【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 地産地消に取り組む県内生産者や飲食店の取り組み支援や先進事例調査等を通して、豊かな農産物に恵まれる群馬ならではの「食で地域の人がつながる」方策を検討した。人と人がつながるには、地域をよく知り、適材適所でつなげることができるコーディネーターの存在が重要となる。この「地域で生きる人材」という視点が、行政における人材育成や活動支援に求められている。



ぐんまの食でつながる人と人


群馬県本部/群馬県職員労働組合・ぐんま食コンシェルジュの会
  富樫 英美・石澤 昌彦・田代 茂久・長澤 忠昭

1. 背景および目的

 地産地消とは、「地元で作られたものを地元で食べよう」という呼びかけから始まり、今ではこの考え方が広く浸透し、県内外でさまざまな形で取り組まれている。その中では、地産地消を核とした地域振興が行われている事例も多い。そこで、地産地消を推進する県内の生産者、飲食店の取り組みや、先進地事例を通して、地産地消における課題を明らかにし、地域が活性化するために必要なこと、それに対して行政が何をすべきかを検討した。

2. 食を通じたものづくり・ことづくり

上:アンケート調査(2010.5.3)
下:パッケージ検討(2011.1.26)

(1) ものづくり ~群馬リンゴPRに向けたジュース商品化~
① 商品化の経緯とコンセプト
  沼田市にある観光リンゴ園では、規格外のリンゴをジュース加工していたが、当初販売に苦慮していた。そこで、試飲会やモニタリング、アンケート調査を行ったところ、既製品とは異なり、価格は多少高くても本物の商品が求められていることがわかった。また、群馬がリンゴの産地と知らない県民も多く、群馬のリンゴをPRするには、まずは県民に群馬県産リンゴを知ってもらうことが第一であると考え、群馬にこだわったジュースの商品化を目指した。

完成した「群馬りんご3姉妹ジュース」

② 商品化へのプロセス
  本物の商品を作るため、色と日持ちは悪くなるが酸化防止剤を一切使用せず、さらに飲んだ時の食感を出すため、これまで廃棄していた絞った果肉“すりおろし”を加えることとした。
  また群馬にこだわるため、県で育成されたオリジナル品種「あかぎ」「陽光」「ぐんま名月」3品種をそれぞれ別々に加工・瓶詰めすることとした。さらに、鶴舞う形をあしらった贈り物にふさわしい上質感のあるデザイン、小瓶の3品種を同一セットとしてパッケージすることで、ストーリー性も高めた。
  こうして完成したジュースは「群馬りんご3姉妹ジュース」として、県内温泉のホテルや旅館、レストランなど飲食店で限定販売されたが、群馬のお土産品として好評で、売り切れのため予約販売となる人気商品となった。


(2) ことづくり ~「生産農家と消費者をつなげるレストラン」の運営支援~
上:オーナーシェフの農家訪問
下:地粉・米粉ニョッキの試作
野菜の勉強会開催(2010.8.29)
 パスタの街・高崎にあり、県の地産地消推進店の認定を受けるイタリアンレストランにおいて、地産地消をベースに、競合他店と差別化する店舗づくりを支援した。
① オーナーシェフの農家訪問による地産地消への意識向上
  オーナーシェフが生産現場に出向き、直接生産の様子を見たり、農家と意見を交わしたことで、「地元の食材をもっと使いたい」と地産地消への意識が変わった。そのため、これまで食材は卸業者から一括購入していたものを、農家直接取引と地元直売所での購入にシフトした。
② 農産物取引方法の見直しと地産地消メニュー開発
  農家との直接取引は供給が不安定で、食材調達に手間もかかるが、その時々に仕入れた野菜を中心にメニューを組み立てることで、地元農産物に特化し、旬を意識したメニュー構成となった。地産地消のイタリアンという新たなスタイルが確立され、顧客層が従来の20~30代女性から、50~60代女性も含めた幅広い層で集客でき、客単価アップにもつながった。また、直接取引を始めたことで、様々な地産地消メニューの開発が可能となった。農家出荷の規格外品も調理方法によってボリューム感を出せ、新鮮な食材を豊富に使えるメリットが生まれた。
③ 食を通じた消費者への情報発信
  店舗のコンセプトをより強調し、地産地消をアピールするため、顧客を集めた勉強会を5回開催した。開催季節の旬の野菜・果物をテーマに、多方面で活躍する講師がそれぞれの方面からレクチャーする形式をとる。顧客・生産農家・店舗間のコミュニケーションの場として成果が上がっている。

【“野菜の勉強会”ピアチェーレ×ぐんま食コンシェルジュの会】
開催日
テ ー マ
講   師
参加
人数
2010.6.26 美×じゃがいもで素肌美人 ベジフルビューティーアドバイザー
24人
2010.8.29 ヤサイの力 カボチャの力 知っておいしく健康に 管理栄養士
20人
2010.10.30 あ、おいしい 群馬のりんご講座 野菜ソムリエ
27人
2010.2.26 プロ農家が語る有機農業・野菜の魅力 有機栽培生産農家
25人
2011.7.10 旬の野菜で美と健康~スペシャルランチ~ フリーアナウンサー
21人

(3) 地産地消を取り巻く現状と課題
 以上のリンゴジュース商品化およびレストラン店舗運営の支援を通して、いくつかの課題が明らかとなった。まず、野菜の勉強会やリンゴジュースの反応から「消費者が地元の農産物や産地を知らない」現状が明らかとなった。また、現在の農産物流通で主流の形態においては「料理人が地元農産物を手に入れにくい」ことも課題として挙げられた。さらに、産地サイドと実需者・消費者サイドがつながるには、両サイドを熟知しており、互いをつなげる役割が最も重要であった。そこで次項では、全国の「食でつながる」先進事例を調査し、それぞれの特徴や課題を探った。

