
 「トキ」、「生きものとの共生」などで島外の自治体、組織との協働が展開しつつあります。
① トキ分散飼育地(石川県、新潟県長岡市、島根県出雲市、多摩動物公園)
② 中国のトキの郷(中国陝西省洋県)との姉妹都市協定
③ JICA:人とトキが共生できる地域環境づくりプロジェクト
④ 能登・佐渡里山里海連携会議
⑤ 生きものと人・共生の里を考える鳥連合(佐渡市、豊岡市、周南市、出水市)

(13) トキ関連商品の販売および販促活動に取り組む主な企業
 企業がボランティア活動そのもの、商品販促、寄付などの取り組みによりトキを販促に活用しています。
 新潟テレビ21・ときプロジェクト、新潟県総合生協、パルシステム生活協同組合、コープネット事業連合、イトーヨーカドー、アサヒビール、コメリ、クボタ、セーブオン、新潟県観光物産

3. エコアイランド佐渡の実現

(1) 環境基本計画の策定 人とトキが共に生きる島づくり
 環境基本計画においてトキとの共生についてしっかりと位置づけています。

(2) 環境施策の具体的な展開
 様々な施策においてもトキを関連付けています。
① 生物多様性    朱鷺と暮らす郷づくり認証米制度
           生産者651人 面積1,180ha(2010年) 栽培面積は稲作全面積の2割ほど
② 自然エネルギーの活用
  木質チップの活用、木質ペレットの活用、バイオマスディーゼルの活用、コンポストの無料配布
  ソーラーエネルギーの活用
③ エネルギー節減
  電気自動車・LED・レジ袋ゼロ
④ 国の施策の活用
  低炭素村づくりモデル事業

4. GIAHS認定

(1) FAOのジアスは農業システムを登録
 ジアスの目的は、世界各地のすぐれた農業の事例を蓄積・共有し、持続可能な資源管理・活用の基盤を築くことです。環境の変化に適応しながら先祖代々受け継がれてきたシステムを重視し、農法や土地利用だけではなく、生態系・景観・習慣なども含めて地域資源として考え、次世代への継承をめざしています。

(2) 佐渡がジアスに認定された理由
① 農業生産システムに「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を導入し、消費者と連携しながら島全体へ拡げていること。
② 生物多様性保全型農業と農業経済が連携し、持続的な環境保全体制を構築していること。
③ 佐渡金山が風景と文化に大きな影響を与え、生物多様性と農業生産活動をはぐくむことによって、農村コミュニティを保全してきたこと。

5. トキと暮らす島 生物多様性佐渡戦略

(1) 基本理念
 生物多様性が育む佐渡の豊かな自然と暮らしを保全・再生する。

(2) キャッチコピー
 佐渡でふれあういのちのつながり:人とトキが暮らす島を孫の世代へ

(3) 基本目標1:佐渡を知る
 佐渡の生物多様性豊かな環境を市民一人ひとりが理解する。
① 生物多様性に対する市民理解の促進
② 組織・団体間のネットワークの構築
③ 企業CSR活動の参画促進
④ 大学等との連携による人材育成の促進

(4) 基本目標2:佐渡を守る
 生物多様性の損失を食い止め佐渡本来の生態系を回復する。
① 在来種の保全・保護
② 生態系に悪影響を及ぼす生物への対応強化
③ 多様な生物が生息・生育できる環境の保全・再生

(5) 基本目標3:佐渡を使う
 生物多様性の恵みを持続的に享受する地域社会を構築する。
① 環境と経済が好循環する産業の育成
 ア 佐渡環境ブランド化の促進
 イ GIAHSアクションプランの促進
 ウ 地産地消の促進
 エ 佐渡ツーリズムの促進
② 環境の負荷の少ない循環型社会づくりの促進

6. まとめ

(1) トキ野生復帰という夢実現に多様な人・組織が興味を抱き活動展開
 ボランティア、大学、NPO、企業がそれぞれの目的実現のために様々な方法でトキ関連活動を展開しています。これまでの様々なビジョンにおいて里地里山の環境整備を宣言していますので、その具体的な展開が必要です。

(2) トキを象徴に総合的な取り組み展開
 環境基本計画に象徴としてのトキを位置づけ、エコアイランド佐渡、実現のために様々な事業展開を行っていることが佐渡の評価を高めています。

(3) 継続的な事業展開のための仕組みづくりが必要
 様々な活動が展開されていますが、その集約ができていません。また、活動を展開する資金、人も十分とは言えません。継続的に活動が展開できる体制づくりが必要です。

(4) 生物多様性佐渡戦略の着実な実行が必要
 総合的な取り組みの戦略である生物多様性佐渡戦略。この着実な実行が農産物の価値を高めることが期待できます。