3. 「食をつなげる人」全国で活躍するコーディネーター

 全国の先進事例について現地聞き取り調査を行い、それぞれの取り組み内容やポイントを以下のとおりまとめた。

(1) 地域密着型・有機農業を中心に地域をつなげる人
目  的
有機農業による自給自足できる町・ネットワークづくり
つなぐ人
NPO法人つばさ・游 代表 高橋優子
舞  台
埼玉県小川町
取り組み
内  容
・「霜里農場」と連携し地域住民へ地域農業啓発
・農業後継者やコーディネーター等の人材育成研修
・市民出資ファンド立ち上げと生ごみ資源化事業
・CSR(地元企業による地元農産物買い支え)推進
・地元農産物を使用した日替りカフェ「べりカフェ」運営
強  み
日本の有機農業の先駆者「霜里農場」
印象に残った一言
「人をよく知ってつなげられるコーディネーターの存在が大切。私のような活動ができる人を育てたい。」
 
 
べりカフェ外観
(2010.10.9調査)

(2) 全国の農家と消費者が直接つながる場を提供する人
目  的
全国農家に情報発信の場「青空市場」を開催
つなぐ人
俳優 永島敏行(青空市場実行委員長)
舞  台
東京駅丸の内行幸通りで定期的に開催するマルシェ
取り組み
内  容
・全国の農家が消費者に対面販売できる市を月一回開催
・農産物移動販売
強  み
俳優 永島敏行の集客力・宣伝効果
印象に残った一言
「俳優である自分の集客効果を利用して、どんどんお客さんに宣伝して、産地をアピールしてほしい。」
 
 
青空市場の永島さん
(2011.11.25調査)

(3) 料理や販売を通して農家と消費者をつなげる人
目  的
農家とのネットワークを活かしたレストラン・アンテナショップ運営
つなぐ人
料理研究家 舘野真知子
舞  台
六本木農園(レストラン)
七里ヶ浜商店(農産物加工品販売)
取り組み
内  容
・レストランや販売店通し農家に販路拡大の場を提供
・小中規模農家や産地のブランディング支援
強  み
「農家のこせがれネットワーク」など生産農家
印象に残った一言
「全国の若い農家さんが発信できる場をつくりたい。作り手のこだわりを、積極的に紹介したい。」
 
 
七里ヶ浜商店を運営する
舘野さん
(2011.10.19調査)

 このように、それぞれの強みや魅力を最大限に生かした取り組みがされている。一方で、地産地消を取り巻く課題には、前述のとおり、地元の豊かな農産物を地元の消費者や実需者が知らない・手に入れにくいという点がある。そこで、食でつながる群馬らしい取り組みとして、食材を周年供給できる産地という強みを活かし、「作る人と食べる人をつなぐ移動八百屋」というコンセプトで、新たな「つなぐ人」を次項で提案したい。

4. 「作ると食べるをつなぐ人」新たな食流通の提案~移動八百屋シミュレーション~

 「作る人と食べる人をつなぐ移動八百屋」とは、ものを運ぶだけの八百屋ではなく、産地や農産物を熟知しているコーディネーターが、飲食店や消費者に、農産物の旬や食べ方等を教えたり、食材の調理方法や生産農家の想いも含めて、農産物を届けるシステムを想定している。これにより、地元の新鮮な食材を使える強みを活かしたり、それを元に消費者が地元を知るなどのメリットがあるが、このためにはスーパーや直売所、ネット販売でもない、新たな食流通システムが必要となる。そこで、運送会社への聞き取り調査をもとに、ここでは「作る人と食べる人をつなぐ移動八百屋」の運営をシミュレーションした。


【新たな食の流通システム「移動八百屋」シミュレーション】
   
 
 
運送会社聞き取り調査(2012.2.12)
 
 
年次計画と経費収支の検討

【移動八百屋(仮称:JUN&HARU)の期待される効果】

作る側(農家)
食べる側(飲食店、消費者)
・自らの生産へのこだわりを消費者に伝えられる
・消費者のニーズを聞き、生産に活かせる
・調製や運搬などの出荷の手間が少なくて済む
・規格外品も用途に合わせて出荷できる
・地元の新鮮な旬の食材が手に入る
・生産農家や地元農業の状況を知ることができる
・新たな食材の提案でメニューが広がる
・安価で新鮮な規格外品が活用できる

5. 考察~行政に求められること~
地域で生きるコーディネーターの育成・活動

 これまでの2年間で実施してきた県内での地産地消活動や全国の事例調査、移動八百屋シミュレーションなどを通じ、地域が「食」で活性化するためには、地域をよく知り、適材適所で人をつなげることができるコーディネーターを育成することが重要であるとわかった。
 国や県・市町村では、地域振興・産業・福祉など各方面において、人材育成に関する様々な事業を実施している。しかし、人材育成には事業効果がすぐには現れにくいなどの課題がある。また、日本では物質的な対価は支払うが、コンサルタント業務など目に見えないものに支払う土壌がない現状も、コーディネーター活動にあたって問題となっている。
 そこで、既存の各種事業を有効活用し、行政として積極的に地域コーディネーターの育成を行うために、以下の3つを提案したい。
【食でつなげるコーディネーターへの行政支援】
① 地域に根付いた人材育成が重要であり、効果がすぐに現れにくいため、長期的な視点から評価し、継続的な支援を進める必要がある。
② 個々の取り組みが多いため、事業効果の観点から行政支援の対象となりにくい。地域に定着するまでは、小さな事業規模にこだわらない支援メニューが不可欠である。
③ 多分野に渡るため、部局横断で情報収集でき、事業を効果的に活用できる仕組みが必要。